父親との関係が上手くいかないレイト。そんな時に父親の再婚が決まった。彼の家族になった母は、レイトに近づく為に、政略結婚をしていた。弟が出来たレイトは日常の中で母が最近ハマっている「メモリアルホロウ」と言うB Lゲームを紹介され、仕方なくプレイする事に……その先に待ち構えるもう一つの現実が彼の運命を変えていく。
View More第一話 変わりゆく日常
この家には俺と父の二人で過ごしていた。お互いの事を話すきっかけが掴めない俺達は簡単な言葉だけを繰り返し、日常を過ごしている。声をかける事もなかった父が真剣な眼差しで、大切な話がある、と一階に降りてくるように言ってきた。 髪が寝癖でボサボサ状態のままで父の待つリビングへと足を運んでいく。トントンと階段を降りる足音が響きながら、時空を歪ませていった。 母が亡くなってから、会話で支え合っていた家族像は呆気なく壊れてしまった。あの時から俺の中で時間は止まっているままだ。 スウと空気を取り入れると、震える心を鎮めるように、ドアをゆっくりと開けていった。 「遅かったな、レイト」 俺の名前を呼ぶ父の声は、冷たさを漂わせながら、俺の心臓を貫こうとしている。母の姿を見てきたあの時から、父に対して苦手意識を持つようになってしまった。 「……話って何?」 「父さんな、再婚しようと考えてるんだ。相手は清水美緒さん、そして息子のカガミ君だ」 自分と父だけの空間にそっと姿を現した二人がいた。客室で俺がリビングに来るのを待っていたようだった。何の前触れもなく、唐突に告げられる現実に、言葉を失いそうになっている。 「お前に話そうとしても、なかなか会話してくれなかっただろう。それなら対面式で紹介して仲良くなってもらうのが一番だと思ってな」 柔らかな表情で父の言葉の刺をなくしていくような優しい雰囲気を持つ女性が目の前にいる。急に現れた母親になろうとしている存在に違和感を抱きながらも、近づいていく。 「よろしくな、兄さん」 母親を庇うような形で彼女と僕の間に立ち尽くす男の人が出てきた。優しそうな言葉遣いだが、どうしてだか威圧感を放っている。 それが俺とカガミの出会いだった。どうせこいつも離れていくに違いないと思っていたあの日の自分が懐かしく感じる。あれから三年の月日が経ち、どうにか美緒さんの事も母さんと呼べるようになってきた。父は再婚をすると、すぐに単身赴任で地方へ行ってしまった。有無を言わさない父の態度を思い出すと、今でもムカついてしまう。 「レイト〜、ご機嫌斜めかな?」 初対面が最悪だった俺とカガミは、まるで昔から知っている親友のような関係になっている。形上は兄弟なのだが、年齢が近いのもあったのだろう。凄く懐いている。 「抱きつくなって……朝から暑苦しい」 「酷くない? 俺がこんなにも兄さんの事を慕っているのに」 いつもは呼び捨てなのに、こういう時にだけ弟ヅラをしてくる。何回も注意をしていたが、やめる気のないカガミを変えるのは出来ないと決めつけた。俺が折れると、カガミは嬉しそうに笑う。そんな毎日が日常の一部になっていた。 コツンと頭を小突くと、大袈裟に声を出す。それを聞いて、美緒さんが顔を覗かせながら、二人を観察している。美緒さんは俺とカガミのやり取りを見ていると、凄く幸せそうな顔で見つめてくる。時にはニヤニヤしながら、スマホのカメラで隠し撮りをしてきたり、変わった人だった。その事をカガミに聞いてみると、悪巧みをするような表情でニヤついていた。 「母さんはどうも俺とレイトの絡みを見ていると興奮するらしい」 「は?」 「神シチュエーションとか言ってたな……後、ご馳走様とか……」 カガミは含みのある言葉で何かを知らせようとしている。どう説明したらいいのか困っているようで、ポケットに入れていた手を出し、右頬を掻いている。 「どういう事だよ、それ」 「んー。そろそろレイトも誘われると思う、頑張れ」 ハハッと俺の背中を叩くと、答えを出さずに逃げ出していく。颯爽と姿を消したカガミの残り香を感じながら、何が言いたいのか考えていると、どっと疲れが滲み出てくる。 哀愁漂っている背中に向けられる視線に気づかずに、廊下から去ろうとしたその時、母さんがぬっと気配を消しながら現れた。 「レーイーくーん」 「ぎゃあああああ」 気配を意図的に消しているのか、いつものようなキラキラ感が一切ない。どちらかと言うと、俺とカガミの会話を涎を垂らしながら、見ていたように感じた。 「もう、そんなに驚かなくても……今日はねレイ君に紹介したい人がいるのよ」 「紹介したい人?」 「ええ、凄く素敵な人達なの。嫌な事を忘れさせてくれる王子様の巣窟よ。貴方もハマるから、絶対」 母さんは興奮しているようで、早口になって、身振り手振りで説明をし出した。それでも何を言いたいのか全く理解出来ない俺は、ただただ無心で動揺を隠し続ける事に力を注ぎ始めた。 スマホに訳の分からないゲームをDLされた俺は毎日ゲームを消していないかを見せる為に母さんに提示しなければならなくなった。ある意味監視に当たる行為に引いている自分がいる。 「どうして俺が……」 一度起動してみたが、キラキラ男子五人の映像が流れながら、甘いボイスで口説いてくるプロモーションビデオが流れてきた。それを見た瞬間、アンインストールをしようとしたが、先の事を考えると面倒な事になると思いとどまり、何も見なかったように閉じる。 「はははっ。レイトも入れられたかー。母さんオススメのBLゲームメモリアルホロウを。略してメモホロ」 カガミの口から聞いてはいけない言葉が聞こえた気がした。