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13.変わった依頼

مؤلف: 月山 歩
last update تاريخ النشر: 2025-04-25 18:10:06

「タイラー様、こちらに隣の領主であるディクソン公爵から、珍しい依頼の書状が届いております。」

 タイラー様が、執務室で書状の専断をしていると、ロドルフが重要案件と呼ばれる書状を差し出した。

 マリアはいつものようにソファに座り、ハンカチに刺繍をしていた。

 タイラー様のスミレ色のハンカチに刺繍をしている時は、いつも彼の機嫌がいい。

 だから、タイラー様へのハンカチに刺している時は時間をかけて丁寧に行い、他の人へのハンカチは素早くと、時間を振り分けている。

 最近タイラー様は、ゆっくりと歩けるようになり、仕事をする時は、ベッドを離れて執務室で行うようになっていた。

 そのため、私はタイラー様の希望で、机の前に置かれたソファが定位置になっている。

 タイラー様はベッドから出た今でも、私がいつも見える位置にいることを好む。

 私もその方が嬉しいので、たとえ別々のことをしていても、ほとんどの時間を共に過ごしている。

「どんな内容?」

「クライトン領と接するディクソン公爵の領地をクライトン領にしてほしいという依頼です。」

「領地を譲り渡すと言ってるのか、確かに珍しい話だね。

 どんな村なんだろう、地図を見せて。」

 タイラー様がロドルフに指示を出すと、すぐにロドルフは地図を広げて見せる。

「ここです。」

「なるほど。」

 タイラー様の言葉に、私は気になって、一緒に地図を見ようと立ち上がる。

「マリア、気になるのかい?

 おいで、一緒に見よう。」

「はい。」

 タイラー様は、私が何か関心を示した時は、いつでも話の輪に入れてくれるし、意見も求める。

 その姿勢は、初めて出会った時から、ずっと変わらない。

「ここだよ。」

 タイラー様が地図で示した場所は、ディクソン領の広大な森の先にある小さな村が、クライトン領に接した場所であった。

 ディクソン領の人にとって、隣接するクライトン領に入る前の休憩地として適した村のように思える。

「どうしてディクソン公爵は、この村を手放したいのでしようか?」

「うん、地図だけなら、この村には充分な価値があるように見えるよね。」

「はい、よくわかりませんね。」

「では、調査役を派遣しますか?」

「いや、僕が直接見に行く。

 領地は領主にとって貴重だ。

 その村を譲り受けるかどうかは、結局、実際に見てみないと判断できないだろう。

 父上への報告も必要だからね。」

「タイラー様、その村まで行くとなると、かなりの距離を移動することになりますので、数日がかりになると思いますが、お身体の方は大丈夫ですか?」

 ロドルフは心配そうに、タイラー様に問いかける。

 タイラー様は、今ではゆっくりと歩けるので、数時間の視察ならば問題なくこなせるが、泊まりがけで出かけることはこれまでなかった。

「心配いらないよ、父上からこの別邸周辺の領地を託されているんだ。

 しっかり治めるてみせるさ。

 ロドルフ、宿を手配してくれ。

 マリア、君も一緒に来てくれるね。」

「もちろんですわ、タイラー様。

 私はあなたが行くところならどこでもついて行きますし、何だか旅行のようでワクワクします。」

「君は変わらないね。

 じゃあ、旅行だと思って楽しもう。」

「はい、タイラー様。」

「ロドルフ、宿は安全で僕の寝室を通らないと、マリアの部屋に行けないような造りのところを探すんだ。」

「かしこまりました、タイラー様。

 でも、そんな宿が見つかるかどうか…。」

「それなら、宿を貸し切りにして、マリアの部屋の前の廊下に僕のベッドを置いて眠るよ。

 それを置けるぐらい廊下が広い宿を探すんだ。

 マリアが安全で無ければ、僕は安心して眠れそうもない。」

「でしたら、私はサイモンと同じ部屋でもいいですよ。

 彼が私のそばにいれば、タイラー様も安心でしょ?

