困窮フィーバー

困窮フィーバー

last updateLast Updated : 2025-11-07
By:  猫宮乾Ongoing
Language: Japanese
goodnovel18goodnovel
Not enough ratings
4Chapters
578views
Read
Add to library

Share:  

Report
Overview
Catalog
SCAN CODE TO READ ON APP

 藍円寺は、新南津市街地からは少し離れた集落の、住宅街の坂道を登った先にある、ほぼ廃寺だ。住職である俺は……なお、霊は視えない。しかし、祓えるので除霊のバイトで生計を立てている。常々肩こりで死にそうなマッサージ店ジプシーだ。そんな俺はある日、絢樫Cafe&マッサージと出会った。※現代(オカルト)ものですが、ホラー要素がほぼありません。

View More

Chapter 1

chapter:表 ……藍円寺の日常…… 【1】マッサージ店ジプシー

娘が重い病気にかかって、高額な治療費が必要になった。

なのに元夫の原田健太(はらだ けんた)は、娘の治療をあっさり諦め、自分の幼馴染である原田菫(はらだ すみれ)とイチャつき始めた。

絶望していた私に、手を差し伸べてくれたのは初恋の相手、野口翔(のぐち しょう)だった。翔は私と結ばれ、私の口座に1億円を振り込み、一緒に娘の看病までしてくれた。

だけど、娘は死神の手から逃れることはできなかった。

それから6年後、私たちの間に新しい命が宿った。

一人で妊婦健診に行った病院で、私は偶然、翔と医者の会話を耳にしてしまった。

「野口社長、あなたと奥さんの間にもお子さんができた今、もしあの時のことが明るみに出たらどうするんですか?」

「当時、菫は重い病気でした。沙耶香(さやか)の子の心臓を菫に移植したのは、やむを得ない手段だったんです。それに今、沙耶香には新しい子供もいて、沙耶香ももう、水に流すべきでしょう」

その会話で、私は全てを悟った。娘は……わざと誤診されていたんだ。

娘の心臓は、翔の手で密かに菫へと移植されていたのだ。

それを聞いた途端、声もなく涙が頬を伝った。

今お腹にいるこの子は、翔との愛の証じゃなかった。ただの罪滅ぼしだったんだ。

この6年間は、全部、翔のお芝居だった。たった一人の愛する人、菫のためだけの。

少し膨らんだお腹を撫でながら、力なく笑った。

6年前、私は娘を救えなかった。もう、こんな悪縁は断ち切りたい。

診察室で、医者は少し残念そうにため息をついた。

「分かりました、野口社長。でも、本当にそれでいいんですか?原田さんはもう結婚しているんですよ。野口社長も自分の人生を大事にすべきです。それに、奥さんは野口社長のことをとても愛していて、良い人ですよ」

電話の向こうで、翔は少し間を置いて、きっぱりと答えた。

「いいんですよ。俺は名目なんて気にしません。ただ菫を守れればそれでいいです。菫が誰を愛そうと勝手で、俺はただ、彼女が健康で幸せでいてくれればいいです。

沙耶香のことだけど、確かに本当に良い人ですよ。良い妻だし、良い母親にもなるでしょう。でも残念ながら、俺は沙耶香を愛してません。人の気持ちは、どうにもならないものですからね」

