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第 512 話

Author: 一笠
社内審査会議は滞りなく終了し、会議室を後にする皆の顔には自信が満ち溢れていた。

その日の午後、PR動画は晴彦の手に渡り、地方観光課による最終審査へと進んだ。

結果の連絡を待つ間、凛は皆に休暇を与えることにした。

そして、定時になると、スタジオはすっかり空になった。

凛は晴彦から連絡を受け、少し話をしていたため、スタジオに残っていた最後の一人になった。

ドアを閉めた後、凛はいつものように自分の車へと向かい、ついでに買い物をして帰り、聖天に夕飯を作ってあげようと考えていた。

少し離れたところに、正義がしかめっ面で車から降りてくることには、全く気づいていなかった。

「凛」

声を聞き、振り返ると、正義
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