 でも、本当はサイモンはタイラー様をお守りする方ですけど。」

「サイモンと一緒なんて、ダメだ。

 僕は違う意味で心配で眠れない。」

「タイラー様、それサイモンが知ったらきっと怒りますよ。」

「サイモンが忠実であることは、わかっている。

 だけど、ダメなんだ。

 マリアのそばで男が眠るなんて、どうしても許せない。」

「では私は、タイラー様と同じ部屋に泊まりますか?」

「マリア様、それはいけません。」

 「ロドルフ、まだ女性の護衛は育たないのか?」

「はい、女性は元々力が弱く、男性と対峙した時にマリア様を守るのには、弱すぎます。

 現段階では、五人ほど必要かと。」

「じゃ、六人の女性部屋になるのね。

 楽しそうだわ。」

「うん。

 それは仕方がないね。

 眠る時はそれでいいとしても、今後出かけるたびにマリアが窮屈に感じてしまう。

 せめて二人で警護できるようにしないとな。

 三人は少し離れて、ついて歩くのが良いか?」

「タイラー様、出かける時はそこまでしていただかなくても大丈夫です。

 何度も言いますが、私はただの令嬢ですから。」

「ごめん、これだけは僕の納得のいくように好きにさせて。

 僕が戦えない以上、こうするしかないんだ。

 他のことなら、マリアが自由にしていいから。」

 タイラー様は、私の手を取ると、切なげに紫色の瞳で訴えかける。

 そう言われてしまうと、私は弱い。

「わかりました、タイラー様。」

 二人が手を取り見つめ合っていると、溜息が聞こえる。

「このやり取りは何回目ですか。

 もう僕はお腹いっぱいです。」

 ロドルフは呆れた様子で、宿を探すために執務室を後にする。

「ふふ、そうですよ。」

「ロドルフは僕の気持ちをわかっているはずなのに。」

「わかっていても、お腹いっぱいだと言うことですよ。」

「そうか。

 でも、仕方がないよ。

 マリアほど大切なものは、僕にはないのだから。」

「タイラー様、ありがとう。」

 数日後、私達一行は領地の視察と村の譲渡という名の旅行に旅立った。

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  • 君は妾の子だから、次男がちょうどいい〜long version   22.大切な人

    「タイラー様、お話してもいいですか?」 タイラー様の居室には、タイラー様とロドルフがいて、マリアを迎えた。「どうぞ、座って。」 そう話すタイラー様は、微かに笑みを浮かべているが、瞳は何も映さず、心は見せない。 その姿はいかにも貴族だ。 彼の部屋に入って、今ここにいつもの三人でいるけれど、私の心は一人ぼっちで、タイラー様の気持ちが遠くにあるのがわかった。 そう感じたのは、この部屋で初めて出会ったばかりの時以来だった。 いや、違う。 あの頃ですら、私を受け入れてないのにも関わらず、タイラー様は婚約破棄され、傷ついた私を気遣ってくれた。 今、目の前にいるのは、それよりももっと遠い存在の人。 どう言葉を紡げば、再びいつもの優しいタイラー様の心を取り戻せるのかわからない。 「これからのことを自由に考えて。」と彼は言っていたけれど、もう心の中ではすでに、私との決別を決めてしまったのだろうか? カーステン様との話し合いを終わらせて、タイラー様に伝えたい想いがたくさんあるから、それを胸にこの部屋に来たけれど、もうそれさえもあなたには終わってしまったことなの? 手を伸ばせば届く距離にいるのに、到底彼に近づくことなどできそうにもない。 今ここにいるタイラー様は、ちょっとした知り合いのような心の見えない侯爵令息そのもので、私は彼といるのに切なくて、話すこともできずに泣き出した。「ちょっと待って。 どうしたの? 話を聞くから。」 そう言って、慌ててハンカチを差し出して、私を慰めようとするタイラー様はいつもの優しい彼で、私は涙が止まらなかった。 タイラー様と心が離れるということは、こんなに胸が苦しいのね。 私もタイラー様のように冷静に自分の気持ちを伝えようと思ってここに来たのに、口から出て来るのは、私の心の奥底の一人ぼっちの寂しがりな自分だった。「だって、タイラー様が私と距離を置こうとしているのよ。 私は、タイラー様といつものようにしていたのに。 私を一人にしないで。」 タイラー様は、そんな私を慰めようとしてくれる。「わかった。 わかったから、まずは座ろうか。」 優しく促されてソファに座らせると、タイラー様は、並んで一緒に座ってくれる。 私は、タイラー様の手をぎっちり掴む。 優しい彼と離れるのが、怖くてたまらない。「何があったの?

