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第1506話
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契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1510話
霜村凛音はいい歳なのにまだ嫁に行っていなかった。柳愛子はそれが心配でたまらず、特に結婚適齢期を逃してしまうことを恐れて、毎日お見合い相手を探しては霜村涼平を通して霜村凛音に見合いを勧めていた。霜村凛音は先に断るか、もしくはお見合いの場で丁寧に断るかだった。それが何度も続いたので、痺れを切らした霜村凛音は自ら実家に戻り、柳愛子にこんな無駄なことをもうやめるように言った。ここ数年、霜村凛音が実家に帰る回数は片手で数えられるほどだった。それも霜村真一が仮病を使った時だけ、渋々帰って来るのだ。あの時のことをまだ水に流しておらず、柳愛子を許すつもりもないのは明らかだった。ますます後悔する柳愛子は、霜村凛音に会う度に小動物が何かに怯えるような態度で、声も小さくなってしまう。「凛音、歳をとって、子供がいないと、寂しくて後悔するわよ......」ソファに座っていた霜村凛音は、冷ややかに鼻で笑った。「子供は親の背中を見て育つものよ。私はお母さんみたいに、子供の邪魔ばかりする毒親にはなりたくないわ。だから子供は作らない方がいい。こんな遺伝子を受け継がせたら、また次の世代を不幸にするだけでしょ？」遠回しに皮肉を言われているのは、上流社会で長年渡り歩いてきた柳愛子にはすぐに分かった。確かにあの時の自分の行動は間違っていた。だから、今は我慢するしかない。「凛音、私はただ、死ぬ前にあなたが結婚するのを見たいだけなの」霜村凛音は唇を歪めて冷笑した。「私が白夜と付き合っていた時、お母さんは反対して、裏でコソコソして別れさせたわね。今更結婚を急かすなんて、よくそんなことができるわね？」霜村凛音の一言で柳愛子は言葉を失った。過去の過ちはいつか自分に返ってくるというが、まさかこんなに早く、しかも実の娘から報復されるとは思ってもみなかった。柳愛子は悲しくて、胸が詰まるような思いだった。彼女は苦しくなった胸を押さえながら、冷淡な霜村凛音をしばらく見つめた後、恐る恐るもう一度口を開いた。「あのさ......聞いたんだけど、また......別の誰かを好きになったそうね。今はどんな感じなの？」たとえ娘に恨まれ、一生許してもらえなくても、霜村凛音に共に過ごしたいと思えるような人が見つかることだけを柳愛子は願っていた。そうすれば、たとえ死ぬ日が来たとしても、安心してこの世を去れる。
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1509話
杏奈の命日、その後に続くのは沢田の命日だった。二人は子供を連れてイギリスへと向かった。黒いリンカーンが停まった時、霜村冬夜は森から小さな鹿が飛び出してくるのを見つけた。子鹿を追いかけたかったのか、それとも霜村冷司の監視から逃れたかったのかは分からない。だが、大人たちが気づかないうちに、車のドアを開けて森の中へと走り出してしまっていた。それを見た和泉夕子は慌てて車から降り、後を追いかけた。車内にいた霜村冷司が手を軽く振ると、相川涼介と相川泰がすぐに車から降り、母子の後を追った。霜村冷司は遠くの墓地を見つめ、しばらく静まり返っていた。それから車から降り、トランクを開けて花束を取り出し、沢田の墓石の前に歩み寄り、腰をかがめて花を供えた。