LOGIN私・蘇我美月(そが みつき)は、家族から愛されない、本物の令嬢だった。 心血を注いで描き上げたデザイン画を次兄に奪われ、偽物の令嬢へと贈られた。 そのうえ私は盗作した泥棒だという濡れ衣を着せられ、大富豪の父は命令を下し、業界全体から私を締め出した。 偽物の令嬢は謝るふりをしながら、私を崖から突き落とした。 意識を失った私は、全身に粉砕骨折を負った状態で目を覚まし、救助隊長を務める婚約者に助けを求めた。 だが彼は、足を捻った偽物の令嬢を抱きかかえながら、冷たい声で電話口で怒鳴りつけた。 「お前も事故に遭ったなんて、すいぶん都合のいい話だな。俺に助けに来てほしいのか?はっ、笑わせるな。そのまま死ねばいい」 激しい痛みに苛まれながら、私の身体は次第に冷たくなっていった。 法医学者である長兄は、私の遺体を解剖しながら、偽物の令嬢の誕生日を祝ってやれなかったことを嘆いていた。 けれど、再び私と顔を合わせたとき、彼らは皆、涙を流しながら私に許しを乞うのだった。
View More取調室では、警察隊長が厳しい表情で柔子を問い詰めていた。柔子が見せていた、いつもの弱々しく哀れな姿は、もはや何の役にも立たなかった。「死者の爪からダイヤの欠片が見つかったあと、我々はC社のこのネックレスを購入したすべての顧客を調べました。ですが、どのネックレスにも、ダイヤが一つ欠けているものはありませんでした。そこでC社の製造部門の責任者に確認したところ、購入記録はないものの、このネックレスを所有している人物がもう一人いると教えてくれました。柔子さん、我々があなたの宝石箱から見つけたネックレスには、ちょうどダイヤが一つ欠けていました」柔子の穏やかで上品な表情は、もはや保てなかった。彼女は哀れっぽい表情を消し、冷たい顔つきになった。「それが証拠だというの?たった一粒のダイヤでしょう。美月が私のネックレスを盗んだときに、外して持っていったのかもしれないじゃない」蘇我家の人間と明雄は、柔子の豹変ぶりに息を呑んだ。彼らが知っていた、従順で大人しい女の子は、今やまるで別人のように冷たい顔をしていた。私は鼻で笑い、首を横に振った。柔子はあまりにも早く仮面を脱ぎ捨てた。これまで彼女を信じていた人たちは、あまりにも驚いた。だが、警察隊長は冷笑した。「本当に残忍な女だな。野生動物観測カメラが一部始終を記録していなかったら、お前を有罪にするのは難しかっただろう」柔子の冷静な表情が、一瞬にして消えた。柳眉が大きく吊り上がり、信じられないような顔で、慌てて叫んだ。「何の観測カメラよ!私を騙そうとしてるんでしょう!」隊長は何も言わず、部下に合図した。警官が一本の映像を再生する。そこに映し出されたのは、柔子が石を振り上げ、私の後頭部を容赦なく殴りつける姿だった。そして彼女は落ち着いた様子で手袋をはめ、ナイフで私の顔の皮膚を切り取った。さらに素早い動きで私を崖から突き落としたあと、わざと足を捻ったふりまでしていた。取調室の空気は、張り詰めきっていた。蘇我家の人間も明雄も、完全に打ちのめされた顔をしていた。柔子を見る目には、驚愕と怒りが入り混じっている。ようやく、すべての真実が彼らの目の前に突きつけられた。彼らはそこで初めて、自分たちがどれほど大きな過ちを犯していたのかを思い知ったようだった
父は無表情のまま、皮膚のない私の頬に触れようと手を伸ばした。けれど、声を詰まらせながら、ただこう尋ねることしかできなかった。「誰がこんな残酷なことを……美月は、きっとすごく痛かっただろうな」長兄の顔は紙のように青白かった。彼は両手で顔を覆っていた。その指の隙間から、きらりと光る涙が見えたような気がした。いつも私を皮肉っていた次兄も、今の私の醜い姿を笑い飛ばそうとはしなかった。彼は突然、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。虚ろな目で私を見つめ、拳を床に激しく叩きつけた。「なんで……突然死んだんだよ?美月、起きてくれよ!俺に何か言ってくれ!」けれど、部屋いっぱいに静寂が広がるだけだった。誰も答えない。そのとき、次兄のスマートフォンが鳴った。明雄の興奮した声が、その場にいる全員の耳に届いた。「今夜はお前の兄貴も誘って、柔子の受賞祝いをしよう!」次兄は、ぼんやりとした、焦点の合わない目をしていた。そして、呆然としたまま答えた。「行けない。俺たちはみんな、美月のところにいる」明雄は一瞬、言葉を失った。まさか次兄に、ここまできっぱり断られるとは思っていなかったのだろう。「お前どうかしたのか?美月っていうあの狂った女に何か吹き込まれたのか?柔子がお前の妹だろ!」柔子は傷ついたように、不満げな声を上げた。「いいの。お兄ちゃんたちが来たくないなら、私も分かってる。お姉ちゃんのほうが大事だもん」次兄の喉から、嗚咽が漏れた。そして、低く唸るように叫んだ。「美月が俺の本当の妹なんだ!俺の実の妹が殺されたんだぞ!」電話の向こうから、突然、声が消えた。聞こえるのは、かすかな呼吸音だけだ。長い沈黙のあと、明雄は歯の隙間から絞り出すように言った。「お前たち、今どこにいる?」目の前で繰り広げられる、あまりにも滑稽な光景を見つめながら、私はもう、彼らが誰のために涙を流しているのか分からなくなっていた。生前の私は、苦しみも絶望も、すべて彼らによって与えられた。それなのに死んだ途端、彼らはまるで、本心から私の死を悲しんでいるかのようだった。蘇我家の人間も明雄も、私の遺体を前にした今のほうが、生前の私に接していたときより何倍も、何百倍も優しかった。彼らは皆、目頭が熱くなっていた