翔の言葉を聞いて、医者は首を振り、それ以上は何も言わなかった。

「奥さん、あまり状態が良くないんです。彼女はすでに一人子供を亡くしていて、本当に可哀想な人ですよ。今度こそ、奥さんと赤ちゃんを大事にしてあげてください」

しばらく沈黙が流れて、最後に翔が小さく「はい」とだけ答えた。

私は唇を強く噛みしめて、必死に声を殺した。

翔と医者が出て行ってから、やっと声をあげて泣くことができた。

まだ小さかった娘は、病気で死んだんじゃない。翔が医者を買収して、わざと誤診させたんだ。

全部、菫に新しい心臓を与えるためだった。

あの頃、娘は重い病気だと診断されて、集中治療室に入った。

元夫の健太は、重荷を背負いたくないと言って病院からいなくなり、幼馴染の菫のもとへ向かった。

そんな時、翔が現れた。翔は私たちにとって唯一の希望の光だった。

でも今思えば、翔が助けてくれたのは、菫にあげるつもりだった心臓を、ただ大事に管理するためだったんだ。

健太と離婚したあと、翔が私と結婚したのは、きっと罪悪感からだったんだろう。

病院を出ると、外はどしゃ降りだった。

タクシーも拾わず、ずぶ濡れになりながら、ふらふらと歩いた。

雨と涙が混じり合って、どれだけ泣いたのかも分からなかった。

家に帰ると、私のひどい有り様を見て、家政婦が慌てて駆け寄ってきた。

「奥様、雨が降っていたのに、どうして運転手を呼ばなかったんですか?お腹に赤ちゃんもいるのに、体を冷やしたら大変ですよ」

物音を聞きつけて、翔が書斎から出てきた。

私の目が真っ赤で、髪もぐちゃぐちゃな様子を見ると、翔は一瞬、つらそうな顔をした。そして、持っていたコーヒーを置いて、私を横抱きにした。

翔は、少し咎めるような口調で言った。

「もうすぐ母親になるっていうのに、もっと気をつけろよ。

風邪をひくだけならまだしも、お腹の子に何かあったらどうするんだ。お前には呆れてものも言えないよ」

私は翔をちらっと見て、独り言のようにつぶやいた。

「翔、私は母親になったことがある。あなたに教わる必要はないわ。

この子が死んだって、別にいい。どうせ一度、子供を亡くしているんだから」

翔はぴたりと足を止め、眉をひそめた。でも、結局何も言わなかった。

バスタブにはもうお湯が張ってあった。翔が服を脱がそうとしてくれたけど、私はそれを断った。

翔は、私のいつもと違う様子をいぶかしむように見つめていた。

気まずい沈黙がしばらく続いた後、翔はバスルームから出ていった。

私はボディソープで体を何度も何度もこすった。この数年間で翔が私に残したものを、全部洗い流したかった。

Expand
Next Chapter
Download

Latest chapter

More Chapters
No Comments
4 Chapters
chapter:表 ……藍円寺の日常…… 【1】マッサージ店ジプシー
 会員証を差し出し、お名前欄:藍円寺享夜(フリガナ:アイエンジキョウヤ)――と、繰り返し本日まで、俺は各地で書いてきた。 場所は、マッサージ関連のお店において。 時にはタッチパネルで入力する事もあれば、カードを出すだけだったり、口頭で聞かれたりという事もある。種類は問わない。指圧からタイ古式マッサージまで、何でも来いだ。 俺は、マッサージ店ジプシーである。 常にお気に入りの店を探している(が、これは即ち、俺にとって良い店が無いという意味だ)。 どうして俺がマッサージに今日も雨の中わざわざ通って、無駄な三十分に六千円を支払った事を後悔しながら歩いているかと問われたならば、そりゃあ、俺の体がこっているからだとしか言えない。 真面目に、辛い。 頭痛・腰痛・肩こり……そういうの全部が、本当、辛い。 物心ついた時には、既に悩まされていた。どんな子供だよ……。 俺には、子供の頃から、柔らかな肉体は無かったのだろうか……。 そのまま成長し、三十代が見え始めた二十七歳現在、一向に肩こり(他略)の改善は見られない。肩こりに良いと言われる事は、一通り試したが効果はゼロだ。マッサージで、人に直接触られていると、どことなく気休めになるので、今の所、対策としてはこれが一番マシであるとは言える。 黒い傘をさしながら歩いている俺は、水溜りを踏んだ時、嫌な感覚がして、目を細めた。傘の上を見る。