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第11話
Pinakabagong kabanata
失われた愛のかけら 第26話
【なんて最低な男なの？女の部下と不倫して、挙句に死に追いやるなんて人間のすることじゃない】【そりゃあ奥さんも逃げ出すよ。あんなクズと一緒にいたら、逃げるどころか殺されちゃうって】【確かに浮気相手も悪いけど、一番悪いのはこの男だよ。部下を死なせておきながら外では愛妻家ぶってるとか、地獄に落ちればいいのに】……ネットでは拓真への非難が一気に広がった。 会社製品の不買運動も始まる。【みんな、あの会社の車は買わないで！ボイコットしよう、こんな人間の会社は潰れて当然よ】【絶対に買わない。こいつ、昔「ピュアハート」とか言ってたけど、気持ち悪いわ】【昔、「ピュアハート」なんて買った自分が恥ずかしい。こんな人間が本物の愛を語る資格なんてないよね】一般の人々だけでなく、会社の社員たちも抗議に加わった。 「香坂社長は労働法を守らず、社員の休みも奪っている」との告発が続出。世間の風当たりは強まり、拓真は「社会の敵」として追い詰められていく。会社の売上は急激に落ち込み、商品の在庫が大量に残るようになった。 株価も連日のストップ安で、ついに取引停止に追い込まれる。拓真はあらゆる手段で事態の収拾を図ったが、すべて無駄に終わった。それでも何とか半年間会社を維持し続けたが、ついに倒産が決定する。全財産を整理し終えたあと、拓真は人々の前から完全に姿を消した。誰も、彼がどこへ行ったのか知らなかった。ある日、拓真が住んでいた別荘が火事になり、焼け跡からひとつの遺体が運び出された。警察は「自殺」と発表した。拓真の焼け焦げた手には、瑠璃の夫婦御守りの破片がぎゅっと握りしめられていた。――すべてが終わったのだ。……江乃市、朝。まだ窓には結婚祝いのガーランドが飾られたまま、室内には、新婚らしい甘い雰囲気が広がっている。沙羅は目覚めて、のんびりとまぶたをこすった。桐生が寝室に入ってきて、沙羅を優しく抱きしめる。「お寝坊さん、朝ごはんできてるよ。仕事に遅れちゃうぞ」「もう、智也は本当に優しいね」沙羅は今の暮らしに大満足だった。安定した仕事、優しい夫、理解ある家族。朝食の席で、桐生がスマホを見ながらため息をつく。「そういえば、前に君のこと追いかけてた香坂って人、亡くなったんだってさ。
失われた愛のかけら 第25話
拓真は、ふいに沙羅が去る前に残した言葉を思い出した。「もし、あなたがもう私を愛していないなら、あなたのもとを完全に離れるわ」彼はこれまで、その言葉を甘えや駆け引きだと思ってきた。 女というものは、こういう絶縁めいたセリフで、自分の存在の大きさを恋人にアピールしたがるものだと。 実際、そんなことを本当に実行する人は少ない。 彼のような立場の男なら、誰しも外に女の一人や二人いるのが当たり前。 大抵の妻は表向き何事もなく暮らしている。だが、拓真は忘れていた。沙羅は決してあの手の妻ではなかった。 彼女が大事にしていたのは、贅沢な生活ではなく、ただ「愛」そのものだった。彼が愛を手放したその瞬間、沙羅は本当に消えてしまった。 沙羅は物理的にも精神的にも、彼のもとから完全に離れてしまった。江乃市は桐生家の影響力が強く、沙羅は桐生家に守られている。 拓真は、もう彼女に近づくことさえできなかった。彼はしぶしぶ帰路につく。 空っぽの部屋は、氷のように冷えきっていた。拓真は震えながら、ギフトボックスから瑠璃の夫婦御守りと沙羅の最後の手紙を取り出した。 壊れた御守りは、もう光を失っていた。 手紙の文字も、いつの間にか滲んで読めなくなっている。拓真は片手に御守り、片手に手紙を握りしめる。ようやく、沙羅が言っていた「もう私を探さないで」という言葉の本当の意味がわかった気がした。――たとえ見つけたところで、もう何も取り戻せやしない。 私はもう、あの頃の私じゃない。 瑠璃もまた、かつての瑠璃ではない。 過去はすべて消え去った。「愛する人と別れる苦しみも、憎い人と会うつらさも、すべてこの世は幻です。結局、目の前にあるのは何もない空虚な世界です」あの僧侶が告げた結末―― ようやく今、全てが腑に落ちた。この一年、拓真を支えていたのは「沙羅探し」という執念だった。 どれだけ想いが募っても、「きっと彼女を見つけて、謝るチャンスはある」と信じていた。 自分はほんの少し道を踏み外しただけ、許してもらえるはずだと思い込んでいた。だが、失ったものはもう二度と戻らない。 沙羅に謝る機会も、もう永遠に失われてしまった。 ――もう、「沙羅」と呼ぶことさえ許されない