  • 君は妾の子だから、次男がちょうどいい〜long version   21.タイラーとロドルフ

     タイラーが、マリアに想いを告げ、マリアが居室から出て行くと、部屋にはタイラーとロドルフだけが残った。 部屋は静まり返り、沈黙が二人を覆う。 僕はきっといつかこんな日が来ることをわかっていた。 だから僕は無意識に、この邸に戻り兄とマリアを会わせるのを、できるだけ後回しにしていたんだ。 マリアを失うのが、怖かった。「タイラー様、どうしてマリア様に、これからのことを好きに選んでいいって言ったんですか? 今はタイラー様と婚約中なんだから、何も言わなければ、マリア様は、このままタイラー様の婚約者でいてくれたかもしれないのに。」 そう言うと、ロドルフは悲しげに僕を見つめ、目に涙を浮かべる。「どうして、ロドルフが先に泣くの?」「だって、僕ですよ。 タイラー様を、ずっと見てきた僕ですよ。 タイラー様が、マリア様に相応しい男になるために、陰でどれだけ運動も、領地経営も頑張ってきたかを、ずっと見てきた僕ですよ。 こんなにもマリア様を大切にしてきたって、僕ならいくらでも語ることができます。」「そうだったね。 ロドルフ、泣いていい。」「タイラー様~。」 ロドルフは、椅子に腰掛けているタイラーに抱きついて泣きだした。 長い付き合いだけど、ロドルフがこうやって泣く姿を見せるのは初めてだった。 以前は一人で僕を看病し、負担に感じていた時もあっただろう。 その時だって、僕の前でこのように感情を見せることはなかった。 なのに今、僕のために涙するロドルフは僕より僕の心に正直だ。 それに、いつも僕とマリアがうまくいくように、手助けしてくれていた。 そんなロドルフの気持ちを僕は裏切ってしまったのかな。 でも、頑張っても手が届かないこともあるし、変えられないものもある。 それでも、感謝だけは伝えないと。「マリアとのことをいつも応援してくれたね、ロドルフ、ありがとう。」「タイラー様、かっこつけないで、マリアは僕のものだって、言えば良かったじゃないですか。 絶対に誰にも渡さないって。」 泣きつくロドルフの背中を撫でながら、静かに口を開く。「僕は、かっこつけたわけじゃない。 本当にただ、マリアの幸せを優先したかっただけ。 僕は、彼女と知り合ってから、たくさんのものをもらった。 この動くようになった体も、皮膚がボロボロでも、受け入れてくれる女性がい