勿論布があるから、その先の夜空は見えないが、あからさまに雨足が強まってきているのは分かった。音が激しくなったからだ。水溜りでも無いというのに、靴も水で濡れてしまっている。 元々、天気予報は雨だった。だから、覚悟はしていた。それでも肩の重さに耐えかねた。しかし、行ってきた今、既にもう、また別の店に行きたい。だって、痛いし重いし辛い。俺から肩こりを除去してくれる人がいると聞いたら、俺は何でもするかもしれないってくらい、きつい……。「はぁ……」 思わず溜息が出た。「――ん?」 灯りに気づいたのは、その時の事だった。 そこには――……実は、ちょっと前から存在だけチェックを入れておいたマッサージ店があった。Cafe&マッサージという看板が出ている。街から俺宅(寺をしている)までの一本路の入り口付近にあるため、最初は、「こんな店あったっけ?」と、そう言う認識をしたのだったと思う。 一
last updateLast Updated : 2025-07-21
Read more
chapter:表 ……藍円寺の日常……【2】――なんだこのマッサージは!()
 それから――バスローブに着替えて、うつ伏せになった所までは、覚えている。 が、気づいた今、俺は動揺していた。「え」「――安心しろ、お前は、今人生で最高に気持ち良いマッサージを受けてるだけだ」「……ああ」 俺は、頷くと同時に、非常に安心していた。 けれど……先程とは異なり、思考がはっきりしてきた。 なんと現在俺は……全裸だった。え? 寝台の上にいる。これは、マッサージ用のものだ。なのに、なんか無駄に豪華なセミダブルベッドに見える。まぁ、それは良い(?) 良くないのは、その壁際で、俺は、何故なのか背中を壁に押し付けながら、涙をこぼしているという現実だ。真っ裸だ。え? え? 今時、健康診断ですら、こんな事は、無い。更にマッサージジプシーの俺が断言できる事として、普通のマッサージにおいて、全裸も無い。性感マッサージだったとしたら、風俗という表示を出していないのだから、ここは違法だ。けど、そう言う事じゃない。だって、俺、男だ。そして俺をマッサージしている、胸のバッチに『ローラ』と書いてあるイケメンの青年も、男だ。どこからどう見ても男だ。 その男に、俺は左の乳首を吸われている。全身が熱い。気づいた俺は、射精したくて仕方がない衝動に気づいて、ブルリと震えた。「ぁ、ぁ、ぁ……ぁ、嘘、あ」 俺のものとは思えないような高い声が、勝手に俺の口から出た。太ももが勝手に震えるのも止まらない。俺は、射精したいのに、何故なのかそれはしてはならないと理解していた。必死でつま先を丸めて、吐息を何度もして、体の熱を逃がそうと試みるが、酷くなる一方だ。「ああっ!」 その時、強めに右の乳首を指で弾かれた。だらりと、露出している俺の性器から、先走りの液が垂れる。「ひぁっ」 今度は、左右の乳首へ同時に、指と口の刺激が来た。 俺は思わず目を伏せた。すると、眦から涙が溢れていく。「ぁ、はぁっ、ン」 ダメだ、なんだこれ。気持ち良すぎる。 俺は、冷静に考えて、男にセクハラ――では済まない事をされているのだと思う。最早、痴漢と称して良いだろう。通報案件だ。だけれども、まずい、頭がおかしくなりそうなほどに気持ちが良い。「――安心しろ、全部夢だ」「あ、あ」 ――だよね! 俺は、全部夢だと、内心で理解した。なにせ、イケメンもそう言った。 うん、間違いない。「だから、安心
last updateLast Updated : 2025-07-21
Read more
chapter:表 ……藍円寺の日常…… 【3】「またのご来店をお待ち致しております」()
「お疲れ様でした。またのご来店をお待ち致しております」  笑顔の青年――ローラというイケメンと、砂鳥という少年に見送られ、俺は今日も絢樫Cafe&マッサージを後にした。  初日以来――俺の中で、店への恐怖は、何故なのか……実を言えば、別に減ってはいない。本能的な恐怖とでも言うのか、遠くから近づく時と、遠ざかって家に向かう時は、未だに背筋がゾッとする。  だが、不思議とその感覚は、店に近づくにつれて減少していくし、店の前に来た時なんて、やっと本日の肩こりから解放されるとテンションが上がる。今までの人生で、こういう経験は無い。初めての事だから……単純に考えすぎなのかなと、最近では考えている。  