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第 151 話

Author: 柏璇
「ママ、あの人のことなんて知らないよ」若葉が小さく言った。

雪音はたちまち顔をしかめる。「この子ったら!実の母親がいちばん大事なのに、どうして継母の味方をするの?実母はひとりしかいないのよ。そんなことも分からないなんて、育て方がなってないにも程があるわ!」

真理と親しかったせいもあって、雪音はつい深く考えずに口を滑らせていた。

けれど、その言葉は蒼司の胸に棘のように引っかかった。

次の瞬間、暗い廊下の灯りの下を黒い影が横切った。

パシンッ!

乾いた音が響き、雪音はよろめいてハイヒールをひねりそうになる。

「……あ、あんた、私を叩いたの?!」雪音は信じられないといった顔で叫んだ。

彩乃は冷えきっ
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