  • 君は妾の子だから、次男がちょうどいい〜long version   20.妹

     私は、タイラー様とのことも気がかりだけれど、それと同じぐらいハリエットのことが心配だった。 カーステン様を頼りにして、クライトン家に身を寄せていただろうに、その彼にあんなことを言われて、この侯爵邸で一人、さぞ傷ついて、心細い思いをしているのではないかと思った。 今私は、カーステン様のことは置いておいて、侍女に案内してもらい、ハリエットの部屋を訪れた。 すると、ドアは閉まっているが、中から女性の怒鳴り声が聞こえてきた。 私が慌てて居室に入ると、ハリエットが暴れていて、部屋の調度品を薙ぎ倒し、部屋は無残なありさまだった。 周りにいる侍女達は、彼女の暴力に恐れながらもそれを必死におさめようとしていた。「ハリエット、落ちついて。」「来たわね、私を笑いに。」 ハリエットは、お酒に酔っているらしく、私を見つけると焦点の定まらない目で睨みつけながら、ふらふらと近づいて来る。 とりあえず暴れることはやめたので、ハリエットをソファに侍女達と共に座らせる。「ハリエット、お酒を飲みたくなる気持ちはわかるわ。 でも、侍女達に迷惑をかけたり、物に八つ当たりしてはいけないわ。」 私は、ハリエットが落ち着いて来たようなので、目配せして怯える侍女達を下がらせた。 そして、侍女に託された水の入ったコップをハリエットに手渡す。「相変わらずね。 お姉様は、どんな時でも正しくて、イライラするわ。」「まずは、お水を飲んで落ち着いて。 話ならいくらでも聞くから。」「ねぇ、お姉様の頭の中はいつまでお花畑なの? もしかして、まだ、気づいてないの? どうして、クライトン侯爵に、お姉様が妾の子であるとバレたと思っているの?」「さぁ? わからないけれど、事実だから気にしても仕方ないと思っていたわ。 お父様が話したのかどうかもわからないし、考えても答えが出るとは限らないし。」「もう、お姉様はどうしていつもそうなの? どこまでも聖人で腹が立つわ。 もっと怒ってよ。 どうして婚約者を奪われても、そんなに平然としていられるの?」「声を荒げるのはやめて。 みんなビックリして集まって来てしまうから。 私だって冷静でいられたわけじゃなかったわ。 私はカーステン様のことを想っていたから、あの時は随分ショックを受けたのよ。 私の痛みは見えにくい、ただそれだけだわ。」 

  • 君は妾の子だから、次男がちょうどいい〜long version   19.選択肢

     次の日、目を覚ますと自分が使っているベッドの中だった。 そのすぐそばにはタイラー様がいて、すでに目を覚まし私を見つめていた。「おはよう、マリア、ぐっすり寝れたようだね。」「おはようございます、タイラー様。 あれっ、私、どうしてここに? ごめんなさい、帰りの馬車で寝てしまって。 それに、どうして今まで起きなかったのでしょうか? きっとタイラー様に、ご迷惑をおかけしましたよね?」「迷惑だなんて思っていないよ。 昨日のパーティーの祝杯で酔ってしまったんだね。」「すみません、口をつける程度にしたつもりですが、お酒は今まで飲んだことがなかったのでこうなるとは、わかりませんでした。 私、お酒にかなり弱いんですね。」「飲み慣れていないから酔いがまわったんだよ。 その後、ダンスも踊ったし、王都に来てからの疲れも溜まっていたのだろう。」「それにしても、私どうやってこのベッドまで来たのですか?」「それは、もちろん僕が運んだんだよ。 僕はマリアを抱いて歩くと、めちゃくちゃ遅いし、力もまだ弱いから、ロドルフに支えられながらだけど、他の誰とも君を抱く役目を代わりたくなかったんだ。」「そうだったんですね。 すみません。 私、その間も全然起きなかったのですね。」「ああ、僕とロドルフが大騒ぎしながら運んでいても、君はスヤスヤと気持ち良さそうに寝ていたんだ。 今思い出すと、ちょっと笑えるよ。 君には、お酒に慣れるまで僕がいない時は、外で飲むのを控えてもらうかな。」 そう言って、タイラー様は笑う。「はい、約束します。」 私は、そんな優しい彼に苦笑いするしかなかった。 なんて恥ずかしいの。 その様子を邸の者達は、微笑ましく見守っていたのだろう。 そう思っただけで、顔が熱くなる。 こちらの邸の人達の前では、令嬢らしく振る舞いたかったのに、早速、失敗してしまったわ。「昨日は色々あったけど、馬車の中でマリアを初めて抱きしめられたし、その後も抱っこして運んだり、寝顔も久しぶりに見れた。 僕にとっては、とても素敵な一日の締めくくりだったよ。 マリアは、以前僕の傷に練り薬を塗ってくれたことがあったけど、僕から君に触れたのは、手を繋ぐことぐらいだからね。 昨日は、君が心配で思わず抱きしめてしまったけれど、嫌じゃなかったかい?」「そんなタイラー様が