考えすぎて、俺にとっての楽園と解放を逃すわけにはいかないだろう。  ただ……最近、気になる事がひとつある。  必ず気持ち良すぎて、途中でウトウトしてしまう事だ。  いつ微睡み始めたのかすら記憶にない。だが、パンと最後に肩を叩かれて、俺は目を覚ましている。うーん。相当疲れが溜まっているんだろうか……。それともローラ青年が、上手すぎるんだろうか。  俺、最初は、ローラというのは、店の名前なのかと、勘違いをしていた。  しかし、違った。  一度だけ、俺は勇気を出して、雑談を吹っかけたのだ。基本的にコミュ障の俺的には、多大なる努力を要したが。 「ローラというのは、店名か?」 「――いや。和名で戸籍を取得した時に、露嬉と当てていて、俺の名前ですよ」  彼は笑顔だったから、俺はホッとしたものである。  俺は、小心者だが、ぶっきらぼうな口調だ。しかしこれは、俺に限った事では無い。  この地方都市の方言のようなものなのだ。みんな、こんな感じだ。  その中でも、俺はちょっと癖が強いだけである。例えるなら、強い訛りと言える。  ローラ達は、都会――どころか、海外から来た様子だ。  あんまり悪い印象を持たれたくないのもあって、俺は、必要最低限しか話さない。  さて、そんな今日も、俺は癒されに向かった。  バスローブに着替え、寝台に上がる。  ……ああ、そして……また、”いつもの”……夢が始まる。  目を覚ますと、どんな夢なのかは忘れてしまうのに、始まると”いつも”だと分かる。 「そろそろ、良いか」  何が、なんだろう?  俺は、ぼんやりとしたまま、首を
last updateLast Updated : 2025-07-28
Read more
chapter:表 ……藍円寺の日常……【4】天使は、やはり天使だったのだ。
 だが、不思議な事に、謎の腰の不快感が残ったあの日の翌日、俺は人生で初めて、一度も肩こりをせずに過ごす事が出来た。肩がこらなかったのだ! 感動しすぎて大変だった。きっと、あれは、揉み返しとやらだったのだろう。天使は、やはり天使だったのだ。 しかし、翌々日――つまり、今日は、どっと肩が重くなった。 本家から電話がかかってきて聞いたのだが、例のお化け屋敷(民家)に、昨日どこぞの馬鹿な学生が侵入して、結界を構築していた御札を剥がしたらしい。普通、そもそも罰当たりな行為だから、概念として、そういう事はしないべきだと、躾けろよ親……! 教師! と、まず思った。同時に、もう良い年の大学生集団だったらしいのだから、自分で常識的か判断しろとも怒りが沸いた。とはいえ、俺が怒ってもどうにもならない。けれど頭にくるのは、民家から俺の寺まで漂ってくる嫌な気配のせいで、肩がこる事だ……。 さて、本家からの電話である。「何でも、うちの絆のぶっちゃけライバルのタレント霊媒師が、除霊に来るらしいから、今回は頼まれてもノータッチで」 そんな内容だった。 玲瓏院絆というのは、俺の本家の長男だ。双子の兄であり、弟は紬と言う。 絆は、KIZUNAという名前で、芸能活動をしている、事務所所属のタレントで、ウリが霊感だそうだ。オカルト番組に引っ張りだこだが、そこ以外でも活動している。時々、ドラマの脇役として見かけたりすると、親戚だからテンションが上がる。 ただ、親戚だからこそ分かるが、絆は、多分俺以下である。 本当にすごいのは、紬だ。何せ、大天才(霊能力者的な意味で)と評判だ。 紬は、歩くだけで、近隣の霊を全て吹き飛ばせるなんて聞いた事もある。 ――実際、紬と一緒にいた時に、嫌な気配を感じた事は、一度も無い。 俺から見ても、やつはすごい。それに比べると、絆は、「視える」「視える」と言うが、「だから?」と、聞き返したくなる事が多い。視えたって、なぁ。特に何も、視えない俺にとっては、影響が無いのが実情だ。 それよりも、問題は肩こりだ……。 俺は今日も今日とて、絢樫Cafe&マッサージへと向かう事にした。「挿れて欲しいか?」「あ……」 朦朧とする意識が、僅かに鮮明になった時、俺は菊門に陰茎の先端をあてがわれていた。ヒクつく俺の孔も、既に存分に解されているグチャグチャな孔の中も、一
last updateLast Updated : 2025-11-07
Read more
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status