LOGIN大学受験が終わり、ネットの掲示板でこんなスレを見かけた。 【もしやり直せるなら、今度はどの学科を選ぶ?】 レスには学科を変えたいという人が溢れ、後悔の理由も十人十色だった。 だが、無数の回答の中で、ひとつだけ周りの空気とまるで噛み合わない書き込みがあった。 【私は文学科を選ぶわ。そうすれば私と彼は、あの厄介者に気兼ねして、本来なら一緒に過ごせたはずの4年間を無駄にせずに済んだから】 僕、周防智也(すおう ともや)はふっと笑みを浮かべ、画面をスワイプしてそのまま流そうとした瞬間、幼馴染の水野結衣(みずの ゆい)と全く同じアイコンとIDであることに気がついた。 プロフィールを開いてみると、個人情報も完全に一致していて、ただ年齢だけが10歳上になっていた。 僕の胸の奥が、すっと冷たくなった。 どうやらこれは、10年後の彼女のアカウントらしい。 道理で、僕たちが同じ学科に合格したと知った時、僕一人だけが喜んでいたわけだ。 道理で、僕の親友である伊藤陸仁(いとう りくと)が文学科の合格通知を受け取ったのを見て、彼女があんなに長い間ぼんやりとしていたわけだ。 僕という厄介者が、彼女にこれほどの後悔と未練を抱かせていたのか。
View More結衣の手に提げられていたのは、みたらし団子の包みだった。昔、僕が一番好きだったのは、路地裏の角にある和菓子屋のみたらし団子だった。子供の頃、結衣は頻繁にそれを買ってきてくれては、「どうして飽きないの?」といつも不思議そうな顔をしていた。もっとも、高校に上がってからは、彼女がそれを買ってくれることは二度となかったが。僕が静かに挨拶を交わすと、結衣の両親はそれ以上何も言わず、すぐに僕たちを二人きりにしてくれた。「智也……」結衣は部屋の中央に立ち尽くしていた。4年ぶりに見る彼女はひどく痩せ細り、その体は今にも倒れそうにふらついている。「彼女、できたの……?」僕は短く「ああ」とだけ答えた。彼女はふいに笑った。目元を真っ赤に腫らしながら。「そう……よかった。智也。あの時……陸仁が、私のお酒に薬を入れたの。その後の何年間も、あの人とは曖昧な関係だったけど……でも本当に、それ以上の関係にはならなかった」僕の思考は一瞬停止し、それからようやく、彼女が何を言っているのかを理解した。あの10年後に起きたすべてのことを、彼女も知っていた。結衣はうつむき、両手で服の裾を強く握りしめながら、荒い息を吐いた。彼女は僕に多くのことを語った。婚約パーティーでのあの告白がただの罰ゲームだったこと、祖母の死の真相、そして陸仁がどうやって僕を陥れたのかを。「彼はあの後、捕まって無期懲役になったわ」彼女は言った。「私が一番優秀な弁護士を雇って、厳罰に処してもらったの。この人生でも同じよ。私に薬を盛った後、彼はすぐに大学を退学処分にされて、あれから一度も会ってない」僕は静かに耳を傾けていた。だが、心の中にはさざ波一つ立たず、ただ淡々と問い返した。「それで?僕にそんな話をして、一体どうしたいんだ?」結衣は途端に声を詰まらせた。「ただ、伝えたかったの。あなたを害した人間は報いを受けたって……それから、謝りたくて。ごめんなさい」彼女は顔を上げ、大粒の涙をこぼした。「あなたのことが忘れられなかった。この4年間、一分一秒たりとも、あなたのことを考えない時はなかった。本当は聞きたかった。今回の人生では、私はまだ何もしていないし、陸仁ともきっぱり縁を切った。私たち……もう一度やり直せるチャンスはないかって……」彼女は再び口角を引き
結衣の両親は何が起こったのか知る由もなく、ただ智也が黙って発ったことで、娘が一時的に感傷に浸っているだけだと思っていた。「大丈夫よ。智也が二度と帰ってこないわけじゃないんだから。寂しくなったら、いつでも海外に会いに行けばいいのよ」結衣の顔は蒼白で、心臓が千切れるほどの痛みに苛まれていた。――私に、そんなことができるわけがない。一体どの面下げて、彼の後を追えばいいっていうの……?【道中気をつけてね】彼女はスマートフォンを握りしめ、十数分も文字を打っては消しを繰り返し、結局この短い言葉しか送ることができなかった。だが意外なことに、智也は彼女をブロックなどしておらず、すぐにこう返信した。【ありがとう。これからこの番号はもう使わないから。何かあったら、おじさんかおばさん経由で連絡して】……その時、僕はすでに異国の空港に降り立っていた。祖母を支えながらアパートへ向かうタクシーに乗り込んだ直後、結衣からのメッセージを見た。案の定、彼女に未練など欠片もなかった。僕に送ってきたのは、たった一言のそっけない言葉だけだった。僕はふっと口角を上げると、そのSIMカードを真っ二つにへし折り、ゴミ箱へと投げ捨てた。結衣。これからは、君も僕も、お互い自由だ。結衣の両親には海外に親しい友人が何人かいて、僕が到着するとすぐに連絡をくれ、ここでの生活が落ち着くよう手助けしてくれた。大学に入学してからは学業に没頭し、国内の友人たちともほとんど連絡を取らなくなり、次第に彼らのコミュニティからフェードアウトしていった。そして結衣も、僕の予想通り、一度も連絡してくることはなかった。たまに彼女の両親から近況を聞くこともあったが、いつも通りで特に変わった様子はないとのことだった。僕たちはまるで絡み合った2本の糸のように、互いの人生で一時期を共に歩んだ後、二度と交わることのない平行線へと完全に分かれていった。「智也、お前マジで知らなかったのかよ?結衣と陸仁、とっくに破局してるぞ!」偶然、一人の同級生が彼らの近況を教えてくれた。「前にSNSで交際宣言した時も変だと思ってたんだよな。案の定、大学に入ってすぐ、結衣から別れを切り出したらしいぜ!しかもかなり最悪な別れ方だったみたいだ。陸仁が結衣を酔わせて、酒の勢いでベッドに連れ込