父は柔子を連れて海外旅行へ出かけ、家の使用人たちにも休暇を与えた。長兄は仕事に追われていた。次兄は突然、尿路結石を発症し、痛みのあまり何度も吐いていた。私は半ば抱きかかえるようにして彼を病院へ連れて行った。そのとき、焦るあまりスリッパを履くのを忘れていた私の足は、血まみれになっていた。目を覚ました次兄は、甲斐甲斐しく自分の世話をする私を見て、小さな声で言った。「美月……これからは、もうあんなに酷いことはしない」私は笑いながら、彼のためにリンゴを一切れ剥いた。瞳には涙が滲んでいた。私はようやく、家族に受け入れてもらえたのだと思った。嬉しくてたまらず、次兄の誕生日に贈るサプライズまで、胸を躍らせながら計画していた。けれど、私が彼のためにデザインしたカフスのデザイン画を、柔子が気に入った。そして彼女は泣きながら、作品を盗作されたと訴えた。私の味方になってくれると思っていた次兄は、私を突き飛ばした。眉間に皺を寄せた彼の目には、隠しきれない嫌悪が浮かんでいた。まるで私が周囲の空気まで汚しているかのようだった。「お前は本当にどうしようもないな。もう改心したと思ってたのに、まさか妹のデザイン画まで盗むとは!」私の弁解には一切耳を貸さず、彼は私の左手の人差し指を無理やりへし折った。激痛に襲われ、床を転げ回る私を見ても、父の目には拒絶と嫌悪しかなかった。「馬鹿が。こんな卑劣なことをするなんて、もう救いようがない!」父が踵を返して立ち去ったとき、私と家族を繋いでいた絆が少しずつ断ち切られていくのを、私は感じていた。それなのに今、怪我をした次兄は、どうして突然、私のことを思い出したのだろう。けれど、すでに冷たい遺体となった私は、もう彼に返事をすることなどできない。翌朝、柔子が自分の作品が「最優秀コンセプト賞」を受賞したと、まだ興奮気味に報告している最中、長兄が助手に慌ただしく呼び出された。助手は深刻な顔で、一枚の書類を長兄に差し出した。その場の空気は、異様なほど張り詰めていた。それでも長兄は口元に笑みを浮かべ、上機嫌な様子で言った。「うちの妹が賞を取ったんだ。この賞にはすごく意味があって……」助手は額の冷や汗を拭い、重々しくため息をついた。「蘇我さん……遺体のDNA鑑定結果
「もういい。死者には敬意を払え。美月に何か吹き込まれたのか?こんなことで俺をからかうな!」長兄の怒気を孕んだ声が響いた。けれど、長兄は知らなかった。助手の記憶は、何ひとつ間違っていなかったのだ。あれは蘇我家に引き取られて2年目のことだ。柔子が私にせがんで、一緒にスケートを習いたいと言った。私は何度も、彼女のスケート靴の刃で、わざと蹴られた。最後に私が避けた拍子に、柔子は私を蹴り損ね、自分で転んだ。物音を聞きつけて次兄が駆けつけた。次兄は倒れている柔子を、痛ましそうに抱き起こした。事情を聞こうともしないまま、私の髪を掴み、犬小屋へ放り込んだ。そこには凶暴な大型犬が飼われていた。次兄は柔子を連れて、私が悲鳴を上げ、泣き叫ぶ姿を楽しそうに眺めていた。私の腕と太腿が噛み裂かれ、血まみれになって初めて、ようやく外へ出してくれた。私は一銭も持っておらず、血だらけの傷口を押さえながら長兄のところへ向かった。けれど、助手は困ったような顔を浮かべながら、私を門前払いした。助手は私の傷を見て、治療費を渡してくれた。「蘇我さんは仕事が忙しいんです。これを持って病院へ行って、ちゃんと傷の手当てをしてもらえましょう」そう言った。けれど私は、閉ざされた扉の向こうから、長兄の冷たい叱責をはっきり聞いていた。「美月と俺には何の関係もない。怪我をしたからって、俺みたいな法医学者に何の用がある?死んでから出直してこい!」お兄ちゃん、今となっては本当に、あなたの言ったとおりになったね。助手はため息をつき、恐る恐る尋ねた。「蘇我さん……美月さんに連絡してみませんか?どうも彼女の身が心配で……」家族でもない他人ですら、その見覚えのある傷跡を見て私の身を案じてくれた。なのに、私の実の兄は気にも留めず、鼻で笑った。「お前、美月に何か変な薬でも飲まされたのか?あいつは外へ出て人に迷惑をかけないだけマシだろ!」お兄ちゃん、人は死んだあとでも涙を流すんだね。誰もが、私が大富豪に引き取られたことを羨ましがった。これで一生、何不自由なく裕福に暮らせるのだと。けれど、待っていた結末は、血の繋がった家族がすぐ目の前にある私の遺体を見ながら、何度も何度も、私だと気づく機会を逃していくというものだった。長兄