私のおさげをほどかないで!

私のおさげをほどかないで!

last updateLast Updated : 2025-10-25
By:  鷹槻れんCompleted
Language: Japanese
goodnovel18goodnovel
Not enough ratings
158Chapters
1.6Kviews
Read
Add to library

Share:  

Report
Overview
Catalog
SCAN CODE TO READ ON APP

コンビニでバイトをしながら小学校の先生を目指す女子大生の向井凜子(むかい りんこ)は、何かといえばすぐにからかってくる常連客の男――鳥飼奏芽(とりかい かなめ)が大嫌い。 彼の軽薄そうなところが、真面目な自分の考え方とは真逆で馴染めそうにないから極力関わらないようにしたいのに、何故か相手はそうではないようで。 小児科医のマイペースワガママ男 奏芽(33)と、真面目な女子大生 凜子(19)。 水と油のようなふたりの、ドタバタ年の差恋愛譚。

View More

Chapter 1

0.Prologue

강현시 모 병원.

“자궁외임신이에요. 나팔관이 파열되면 정말 위험해요. 이렇게 큰 수술인데 왜 혼자 오셨어요? 남편은 어디 있는 거죠? 당장 불러서 서명받아야 해요!”

송하나는 복부가 찢어지는 듯한 극심한 통증을 참으며 전화를 걸었다.

통화연결음이 한참이나 울리고 마침내 전화기 너머로 차가운 목소리가 들려왔다.

“무슨 일이야?”

“강우 씨, 바빠요? 배가 너무 아픈데, 당신이 좀...”

“됐어!”

그녀가 말을 채 끝내기도 전에 짜증이 섞인 목소리가 가차 없이 심장을 후벼팠다.

“배 아프면 의사 찾아. 나 바빠!”

“강우 씨, 누구예요?”

전화기 너머로 낯선 여자 목소리가 들려왔다.

“아니야, 아무것도.”

그의 목소리가 한결 부드러워졌다.

“어떤 게 더 마음에 들어? 골라봐, 내가 사줄게.”

귓가에는 통화가 끊긴 연결음이 뚜뚜 울렸다.

송하나의 심장이 칼날에 베이듯 잔인하게 찢겨 나갔다.

그녀의 얼굴이 창백해지고 호흡이 가빠지자 의사가 다급하게 외쳤다.

“안 되겠다. 당장 수술실 준비해. 이 환자분 수술 진행해야겠어.”

송하나가 다시 정신을 차렸을 때, 병실에 누워 있었다.

“이제 정신이 좀 들어요? 환자분 어젯밤에 정말 위험했어요. 다행히 제때 수술해서 목숨을 건졌어요!”

간호사가 링거를 놓으며 투덜거렸다.

“환자분 남편 참 너무하네요! 이렇게 큰 수술을 했는데 어쩌면 얼굴 한번 안 비춰요? 정말 무책임하네요!”

“자, 여기 간호센터 전화예요. 필요하시면 간병인 부르세요.”

“고맙습니다.”

송하나는 간호사가 건네는 명함을 받았다.

휴대폰을 꺼내 간호센터에 전화를 걸려던 순간, 화면에 갑자기 [핫 뉴스] 알림이 떴다.

[강현 갑부 이원 그룹 이강우 대표, 연인을 위해 경매 최고가 280억 원 들여 마담 뒤 바리 다이아몬드 목걸이 낙찰!]

강렬한 타이틀에 송하나는 동공 지진을 일으켰다.

사진 속 티 없이 완벽한 얼굴의 소유자는 바로 그녀의 남편 이강우였다.

송하나는 그가 항상 수치스럽게 느끼는, 숨겨야만 하는 아내였다.

결혼 생활 4년 동안 이강우는 그녀에게 얼음처럼 차갑고 무심했다.

태생이 그런 사람인 줄 알고 마음을 녹이기 위해 순종적인 아내로 살아보려 노력했지만, 막상 그가 딴 여자를 껴안고 애정을 과시하는 모습을 보게 되니 철저하게 깨달았다.

이 남자는 나를 전혀 사랑하지 않았구나...

가슴을 쥐어뜯는 듯한 고통이 밀려왔다.

송하나는 저도 몰래 눈시울이 붉어졌다.

이제는 정말 단념할 때가 되었다.

4년이나 끌어온 결혼이란 쇼는 막을 내릴 때가 되었다.

의사가 걱정스러운 표정으로 물었다.

“아직 몸이 많이 허약한데 두 날만이라도 더 입원하지 그래요?”

“집에 일이 있어서요.”

“이 기간에는 절대적인 안정을 취하셔야 합니다. 격렬한 운동은 피하고 부부관계도 가지면 안 돼요. 그럼 7일 후에 다시 검사받으러 오세요.”

“네, 알겠습니다. 감사합니다, 선생님.”

