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第777話

Author: 木真知子
正太は白露の言葉を聞き、目つきがまた変わった。

「チッ」と舌打ちをしながら、呆れたように鼻で笑う。

ああ、うちの孫は見る目あるやつでよかった。

こんな口の悪い、半分幽霊みたいな女に惚れてたら......本当に家の恥だったな。

「な......」

白露は目を見開いて怒る。

その横で、昭子が冷ややかに笑った。

「いくら悔しくても仕方ないわよ。うちの兄さん、アンタのこと最初から興味ないんだから」

「ふん......あははっ!」

白露は胸を押さえて笑う。怒りが限界を超えて、逆に笑ってしまった。

「お互い様じゃない?私の兄さんだって、あんたのこと眼中にないでしょ?」

「なによ、それ......」

今度は昭子がカッときた。

「さっきさ、桜子のあの世界限定のブガッティ、うちの門の前に止まってたよ。

ってことは、もう来てるんじゃない?」

白露は片手を腰に当てて、あくびをひとつ。

「でさ、うちの兄さん、今ここにいないよね?

ってことは......桜子と一緒に行ったんじゃない?あんたのこと放ったらかして」

「白っ......露っ!!」

昭子の目が血走る。今にも飛びかかって、白露の口を引き裂きそうな勢いだった。

「やだ〜昭子ちゃん、兄さんってほんとそういう人なんだってば。

結婚したら、そのうち慣れるよ」

白露は完全に調子に乗っていた。

「だってね、兄さんってば、桜子と結婚してたときも、ずっと柔のこと考えてたんだよ?

たとえあんたと結婚しても、桜子のことなんて、絶対忘れないと思うなぁ。

男ってそういうもんでしょ。

家にはお利口さんがいて、遠くにはずっと思い続ける存在がいるってわけ。

桜子は3年かけてようやく慣れたらしいけど......

昭子ちゃんは兄さんのこと大好きなんだし、きっともっと早く慣れると思うよ〜?」

場の空気が凍りついた。

まるで爆弾が落ちたみたいに、全員が固まる。

もうただの口喧嘩じゃない。これは本気の殴り合い寸前だ。

大人たちが見ていなければ、今頃昭子と白露は髪の毛掴み合ってたかもしれない。

「白露!あんた、酔っ払ってるんでしょ!?何わけのわかんないこと言ってるの!」

秦が顔を真っ赤にして、怒鳴るように言った。

「早く白露を下げなさい!」

......

「隼人っ!放してよ!手、痛いってば!」

隼人は
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