「沢田、今年もまた子供を連れて会いに来たよ」毎年同じ言葉で始まり、墓石の前に立ち、色あせた沢田の遺影を見つめながら、もし沢田が生きていたら、相川涼介や相川泰のように自分の息子を甘やかしていただろうか、と想像する。相川涼介や相川泰よりももっと自分の息子を甘やかしていただろう。沢田のような性格なら、きっと息子を抱き上げ、肩に乗せ、小悪魔霜村冬夜が頭に登ってきても好き放題させていたに違いない......残念なことに、沢田はもういない。霜村冷司は、沢田が夕日に照らされた道を霜村冬夜の手を取って歩いている姿、大小の影が映し出される姿を想像することができなかった。頭の中にはぼんやりとした情景があるだけだった......たとえ情景だけであっても、霜村冷司はそれをとても懐かしく思っていた。ただ少し残念なのは、時間が経つと本当に人の顔を忘れてしまうことだ......霜村冷司はそうやって徐々に沢田の顔を忘れていった。まるで映画が終わったかのように、すべてが曖昧になり、人の顔さえも時の流れの中に消えていった......少し感傷的になった霜村冷司は、沢田の墓石に手を添え、過去を偲び、沢田の顔を覚えていないことを悔やんでいた。その時、黒いコートを着てベレー帽をかぶった人影が、男の子と女の子の手を引いて、墓地の別の入口から入ってきた......霜村冷司は相手が誰なのかすぐに気づいた。大野佑欣が自分に気づいたら怒らせてしまうのではないかと心配した上に、彼女の辛い過去の記憶を呼び起こさせてしまうのを恐れた彼は、未練を押し殺し
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1508話
柴田琳の葬儀を終えると、和泉夕子は穂果ちゃんを連れて春日春奈のお墓参りに行った。二人で墓前に供物を捧げていると小雨が降り始めた。それほど強い雨ではないが、庭園の外で待っていた男は黒い傘を取り出し、霜村冬夜を車に残して、一人で墓地に入り、二人に傘を差しかた。霜村冬夜は片手を車の窓枠に添え、綺麗で整った小さな顔に怒りをにじませていた。次に墓参りに行く機会があれば、手綱を離された馬のように、姿をくらましてやろう。そうすれば、霜村冷司もどうしようもなくなるだろう。和泉夕子は穂果ちゃんを連れ、春日春奈と池内蓮司の墓参りを済ませた後、パナマに行き、杏奈の墓参りもした。毎年命日には必ず墓参りに訪れる。霜村冬夜が2歳の時、和泉夕子は彼に杏奈の墓前で「杏奈おばさん」と呼ばせていた。5歳になった今年は、霜村冬夜はもう墓参りの手順に慣れていた。花を供え、杏奈の遺影を撫でて、「杏奈おばさん」と素直に呼びかけた。それから、霜村冷司が見ていない隙に、手綱を離された馬のように踵を返して走り出した。しかし、遠くへ行く前に大きな手に襟首を掴まれ、小さな体はすぐに引き戻されてしまった。霜村冬夜の小さな顔はしょんぼりし、全く機嫌が良くないようだ。それを見た大西渉は、優しい手のひらで霜村冬夜の小さな頭を撫でた。「お参りが終わったら、書斎で医学の話でもしてあげようか？」霜村冬夜はパナマに来るのが好きだった。理由はここに大西渉がいて、医学の知識を教えてくれるからだ。幼い彼はよく理解できないながらも、とても興味を持っていて、いつも大西渉を捕まえてはもっと話してくれとせがんでいた。今、大西渉が書斎に連れて行ってくれると聞いて、霜村冬夜はおとなしくなった。霜村冬夜は口数が多くなかった。興味のある人や出来事に出会った時だけ、二、三言口にするくらいで、それ以外は人を見下したような態度で、まるで何事にも興味なさそうな顔をしている。しかし、周りにいる人々から、学びたいことを学んでいる。春日琉生の賭博の技術、大野皐月の部下を管理する能力、如月雅也の銃の腕前、霜村涼平のコンピューター技術、そして大西渉の医術、さらに相川涼介と相川泰の格闘技まで、彼は全て見ている。しかし、幼い彼はまだ見聞きするだけで、それを自分のものにすることはできていなかった......しかし、こんなに皆の得意なことが見えている
