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第3話

Author: 笑い竹
私はひとりで、結婚前に買った自分のマンションへ戻り、落ち着いた。

私名義の資産は多くなく、このマンションだけが唯一価値のあるものだ。

本当は、これを晴実名義に移すつもりだった。母親が息子にしてやれる一番確かな愛だと思っていたからだ。

しかし、当時麻沙美のひと言で、すべてが変わった。

「こんな古くてボロい家、晴実が住めるわけないでしょう?それに周防家の若様にふさわしくないわ」

そう言われると、贅沢な生活に慣れていた晴実もすっかり同調し、駄々をこねて私のマンションを拒絶した。

「そんなボロい家なんて嫌だ!パパの別荘に住むんだ!」

そのわがままな姿を見た瞬間、私は胸が冷え切った。

敬雄は慌てて息子を抱きしめ、優しく宥めた。

「泣かないで、そんな家に住ませたりしないから」

そして私を鋭くにらみ、叱りつけた。

「玉美、どういうつもりだ?晴実にそんな家に住めって?

晴実までお前みたいに冴えない人間にしたいのか!」

私の母としての愛が、どうして彼らの口ではこんな悪意に変わるのか分からなかった。

私は言いたいことをすべて飲み込み、やめると笑って言った。

そのときの私は、まだ子どもだから仕方ないと自分に言い聞かせていた。

しかし晴実は本当に母の私を愛しているなら、どうしてこんなに傷つく言葉が言えるのだろう。

思い返せば、兆しはずっとあった。ただ私が気づくのが遅かっただけだった。

突然あらゆる家事がなくなり、私は自分だけのたっぷりとした時間を手に入れた。

だから、私はまず自分の好きな料理を、ゆっくりと作った。

そして、ずっと観たかったコンサートを鑑賞した。

それらは、あの家では決して味わえなかったものだった。

敬雄は辛いものが好きで、晴実は海鮮アレルギーだ。

私は辛いものが食べられず、海鮮が大好きなのだ。

だから私はいつも二人の好みに合わせ、自分の好みを完全に後回しにしていた。

まるで、家族全員の気持ちは気にするのに、自分の気持ちだけ忘れていたようだった。

そのとき、急な着信音が私の思考を遮った。

画面を見ると、敬雄からだった。

ブロックしようか迷ったが、彼の性格を思えば、出ないと次もかかってくる。早いうちに関係を断ったほうがいいと思った。

「何の用?」

数秒の沈黙ののち、彼はしぶしぶ口を開いた。

「先月オーダーしたネクタイ、どこに置いた?」

私は少し考えて答えた。「クローゼットの下から二番目の引き出し」

ネクタイを見つけたのか、彼の声は明らかに機嫌が良くなった。

「家の物の場所を分かってるのはお前だけだから、仕方なく電話したんだ」

私は黙って電話を切ろうとした。

ところが敬雄は続けた。

「もう気が済んだだろ。さっさと帰ってこい。俺にも我慢の限界がある。

お前がいないせいで、晴実は今日も使用人の作った飯が気に入らなくて、ほとんど食べてない。晴実が可哀想だと思わないのか?

それに……」

彼が言い終える前に、私は冷たく遮った。

「敬雄、今夜中、家の大事な物がどこにあるか、全部使用人に伝えておくわ。

これからは二度と私に電話しないで。晴実のことも、私にはもう関係ない。知りたくもないわ。

それから、離婚は冗談じゃない。私たちはもう終わったの」
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