Share

第1041話

Author: 心温まるお言葉
柴田琳と別れた後、唐沢白夜の提案で、霜村涼平が裁判関係者を招いて食事会を開いた。

白石沙耶香を除いて。

法廷では、霜村涼平と白石沙耶香はかなり近くに座っていたが、互いに目を合わせようとはしなかった。

退廷時、偶然ぶつかってしまった時も、二人はただ「すみません」と一言ずつ交わしただけで、お互い干渉しなかった。

二人の現状を考えると、霜村涼平が白石沙耶香を招待しなかったのも無理はないと誰もが思っていたが、唐沢白夜は霜村涼平の本心を見抜いていた。

彼はグラスを手に取り、霜村涼平のグラスに軽く当てた。「本当にこれで諦めるのか?」

黙々と酒を飲んでいた霜村涼平は、感情を押し殺したように答えた。「やれることはやった。もう疲れたんだ」

彼は疲れていた。白石沙耶香に縋り付くのはもうたくさんだ。意味がない。今のままでもいい。

唐沢白夜がもう一度説得しようとしたその時、霜村凛音が部屋に入ってくるのが見えた。彼の黒い瞳に光が灯った。

しかし、彼女の後ろに如月雅也の姿が見えると、せっかく灯った光は徐々に消えていった。

霜村涼平は唐沢白夜の視線の先、ドアの方を見ると、如月雅也の姿に眉をひそめた。「なぜ彼を連れてきたんだ?」

唐沢白夜への感謝の食事会に他の人を呼ばないようにと、霜村凛音にくぎを刺しておいたはずなのに、なぜ彼女は言うことを聞かないのだろうか。

霜村凛音は如月雅也を連れて霜村冷司の前に進み出て、「冷司兄ちゃん、一人増えても構わないわよね?」と言った。

霜村冷司自身は構わなかったが、和泉夕子は......

彼は和泉夕子がいると思い、視線を隣に向けたが、そこに彼女の姿はなく、少し驚いた。

隣の柴田南は、笑顔で立ち上がり、如月雅也に手を差し出した。「如月さん、覚えていますか?」

如月家は春日春奈が最後に請け負ったプロジェクトのクライアントだったため、以前、現場視察に行こうとした柴田南は、彼に会ったことがあった。

如月雅也の記憶力は良く、柴田南を覚えていた。礼儀正しく握手を返しながら、「春日さんの会社の、チーフデザイナーの方ですね」と言った。

彼の父は春日春奈に一度会って以来、ずっと彼女に興味を持っていた。何度もスケージュールを調整し、ようやく家のデザインを依頼できたのだという。

如月雅也が自分を覚えているのを知り、柴田南の顔に笑みが広がった「俺の顔は
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 契約終了、霜村様に手放して欲しい   第1054話

    白石沙耶香は静かに手を引き抜き、柴田夏彦を見つめた。「私が気にしているのは、あなたが付き合っていたことではなく、私に嘘をついたことよ」元夫もそうだった。人を騙すのが得意だった。しかし、今回は江口颯太よりも手ごわかった。見知らぬ番号から写真と音声が届かなければ、今でも柴田夏彦が潔白だと信じていただろう。白石沙耶香は自分が男運が悪く、簡単に騙されてしまうタイプだということを自覚した。だが、相手の本当の姿が見えた時、きっぱりと別れられるのは、自分の強みでもある。「先輩、元カノがあなたとの子供を産んだ以上、あなたは彼女に責任を取らなければならない。それに、ご両親は私のことを認めていない。そして、あなた自身も、若い頃に手に入れられなかった私への未練があるだけで、本当に私を好きなのではない。だから、私たちはこの辺で終わりにしよう。それがお互いのためだわ」白石沙耶香は柴田夏彦に最大限の配慮をし、きつい言葉を避け、江口颯太との裁判のようにヒステリックになることもなく、静かに別れを告げた後、彼を突き放し、立ち上がってスマホを手に取り、その場を去った。エレベーターのボタンを押そうとしたその時、柴田夏彦が駆け寄り、後ろから彼女を抱きしめた。「沙耶香、別れないでくれ。バーニスには多額の養育費を払って、完全に縁を切る。もう両親にも私たちのことに口出しさせない。結婚したら、国内に定住する。絶対にお前を海外に連れて行ったりしない。お前の心配事は全て解決する。だから、私から離れないでくれ......」正直、柴田夏彦はなかなかしたたかだった。恋愛体質の女性なら、彼の提案に心を動かされただろう。しかし、全てを見抜いた白石沙耶香には、柴田夏彦の冷酷さが際立って見えた。自分のために子供を産んでくれた女性と、簡単に縁を切るなんて。子供には養育費だけ払えばそれで終わりだなんて。そんなやつ、自分を捨てた両親と何が違うのだろうか?今まで柴田夏彦には少し欠点があるだけだと思っていたが、彼とは根本的に価値観が違うことが分かった。白石沙耶香がもう一度彼を許し、信じるとすれば、それは自ら進んで苦労を背負うようなものだ。彼女は柴田夏彦の腕を振り払おうとしたが、彼は力強く抱きしめ、放そうとはしなかった。「沙耶香、お前に片思いしていたことは本当だ。ただ、あの頃の想いは、少年時