  • 君は妾の子だから、次男がちょうどいい〜long version   18.王都で

     王子のご成婚披露パーティーの前日に、私達は王都のクライトン侯爵家に、馬車で到着した。 別邸へ向かった時と違って、タイラー様が、ゆっくりと歩いて馬車から降りると、クライトン侯爵、カーステン様、ハリエットが揃い、その姿を見守るように待ち構えていた。「よく帰ったな。 タイラー。 本当に歩けるようになったんだな。 肌も元通りに綺麗になって本当に良かった。 手紙ではそのことを聞いていたけれど、実際に見ると感極まるよ。」 クライトン侯爵は、目に涙を浮かべている。 彼のその反応には、別邸に移ってからの長い時を感じさせた。 それほどの間、私達は王都に戻らなかったということだ。「タイラー、良くやったな。 おめでとう。 疲れただろうから、応接室に行ってから挨拶をしよう。」「ああ、そうしてくれると助かるよ。」 私とハリエットは、お互いに笑顔を交わすと、クライトン侯爵家の方々と、応接室へと移動した。 それぞれ並んでテーブルを囲んでお茶を飲んでいると、上機嫌のクライトン侯爵が話し出す。「改めて、こうして全員が揃ったのは初めてだな。 息子たち二人が共に婚約中で、未来の義娘達を連れてこの邸に来てくれたことに感謝する。 私は、義娘達とは顔を合わせているが、息子達は初めてだろうから、それぞれ紹介してくれ。」「じゃ、僕から。 僕は、兄のカーステンです。 隣が婚約者で、マリアの妹のハリエットだ。 僕は、マリアとは手紙のやり取りをしていたけど、会ったのは初めてだね。 よろしく。」「次は、僕だね。 僕は、弟のタイラー。 以前は寝たきりだったけれど、マリアのおかげもあって、今はこの通り、ゆっくりなら歩けるようになったんだ。 今はマリアと別邸に住んでいる。 そして、隣にいるのが婚約者のマリア。 マリア達は、姉妹だね。 よろしく。」「それにしても、君達姉妹は全然似ていないんだね。 逆に僕達兄弟は似てるだろ? 眼の色が水色か、紫かの違いだけなんだ。」「そうですわね。 私達姉妹は、母親が違うからあまり似てないんです。 顔も性格も。」「性格なら、僕達も違うよ。 兄さんは昔から何でもできて、僕の憧れなんだ。」 穏やかな会話をしているが、テーブルの下でタイラー様は、私と手を繋いだまま離さなかった。 翌日の夜、王宮では王子のご成婚披露パーティ

  • 君は妾の子だから、次男がちょうどいい〜long version   17.夜会への招待状

     楽しい旅から別邸に戻った後、タイラー様の歩行状況はどんどん良くなり、今では走るや踊る以外であれば、ゆっくりだがすべてのことができるようになっていた。 いつものように二人で手を繋いで庭園を散歩していると、これはお世話なのか、ただのカップルの手繋ぎデートなのか、もうわからない。 タイラー様は、顔のブツブツが消えてから、お顔が数段美しくなったので、日増しに私は、彼に見つめられると胸が高鳴り、意識せずにはいられない。 それだけではなく、以前のぎこちない立ち振る舞いが、いつの間にか美しい貴族の所作に変わって、さらに私を夢中にさせる。 でも、それを直接伝えるのは恥ずかしくて、タイラー様には内緒にしていた。 「タイラー様、もう安定して歩けるようになったから、歩く時に手を繋ぐのはやめますか?」 実は彼が、いつまでも私にお世話をされたくないと、内心では思っているかもしれないので、一応確認のために聞いてみた。 すると、「絶対にダメ。 僕の歩行訓練の意欲を奪うようなことを言ってはいけないよ。」 と珍しく強く拒否された。 こんなに否定されたのは、高熱を出している時は近づかないと約束させられた時と、護衛の数の話以来だった。 私は少し驚きながらも、多分タイラー様は、私と手を繋ぐのが好きなんだと思う。 だから、もうこれはカップルの散歩なのでしょう。 そう受け止めて、今日も彼とのデートを続ける。 だって私も、恥ずかしさはあっても、彼から求められる嬉しさは、私が欲しかったものそのもので。 そんなある日、王都のクライトン侯爵から、タイラー様宛に書状が届く。 それを見て、タイラー様はみるみる険しい表情を浮かべる。「マリア、僕達は王都に戻らないといけなくなった。 第一王子がご成婚されるそうだ。 だから、貴族は全員、ご成婚披露パーティーに出席しなければならない。 僕は、療養中だから無理しなくていいとあるが、兄とマリアの妹さんが、父の邸にいる。 君は、彼らと一緒にパーティーに出席しなければならないから、僕も行くよ。 父上にもう歩行は問題ないと伝えているが、まだ信じきれていないのだろう。」「そうですか。 一人では不安なので、タイラー様も一緒に来て頂けるなら心強いです。」「急いで僕達の夜会用の衣装を作ろう。」「はい。」 その日から、半年後のご成婚披露パー

