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第931話

Author: 夜月 アヤメ
修は、アメリカ現地の組織に協力を仰いでいた。

ここで若子を探すには、どうしても彼らの力が必要だった。

現地に詳しく、豊富なリソースや地下のコネクションを持ち、広範な情報網を使って様々な情報を集めることができる。

SKグループもアメリカで大規模なビジネスを展開しており、各地の勢力と取引があった。

その関係を通じて、ニューヨーク中の監視映像を調べあげた。

たしかに若子が運転していた車は確認できた。だが―

その車がどこに向かったのか、最終的な目的地までは追えなかった。

ニューヨークのカメラ網は完全じゃない。

商業エリア、政府機関、重要施設や交通の要所などにはカメラが設置されているが、住宅街や人口の少ない郊外では設置率が極端に低く、場合によっては全くない場所もある。

映像を頼りに可能性のある経路を一つずつ洗い出し、あらゆる手を尽くしていた。

確実に言えることは―若子は失踪した、という事実だった。

電話も繋がらない。

彼女が乗っていた車も消えていた。

異国の地で、ひとりの女性が忽然と姿を消す。

それがどれほど恐ろしいことか。

どんな目に遭っているか、想像すらしたくない。

修は、眠ることもなく、ただひたすらに若子を探し続けていた。

アメリカには、人の気配がまったくない土地が無数にある。

広大な砂漠も。

誰かに殺され、砂漠に埋められれば―きっと、誰にも見つけられない。

......そんなこと、あってたまるか。

若子がいなくなったら、自分も生きていけない。

今、彼らは人の気配がほとんどない砂漠地帯の一角で捜索を行っていた。

若子の走行ルートから推測すれば、彼女がこのあたりに来ている可能性は高い。

ただし、それも確実ではない。

ここはあくまで「候補のひとつ」にすぎない。

だが、それでも―ひとつずつ、確かめていくしかなかった。

捜索隊は特殊な機器を使い、砂漠の地表を調べていた。

地中に何か不審なものが埋まっていないか、細かく確認していく。

修は、その広大な砂漠の中をさまよっていた。

まるで魂の抜けた亡霊のように、苦しげな眼差しをさまよわせながら―

やせ細った体は風化した岩のように荒れ、乾燥しきった肌は枯れ葉のようにひび割れていた。

唇には血がにじみ、よろよろと
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シマエナガlove
修がたとえ探しても 逆恨みされて罵倒されるだけ 自分勝手に修に会いに来て 事件に遭遇したのを修に責任転換してる いずれ若子に殺される
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