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1507話
如月雅也の結婚式は、ついに幕を閉じた。和泉夕子は二人の子供を連れ、如月家で数日過ごした後、帰国した。全てが元通りだ。父子間の会話が少ないことを除けば、毎日順調に過ぎていった。ジョージ、柴田南、柴田琳は時々穂果ちゃんに会いに来ていた。三人はそれぞれ穂果ちゃんに会いにきていたのだが、偶然会うことが多くなったので、いっそのこと一緒に、グループで穂果ちゃんを訪ねるようになった。柴田南は相変わらずゲームが好きで、金ピカグッズの収集が趣味、気ままでだらしない、まさにダメ男ライフを満喫中だった。しかし、そんな彼でも、池内蓮司と春日春奈の会社をうまく経営していた。二国間を行き来する手間を省くため、柴田南は二つの会社を統合し、そのオフィスを春日春奈と池内蓮司が出会い、恋に落ちた場所に構えた。社名は「池内春奈建築会社」。会社の紹介文には、こう書かれている。「これは、二人のトップデザイナーが織りなした、一つの愛の物語」と。彼の宣伝のおかげで、誰もがその物語を知ることになった。春日春奈に同情する人もいれば、池内蓮司を気の毒に思う人もいて、二つの派閥は絶えず議論を交わしていたが、結局のところ、「誰が先で誰が後だったか」という問題に、他人が口を挟むことなどできなかった。それが恋というものだから。ジョージはというと、歳をとってメスを握らなくなり、自分の技術を生徒に教えたあとは、釣りをしたりコーヒーを飲んだり、自然の美しさを満喫する生活を送っていた。唯一変わらないのは、毎年柴田南、柴田琳と穂果ちゃんに会いに行く約束だ。ジョージの人生にはパートナーを探すという選択肢がなかったため、それゆえに心配事もなく、何も求めることはなかった。三人組の中で、唯一順風満帆とは言えなかったのが柴田琳だ。彼女は癌を患ってしまい、穂果ちゃんが大人になるまで付き添うことができなかった。抗がん剤治療に耐えられず、安楽死を選んでしまったから。彼女は死ぬ前に、柴田家と池内家の財産全てを穂果ちゃんに譲った。当時まだ12歳だった穂果ちゃんは、アジアで3番目に裕福な女性となり、一生お金に困ることはなくなった。柴田琳が安楽死を選ぶ日、和泉夕子は穂果ちゃんを連れて柴田琳に会いに行った。彼女は病に蝕まれ、かつて傲慢で傍若無人だった様子は見る影もなくなっていた。髪は抜け落ち、顔にはシミが広がり、体も痩せ
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1506話
ベスが席に着くと、穂果ちゃんは熱心にケーキを彼女に差し出し、「お人形さん、あんなに長い時間ステージに立ってたんだから、お腹空いてるでしょ。ケーキで少しお腹を満たして」と言った。ベスは金髪に青い瞳を持ち、肌が白く高い鼻筋のハーフの女の子だ。青い瞳は湖のように美しく、満天の星空を映し出すかのようだ。穂果ちゃんの目には、こんな女の子はお人形にしか見えない。穂果ちゃんはベスが大好きで、自分もベスみたいに痩せて綺麗になりたいと思っていた。でも、霜村冷司夫妻に甘やかされて育てられた穂果ちゃんは、どんどん太っていってしまった。12歳になった今でも背は伸びず、大人になったら小太りのままなのではないかと不安だった。そう考えると、持っていたケーキも急に美味しくなくなり、全部ベスに押し付けた。「今からダイエットするから、私の分も食べて」ベスは微笑んで、食べたくなくても、穂果ちゃんから差し出されたケーキを丁寧に受け取った。