共有

第 212 話

作者: 江上開花
浮気の女を好む男はいない。静樹はなおさらだ。

静樹の生い立ちと経験から、精神から肉体の不貞を許容できない。長年、彼の周りに女性がいなかったことからも、彼が男女関係において潔癖症なのだ。

将臣は、亜夕美が静樹に抱きつくのを指をくわえて見ているつもりはなかった。彼は静樹の心に疑いの種を植え付け、その種が根を下ろせば、亜夕美は静樹から一途で純粋な愛情を永遠に得られなくなるだろう。

静樹はもちろん、自分の女が他の男ともつれ合うのを許容するはずがない。

静樹だけでなく、陽太でさえ聞いていられず、拳を握りしめ、将臣の得意げで傲慢な顔を殴りつけてやりたい衝動に駆られた。

しかし、陽太が動こうとした瞬間、静樹
この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード
ロックされたチャプター

最新チャプター

  • 夫と子を捨てた女、離婚後に世界の頂点に立つ   第 534 話

    年越しのご馳走は楠木が腕を振るった。亜夕美は手伝おうとしたが、皆に止められた。結局、彼女は横に座って指示を出す係に回された。リビングには暖房が効いており、静樹はシャツ一枚にピンクのエプロンという姿で、カウンターチェアに座りながら、慣れない手つきで、不器用にお正月用のあん餅を包んでいた。一つ包むたびに、お餅が薄くなりすぎてどこかが破れていく。亜夕美が隣の碧唯を見ると、そちらも似たような惨状だ。どうやらこの父娘には料理の才能がないらしい。だが、根気だけはあるようで、なんとかお餅の形らしきものをひねり出している。結局、最後は亜夕美が見かねて手を出し、残りの餡をすべて綺麗に包み終えた。「

  • 夫と子を捨てた女、離婚後に世界の頂点に立つ   第 533 話

    亜夕美は病院で二日間治療を受け、体調が回復すると自宅へと戻った。翌日は大晦日だ。楠木がムーンライトベイヒルズに使用人たちを呼び集め、屋敷の飾り付けをさせていた。家の中は活気に溢れ、賑やかな声が響いている。亜夕美は温かい飲み物の入ったマグカップを手に、掃き出し窓の前に座っていた。出入りする使用人たちが、家の内外を華やかにお正月らしく飾り立てていくのを眺めていた。碧唯は、もこもこした真っ赤なダウンジャケットに、動物模した帽子を被り、真新しいしめ飾りを両手に抱えて走り回っていた。整った顔立ちに、きびきびとした愛らしい動き。雪の中を駆ける小さな妖精のように軽やかだった。鼻先や目尻は寒さで赤くな

  • 夫と子を捨てた女、離婚後に世界の頂点に立つ   第 532 話

    新堂家は常に瑠花が仕切っている。暉記が不在である以上、瑠花の決定に異を唱える者は誰もいない。宗介は何か言いたげに口を開きかけたが、結局、最後まで何も言うことはなかった。使用人が路加のために部屋を用意し、彼女を部屋に案内すると、退出していった。落ちぶれたとはいえ、かつては令嬢として育った路加の所作には、独特の気品が残っていた。路加の姿が二階の角から消えた途端、天万願が飛び出してきて、焦った声で言った。「瑠花姉、これはどう考えてもおかしいよ!もう一度調査すべきだ。あんな女が新堂家の人間なわけない!」瑠花は彼を落ち着かせ、宗介に問いかけた。「パパ、この件をどう思う?」宗介は手元の鑑定書を凝

  • 夫と子を捨てた女、離婚後に世界の頂点に立つ   第 531 話

    亜夕美は通話を終えると、静樹の方に視線を向けた。陽太と聡史は機転を利かせて病室を後にした。静樹が尋ねた。「何かあったのか?」亜夕美は眉を深くひそめ、冷たい口調で言った。「清水路加が、新堂家をターゲットにしたみたい」新堂家と自分に血縁関係がないのは当然だが、路加に血縁があるはずなど万に一つもあり得ない。路加が生まれも育ちも清水家であることは、調べればすぐにわかる。今さら新堂家の子を名乗るなど、方法は一つしかない。何らかの手段で新堂家の子供のDNAを入手したのだ。あるいは何らかの方法で親子鑑定の結果を改ざんしたのかもしれない。だが、改ざんは考えにくい。たとえ路加が鑑定書を持って現