失われた愛のかけら 第24話
ほどなくして警察がやってきた。 事情を詳しく聞いた警察官が、拓真に尋ねる。「香坂さん、あなたは望月紗希さんがあなたの妻、沙羅さんだとおっしゃっていますが、その証拠はありますか？」拓真は眉をひそめた。「証拠も何も……この写真を見てください。彼女は僕の妻と瓜二つなんです。目尻のほくろまで同じなんですよ」すると桐生が冷ややかに笑った。「そんなの、この世には似た人間がいくらでもいますよ。同じ顔だからって、全員が同一人物なわけないでしょう？」警察官も冷静に続ける。「写真だけでは同一人物とは断定できません。他に証拠はありますか？たとえば公的な証明書や履歴など……」拓真は言葉を失った。沙羅が失踪した当時、あらゆる方法で彼女の身元を調べたが、何も見つからなかった。 沙羅であることを証明できる記録や書類は、すべて跡形もなく消えていたのだ。今となっては、望月紗希が沙羅であることを証明する手立てがまったくない。警察は今度は沙羅に尋ねた。「望月さん、念のため身分証明書を拝見できますか？」沙羅はすべての証明書を警察の前に並べた。「これが私の出生証明書、これが卒業証書、そしてこれは私の身分証明書と職員証です」何一つ抜けのない立派な証明書を、警察は一つ一つ確認する。しばらくして、警察官が拓真に言った。「香坂さん、この方は間違いなく望月紗希さんです。書類も完璧ですし、あなたは人違いをされています」拓真はまだ信じられない思いで、書類を手に取り沙羅を見つめた。――この人は、どう見ても沙羅なのに。どうして「望月紗希」なんて他人の顔をしているんだ？必死で訴えかける。「これらの証明書、全部偽造じゃないのか？君は僕と再会したくないから、自分のことまで全部捨てたんじゃないのか？」沙羅は冷たく答えた。「香坂さん、あなたの言っていることが本当に分かりません。私はずっと望月紗希ですし、沙羅という名前の人間じゃありません。もしこれ以上つきまとうなら、今度は私から警察に被害届を出します」警察官も拓真に注意する。「香坂さん、お気持ちは分かりますが、無理に人違いだと決めつけてしまうと、相手の方にご迷惑です。どうか冷静になってください」拓真は、沙羅と桐生が並んで会場を去っていくのを、ただ呆然と見送るしかなかった。
失われた愛のかけら 第23話
「どなたですか？私は望月紗希です。沙羅ではありません。お電話を間違えですよ」そばで桐生が「誰から？」と聞いた。「さあ……たぶん間違い電話だと思う」そのまま拓真が何か言いかけたところで、電話は切れた。もう一度かけ直してきたが、すぐに切られた。 拓真は仕方なく何通もメッセージを送る。【沙羅、もう怒らないでくれないか？帰ってきてほしい。全部僕が悪かった】【もう二度と傷つけない。毎日そばにいるから】【理々はもう解雇した。これからは彼女も現れない。どうかもう一度だけチャンスをくれ。君なしじゃ生きていけないんだ】だが、いくらメッセージを送っても、返事はまったくなかった。沙羅は届き続けるメッセージを不思議そうに眺めていた。キッチンで料理をしている桐生にスマホを見せる。「智也、なんだかこの人、しつこいの。電話してきたかと思えば、今度はメッセージばっかり」桐生はスマホの画面を見て、しばらく考えた。「もしかして、その人、自分の妻の沙羅のことだと勘違いしてるんじゃない？全国で奥さん探してたっていう、有名な香坂社長でしょ？気にしなくていいよ。きっと誰かが君の写真をネットに載せたんだ。もしまたしつこくされたら、警察に相談しよう」沙羅は素直にうなずき、そっと桐生の肩に身を寄せた。「智也、明日は私たちの婚約式だよ。なんだかまだドキドキしちゃう」桐生は沙羅を抱きしめ、やさしくささやいた。「どうしたの？僕がこれから君を大事にしないかもって不安？」「ううん、もし智也が私を大事にしてくれなかったら、その時は出ていくから」自分でもなぜこんなに強い気持ちが湧いてくるのか分からなかった。 でも、心の奥に生まれつきの信念があった。桐生は沙羅をさらに強く抱き寄せて、「絶対に、何倍も幸せにするよ」と誓った。翌日、婚約式は予定通りに開かれた。沙羅はオーダーメイドのドレスに身を包み、まるで舞う蝶のような美しさだった。桐生にエスコートされて会場に入ると、江乃市の名士たちが席を埋め尽くしている。桐生の両親も新しい家族を満面の笑みで迎えてくれた。桐生家にはすでに何不自由ないほどの財産があり、柄の釣り合いなど求めていなかった。ただ息子の幸せだけを願っていた。司会者が次々と式のプログラムを進行していく中――