송하나는 성수 빌리지에 있는 단독 주택으로 돌아왔다.

가정부 서민경은 아니꼬운 얼굴로 그녀를 타박했다.

“사모님, 대체 요즘 어떻게 된 거예요! 며칠씩이나 외박하다니. 대표님이 아시면 분명 화내실 거라고요!”

그녀는 비록 이씨 가문 가정부이지만, 사실상 반쪽짜리 시어머니나 다름없다.

이강우의 유모인지라 스스로 특별한 존재로 여겼으니까.

제대로 사랑받지 못하는 이씨 가문 사모님 송하나였기에 서민경은 처음부터 눈길조차 주지 않았다.

송하나는 잘 안다.

서민경이 자신에게 이렇게 함부로 대하는 것은 설령 이강우가 직접 지시한 것이 아니더라도 그의 묵인이 있었기 때문이다.

그렇지 않고서야 감히 이렇게 오만하게 굴 수는 없을 터였다.

송하나는 이전에 이강우의 환심을 사려고 그의 주변 사람들까지 챙겼었다.

서민경에게 괴롭힘을 당하고 억압받아도 언제나 이를 악물고 참아왔다.

하지만 이번에는 더 이상 참고 싶지 않았다.

송하나는 곧바로 귀싸대기를 날리며 싸늘한 어투로 쏘아붙였다.

“건방진 것! 한낱 가정부 따위가 감히 나한테 이딴 식으로 말을 해?”

“야!”

서민경이 얼굴을 감싸고 당황스러운 눈길로 그녀를 쳐다봤다. 손을 댈 거라곤 미처 상상도 못 했나 보다.

“감히 날 때려?”

“그래! 때렸다, 어쩔래? 반격이라도 하게?”

송하나의 살벌한 기세에 서민경은 기가 눌렸다.

그녀가 아무리 이강우에게 사랑받지 못해도 이 집안 어르신 홍경자가 직접 선택한 손주며느리인지라 서민경은 차오르는 분노를 삼키는 수밖에 없었다.

송하나는 고개를 홱 돌리고 위층으로 올라갔다.

곧이어 서민경이 뒤에서 구시렁댔다.

“예쁘게 생기면 뭐해? 도련님은 어차피 거들떠보지도 않는데. 이씨 가문 사모님 자리는 조만간 딴 사람이 차지할 거야!”

공격적인 말은 날카로운 칼날처럼 송하나의 심장을 파고들었다.

그녀는 깊은숨을 몰아쉬었다.

이제는 그 어떤 것도 중요치 않다.

오늘이 지나면 이강우에 관한 모든 것이 아무 의미가 없을 테니까.

방으로 돌아온 송하나는 자신의 개인 물품을 일일이 정리했다.

그녀의 물건은 많지 않아 상자 하나면 충분했다.

상자를 옮기다 실수로 상처 부위를 건드렸더니 복부에서 격렬한 통증이 밀려왔고 식은땀이 쉴 새 없이 흘러내렸다.

진통제를 몇 알 삼키고 나서야 겨우 통증이 가시는 듯했다.

약효 때문인지, 아니면 지쳐서인지, 그녀는 침대에 누워 몽롱한 상태로 잠이 들었다.

깊은 밤.

훤칠한 실루엣의 남자가 방으로 들어섰다.

욕실에서 물소리가 쏴 하고 들리더니 20분 후, 이강우가 허리에 샤워 타월을 두른 채 걸어 나왔다.

그는 더할 나위 없이 잘생긴 얼굴에 넓은 어깨와 좁은 허리를 지녔고 초콜릿 복근은 보기만 해도 힘이 차 넘쳤다. 물방울이 복근을 따라 흘러내리며 느슨하게 늘어진 수건 속으로 스며들었다.

그는 아무 말 없이 늘 하던 대로, 형식적으로 송하나의 잠옷 치맛자락을 들어 올렸다.

꿈속에서 헤매던 그녀는 통증에 화들짝 놀라 몸을 뒤척였다.

“아파...”

그녀는 본능적으로 이강우를 밀어냈다.

“저리 가.”

“갑자기 웬 밀당? 우리 하나 또 새로운 수법이 늘었네?”

낮고 조롱 섞인 목소리가 머리 위에서 울렸다.

이강우는 물러나기는커녕 오히려 보복하듯 그녀를 비웃었다.

“한 달에 한 번 합방하는 거 네가 할머니께 졸라서 받아낸 거잖아. 이제 하기 싫어진 거야?”

상처 부위가 찢어지는 듯한 극심한 고통에 송하나는 순식간에 눈물을 쏟았다.

그녀는 이강우가 자신을 증오한다는 것을 알고 있다.

실은 이씨 가문의 어르신 홍경자가 그녀와 이강우의 결혼을 부추겼다.