  • 契約終了、霜村様に手放して欲しい   第1053話

    白石沙耶香は柴田夏彦の返事を待たずに、次の質問をした。「2つ目の質問。あなたがご両親の私への嫌がらせを黙認したのは、私が権力も後ろ盾もない孤児だから、簡単に扱えると思ったからなのかしら?」柴田夏彦はそんな風に考えてはいなかったが、彼の中では、母親は母親だ。どんなに好きな女性でも、母親にはかなわない。「音声も聞いただろう?私は彼女を注意した」「ええ」白石沙耶香は唇の端を上げて、また笑った。「あなたはいつも後から言うのね。この前、友達が私の悪口を言っていた時も、最初は『聞いていなかった』と言い訳したわ」柴田夏彦は眉をひそめ、言い訳をしようとしたが、白石沙耶香に遮られた。「初めてご両親に会った時、あなたがご両親の嫌がらせを黙認したのは、私に対するあなたの評価が、ご両親と同じだからでしょ?」斉藤月子と同じように、自分はあまり大人しくなく、家柄も学歴もない、さらには結婚歴もあるため彼にはふさわしくない、と思っているのだろう。「付き合う前に、私はあなたにこれらのことを話したわ。あなたが『気にしない』と言ったのは、嘘だったの?」彼女の失望した表情を見て、柴田夏彦は胸が痛んだ。「沙耶香、私は本当に気にしない。ただ、彼女は私の母親だから......」自分が間違っていたと気づいたように、柴田夏彦はうつむいた。「この件は、私が悪かった。本当にすまない」彼はついに謝罪したが、白石沙耶香はもう以前のように彼を許すことはなかった。「実は、あなたの考えはどうでもいいの。この質問をしたのは、あなたに伝えたいことがあって......」そう言うと、白石沙耶香は深呼吸をし、自然と目が潤んできた。「私は生まれてこのかた、一度も愛されたことがない。あなたが現れて、高校生の頃から私のことを想っていたと言ってくれた時、とても嬉しかった。感動したわ。この世界で、私のことを好きでいてくれる人がいたんだって......その遅れてきた愛情を、私はとても大切に思っていた。だから......後になって、あなたが策略家だって分かっても、私は目をつぶった。誰にだって欠点はある。先輩だって例外じゃない。それくらい、どうってことない。先輩の気持ちが本物なら、それでいいんだって。そうやって自分に言い聞かせてきたけれど、あなたは私をそれほど好きじゃないって