「池内さん、あなたは全然太ってないし、とても可愛いよ」穂果ちゃんはニヤリと笑った。「ベス、『可愛い』って言うのは、デブの婉曲表現なんだよ......」ベスの笑顔は凍りついた。そして言い訳を探した。「ごめんなさい、日本語はまだあまり上手じゃないから......」天真爛漫な穂果ちゃんと比べて、4歳年下のベスは、どこか遠慮がちで、慎重すぎるほどだった。まだ小さな子どもなのに、人に気に入られるために、言葉で相手を喜ばせようとする術を、すでに覚えてしまっていた。けれど、その言葉がうまく通じなかったとき、ベスは真っ先に、自分自身を責める。それは、幼い頃から虐待を受けてきた経験と関係がある。ベスの境遇を知っている穂果ちゃんは、罪悪感に満ちたベスの目を見て、肩を叩いた。「冗談だよ。デブって呼んでもいいよ。気にしないから......」ベスはそれでも申し訳なさそうに謝り続けた。穂果ちゃんは仕方なく、線香花火を持ってきてベスを喜ばせようと思い、立ち上がる前に霜村冷司に声をかけた。「叔父さん、線香花火を取りに行ってくるね。すぐ戻るから......」霜村冷司が頷くのを見て、霜村冬夜も立ち去ろうとしたが、またもや霜村冷司の大きな手に胸を押さえつけられた。「お姉ちゃんは勝手にどこかに行ったりしないけど、お前は違うだろ？だから、大人しく座ってろ」少し腹を立
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1505話
招待状を受け取った和泉夕子は、そこに記された花嫁の名前を見て、安堵の笑みを浮かべた。自分の兄は、長年の想いを叶えたのだ。如月雅也の結婚式は、まばゆい光が煌めく夜に行われた。月光が城館の外の芝生を照らし、城館の中では豪華絢爛な結婚式が執り行われていた。如月雅也はオーダーメイドの黒いスーツに身を包み、胸に白いバラを飾っていた。彼は向かいの花嫁を真剣な眼差しで見つめ、その瞳は愛情で満ちていた。星野明は無数の輝くダイヤモンドが散りばめられた、高価な白いウェディングドレスを纏い、ライトに照らされ、キラキラと光を放っている。会場は満席で、世界中から集まった来賓で賑わっていた。華やかな雰囲気、美味しい料理、そして酒。全てが完璧だった。優雅な音楽と共に、如月雅也は星野明の手を取り、ゆっくりと神聖な祭壇へと歩みを進めた。指輪を交換し、誓いの言葉を述べ、そして......如月雅也は星野明の後頭部に手を添え、皆の祝福の中、彼女にキスをした。長くて深いキスは、これまでの長年の想いを物語っているかのようだった。キスを終えた後、彼は手を挙げ、側にいるリングガール、つまり星野明の娘の頭を撫でた。「もう『叔父さん』じゃなくて、『お父さん』になるんだ。いいかな？」星野明の娘ベスは、幼い頃から父が自分や母親を虐待する様子を見てきたため、「父親」という存在に恐怖を抱いていた。しかし、もしそれが如月雅也ならば、受け入れることができた。なぜなら、記憶の中の如月雅也は母にあまり干渉しないものの、自分にはいつも優しく、こっそりお金をくれたり、学校に見に来たりしてくれたからだ。ベスは、如月雅也が本当は母を大切に思っていることを知っていた。ただ、表現が下手なだけなのだ。今、如月雅也は念願叶って母と一緒になったのだから、娘として祝福するのは当然のことだった。ベスは如月雅也の大きな手のひらの中で、笑顔で頷いた。「じゃあ、これからはパパって呼ぶね」如月雅也は唇の端を上げ、幸福な笑みを浮かべた瞳をベスから涙を流す星野明へと移し、指先で彼女の涙を優しく拭った後、彼女を抱き寄せた......二人が抱き合っているそのとき、城館の外では盛大な花火が夜空に咲き乱れていた。月の光、星の瞬き、そして花火の鮮やかなきらめき。三つの光が交差し、まるで一枚の絵画のような美しい光景を描き出す。
