ログイン凛が微笑んだ。聖天は、世界が輝きを増したように感じた。......1ヶ月にわたるヨーロッパ旅行が終わっても、凛はまだ授賞式の夜を忘れられなかった。妊娠後期になるにつれ、体は重くなっていったが、それでも凛は毎日撮影の仕事に忙しく、充実した日々を送っていた。その間、朔の裁判も行われていたが、判決は弁護士の予想とほぼ同じだった。その日、テレビでニュースが流れていた。「綾辻朔死刑囚の死刑が、本日午前に執行され......」その時、梓には朔の最後の瞬間が見えた気がした。ちょうど凛の検診中だった梓は、一瞬、動きを止めてしまった。凛は梓の手を握り、優しく言った。「梓、これで本当に自由になっ
結婚式の後、聖天は凛と新婚旅行で海外に出かけた。ヨーロッパのカフェで休憩していると、弁護士から電話がかかってきた。「本日の公判は順調に進みました。このままいけば、あと1ヶ月で手続きが完了し、判決が下されるでしょう。綾辻さん、おそらく死刑は免れないかと。自首したあの『ウルフ』という男は、おそらく無期懲役、優奈さんに関しては......7、8年の懲役になると思われます」......弁護士は公判の様子を詳しく説明していたが、コーヒーを運んでくる凛の姿が目に入ると聖天は、「分かりました。残りは任せます」とだけ返事をした。凛も今日は公判の日だと覚えていたので、コーヒーをテーブルに置き自分も座
二人は微笑みながら見つめ合った。この光景に、参列者たちは皆、深く感動した。雪は涙を拭いながら呟く。「聖天が凛と結婚できたことは、もちろん聖天にとっての幸せなんだけど、私たちにとっても大きな喜びね......」ふと視線を向けると、慶吾もこっそりと涙を拭っているのが見えた。雪に見つめられたことに気づいたのか、慌てて手を止め、背筋をピンと伸ばす。雪は涙を拭うと、微笑んで言った。「もう誰もあなたのことなんて見ていないんだから、泣いたってどうってことないわよ」「泣いてなんかない。こんなめでたい日に、なぜ泣く必要があるんだ?」慶吾は鼻をすすり、真面目な顔で言った。「目にゴミが入っただけだ」雪は
真っ青な空には白い雲が浮かんでいる。昨日の夕方から、続々と招待客が島に到着し、別荘地にチェックインしていた。普段裕福な暮らしをしている彼らも、島の装飾に驚きを隠せなかった。島全体が美しく飾り付けられ、甘い雰囲気に包まれている。青と白を基調とした花々が桟橋から式場となる芝生まで敷き詰められていた。今までの霧島家はパーティーを開く際、仕事関係の人だけを招待していた。しかし今回は、雪が芸能界の重鎮たちを招待していた。それに、美雨も凛を応援するために多くの芸術家仲間を招待したのだった。招待客リストが完成した時、慶吾は思わず驚いた。「島が人で溢れかえってしまうんじゃないか?」すると輝が驚き
「来る途中慶吾と話したの。夏目家を出て、霧島家に嫁ぐという決断をしてくれたあなたを、私たちは絶対に裏切らないようにしよう、って。それに今、あなたは妊娠しているのよ。これから10ヶ月もの間、とても大変だと思うし、出産だって命懸けのことなの。だから、もし私たちにできることが少しでもあるのなら、何でもさせて欲しいなって思って」雪は凛の肩に手を置きながら言った。「もしあなたが断ったら、私たちは悲しいわ。あなたのために何かしたいの」ここまで言われたら、もう断ることなんかできないだろう。凛は少し考えてから頷いた。「ありがとうございます。お父さん、お母さん」慶吾夫妻はすぐに満面の笑みになった。「そう
笑いを堪える凛の声に、聖天はほっと胸を撫で下ろした。「何か良いことでもあったのか?」「うん」凛は手に持った妊娠検査の結果を見ながら、嬉しそうに言った。「そんなに私に会いたいんだったら、聖北病院まで来て」本来であれば、拘置所から聖北病院までは車で1時間ほどかかるのだが、期待に胸を膨らませた聖天は50分もかからずに到着した。車を停め、遠くから入口に立っている凛の姿を見つけた聖天は、すぐに車を降り、彼女に向かって大股で歩いて行った。凛は幸せそうな笑顔で、両手を広げ、聖天の胸に飛び込んだ。「私、妊娠したの」「なんだって?」聖天は驚き、凛の肩を掴んで少し突き放した。「もう一度言ってくれ」そ
朔のその言葉を聞いて、梓の心は沈み、思わず彼を横目で見てしまった。朔はそれに気づいたのか、唇の端にわずかな笑みを浮かべる。「なんだ?梓も興味があるのか?」「いいえ」梓は再び湖面に視線を戻し、冷たく言った。「優奈がこんなに早く捨て駒になるとは思わなかっただけ」「役に立たないものはゴミ箱に捨てるだけ」朔は呑気に言った。「梓、これが俺の教えだってことを忘れたのか?断捨離は人間関係にも使えるんだぞ」「まさか優奈の後ろについていたのが、綾辻社長だったとは!」恒夫は驚きの表情を浮かべた。「やっぱり!何で彼女が女一人で夏目グループを手の内に収められたんだろうって思ってたんですよ!」「結局使え
聖天は雫の保護に成功すると、張り詰めていた神経が一気に緩み、全身の力が抜けていくのを感じた。その時、人影が飛び込んできた。聖天は不意を突かれ、少しよろめいたが、すぐに体勢を立て直すと飛び込んできた華奢な体を抱きしめた。雨で濡れた服を通して、抱きしめた感触がよりリアルに伝わってくる。柔らかな香りが漂い、心を奪われた。聖天は腕に力を込め、震える彼女をまるで自分の体の一部のように抱きしめる。「俺を心配してくれたのか?」かすれた声で、聖天は優しく語りかけた。彼の首に埋めたその顔は、雨と涙が混ざり合ってぐちゃぐちゃになっている。聖天が無事に戻ってきた安堵感に加え、様々な感情が込み上げてき
会議室の外から優奈がドアノブに手をかけようとした瞬間、ちょうどドアが内側から開いた。そして、梓と目が合うと、なぜか妙な胸騒ぎを覚えた。「綾辻さん、煌は......」「ごめんなさい」梓は静かな口調で言う。長く生死を見てきた者ならではの淡々とした響きがそこにはあった。「彼の容体は、もうどうにもならないわ。私は神様じゃない、死人を生き返らせることなんてできないの。だから、早めに心の準備をしておいて」「そんな、嘘ですよね?」優奈は泣きながら梓の手を握りしめる。「お願いします。こんな簡単に諦めないでください。絶対に、何か方法があるはずです......だから、どうか......それに煌は目を覚
使える部屋は限られていたが、一番いい二部屋は聖天と凛に割り当てられた。残りの人たちも、各自部屋を割り当てられた。急遽空けた大教室には五人が一緒に寝泊まりし、撮影機材もそこに置かれることになった。彼らが忙しくしていると、何人もの子どもたちが、自分たちに何か手伝えることは無いかと聞いてきた。皆、その健気な姿に胸を打たれた。そうしてやっと落ち着くと、源治の案内で食堂へと向かった。食堂といっても、教室一つ分ぐらいの大きさで、厨房スペースを除けば、丸テーブルが三つしか置けなかった。ぎゅうぎゅう詰めになりながらも、皆でテーブルを囲むと、そこは活気に満ち溢れた。普段から食堂で食事を担当しているの