  • 夫と子を捨てた女、離婚後に世界の頂点に立つ   第 530 話

    亜夕美は長い時間をかけて静樹をなだめ、これからは安静に過ごすと約束して、ようやく彼の機嫌を直させた。静樹の指示で用意された消化に良い粥を食べていると、陽太と共に聡史が入ってきた。二人の熱心な見舞いが続いたが、やがて静樹が煩わしそうに「本題に入れ」と命じた。陽太はちらりと亜夕美を見て、静樹に尋ねた。「ここで話しても?」静樹は短く頷いた。亜夕美は不思議そうに粥を食べる手を緩め、三人を交互に見た。「何の話?」「亜夕美さん、あなたが昨日乗っていた車は細工されていました。意図的にブレーキが効かないようにされていたんです。つまり、撮影チームの中にあなたを殺そうとした人間がいます」亜夕美は驚い

  • 夫と子を捨てた女、離婚後に世界の頂点に立つ   第 529 話

    路加は人の顔色を伺うことに長けている。博人の揺らぎを察した彼女は、歩み寄って手を握った。優しく宥めた。「この件は全て私のせいよ。私が一瞬の情けで脩太を亜夕美に会わせなければ、将臣を怒らせることもなかったし、あなたが私のために腹を立て、危険を冒して亜夕美を懲らしめようともしなかったでしょう」長年、路加に思いを寄せてきた博人にとって、その温もりは何よりの慰めだった。不安は少しずつ消えていった。「お前のせいじゃない。すべてはあの女がしぶといせいだ。それにしても、本当に運の強い女だな」刑務所での一年を耐え抜き、人生が終わったかと思えば静樹という後ろ盾を得た。まさに「悪運の強い女」だ。博人は懸念

  • 夫と子を捨てた女、離婚後に世界の頂点に立つ   第 103 話

    将臣の拳はすでに振り下ろされていて、もう引き返せる状態ではなかった。亜夕美に止められたからといって、やめるつもりもなかった。むしろ、余計に苛立ちが募っていた。だからこそ、その拳は一切の加減なしで、静樹の顔面に叩き込まれた。静樹の左頬はたちまち腫れ上がり、唇の端も切れて、鮮血が流れ出す。その血は彼の蒼白な顔に滴り、ひときわ目を引く痛々しさを放っている。その場にいた由紀子と菜実が同時に駆け寄り、路加も席から立ち上がった。だが、誰よりも早く動いたのは亜夕美だった。将臣が手を出したその瞬間、亜夕美はすでに二人の間に割って入っていた。手に持っていたコップはいつの間にか放り出され、無意識のうちに

  • 夫と子を捨てた女、離婚後に世界の頂点に立つ   第 105 話

    亜夕美はため息をつくと、傍らにあったアイスパックを手に取り、しゃがんで静樹の顔の横にそっと当てた。「佐武社長、謝るべきは私のほうです。彼があなたにあんな手荒な真似をするなんて思いもしませんでした。もし、もっと早く知っていたら......」「それは彼が私に悪いことをしただけだ。森野さんには関係ないことだ」静樹は彼女の自分を責めるのを遮った。「君は他人の過ちの責任を負う必要はない」亜夕美は、ふと彼の薄茶色の瞳と視線が合い、その優しい眼差しに、一瞬、深く愛されているような錯覚を覚えた。彼女はハッと我に返ると、視線を彼の口元に移し、何気なく言った。「口の端が切れてますね。しばらくはちゃんとしたお

  • 夫と子を捨てた女、離婚後に世界の頂点に立つ   第 107 話

    市中心部のとある高級マンションの最上階。路加はゆっくりと向かいの博人に酒を注いだ。「博人のおかげよ。そうでなければ、将臣の怒りをどう晴らしてあげたらいいか分からなかったわ」博人はちょうど亜夕美との電話を終えたばかりで、その言葉を聞くと、さして気にせず手を振った。「将臣は俺の兄弟でもある。これくらい、お安い御用さ」路加はため息をつき、眉間に憂いを浮かべた。「このことだけは絶対に将臣には知られないようにして。彼の性格は私がよく知っているから。亜夕美を嫌っていても、脩太の実の母親だから、いくら怒っても亜夕美に何かすることはないわ」亜夕美のことに触れると、博人の顔色は悪くなった。「心配するな。

  • 夫と子を捨てた女、離婚後に世界の頂点に立つ   第 84 話

    その瞬間、現場全体の空気が一気に奇妙に静まり返った。亜夕美は、まるで自分が一石を投じて波紋を起こしたことなど知らないかのように、にこやかに二人に向かって微笑むと、さわやかに立ち去った。「失礼します、撮影に行かせていただきますね」最初から最後まで、亜夕美の態度は丁寧で落ち着いていて、非の打ち所がなかった。路加も将臣も、呆然とした。一人は、亜夕美が以前のように怒り散らさなかったことに驚き、もう一人は、路加のように将臣が道を整えてくれなかったことを遠回しに皮肉っているのではと感じていた。明歌はスマホを取り出し、将臣と路加の微妙な表情をこっそり撮影して由紀子に送る。心の中では大笑いしている。こん

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status