結衣の頭は、今にも割れそうなほどに痛み出していた。二つの記憶が彼女の頭の中で激しく衝突し、頭蓋骨が砕け散りそうなほどの苦痛と共に、魂までもが肉体から引き剥がされそうになる。智也が死ぬなんて、そんなことあるはずがない。10年前の結衣も、そして10年後の結衣自身も、同じ問いを繰り返していた。彼女は霊安室の前に立ち、精神病院の職員から智也の死の経緯を説明されていた。「この患者はあまりにも狂暴でして、我々でも到底押さえつけることができませんでした。手を離した一瞬の隙に、自ら窓へ向かって突進し、飛び降りて……」「ありえない、そんなの嘘よ……」結衣は我を忘れて霊安室へ駆け込み、智也の遺体に被せられた白い布を剥ぎ取ろうとした。だが、陸仁が彼女の腕をきつく掴み、悲痛な声を絞り出す。「結衣、智也は飛び降りたんだぞ。生前、あんなに身なりを気にしてたあいつが、今の自分の惨状をお前に見られたいわけがないだろう!」結衣の頭の中で、耳障りな耳鳴りがガンガンと響く。そうだ。昔の智也は、あんなにも端正で、かっこよかった。初めて彼女の家に引き取られた時はまだ幼く、亡き両親の葬儀で焚かれたお香の灰まで頬にこびりついていた。彼女が彼の手を引いて顔を洗い、清潔な服に着替えさせた時、彼はようやく小さな笑顔を見せてくれた。「結衣……」彼は、弱々しい声でそう呼んでくれた。それなのに、彼はもう二度と目を覚まさない。結衣は突如として異常なほどの執着を見せ、誰がどう止めようと力ずくで振りほどき、霊安室へと押し入った。そして、その白い布をめくった瞬間、彼女の呼吸は完全に止まった。智也の体には、転落による骨折だけでなく、皮膚の至る所に赤黒い痣や痛々しい内出血の痕が広がっていた。それは紛れもなく、スタンガンの電撃や警棒による激しい殴打の痕跡だった。その瞬間、結衣の精神は完全に崩壊した。彼女は智也に関わった精神病院の人間を全員片っ端から告発し、狂気じみた執念で真実を吐かせた。そしてその結果、すべての証言が一つの標的に向かった。「あの伊藤陸仁という男から指示されたんです!周防さんを特別に『可愛がって』やれって、一番過酷な治療プランを強制するようにと……!」陸仁は結衣の前に引きずり出され、無理やり頭を押さえつけられて、智也の墓石の
結衣は、まるで夢を見ているかのようだった。自分がどこにいるのかも分からない。だが夢の中の彼女は、すでに大学へ進学していた。当初の予定通り、智也は姿を消すことなく、彼女の荷物まで提げてくれていた。彼が荷物を女子寮の下まで運び、自分の荷解きを終えた後、二人で一緒に学生証の登録へ行き、同じクラスのグループチャットに加わる。すべてが順調で、何一つ異常はないはずだった。ただ、ひと通りの忙しさが落ち着いた後、寮の部屋で文学部の新入生集合写真を見つめながら、彼女はふと心ここにあらずの様子でぼんやりとしていた。だから1時間後、陸仁から飲み会に行かないかと誘われたとき、彼女は即座に承諾した。現場に着いて初めて、それが文学部だけの飲み会であり、他学部の人は自分一人だけだと気づいた。そして一緒に来るはずだった智也については――「あいつ、体調が悪いからって断ってきた」と、陸仁から告げられた。飲み会の席で大勢にちやほやされながらも、彼女は胸の奥にどこか鬱屈としたものを抱え、酒を一杯、また一杯と煽った。そして最後には、陸仁に支えられ近くのホテルへと運ばれた。部屋の鍵が開いた途端、陸仁の唇が彼女に重なった。酒の酔いと甘い雰囲気に呑まれ、彼女は彼を突き放すことができなかった。「結衣、わかってるよ。お前だって、俺に気があるんだろ……」あの夜を境に、すべてが変わってしまった。最初はひどい罪悪感があった。長い間、智也と目を合わせることすらできなかったほどに。しかしほどなくして、彼女はその背徳感を楽しむようになっていった。一途に尽くしてくれる幼馴染も確かにいい。けれど、もう一人の男が裏で熱狂的な愛を向けてくれる。その感覚もまた、刺激的だったのだ。彼女は二つの愛を同時に受け入れ、次第に心は陸仁へと傾いていった。何しろ陸仁が向けてくれる感情は、純粋な愛だったからだ。しかし智也は違う。彼との愛の中には、智也に返さねばならない「恩」という義理が混ざり込んでおり、彼女は時折、自分がそれに縛り付けられているような息苦しさを感じていた。たとえ心から智也を好きだったとしても、周りがどれほど「誰もが羨む幼馴染」だともてはやそうと、ふとした瞬間に居心地の悪さを感じてしまうのだ。だから、彼女はその「当たり前」に飽き飽きし、もっと「自由」にな
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