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第1467話

Author: 夜月 アヤメ
数日後。

修は若子のベッドのそばに座っていた。

彼は静かにリンゴの皮をむいている。

「修、この数日ずっと病院で看病してくれて、疲れたでしょ?帰って休んでよ」

ここ何日も、修は毎晩ここで付き添っていた。

卓実は小学校に通い、初希も幼稚園に行くようになった。

修は初希のために幼稚園を探してやり、子どもたちをずっと病院にいさせるわけにはいかなかった。

「大丈夫だよ、俺はここにいたいから」

「修、五年ぶりだね。あなた、前より変わった気がする」

三十代に入った修は、以前よりずっと大人びて見えた。

修は口元を少しほころばせる。「老けたってこと?」

「違うよ、前よりカッコよくなった」

若子は正直にそう言った。

修はリンゴを食べやすく切って、若子の口元に差し出す。「ほら、少しフルーツを食べて」

若子は口を開けて、やわらかいリンゴを噛みしめた。甘い味とともに、鼻の奥がツンとした。

結局、最後まで自分のそばにいてくれるのは修だった。

「若子、来月で二十八歳の誕生日だろ。何か欲しいものある?」

「すっかり忘れてた。誕生日なんてあまり気にしたことないし......修、私は何もいらない。こうしてあなたと子どもたちに会えただけで、もう十分だよ」

修はそっと彼女の頬を撫でながら言った。「まったく、どうしたらいいのかわからないよ。本当はすごく腹が立って、もう放っておきたいって思うこともあった。でも......そんなの、嘘だって自分がいちばんわかってる」

若子は修の手を握った。

「修、ごめんね。あなたが私を責めるのは当然だよ。私には何も言い訳できない。ただ、まさかこんなふうに病気になって、またあなたに迷惑をかけるなんて......」

「もし、あの時お前が出ていかなければ、病気にもならなかったかもしれない。初希が言ってたけど、お前はずっと働き詰めだったって。きっと無理をしすぎたんだ。SKグループの株だって持ってるし、使いきれないくらいお金もあるのに、どうしてそんなに頑張ったんだ?俺が渡したお金だって、どうして使わなかった?」

修はときどき、彼女の意地っ張りさと頑固さに腹が立つこともあった。

「修、私はずっとあなたのお金に頼って生きるわけにはいかないでしょ。あなたからもらったものだけで、もう十分すぎるくらいなの」

修はため息をつきながら、「本当に、お前はバ
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Comments (2)
goodnovel comment avatar
momo
内緒にしてても いずれ傷跡でバレるのでは…
goodnovel comment avatar
シマエナガlove
この話あるショートドラマに似てきた 修殺すんですか? 肝臓移植中に亡くなるパターン それだけは止めて頂きたい 亡くなるなら若子でしょ 修、そこまでやっても 感謝されないし また捨てられるんだよ 自分犠牲にするほどの 価値ある女ですか? 卓実の事も考えて 修が気持ち変えて欲しい
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