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第 848 話

Auteur: 一笠
凛は聖天の顔を両手で包み込み、ふっと微笑んでから、いたずらっぽく囁いた。

「もしかして、やきもち焼いてるの?

ただ、昔病気になった時のことを思い出したの。あなたがいなかったら、きっと煌と同じ運命を辿っていた。もし死ぬとしたら、あなたの目の前では絶対に死にたくないと思ってた......」

言葉が終わらないうちに、聖天は凛の手をぎゅっと握った。

「死なせないと約束したはずだ」

すぐ目の前にある切れ長の瞳に光が灯り、その奥に潜む緊張がはっきりと浮かび上がった。

あれから随分時間が経ち、すっかり回復しているというのに、聖天はこんな話を聞くたびに胸が締め付けられる。

胸が高鳴り、凛は顔を上げて軽く聖天の
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