  • 君は妾の子だから、次男がちょうどいい〜long version   16.ディクソン公爵との調印

    「ディクソン公爵様、初めてお目にかかります。 クライトン侯爵家次男タイラーと申します。」「やっと姿を見せたね、タイラー卿、君はどんな人物なのか、周囲の領主達も知りたがっていたよ。」 村の広場にタイラー様とマリアが立ち、馬車から降り立つディクソン公爵を出迎えると、早速、彼はタイラー様のところへ歩み寄り、握手を求める。 その後、タイラー様の姿を上から下まで鋭い目で観察している。「そう言っていただけるとは光栄ですが、私などただの領主でございます。」「いやいや、謙遜は無用だ。 この領地をクライトン侯爵から引き継ぎ、わずか数年でこのように街を栄えさせて、私の領地との差を見せつけてくれたん

  • 君は妾の子だから、次男がちょうどいい〜long version   15.村の人々

     タイラー達が広場で歩行訓練を続けていると、興味深そうに見ていた村の子供達が数人集まって来た。「とっても綺麗なお姉さん、こんにちは。」 子供達は、物おじすることなく、マリアに話しかけて来た。 マリアはどこに行っても、人の目を引くし、子供達にももれなく興味を持たれる。「あら、初めまして、ここの村の子達ね。 私はマリアで、こちらはタイラー様よ。 私達が気になる?」「うん、何してるの?」「この村のことを調べているのよ。 それで、お父さんやお母さん達とお話したいと思っているの。 ご両親はお家にいるのかしら? できれば、連れて来てほしいな。」 マリアは子供達に笑顔で話している。

  • 君は妾の子だから、次男がちょうどいい〜long version   14.境の村

    「タイラー様、ここから先が例の村です。」 マリア達一行は、ディクソン公爵が譲り渡したいと言われる村に到着した。 実際に訪れてみると、何故ディクソン公爵が手放したいのか、わかる気がする。 道路を挟んで、クライトン領は整備された街が広がり、清潔な印象があるのに対し、反対側にある村は道がガタガタで整備されておらず、建物は古く、どこか寂れた雰囲気が漂っていた。「なるほどな。」「全体的に寂れていると言うことですか?」「うん、そう言うことだね。 おそらくディクソン領からの旅人は、昔は森を出た後、クライトン領に入る前の休憩所として村を利用していたのだろう。 けれども、今は僕達の領地の方が栄

  • 君は妾の子だから、次男がちょうどいい〜long version   12.誕生日その2

     海で遊んでいた笑顔のマリアが、僕のところに駆け寄ってきた。「タイラー様、とても楽しいわ。 海は遠くで見ると青く見えるのに、足元の水は透明なのよ。」「そうなんだ。 僕も一緒に入りたいな。」「じゃあ、入りましょうよ。 椅子をもう少し海の方へ動かせばいいだけだわ。」「えっ?」「ね、タイラー様、一緒に入りましょ。」「うん。」 僕はマリアに誘われたら、何でもすると決めている。「ロドルフ、タイラー様の靴を脱がせて、椅子を波の来るところまで動かして。」「わかりました。」 ロドルフはマリアの言葉に、何の躊躇もなく従う。 僕の靴を脱がせ、ズボンを捲ると、サエモンと二人で椅子を両側

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