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2.新しい婚約者

Author: 月山 歩
last update Last Updated: 2025-04-25 17:49:24

 マリアの乗った馬車は、一日中走り続け、クライトン侯爵家の広大で堂々とした佇まいの邸に到着した。

 王都の中心部にこれだけの邸があるなんて、さすがは名門だと感じる。

「お嬢様、お待ちしておりました。」

 御者が扉を開けると、男性がエスコートして、馬車から降ろしてくれた。

「お出迎えありがとうございます。」

「僕は、タイラー様の側近のロドルフと申します。

 どうそよろしくお願いします。」

 優しく微笑んだロドルフさんは、穏やかな印象の男性だった。

「私は、マリア・ローレです。

 こちらこそよろしくお願いします。」

「婚約者であるタイラー様とお会いする前に、まずはクライトン侯爵様にご挨拶いただくことになっております。

 こちらへどうぞ。」

 そう言って、ロドルフさんは私を案内し、邸内を進みながら執務室と思われる部屋の扉をノックした。

「どうぞ。

 お入りください。

 侯爵様は奥におられます。」

 言われた通り執務室を進むと、クライトン侯爵と思われる方が、奥の机からちらりと目を上げた。

「マリア・ローレです。

 よろしくお願いいたします。」

 私は優雅ににカーテシーをし、丁寧に挨拶する。

「君が、以前カーステンの婚約者だった妾の娘か。

 生まれのせいで残念だったな。

 君には代わりにタイラーを頼むよ。

 カーステンがもう少しで学院から戻るから、タイラーを別邸に移すのに、君はちょうどいい。

 あいつは寝たきりだから、ロドルフと一緒に世話してやってくれ。

 それにしても、君は噂通りの美人だな。

 カーステンが、何か騒ぐかもしれないからしばらく会わせない方がいいだろう。

 君が正妻の娘だったらな、もったいないよ。

 だが、仕方あるまい。

 もういい、後はタイラーのところに行ってくれ。」

 クライトン侯爵は、早口で一方的に話すと、あっという間に私を追い払った。

 クライトン侯爵は、大層お怒りだとお父様から聞いていたけど、実際にお会いするとそうでもなかった。

 良かったわ。

 ひとまず私は、怒られずに済んだことに胸をなでおろした。

 でも、偉い方だからしょうがないのだろうけど、あまりにも無遠慮で失礼な人だった。

 「妾の子だけど、美人だからもったいない。」などと本人に向かって言うなんて。

 まぁ、その通りですけどね。

 私は、実の母譲りのブラウンの髪に碧眼で、顔立ちも整っている。

 なので、幼い頃からずっともてはやされて来た。

 美しい容姿ゆえに、お父様は本妻がいながらも侍女であったお母様に手を出し、そして、私が生まれたのだ。

 お母様は、私を産んだ時に命を落とし、その時点ではお父様に子供ができておらず、義母も私を追い出すことができなかった。

 数年後、義母にも娘が生まれるが、その頃には、私は美しい娘として侯爵家の顔になっており、今更、私を捨てることもできず、義姉妹としてそのまま過ごしてきた。

 義母や義妹は、心の中では、私のことを嫌いなのかもしれないが、表立って何かするような頭の悪い人達ではなかったから、私は侯爵家の中で、少し異質な存在でありながら、それなりに幸せに生きて来たのだ。

「マリア様、タイラー様のところにご案内いたします。」

 執務室の前で待っていてくれたロドルフさんが、タイラー様のところに案内してくれるようだ。

「マリア様、大体のことはお伺いしておりますが、タイラー様と婚約していただけたのですよね?

 それなら僕がマリア様を支えますから、どうかタイラー様を見捨てないでください。

 彼は、本当はとても優しい方なんです。」

「私はタイラー様と婚約したわ。

 彼のお世話を一人でするのは大変だと思っていたけど、ロドルフさんも助けてくれるなら心強いわ。」

「僕はずっとタイラー様のお世話をしているので、何かありましたら、どんなことでもご相談ください。

 そして、僕のことは、ロドルフとお呼びください。」

「わかりました。

 よろしくね、ロドルフ。」

 ロドルフの言葉には、タイラー様への深い思いやりが込められていると感じられ、彼と共に私も頑張ろうと希望が芽生える。

 そして、私とロドルフは、お互い協力していこうと頷き合った。

 ロドルフに案内されて、タイラー様の寝室に入った。

 部屋は静寂に包まれ、薄暗く、窓は閉め切られている。

 そして、とても広いが、どこか重苦しい雰囲気が漂っていた。

 その中央に大きなベッドが置かれ、そこに男性が横たわっている。

「ロドルフ、何だこの人は?」

「マリア様は、タイラー様の婚約者になられた方です。」

「は?

