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第4話

Autor: 詩音
あどけないはずの子供の顔が、すぐ目の前にあった。

夢奈はその顔を凝視したが、どうしても自分の子供を殺した凶手にしか見えなかった。

脳裏に、いくつもの光景が駆け巡る。

キッチンで絡み合う男女、足元に広がった鮮血、診断書に記された「妊娠は極めて困難」という凍てつくような一言……

心臓が目に見えない手に握りつぶされるような痛みに、呼吸が止まる。

決壊した涙が激しく溢れ出した。

夢奈は弾かれたように立ち上がると、理性を失ったまま、昇の腕の中にいる子供を突き飛ばそうとした。

「どいて!あんたたちはみんな人殺しよ!」

昇の怒りが頂点に達した。

彼は身を翻して宏を庇うと、もう片方の手で夢奈を床に激しく突き飛ばした。

「いい加減にしろ夢奈!君は狂ったか!」

彼の瞳が陰鬱に沈んだ。叫び、抗う夢奈を無視して、昇は荒々しくネクタイを外すと、彼女の両手を後ろ手に縛り上げた。そして、廊下の突き当たりにある地下室へと彼女を引きずっていった。

「昇!報いを受けるのが怖くないの!?私が閉所恐怖症だって知ってるでしょう!放して!」

夢奈にとって、暗く密閉された空間は死よりも恐ろしいものだった。

佳澄が子供を抱いて後を追い、部屋の入り口で見かねたような表情を浮かべた。

「昇さん、もういいわ……私と宏くんが出て行くから」

彼女は床で震える夢奈を見下ろし、蚊の鳴くような声で言った。

「夢奈は暗いところが怖いのよ、ここに閉じ込めたりしないで」

昇は冷笑し、夢奈の青ざめた顔を見据えた。

「君が協力すると約束するなら、出してやる」

「ありえない!死んでも、あの女をこの家に入れるなんて許さないわ!」

夢奈は歯を食いしばり、絶望的な憎しみを込めて吼えた。

バンッ!!

重々しい音を立てて扉が閉ざされた。

最後の一筋の光が消え、暗闇が荒波のようにすべてを飲み込んでいく。

四方八方から窒息しそうな圧迫感が押し寄せ、夢奈の呼吸は乱れ、心臓は早鐘のように打った。

熱い涙が無音のままこぼれ落ちる。すべてを飲み込む暗闇に向かって、夢奈は一言ずつ、呪うように呟いた。

「昇……そっちを選ぶのね。ここを出たら……残りの人生は、あなたとは死んでも二度と会わない」

どれほどの時間が経っただろうか。

夢奈は何も見えない暗闇の中で、頑なに扉の方向を凝視し続けていた。

朦朧とする意識の中、耳元で結婚式の誓いの言葉が響いた。

「時山昇さん、あなたは……」

「誓います」

記憶の中の、自分を見つめる昇の熱い視線。それを思い出すだけで、今はナイフで心臓を抉られるようだった。

その時、カサカサという微かな音がした。

夢奈の身体が硬直した。

手の甲に、毛の生えた何かが這い回る感触が伝わってきた。

「ああああああ!!!」

クモだ。

何匹ものクモが、夢奈の足を伝って這い上がってくる。

おぞましい感触が全身に広がり、耳や襟元にまで潜り込もうとしている。

極限の恐怖が、残されていた理性を完全に粉砕した。

彼女は全身の力を振り絞って狂ったように扉を叩き、枯れた声で叫び続けた。

「出して!クモがいるの!助けて!!」

……

その頃、リビングには和やかな空気が流れていた。

昇と佳澄は、宏の担任教師を迎え、茶を飲みながら談笑していた。

そこへ宏がカラフルな小瓶を抱えて走り寄り、手柄を自慢するように佳澄に掲げて見せた。

「ママ、言われた通りのこと、やってきたよ!」

昇は愛おしそうに子供の髪を撫でた。

「宏くんは本当にお利口だな」

その場の全員が笑みを浮かべた。

だが、担任教師の佐藤先生がふいに眉をひそめ、耳を澄ませた。

「……誰かが、助けてと叫んでいるような?」

昇の顔から笑みが消えた。

彼は弾かれたように立ち上がり、地下室へ向かおうとした。

だが、佳澄の反応は早かった。彼女はにこやかに教師の手を取った。

「きっとお手伝いさんが地下室で荷物の整理をしていて、うっかり閉じ込められちゃったのね……大丈夫ですよ」

昇は辛うじて平静を装い、「失礼」と言い残してその場を離れた。

地下室の扉を開けた瞬間、懐中電灯の白い光が、部屋の隅でうずくまる影を映し出した。

夢奈は髪を振り乱し、服には数匹のクモが這い、涙に濡れた顔で虚空を見つめながら、ひきつけを起こしたように泣いていた。

昇の胸に鋭い痛みが走った。彼は飛び込んでクモを払い落とすと、夢奈を横抱きにして強く抱きしめた。

「もう大丈夫だ、夢奈……怖くない、俺がここにいる……」

夢奈はようやく意識を取り戻したかのように、彼の胸に顔を埋めて崩れるように泣き出し、彼のシャツを指が白くなるほど強く掴んだ。

昇は胸を締め付けられる思いで、泣きじゃくる夢奈を抱き上げ、急いで地下室を後にした。

しかし、彼が夢奈を抱いてリビングを通りかかった時、佐藤先生が驚いた様子で立ち上がった。

「時山さん、その方は……?」

佳澄の顔から血の気が引いた。

昇もまた、その場に凍りついた。

彼は腕の中で震えながら自分に縋り付いている夢奈を見下ろし、それから少し離れた場所で、絶望と懇願の眼差しを向けて震えている佳澄を見た。

数秒間、死のような沈黙が空気を支配した。

先に「状況」をわかったのは、佳澄だった。彼女は駆け寄るなり、昇の腕から夢奈を力任せに引き剥がした!

パシッ!パシッ!

二度の鋭い打撃音が、夢奈の頬に響き渡った。

「夢奈!行く当てがないあなたを哀れんで、家政婦として置いてあげたのに!あろうことか、旦那様を誘惑するなんて!?」

佳澄は怒りに震え、迫真の演技を見せた。

夢奈は顔を背け、頬の焼けるような痛みを感じていたが、過度の恐怖のあまり呆然と立ち尽くし、何の反応も示せなかった。

佳澄は追い打ちをかけるように、もう一度夢奈の頬を叩き、泣き叫びながら昇にすがった。

「昇!見てよ、この恩知らずな女を!」
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