LOGIN彼女の動きはとても優しく、口ずさむように童謡を歌っていた。宝華は大きなあくびをひとつして、手で恵美の服の襟をつかんだまま、彼女の腕の中で眠りについた。それに気づいた瞬間、恵美の全身はぴたりと固まった。彼女は一切動こうとせず、起こしてしまうのを恐れて、息を潜めるようにしていた。海咲に話しかけるときでさえ、口の動きだけで「赤ちゃん、寝ちゃったの!」と伝えてきた。海咲は何も言わずに笑った。恵美が事前にしっかり勉強してきたことがよく分かった。赤ちゃんのあやし方も上手で、しかも宝華はとても手のかからない子だった。泣かずに静かにしていてくれるからこそ、恵美も穏やかな気持ちで抱っこを楽しめたのだろ
「もちろんできるさ。いや、一日一回どころか、朝と夜で髪型を変えるのだって全然構わないよ」ファラオはもともと髪が抜けたことに少し心を痛めていた。けれども、星月とこんなふうに話しているうちに、子どもの瞳に宿る輝きを見ていたら、心の中のわだかまりがすっと消えていった。髪がない?それがどうした。ウィッグさえあれば、どんな髪型だって楽しめる。そのときには、きっと誰よりも目立つイケてるおじいちゃんになれる。「それ、最高にかっこいいよ!おじいちゃん、そしたら学校の帰りに迎えに来てくれる?他の子たち、絶対うらやましがるよ。あんなにオシャレなおじいちゃんなんて、他にいないもん!」星月は想像するだけで
その後の二日間、清墨は仕事に打ち込み、恵美はきちんと食事を取り、しっかり眠るよう心がけていた。そのおかげで、彼女の顔色は見るたびに明るさを取り戻していった。今の彼女の姿を見て、清墨は思わず口元を緩めた。「今の君、とてもいいね。すごく好きだよ」「じゃあ、前の私は好きじゃなかったの?」恵美はわざとからかうように言った。清墨の笑みはさらに深くなった。「そんなわけないだろ?相手が君なら、どんな姿でも全部好きだよ。でも、できることなら健康でいてほしい。恵美、ずっとずっと君と一緒にいたいんだ」恵美もまた、同じ気持ちだった。特にファラオが肝臓がんの末期と知ってからは、健康というものがいかに貴重か、
恵美はそれ以上何も言わなかった。彼女はうつむき、心の中にぽっかりとした寂しさが広がっていった。以前は仕事がひと段落したらもっと休んで、お腹の赤ちゃんのために胎教をしてあげようと思っていた。だが、そんな願いは結局叶わなかった。「恵美?何を考えてるの?」清墨は彼女の様子に気づき、声をかけた。恵美は首を振った。「なんでもないわ。あなたは先に仕事に戻って、私は一人でも平気よ」清墨の前では涙を見せることさえできなかった。これ以上、彼に余計な重荷を背負わせたくなかった。彼が出て行ったあとなら、思い切り泣くことができる。「もう少し一緒にいよう。今日はそんなに忙しくないから」清墨はそう言って、そ
海咲はもちろん、彼らの選択を尊重していた。それは、彼ら自身の人生だ。決めるのも歩むのも、彼ら自身でなければならない。妹である自分にできるのは、ただ——悲しみに沈む二人のそばで、そっと寄り添うことだけだった。そのあと二人は簡単に数言を交わし、海咲はファラオのことを伝えた。「お父さん、さっき肝臓がんって診断されたの。しかも末期」「どうしてそんなことに?」清墨は思わず固まった。ファラオが海外に行ったときは体はまだ元気だった。それからそれほど時間が経っていないのに、まさか末期の肝臓がんだなんて。海咲もも、どうか間違いであってほしいと願っていた。けれど、それは名の知れた総合病院が発行した正
海咲は笑顔でうなずいた。彼女は立ち上がり、主治医を呼んでファラオの容体について詳しく尋ねた。「先生、父がようやく考えを改めて、治療に協力すると言ってくれました」「それは本当に良かったですね。我々医療スタッフがいくら説得しても、なかなか首を縦に振ってくれなくて……やはり、こういうことはご家族の力でしか届かない部分があるんですよ」主治医も安堵の笑みを浮かべた。目の前で一つの命が失われていくのを見ているより、自分の手で救える可能性がある方が、ずっといいに決まっている。治療方針を話し合って決めたあと、海咲はもうしばらくファラオと話してから病院をあとにした。家に帰ると、真っ先に清墨にビデオ