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last update Tanggal publikasi: 2025-12-01 15:34:29

「いらっしゃいませー」

 コンビニ店員のマニュアル通りの声と、明るすぎる照明がまぶしい。私は迷わず弁当コーナーへ直行した。棚には、売れ残った商品が寂しげに並んでいる。

「……あった」

 私の狙いは彩り豊かなパスタでも、おしゃれなサラダボウルでもない。賞味期限が迫り、黄色い値引きシールが貼られた幕の内弁当だ。『30%引き』。このシールの輝きだけが、今の私を癒やしてくれる。

 手に取った弁当はずっしりと重い。 煮物、揚げ物、焼き魚。そこに華やかさやおしゃれさはない。 徹底的に茶色い。

 実を言うと、これくらいのおかずなら自分でも作れる。 なんなら、ここにある弁当より美味しく作る自信だってある。 私の実家は定食屋だし、4人きょうだいの長女として弟と妹たちの胃袋を支えてきた料理スキルはあるのだ。

 でも自分のためだけにキッチンに立つ気力は、1ミリも湧いてこない。

「誰か」のためなら手間暇かけて出汁も取るけれど、「私」のためだけに火を使うなんて、なんだか申し訳ない気がしてしまう。

 脇役のエネルギー補給に、手作り料理なんて贅沢だ。今の私には、この冷えた揚げ物がお似合いなのだ。

 隣には、鮮やかな赤や緑の野菜が入った「1/2日分の野菜が摂れるパスタ」が定価で並んでいる。 一瞬迷うが、私の手は自然と安い方を選んでいた。

 ついでにアルコールコーナーへ。ここでも選ぶのは、一番安い糖質オフの発泡酒だ。健康に気を使っているわけではない。単に安いからだ。安くて酔えれば、宅飲みのお酒はそれでいい。

 レジで無機質に会計を済ませ、店を出る。夜風が冷たい。ビニール袋の持ち手が、疲れた指に食い込んだ。

 ふと、視線を感じて顔を上げた。駅前の巨大な街頭ビジョンがキラキラと輝かしい光を放っている。そこに、この世のものとは思えないほど整った顔が映し出されていた。

『Noix(ノア)ニューシングル、本日発売』

 綺更津(きさらづ)レン。アイドルグループ『Noix』の不動のセンターだ。

「顔面国宝」「氷の絶対王者」「生きる彫刻」。 数々の異名を持つ彼は、画面の中で完璧な微笑みを浮かべていた。

 Noix(ノア)は3人組のアイドルグループ。

 センターのレン、サイドを固めるのはミステリアスな魅力のセナと、弟キャラで元気いっぱいのハル。

 それぞれに人気のあるメンバーだったが、私は断然、レン様派だった。

「……っ、尊い……」

 思わず、呻くような声が漏れる。 語彙力が死滅して、それ以外の感想が出てこない。

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  • 塩対応の国宝級アイドルは、私の手料理がないと生きていけないらしい   207

     それから数日後の午後のこと。  ペントハウスの広大なリビングには温かい日差しが差し込んで、平穏な時間が流れていた。  私はキッチンで夕食の仕込みをしながら、リビングのソファでスマートフォンを耳に当てているセナさんの様子をうかがっていた。「……ええ、はい。承知いたしました。……ええ、誠に光栄なことです。スケジュールにつきましては、追って担当の者から調整のご連絡をさせていただきます。……はい、本日はわざわざのお電話、ありがとうございました。失礼いたします」 セナさんが丁寧な口調で通話を終えて、スマートフォンをテーブルに置いた。 彼は中指で眼鏡のブリッジをスッと押し上げる。  キッチンにいる私、床でブロック遊びをしている伊織と茉莉、さらには向かいのソファで寝転がっているハルくんと、台本を読んでいるレンくんの全員を見渡した。「今の電話は、白石監督ご本人からです」 セナさんのその言葉に、リビングの空気がピンと張り詰める。「先日行われた次期大型ドラマの子役オーディションの結果が出ました。……伊織、茉莉」 セナさんが静かな声で双子の名前を呼ぶ。  双子はブロックの手を止めて、不思議そうに首を傾げた。  そんな彼らに向かって、セナさんは滅多に見せない温かさを帯びた笑みを浮かべた。「おめでとうございます。白石監督直々の熱烈な指名により、あなたたち2人が今回のドラマのメイン子役の座を見事に勝ち取りました」 数秒の沈黙の後。「うおおおおおっ! やったああああっ! すっげえええええっ!」 真っ先に叫び声を上げて飛び起きたのは、ハルくんだった。  彼はソファから飛び降りると、伊織と茉莉の元へ駆け寄って両腕でガバッと抱き上げた。「お前ら最高だよ! あの超気難しいって有名な白石監督に指名されるなんて、天才すぎだろ!」「きゃははっ! ハルお兄ちゃん、ぐるぐるしてー!」「やったー! お仕事きまったの?」 訳も分からず喜ぶ双子を抱えたまま、ハルくんがリビングをぐるぐると回り始める。

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     6歳の男の子とは思えない、生真面目で理屈っぽい言葉だった。  母親から日頃から刷り込まれている言葉を、そのままなぞっているかのようだった。「うん……そうだよね。ごめんなさい、お兄ちゃん」 美桜ちゃんはしょんぼりと肩を落とす。  膝の上に置いた自分の小さな手をギュッと握りしめた。  そうして再び感情を押し殺したような、完璧な「子役の顔」へと戻っていった。 私はそのやり取りを見て、胸の奥がチクリと痛むのを感じた。 あの子たちは5歳や6歳にして、どれほどのプレッシャーと我慢を強いられているのだろう。  大人の期待に応えるために、子供らしい欲求や無邪気さを全て押し殺して、あの完璧な仮面を被っている。 それは本当にあの子たちの望みなのだろうか?  美咲さんは親のエゴを押し付けているだけではないのか?  そんな疑問が湧いた。 やがてスタッフが名前を呼ぶ。  彼らはオーディション会場の方へ消えた。 一方で私の目の前では。「ママ! このクッキー、もう一個食べてもいい?」「だめよ、茉莉。お腹いっぱいになっちゃったら、オーディションでお返事できなくなるでしょう」「えー! じゃあ、終わったらお家でクッキー焼いてくれる? クマさんとウサギさんの!」 今度は伊織が声を上げる。「ふふっ、ええ、もちろん。ご褒美にたくさん焼こうね」「やったー! 伊織、がんばろうね!」「うん! がんばる!」「パパといっしょに、ドラマ出るんだもんね!」 伊織と茉莉は、ニコニコと満面の笑みを浮かべていた。 どんなにアウェイな環境でも、どんなに悪意を向けられても、決して自分たちのペースを崩さない。  彼らの心臓には毛が生えているどころか、分厚い鋼鉄の鎧でもまとっているのではないかと思うほどの度胸だ。(頼もしいなぁ……) 私はありのままの「子供らしさ」を失わない2人の姿に、深い安堵と誇らしさを感じていた。  大

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