 僕に婚約者などいらない。

 帰ってもらってくれ。」

「いえ、クライトン侯爵からの命令です。」

「父か。

 余計なことをしてくれる。」

 ベッドに横たわるタイラー様は、金髪に紫色の瞳をしているが、布団から出ている顔や首の皮膚は、赤いボツボツに覆われており、顔の様子はよくわからない。

 けれども、その眼は先ほど会ったクライトン侯爵様より、よっぽど怒っていると思われる。

 病気で体調が悪い上に、私の相手をさせられるのが嫌なのだろう。

 彼からしたら、私を押し付けられて腹が立つだろうし、申し訳ないとは思うけれど、私にもその事に関してはどうしようもないのだ。

「タイラー様、初めまして、私はマリア・ローレと申します。

 急に婚約者が現れて嫌かもしれませんが、お世話係として、私を受け入れてくれませんか?

 体調が悪い時は、教えていただければ、無理にお話しないようにしますので。」

 タイラー様は、ベッドに横たわりながらじっと私を見つめている。

「君は、僕なんかが婚約者になるのは嫌じゃないの?」

「私は、タイラー様同様に貴族です。

 最初からいいとか悪いとか、言える立場にありません。」

「まぁ、そうだけど、他に僕よりましな男を探せないの?

 君の親。」

「私は、カーステン様に、妾の子だと隠して婚約したことになっていまして、お父様は言ったつもりだけど、そう言われると反論できないのだそうです。」

「君は兄の婚約者だったの?」

「そうです。」

「そうか。

 もし、言ってなかったとしても、わざとじゃないんだろ?」

「そうだとは思いますが、私にはわかりません。」

「そうか、僕から父に言ってあげたいところだけど、僕は、父にお世話になってる立場だから何も言えないんだ。

 ごめん。」

「タイラー様が謝ることではないです。」

「でも、マリアのことは気の毒に思うよ。」

「そう思うなら、私を受け入れてください。

 私、タイラー様にも婚約破棄されたら、民と結婚するか、修道院に行くかの二択なんです。」

 私は貴族として生きて来た。

 だから、今更、民として生きるには、家事一切ができないから、役立たずな人間なのだ。

 だからと言って、修道院へ入ったとしてもやはり大変な思いをするだろう。

 何よりも私には女として、誰かに一度は愛されてみたいという夢がある。

 たとえ相手が寝たきりの方であっても、一緒に過ごしていれば、いつか心を通じ合えるだろう。

 私は、その可能性にかけてみたいのだ。

 だって私は、顔を見ることなく手紙のみのやり取りだって、婚約者がいると思えば幸せだったのだから。

 もし、目の前に婚約者がいてくれたら、きっと愛することができるはずだと思うのだ。

「そうですよ、タイラー様。

 マリア様が婚約者になってくれるって言うんですから、いいじゃないですか?

 僕は、タイラー様と二人きりでいるより、マリア様も一緒にいた方がきっと楽しいと思います。

 それに、マリア様はとても美人なんですよ。

 僕が、タイラー様の立場なら、こんな風に言ってくれる人を離しません。」

 ロドルフが、一緒に後押ししてくれる。

「そうよ。

 私、美人なのにタイラー様にまで婚約破棄されたら可哀想でしょ。

 タイラー様、あなたといる限り、とりあえず私は貴族夫人になれるんですよ。」

 そう言って、少しでもタイラー様が受け入れ易いように、貴族らしかぬほどあけすけに言ってみる。

「わかったよ。

 でも、もし僕よりいい条件の男がいたら、必ずそっちを選ぶって約束して。」

「わかりました。」

 私はこうしてタイラー様と二度目の婚約をした。

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