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第6話

Author: 涼木
けれど、私の体の下に広がった血と、青黒くなった顔を見た瞬間、久美子もようやく様子がおかしいことに気づいた。

「か、勝治……この子、息……ほとんどしてないんじゃない?」

声が震えている。

勝治は一瞬固まり、それから近づいてくると、木の棒で私の腕をつついた。

「おい!死んだふりしてんじゃねえ!」

私は動かなかった。

目は半分開いたまま、瞳の焦点も合わなくなっている。

それでも、冷たく2人を見ていた。

勝治もようやく慌てた。

木の棒を放り出し、鼻元に手を近づけると、びくりとしてすぐに手を引っ込めた。

「くそっ!あの金持ち、こんな重病だなんて聞いてねえぞ!ここで死なれたらどうすんだよ。警察に来られたら、どう説明するんだ!」

久美子はその場にへたり込んだ。

「じゃ、じゃあどうするの?早く病院に連れていかないと!」

「病院なんか連れていけるか!金だってかかるし、こっちが殴ったせいだって言われたらどうする!

勝手に病気で死んだことにする。鍵をかけろ。誰にも言うな!」

2人は逃げるように物置を出ていった。

外から、鍵のかかる鈍い音がした。

暗闇の中で、完全に逃げ道がなくなった。

もう、どうにかしようとは思わなかった。

力を抜き、最後のときを静かに待った。

そのとき。

部屋の隅に放り投げたスマホが、突然明るくなった。

ひび割れた画面には、【お父さん】の文字が浮かんでいた。

残っている力を振り絞り、床を這うようにしてスマホまで近づく。

震える指で、どうにか通話ボタンを押した。

「朝葉、いつまで拗ねてるつもりだ?」

父の声は、いつもと変わらず冷たく、威圧的だった。

「お母さんから聞いたぞ。昼間も病気のふりをして電話してきたそうだな。そんなことして面白いのか?

田舎で不便なのは分かる。だが、あそこにいるのはお前の実の親だろ。文句を言える立場か?」

口を開いた。

けれど、声が出ない。

喉の奥は血の泡でいっぱいで、息をするたびにかすかな音が漏れるだけだった。

父は構わず続ける。

「明日は紗月のピアノリサイタルだ。本当なら一度迎えに行って、見せてやろうと思ってたんだ。紗月と自分がどれだけ違うか、少しは分かるだろうからな。

その態度なら、まだ向こうにいろ。しばらく反省しろ。俺がいいと言わない限り、あの2人だって勝手にお前を帰したりしない」

偉そうな口調を聞いているうちに、目尻から涙がこぼれ、顔の血と混ざって流れた。

これが、私の父親だった。

私を懲らしめるために用意した「実の両親」が、すぐ近くで私の死体をどうするか相談していることも知らない。

「……お父……さん……」

息だけで、どうにか呼ぶ。

「私……もう……死ぬ……」

電話の向こうが、一瞬静かになった。

けれど次の瞬間、父の声が荒くなる。

「親に向かって、よくそんな縁起でもないことが言えるな!もう、お前はどうしようもない!」

通話が切れた。

その電子音が、私がこの世界で最後に聞いた音だった。

手から力が抜ける。

スマホが床に落ち、画面の明かりも消えた。

同時に、体が突然軽くなった。

ずっと背負っていた重いものから解き放たれたように、痛みも寒さも消えていく。

ゆっくり目を開けた。

気づけば私は、物置の天井近くに浮かんでいた。

床には、骨ばかりに痩せ、顔を血で汚した遺体が横たわっている。

それが、私の体だった。

私は死んだ。

そのころ。

遠く離れた久留島邸では、母が翌日の紗月の衣装を整えていた。

そこへ、奥白駐在所から電話が入った。

「突然のお電話、失礼いたします。久留島隆成さんのご家族の方でしょうか。

奥白駐在所の者です。娘さんの朝葉さんですが、先ほど死亡が確認されました」

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