  • 契約終了、霜村様に手放して欲しい   第1052話

    白石沙耶香はグラスを置き、静かに顔を上げて、向かいに座る柴田夏彦を見つめた。「飲む前に、先輩に3つ質問してもいいかしら?」「どうした?」柴田夏彦もグラスを置き、白石沙耶香を見た。「どんな質問だ?」白石沙耶香はスマホを取り出し、音声ファイルを再生した。最初の言葉を聞いた途端、柴田夏彦の穏やかだった表情は険しくなった。「沙耶香、これはお前が録音したのか?」トイレに行った後、スマホで録音を始めたのか?もしそうなら、白石沙耶香は見た目ほど単純な女ではない。柴田夏彦の反応は白石沙耶香の予想を裏切った。彼は自分の非に気づくのではなく、彼女が録音したのではと疑ったのだ。彼女は笑った。その明るい瞳は、霧の中に霞んでいるようで、どこか曖昧で暗い印象だった。「親切な方が録音してくれたみたいで、感謝している。おかげで、先輩とご両親が私のことをどう思っているのか、よく分かった」柴田夏彦は慌てて手を伸ばし、彼女を掴もうとしたが、避けられた。「夏彦、あなたが言った『手に入れていないのに、どうして諦められるんだ?』って一体どういう意味かしら?」白石沙耶香の目に失望の色が浮かんでいるのを見て、柴田夏彦は3つの質問に答え終わった後、彼女が別れを切り出すことを悟った。彼は録音が偽物だと弁明するのをやめ、テーブルの上にあったステーキ用のハサミでアロマキャンドルの芯を切った。芯を切ると、テーブルの上の灯が更に明るくなり、アロマの香りがより強くなった......彼は風に揺れるキャンドルの炎をしばらく見つめた後、視線を白石沙耶香に移した。「私はお前が好きだ。お前が好きなのも、お前を手に入れたいと思うのも、本能なんだ。霜村さんもきっと同じはずさ」彼に質問しているのに、霜村涼平の名前を出したのは、話をすり替え、自分に霜村涼平を疑わせようとしたのだ。これまで白石沙耶香は柴田夏彦の言葉の裏にある策略に気づかなかったが、この瞬間、全てを理解した。「この前も言ったでしょ?私と涼平はもう完全に終わっている。どうしてまだ彼の名前を出すの?」「本当に終わっているのなら、どうしてお前がこんな音声ファイルを受け取るんだ?」柴田夏彦の逆質問に、白石沙耶香は言葉を失った。「まさか、あなたが涼平が録音したと思っているの?」柴田夏彦は白

  • 契約終了、霜村様に手放して欲しい   第1051話

    写真には、西洋人の女性が1歳くらいの赤ちゃんを抱いている様子が写っていた。白石沙耶香は写真を見て、誰かが間違えて送ってきたのだと思った。自分は写真の人物を知らなかったからだ。スクロールしていくと、写真に柴田夏彦が写っているのを見つけて、彼女は硬直した。どういうことだ?眉をひそめて相手に聞こうとしたその時、ダイアログボックスにメッセージが表示された。【これは柴田夏彦の元カノ、バーニスだ。彼との間に子供を産んでいる】柴田夏彦に......元カノと子供がいる?白石沙耶香が驚愕しているところに、さらに音声ファイルが送られてきた。彼女は音声ファイル数秒間見つめた後、震える指でそれを再生した。音声からは柴田夏彦の声が聞こえてきた。「彼女にもしやましいことがあったとしても、あなたの質問攻めには耐えられないだろう。どうしてまだ疑うんだ?」続いて、斉藤月子の軽蔑するような声が聞こえた。「彼女の顔立ちとスタイルを見てごらんなさい。歩き方さえも色っぽい。あんなに美人で男を惑わすような女が、本当に大人しいはずがないわ。絶対に信じられない」そして、柴田夏彦の父親、柴田睦樹の声も聞こえた。「確かに美人だ。普通の男なら誰でも多少は気が惹かれるだろう。ましてや、金持ちの男と遊んでいる女ならなおさらだ。ましてや、あんな金と欲が渦巻く場所で遊んでるような男どもなら、ちょっと権力をチラつかせるだけで、すぐに従わせられる。彼女の言うことなんて、真に受けるほどのもんじゃないよ」彼らの会話のBGMはサックスの曲だった。彼女が柴田夏彦の両親に会ったレストランでも、同じような軽音楽が流れていた。恐らく、彼女がトイレに行った後、家族で彼女のことを悪く言っていたのだろう。柴田夏彦の両親の言葉はそれほど気にならなかったが、柴田夏彦が言った「手に入れていないのに、どうして諦められるんだ?」、「お母さん、さっき沙耶香を問い詰めている時、私が止めなかったのは、あなたが私の母親だから顔を立てたんだ。あなたのために、彼女に立場を示す機会を作ったんだ」という言葉は、白石沙耶香の心を冷たくさせた。暗くなっていく画面をぼんやりと見つめていると、エレベーターのドアが開いた。屋上庭園が目の前に広がっていた。柔らかな赤い絨毯、緑の芝生、長方形の木製テーブルと椅子、豪華な料理、バラで