その口調からしたら、カガミもプレイしているのだろう。弟になった奴が、BLゲームをしている事を考えると、自分にも何かしら影響がくるように思えていく。 「起動した?」 「どんなゲームなのか分かんなかったから、一応起動はした」 「……そうなんだ」 少し間を置いて、うんうんと頷き始めるカガミは見た事のない表情をしている。自分の目が錯覚を起こしているのかもしれない。何故だか、彼の周りにキラキラしている星のようなエフェクトが浮いていた。 「何だ、これ」 「——もう始まっているんだ」 カガミの声がトリガーになっている。俺の日常は姿を変え、現実だった日常が知らないお城の前へと切り替わっていく。何が起こっているのか理解出来ない俺は、辺りをキョロキョロしながら、言葉を忘れてしまった。第二話ロロンの気まぐれ① このゲーム「メモリアルホロウ」は一度起動し、言葉のトリガーで発動する最新システムが導入されているスマホゲームだ。製作者は清水美緒、俺の母になった人だった。試作品のゲームを改善し世に出す為に、俺がプレイヤーに選ばれた。この事を知っているのは美緒本人と、カガミだけだった。あの二人は本当の親子だが、それ以上にゲーム製作者としての立場を重視している。 父と再婚をしたのも、何かしらこのゲームが影響しているのかもしれない。 「メモリアルホロウ、略してメモホロの世界にようこそー。君の名前はレイト、龍河レイトですね?」「……あんた誰?」 目の前にうさ耳ショタが浮いている。ふふふんとウィンクをしながら、沢山の花のエフェクトで可愛さをアピールしている。「お口悪ーい。僕はロロンだよー。レイトがゲームを進めるに当たってサポートするプログラムが僕なんだ」 これは夢だ、どこかで頭を打ってしまったのだろう。目の前で起きている事を、受け入れられない俺はそう思う事にする。シカトをしても消えないロロンは頬を膨らましながら、怒っている。「シカトはなしー。シカトするなら強制的に始めちゃうよ? レイトの要望も聞かないし、どんな結末になっても知らないからねー」「……結末?」 つい反応をしてしまった。その事を見逃さなかったロロンは、パアッと笑顔を灯していく。よっぽど嬉しかったみたいだ。「シナリオには20個隠されているよ。レイトの言葉でストーリーが進んでいく形式になるんだ。ここはミラウス城、始まりの城だよ。隠された存在の君はこの城の国王が父だと知る、そして新たな王子様の誕生の瞬間でもあるんだ。君はこの城で力を示す為に、五人の攻略対象をクリアしていく必要がある。君なりのエンドを見つけられたら、現実世界へ戻る道も出てくるからねー」 ロロンはワクワクしながら説明を終えると、強制的にテレポートした。見えない光に包まれていた俺は、始まりの鐘が鳴り始めた事に驚きながら、戸惑うしかなかった。「お……おい」 右手に現れた星の装飾がされているステッキを振り回すと魔法のように目の前の光景が広がっていく。ロロンの言う事が事実なら、このゲームをクリアするしか道はないみたいだ。システム的に中断要素があってもいいのに。 俺の要望を聞いてくれるはずなのに、一度の過ちが適用され、
第一話 変わりゆく日常 この家には俺と父の二人で過ごしていた。お互いの事を話すきっかけが掴めない俺達は簡単な言葉だけを繰り返し、日常を過ごしている。声をかける事もなかった父が真剣な眼差しで、大切な話がある、と一階に降りてくるように言ってきた。 髪が寝癖でボサボサ状態のままで父の待つリビングへと足を運んでいく。トントンと階段を降りる足音が響きながら、時空を歪ませていった。 母が亡くなってから、会話で支え合っていた家族像は呆気なく壊れてしまった。あの時から俺の中で時間は止まっているままだ。 スウと空気を取り入れると、震える心を鎮めるように、ドアをゆっくりと開けていった。「遅かったな、レイト」 俺の名前を呼ぶ父の声は、冷たさを漂わせながら、俺の心臓を貫こうとしている。母の姿を見てきたあの時から、父に対して苦手意識を持つようになってしまった。「……話って何?」「父さんな、再婚しようと考えてるんだ。相手は清水美緒さん、そして息子のカガミ君だ」 自分と父だけの空間にそっと姿を現した二人がいた。客室で俺がリビングに来るのを待っていたようだった。何の前触れもなく、唐突に告げられる現実に、言葉を失いそうになっている。「お前に話そうとしても、なかなか会話してくれなかっただろう。それなら対面式で紹介して仲良くなってもらうのが一番だと思ってな」 柔らかな表情で父の言葉の刺をなくしていくような優しい雰囲気を持つ女性が目の前にいる。急に現れた母親になろうとしている存在に違和感を抱きながらも、近づいていく。「よろしくな、兄さん」 母親を庇うような形で彼女と僕の間に立ち尽くす男の人が出てきた。優しそうな言葉遣いだが、どうしてだか威圧感を放っている。 それが俺とカガミの出会いだった。どうせこいつも離れていくに違いないと思っていたあの日の自分が懐かしく感じる。あれから三年の月日が経ち、どうにか美緒さんの事も母さんと呼べるようになってきた。父は再婚をすると、すぐに単身赴任で地方へ行ってしまった。有無を言わさない父の態度を思い出すと、今でもムカついてしまう。「レイト〜、ご機嫌斜めかな?」 初対面が最悪だった俺とカガミは、まるで昔から知っている親友のような関係になっている。形上は兄弟なのだが、年齢が近いのもあったのだろう。凄く懐いている。「抱きつくなって……朝か
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