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第4話

作者: 葉山みぎわ
日々は、また元通りになったように見えた。

相変わらず旭が買った新居に住み、昼は仕事に行き、夜は病院で母に付き添った。

彼は新婚の妻に付きっきりで、めったに連絡してこなかった。

連絡が来ないほうが、むしろ息がつけた。

仕事帰りに、母がいちばん好きないなり寿司を買い、病院へ向かった。

病室に入ると、ベッドのそばに、若い女が二人腰かけていた。

思わず駆け寄る。振り返ったのは、美月と、柚希だった。

声が震えるのを、抑えられなかった。

「美月ちゃん、どうしてこの人を連れてきたの」

母は笑って私を見上げ、説明するように言った。

「美月ちゃんがね、お母さんが退屈だろうからって、お友達を連れてきてくれたのよ。

柚希さんとは初めて会ったけど、お母さん、心からいい子だと思ったの。ねえ、こんなに優しくてきれいな子なのに、旦那さんが外で愛人を作ってるんですって。本当にひどい話でしょう。

柚希さん、よく聞いて。人の旦那さんに手を出すような人にはね、いつか必ず罰が当たるものよ」

柚希がゆっくりと立ち上がり、私の前まで歩いてきた。

私を一瞥した。その目は少しも笑っていなかった。それでも母へ向き直ると、口元にはやわらかな笑みを浮かべた。

「おっしゃるとおりです。泥棒猫には、いつか必ず罰が当たります。

では、娘さんにはいつ罰が当たるんでしょうね?あ、もう当たっていましたね。ただ、罰が当たったのは娘さんではなく、あなたのほうでした。末期の胃がん。これなら、まあ、ぎりぎり満足してあげてもいいです」

母の顔から血の気が引いた。弱った体を必死に起こして、柚希を睨みつける。

「あなた、何を言っているの!」

美月は眉をつり上げ、婚姻届受理証明書を母の顔に投げつけた。

「柚希ちゃんは嘘なんかついてない。詩織のほうが、本物の泥棒猫なんだから!

ほら、見て。柚希ちゃんはもう旭と入籍して、れっきとした夫婦なの。詩織は旭に妻がいると知ってて、それでも図々しく旭の家に住んで、旭のお金で治療費まで払ってる。それって全部、夫婦の共有財産でしょ?柚希ちゃんには取り返す権利があるんだから!」

7月7日、七夕、愛娘の誕生日。

母は証明書の日付を食い入るように見つめた。次の瞬間、口から血を吐いた。

「お母さん!」

泣きながらナースコールに手を伸ばした私を、親友と柚希が左右から押さえつけた。

柚希が冷ややかに笑う。

「お母さんご自身が、そうおっしゃっていたんですよ。泥棒猫には罰が当たるって。今日ここで、お母さんにその罰を受けてもらわなければ、あなたはまた懲りずに私の夫を誘惑するんでしょう?

いっそ死んでくださったほうが、みんな楽なんです。旭くんのお金だって、無限にあるわけじゃありません。どうしてあなたたちの面倒まで、旭くんが見なければならないんですか?」

美月に、母を助けてと何度も頼んだ。返ってきたのは、鼻で笑う音だけだった。

「親友?泥棒猫と親友になった覚えなんてないから。私のいちばんの親友は柚希ちゃんだよ。

小さい頃からずっと、あんたには何ひとつ勝てなかった。顔も、成績も、彼氏まで、全部あんたのほうが上だった。いつもいい人ぶって、上から私の世話を焼いてたよね。あれ、本当にキモかった。頼んでもないのに、勝手に助けた気にならないでよ。今日こうなったのも、全部あんたの自業自得だから!」

よろけて一歩下がった。耳の奥で、キーンという音が鳴り続けていた。

私がよかれと思ってしてきたことは、彼女にはずっと、上からの押しつけにしか見えていなかった。

友達だと信じていたのは、私だけだった。美月にとって私は、ずっと張り合う相手でしかなかった。

弁解する間もなく二人に床に押さえつけられ、ベッドの上で母が激しく痙攣するのを、ただ見ているしかなかった。

心電図の波形が狂ったように跳ねたあと、ゆっくりと一本の直線に変わった。

お母さんが、逝った。

私は狂ったように二人の腕を振りほどいた。母がいつも私のためにりんごを剥いてくれた、あの果物ナイフ。それを掴んで、二人に飛びかかった。

母の命は、命で償わせる。

「詩織、何してるんだ!」

旭がドアを開けて飛び込んできた。目にしたのは、ナイフを手に二人へ襲いかかる私の姿だけだった。

彼は怒鳴りながら私に突進し、自分の体を盾にして柚希の前に立った。

刃先が旭の胸に突き刺さるその1秒前、私は思いきり手首をひねった。

ナイフはまっすぐ、私自身の胸に沈んだ。噴き出した血が、旭の顔を濡らした。

旭は顔を歪めて私を抱きしめ、喉が裂けそうなほど叫んだ。

「詩織ーー!」

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