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第1204話

作者: 夜月 アヤメ
しかも、その登場人物の名前は―ひとりは山田安奈、もうひとりは山田侑子。そして小説の中で起きている出来事も、ふたりが過去にやったこととまるで同じだった。

―これ、私たちのこと?

どう考えても偶然とは思えない一致に、ふたりの背中を冷たいものが這い上がる。

「侑子姉も分かったでしょ?」安奈が低い声で言った。「......どうして、こんなことに?」

「この作者......誰?」侑子はすぐに作者プロフィールを確認し、他に書いている作品も調べた。

だが、どれもごく普通の小説ばかり。特に目立つようなものではない。

しかし、今この瞬間、ふたりの心はパニック寸前だった。

まさか、自分たちがやったことが、そのまま小説に書かれているなんて。しかもその作品は、安奈が長く読んでいた大好きな作品の一つだった。

しかも―「安奈」と「侑子」という名前のキャラが出てきたのは、つい最近のことだった。

ふたりは焦りながらも夜更けまで調べ続け、ネット上で作者の情報を探し出そうとした。

だが、いくら検索しても、何も出てこなかった。

その作者は、執筆しているプラットフォーム以外では、まったく姿を現していない。SNSアカウントもなく、個人情報も見当たらない。

侑子と安奈は、完全に追い詰められていた。

この小説の内容は、あまりにも「リアルすぎる」。偶然にしては出来すぎている。あり得ない。

それに、仮に出来事だけならまだしも、名前まで一緒だなんて。

そんな中、侑子はひそかに新しいアカウントを作成し、作者のページにコメントを投稿した。

読者のフリを装って、わざと自然な文面にしたのだ。

【この作品、ずっと読んでます!とても面白いです!でも、最近の内容がちょっと気になります......どうして急にこんな話になったんですか?安奈さんと侑子さんって、何か特別な意味があるんですか?ぜひ教えてください!】

五つ星をつけ、コメントを送信したあと、侑子の手のひらはじっとりと汗ばんでいた。

ベッドに横になっても心臓の鼓動は速くなるばかりで、スマホを握りしめたまま何度も画面を開いては、コメント欄を確認した。

けれど、空が白んできても、作者からの返信はなかった。

この件があまりにも不自然すぎて、侑子の心はざわついていた。

「読者」を装ってコメントを投稿したものの、内心は不安でいっぱいだった。しか
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