失われた愛のかけら 第22話
拓真は、荷物をまとめると江乃市へと急いだ。今回は一切世間に公表せず、静かに沙羅を探し出し、無事に連れ帰るつもりだった。秘書から聞いた住所を頼りに、小学校までやって来る。ちょうど授業中で校内は静まり返っていて、時折、子どもたちの朗読の声だけが響く。校門の前に立つと、拓真はどこか懐かしいような穏やかな気持ちになった。長年、ビジネスの世界で駆け上がってきた自分には、こんな平凡な感覚は久しくなかった。高いところから見下ろすばかりで、人に囲まれ、持ち上げられる日々――心の底から静けさを感じたのは本当に久しぶりだった。やがてチャイムが鳴り、子どもたちが弾むように校舎から出てくる。拓真は必死に人波の中から沙羅の姿を探したが、最後まで彼女は現れなかった。「授業か、残業かもしれない」と自分に言い聞かせて待ち続けたが、校舎の明かりがすべて消えても、誰も出てこなかった。――まさか、病気で休んでいるのか？警備員に怪しまれ、声をかけられる。「どちら様ですか？ここで何をしているんです？」「望月先生に用があって来たんです。今日、出勤されてますか？」警備員はますます警戒し、「これ以上ここにいたら警察を呼びますよ」と言われてしまう。仕方なくその日は引き下がった。翌日も朝早くから学校前で張り込んだが、今度は目立たないような場所からそっと様子をうかがった。だが、チャイムが鳴っても、沙羅は現れなかった。三日間同じように待ち続けても、やはり姿を見ることはできなかった。「もう我慢できない」そう思った拓真は、下校する子どもを呼び止めた。「ねえ、君、望月先生を知ってる？」「何の用？先生の友達なの？」「うん、先生に伝えたいことがあるんだけど、最近学校に来てないのかな？」子どもは首をかしげながら返事をした。「先生の友達なのに、知らないの？先生、もうすぐ結婚するんだよ」――結婚？頭を殴られたような衝撃が走る。結婚……？沙羅は自分の妻なのに、なぜ他の誰かと結婚しようとしているのか。「え？それ、本当に望月先生のこと？嘘だよね？」「嘘ついてどうするの？みんな知ってるよ。先生、桐生先生と結婚するんだって」「桐生先生……どの桐生先生？」子どもは、「変な人」と言いたげな顔をして、そそくさと立ち去ってし
失われた愛のかけら 第21話
理々は、ずっと「香坂の妻」になることを夢見ていた。沙羅にできて自分にできないはずがない、と信じていた。沙羅が特別だなんて思っていない。ただ彼女のほうが、自分より少し早く彼の隣にいたというだけのことだと。ちょっと手を使えば、拓真だって私のものにできる――そう思っていた。実際、前半は理々の思い通りだった。拓真は彼女の身体に溺れ、昼夜問わず離れなかった。会社でも彼女の昇進は続き、普通の社員から一気にエリートにまで登りつめた。きらびやかな世界に目がくらみ、理々は「愛人」でいるだけでは満足できなくなっていった。もっと欲しかった。堂々と彼の隣に立って、贅沢な人生を歩みたい――そう願うようになった。拓真に「コンドームはしないで」と甘え、「あとで薬を飲むから」と言いながら、実は妊娠のためのサプリをこっそり飲み続けた。ついに彼の子どもを授かったとき、理々は「これで拓真の心をつなぎとめられる」と信じて疑わなかった。拓真には「絶対に沙羅には知られるな」と言われていたが、理々はあえて沙羅に挑発を繰り返した。自分が賭けたのは、拓真の愛情ではなく、沙羅の絶望だった。沙羅さえいなくなれば、その席は自然に空くはずだ――リスクはあったが、もうほかに道はなかった。この男を手に入れること、それが理々の人生で唯一のチャンスだった。そして、賭けは的中した。沙羅は本当にいなくなった。理々は誇らしげにお腹を抱えて、拓真と沙羅が暮らしていた家へ向かった。玄関前の牡丹の花が咲き誇っているのを見て、「これからはここが自分の家になるんだ」と心の中でつぶやいた。ドアを開けると、拓真がひとりでベッドに横たわっていた。その姿を見て、少しだけ胸が痛んだ。最初は欲や打算だけだったはずなのに、気がつけば理々は本気で彼を愛していた。ピラミッドの頂点に立つ男――それが拓真だった。理々はキッチンに入り、簡単な食事を作って「本当の妻」のように振る舞った。この日を、何度も何度も頭の中でシミュレーションしてきた。ついに夢が叶う。その幸福感で頭がいっぱいだった。料理ができあがり、理々はベッドの拓真を起こしに行った。拓真は目を覚ますと、いきなり理々を強く抱きしめた。春の陽射しを浴びる花のように、理々の胸は幸せで満たされていた。――だ
