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第128話

Author: 春さがそう
鬼頭は冷ややかに言った。

「どうすっかな?今ここでお前らを気持ちよく解放したところで、後で俺にいいことなんざ、何一つねえようだからな」

隼人は拳を握りしめた。

「このままもがき続けて、何かいいことがあるとでも思っているのか?」

彼の視線は紗季に注がれ、そこに心配が滲んでいた。

そして、再び鬼頭を睨みつける。

「俺の妻を放せ!」

紗季は、彼が「妻」と口にするのを聞いて、少し戸惑った。

この肝心な時に、隼人は地下室に誰かが待ち構えていることを知りながら、危険を顧みずに入ってきた。

それどころか、自分のことを「妻」と呼ぶなんて。

彼女の表情は複雑だったが、鬼頭は苛立ったようにふんと鼻を鳴らした。

「俺を脅すのはやめろ。その手は食わん!どうしても自分の女を助けたいってんなら、いいだろう」

鬼頭は背後にいる部下を指差した。

「こうしよう。俺たち三人とやり合うんだ。勝てば、お前らを解放してやる。負ければ、悪いが、今日ここがお前らの命日だ!」

隼人は顎をしゃくり上げた。

こうなったらもう、背に腹は替えられない。

「お前の部下どもが異変に気づく前に、俺たちは裏口から高飛びできる。そうなったら、誰もお前らを助けられねえ。分かったか?」

隼人の眼差しは、さらに冷たくなった。

彼はそのまま鬼頭を睨みつけると、ゆっくりとスーツの上着を脱ぎ、黒いシャツの袖をまくり上げた。

「いいだろう。遊んでやる」

鬼頭は手を叩いた。

「さすが黒川社長、大した度胸だな!だが、本気でナイフを持っている俺たちとやるつもりなら、その実力があるかどうか、見せてもらおう!」

その言葉が終わると、彼の背後にいた二人の部下も、それぞれナイフを取り出した。

彼らは全員が武器を持っている。

隼人は丸腰で、何の準備もしていない。

彼らの相手になるはずもなかった。

しかし、隼人はそれでも全く退縮せず、彼らに向かって指をくいっと曲げた。

「まとめてかかってこい」

その何気ない、相手を全く眼中にないその態度は、鬼頭を完全に激怒させた。

彼は怒鳴った。

「何ぼさっと突っ立ってんだ、行け!」

二人の部下は我に返り、直接隼人に襲いかかった。

隼人は身を翻して一人の攻撃をかわし、彼らと組み合ったが、すぐにいくつかの傷を負った。

隼人は痛みにわずかに眉をひそめた。

紗季はそば
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Comments (2)
goodnovel comment avatar
なつえ
本当!早く出国して欲しい! こんな展開はヤダ!
goodnovel comment avatar
鬼頭とか…どうでもいいキャラ出てきた。 いつになったら、出国できるのだ… なんかグダグダになってきてる気がする
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