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第 658 話

Author: 水原信
美音はとうとうじっとしていられなくなった。

海咲だけでなく、州平のことも気になって仕方なかった。

「ダメだ、ちょっと出かけないと」

美音はついに耐えられなくなった。

助理が朝食を準備していた。「淡路さん、どこに行くんですか?」

美音は言った。「州平がまだ帰ってこないから、探しに行かないと」

そう言うと、美音は急いで服を着替え始めた。

「朝食は食べないの?」

「食べない!」

準備を終え、美音はバッグを持って急いで家を出て、ドライバーに州平の家へ連れて行くように頼んだ。

州平の家で待っていれば、安心できるし、彼にもすぐ会えると思ったからだ。

途中、美音は見覚えのある新しい車を見かけた。

その車は以
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