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14.境の村

Auteur: 月山 歩
last update Date de publication: 2025-04-25 18:14:04

「タイラー様、ここから先が例の村です。」

 マリア達一行は、ディクソン公爵が譲り渡したいと言われる村に到着した。

 実際に訪れてみると、何故ディクソン公爵が手放したいのか、わかる気がする。

 道路を挟んで、クライトン領は整備された街が広がり、清潔な印象があるのに対し、反対側にある村は道がガタガタで整備されておらず、建物は古く、どこか寂れた雰囲気が漂っていた。

「なるほどな。」

「全体的に寂れていると言うことですか?」

「うん、そう言うことだね。

 おそらくディクソン領からの旅人は、昔は森を出た後、クライトン領に入る前の休憩所として村を利用していたのだろう。

 けれども、今は僕達の領地の方が栄えているから、森を抜けた後、わざわざここで休む必要がなくなってしまったんだろう。

 すぐにクライトン領に入り、賑やかな街で僕達のように宿をとればいいだけだからね。

 わざわざ辺鄙な村に寄って、休む必要がないんだよ。

 ディクソン公爵にとっては、広大な森の先にあるこの村に、整備するための資金や人手をかけるのが負担になったのだろう。

 そうしているうちに、僕達の領地との格差がどんどん開いてしまったんだ。

 それで、僕達にこの村を譲ろうと見切りをつけた。

 実際、この村の住人達は、買い物や仕事を、僕達の領地で行っているみたいだから。

 すぐ隣に便利な街があるんだ。

 森を抜ける危険を犯してまで、ディクソン領の街まで行くとはと思えないからね。」

「そうですね、タイラー様。

 それで、この村を引き受けるのですか?」

「ああ、構わないだろう。

 このまま僕達の領地の一部として取り込んでしまおう。」

「タイラー様、ディクソン公爵様は調印場所として、今いる広場を指定してきておりますが、何故でしょうか?」

 ロドルフは広場を見渡しながら首を傾げている。

 周りには特に目立ったものはないが、ただ足元にゴツゴツとした石が積み重なっている。

 そして、場所によっては目に見えない高低差もある。

 タイラー様は転ばないように慎重に歩いていた。

 でもそれは、他人には気づきにくい。

 彼は歩行に問題がないように見せるために意識的に隠して歩いている。

 あくまで、私が彼のそばにいて、ずっと見守ってきたからわかることだ。

「貴族同士の調印であれば、普通は街の応接室で行われるものだ。

 だが、わざわざここを指定するなら、村の者達に僕達を見せるためか、僕の健康状態を探るためかのいずれかだろう。

 ディクソン公爵は抜け目のない男だと言われているから、後者かな。

 ここは、僕にとって非常に歩きにくい場所だよ。」

「そんな理由で、ここを指定する方なんているのかしら?

 わざわざ歩くのが大変な場所を選ぶだなんて。」

「僕は今まで夜会にも出ていないし、公の場に一切姿を現さなかった。

 だから、僕を試しつつ、会いたいと思ったんじゃないかな。

 実際、隣の領地同士でありながら、これまで書状のやり取りだけで、すべての招待を断って来たから。 

 隣を治める人間が、療養中のか弱い者であるか知りたいんだろう。

 高位貴族なら、僕の状況について、秘されていたとしても徹底的に調べ上げるだろうから、調書通りの男なのか、その目で確かめるために、調印と言う形で僕を引っ張り出した。

 結果によっては、この先の色々な交渉を有利に進めることができるからね。」

 そう言うと、タイラー様は顔をしかめる。

「では、タイラー様、ディクソン公爵とお会いする際、今のように私と腕を組みながら、堂々としていてください。

 万が一、タイラー様が躓いてしまったら、私が支えます。

 それでも、支えきれず二人が崩れそうになったら、ロドルフ、その時は私に大丈夫か聞いてほしいの。

 私がふらついたことにするから。

 タイラー様が侮られるなんて、あってはならないわ。」

「僕をマリアが支えてくれるのかい?」

「もちろんです、タイラー様。

 その時私は、あえて裾の長いドレスを着て、踵の高い靴を履くわ。 

 そうすれば、私がふらついても誰も不思議に思わないでしょ。

 でも私、そのような装いでも、きちんと歩けるように令嬢教育はみっちり受けていますから、ご安心を。」

「そこまで訓練してきたのに、僕の失敗を君が被っていいのかい?」

「もちろんですわ。

 私はタイラー様を支えると、初めてお会いした日から決めているのですから。

 それに、タイラー様が健康であると思われることは、クライトン、ローレ両家にとっても有益です。」

「そうか、ありがとう。」

 二人は微笑みながら見つめ合う。

「そしたら僕は、ディクソン公爵が来るまで、ここをつまづかないように歩く練習をするよ。

 それにしても、ここは足元がおぼつかない者にとって、最高級の難易度と言える。

 ディクソン公爵がわかってそうしているのなら、かなり意地の悪い人間だと言えるよ。」

「タイラー様、これも歩行訓練だと思って、頑張りましょう。」

 その後、二人は腕を組んで、その広場をぐるぐると歩きながら、転ばないように練習した。

 本人達にとっては、真剣そのものの歩行訓練であったが、周りの人々には、仲の良いカップルが景色を見ながら散歩しているように見える。

「マリア、歩行訓練に付き合ってくれてありがとう。

 僕一人なら、どうしても怪しいやつに見えてしまうところだよ。」

「いいえ、タイラー様、これはいつもの庭園でお花を見ながらしている散歩と同じよ。

 この村が整備されて、この古く重苦しい雰囲気が、クライトン領の一部になって豊かになるの。

 その未来を想像して歩けば、夢が広がるわ。」

「そうだね、マリア。

 君ならこの辺りをどうしたい?」

「私なら、森から続く自然を活かして、街のように作り過ぎないように見えるけれど、手入れがされている安全な村にしたいわ。

 子供達が自然に触れながら遊べるような、広々として穏やかな村がいいです。」

「わかった。

 そんな村を一緒に作ろう。」

「ええ、タイラー様、楽しみだわ。」

「そのためにはまず、村の人々がどんな考えを持っていて、僕達の領地になることをどう思うか知るところからだね。

 正直、あまりに強い抵抗を受けるなら、無理にこの村を譲り受ける必要も、僕達にはないから。

 さて、どこから手をつけようか?」

 タイラー様のところには、この村についての資料などはあらかじめ用意されていたが、そこに住んでいるの人の気持ちまでは聞いてみないとわからない。

 今回の訪問は、そこまで深く調べるためでもある。

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