  • 契約終了、霜村様に手放して欲しい   第1050話

    当時、唐沢白夜を罵倒した時のことを思い出し、柳愛子はドキッとした。彼が復讐してくるのを恐れるかのように、玄関先から動けなかった。「謝罪をしに来た」柳愛子は高価な贈り物を取り出し、唐沢白夜に差し出した。「あなたのおばあさんが私のせいで亡くなったとは存じ上げておりませんでした。本当に申し訳ありません」唐沢白夜は贈り物を受け取らず、ただ彼女を冷ややかに見つめていた。柳愛子は彼が受け取らないのを見て、戸惑いながら贈り物を玄関に置いた。体を起こし、唐沢白夜を見上げると、彼女の目に緊張と罪悪感が浮かんでいた。「凛音は昨夜、私と大喧嘩した。彼女の態度を見ると、まだあなたのことを想っているようだわ。もう一度......」「柳さん」唐沢白夜は彼女の言葉を遮った。「彼女があなたと喧嘩したのは、俺の祖母の無念を晴らすためです。俺を愛しているからではありません。俺と彼女の間には......」唐沢白夜は深呼吸をし、充血した目に深い悲しみを浮かべた。「もう無理です」彼女は愛する時は情熱的だが、愛さない時はきっぱりと諦める。いや、彼女は自分から身を引いたのではない。無理やり別れさせられたのだ。彼が、あまりにも残酷な方法で彼女を突き放したから、彼女は戻ってこないのだ。柳愛子は、こんな結果になるとは思ってもみなかった。反対するのをやめたのに、なぜもう一度やり直せないのだろうか?唐沢白夜は答えを出さず、ただ腰をかがめて玄関に置かれた贈り物を手に取り、彼女に返した。「謝罪なんて必要ありません。あなたは彼女の母親として、娘が不幸になることを恐れ、行き過ぎた行動をとってしまっただけです。俺には分かります。そして、俺の祖母は、俺に申し訳ないと思って自殺しただけです。恨むなら、力のない俺自身を恨むべきでしょう」柳愛子は唐沢白夜をじっと見つめた。若い彼が、こんなにも大人な言葉を口にするとは信じられなかった。彼女は突然、あの頃の自分はなんて心が狭かったのだろうと気づいた......その狭量な心が、娘を不幸にし、他人の孫までも不幸にしてしまった......「ごめんなさい」柳愛子は唐沢白夜に向き合い、深く頭を下げた。貴婦人のうなだれた姿を見て、唐沢白夜は彼女がかつて自分を罵倒していた時のことを思い出し、目に涙が浮かん

  • 契約終了、霜村様に手放して欲しい   第1049話

    取り乱す娘を見て、柳愛子は驚き、慌てて彼女を抱きしめ、背中をさすって慰めた。「凛音、お母さんが悪かった。お願いだから、そんな風に言わないで」柳愛子の肩にもたれかかった霜村凛音は、笑った後、涙を流した。「私の人生は、あなたたちによって既にめちゃくちゃにされた。これからは、私のことに口出ししないで」彼女は力なく柳愛子を突き放し、一歩後ずさりすると、よろめきながら回廊の階段を降りて行った。アーチ状の門のそばに、黒い人影が立っていた。赤い目で、彼女を心配そうに見つめている。その優しい視線に触れ、霜村凛音は胸が締め付けられたが、涙をこらえた。「お兄ちゃん、私の二の舞にならないで」霜村涼平の端正な顔に、複雑な感情が浮かんだ。彼は雨の中、霜村凛音の前に歩み寄った。「凛音、お前と白夜にはまだチャンスがある。彼は今もお前を愛している」霜村凛音は花のように美しく微笑んだ。しかし、その笑顔には計り知れない苦しみと、諦めが混じっていた。「お兄ちゃん、私はもう彼のことを愛していないの」あまりにも深く愛し、深く傷ついた人間は、もう二度と人を愛せないと言う。はたまた、時間が経てば、どんなに愛した人でも、忘れられるとも言う。霜村凛音は唐沢白夜を忘れようと、自分に言い聞かせ続けた。そしてついに、本当に彼への愛情がなくなってしまった......彼女は花のような笑顔で霜村涼平に微笑みかけると、振り返ることなく去って行った。すれ違う彼女の目には、強い決意が宿っていた。彼女は唐沢白夜のために、母親と絶縁したのだ。だからこそ、あんなにも迷いなく去ることができた。しかし、霜村涼平は分かっていた。親子の縁は切れない。霜村凛音はいつか必ず戻ってくる。しかし、愛は断ち切ることができる。霜村凛音は唐沢白夜のために復讐を果たしたが、彼のもとに戻ることはない。彼女が「愛していない」と言ったのは、長い歳月を経て、彼の愛を失ったことを心から受け入れたということだろう。この時初めて、霜村涼平は唐沢白夜の「時間が経てば、愛は消えてしまう」という言葉の意味を理解した。彼はゆっくりと顔を上げ、傘を差して近づいてくる柳愛子を見た。その優しい顔が、まるで別人のように見えた......「あなたは白夜のおばあさんを人質にして、彼を脅迫したのか.....

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status