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第 1464 話

Author: 水原信
「お姉ちゃん、ちょっと座って待ってて。私が出るね」

夕奈は軽やかに走って玄関へ向かった。

ドアを開けると、果たして戻ってきたのは尚年だった。両手にはいくつもの紙袋を提げている。

「もう帰ってきてくれるだけでいいのに、なんでこんなに買ってきたの?さ、早く中に入って。お茶いれるね」

夕奈は慌てて彼の手から袋を受け取り、嬉しそうに微笑んだ。

尚年は靴を脱ぎ、スリッパに履き替えてリビングへ入る。

そしてそのまま、今日花の隣に腰を下ろした。彼の手が自然な仕草を装いながら、ゆっくりと彼女の太ももに置かれた。

尚年はまるで何事もないかのように、声を少し張ってキッチンにいる夕奈へ言葉を投げかけた。

「君は妊婦
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