결혼 후, 이강우는 송하나를 대하는 태도가 마냥 냉랭했다. 이를 본 홍경자가 뒤늦게 규칙을 정했는데 매달 하루는 송하나와 합방해야 한다고 했다.

그는 매번 송하나를 단순히 욕망을 해소하는 도구처럼 대했다.

지난 4년간의 결혼 생활을 되돌아보니 송하나의 마음은 고통으로 가득 찼다.

매사에 조심스럽고 서러움도 참으면서 굽혀왔지만 이 남자의 마음을 요만치도 얻지 못했다.

이럴 바에야 뭐가 아쉬워서 미련을 버리지 못할까?

“강우 씨, 우리 이혼해요...”

송하나의 말이 채 끝나기도 전에 휴대폰이 갑자기 울렸다.

이강우는 평소라면 밤늦게 걸려오는 전화를 질색하지만, 이번에는 부드러운 말투로 받았다.

“그래, 무슨 일이야?”

“강우 씨, 나 혼자 너무 무서운데 와서 좀 같이 있어 주면 안 될까요?”

수화기 너머로 애교 섞인 여자 목소리가 들려왔다.

“알았어.”

그는 망설임 없이 대답했다. 이 목소리에는 송하나가 단 한 번도 느껴본 적 없는 다정한 온기가 담겨 있었다.

“20분만 기다려. 금방 갈게.”

통화를 마치고 이강우는 몸을 돌려 떠났다.

송하나에겐 눈길 한 번 주지 않은 채.

몇 분 후, 아래층에서 차가 떠나는 소리가 들렸다.

송하나는 눈물이 베개를 적시고 창백한 손가락으로 이불을 꽉 움켜쥐었다.

사랑하는 것과 아닌 것의 차이가 이토록 선명할 줄이야.

다음 날 아침.

송하나는 이혼합의서를 남겨두고 캐리어를 챙겨서 집을 나섰다.

복부에서 날카로운 통증이 느껴졌고 몸 아래에 뜨거운 무언가가 흘러내리는 듯했다.

고개를 숙이고 보니 다리에서 피가 뚝뚝 떨어졌고 끔찍한 핏자국이 바닥을 뒤덮었다.
Expand
Next Chapter
Download

Latest chapter

More Chapters
No Comments
158 Chapters
0.Prologue
一体なにがどうなって、私はいま大嫌いだったはずの彼とともにベッド――こんなところ――にいるんだろう。 「なぁ凜子《りんこ》。――髪、ほどくぞ?」 ふたつ分けの三つ編み――いわゆる〝おさげ〟――は私のトレードマーク。 それをほどかせろ、と私に馬乗りになっている男が言った。 束ねられるくらい髪が伸びてから今まで、誰にもそれをほどいたところなんて見せたことない。 おろし髪を見せるのは、自分のなかの女をアピールしているみたいで……何だか恥ずかしいと思ってしまって。 子供の頃からずっと、私は人前に出るとなると慣れ親しんだ三つ編み姿しか披露したことがないのだ。 小学生の頃、クラスの男子に髪の毛を引っ張られて、髪留めを外されたことがある。 ほどけてほぐれたウェーブのかかった腰まで届く髪の毛に、私はすごく恥ずかしくてだらしない姿になった気持ちがしたの。 一生懸命自分で髪を束ねてみたけれど、不器用だった私がやったそれはとても汚くて。 帰宅後お母さんに「ボサボサでみっともない」って叱られて、すぐさま結びなおされた。 それ以来、人前でおさげをはずしてはイケナイと言う想いは一層強固になった。 「こっ、このままでも……! っていうか、出来ればど、どこにもっ……さわらないで……欲しいですっ」 そのことを思い出して、この期に及んで私はこういうことをするのはやはりやめておきませんか?と彼を必死で見上げたら、「却下。結んであったら引っ張りたくなるし、さすがにここまで来て手を出さないとか、そんな選択肢選ぶヤツがいたらアホだと思うわ」とにべもなく返された。 「なぁ凜子、いい加減覚悟を決めて、俺にすべて任せろって。痛くしないとは言わねぇけどさ。絶対俺は後悔しないし……凜子と気持ちよくなれる自信があるんだよ」
last updateLast Updated : 2025-08-01
Read more
1.大嫌いな常連客①
「向井《むっかい》ちゃーん!」  いきなり気やすげに名前を呼ばれて、私はゾクリと肩を震わせる。  本当何なの。  自慢じゃないけれど、そんな砕けた呼び方で私を呼ぶ友人はひとりもいない。  こんな変な呼び方で私を呼ぶのはあの男ぐらいしかいないから。無視よ、無視!  私はあえて聞こえていないふりをして、歩く速度を緩めない。  だって今、私はバイト中じゃないし、声の主だってお客さんじゃない。  立ち止まって、バイト先の常連客である彼に時間を割く必要なんてどこにもないのだ。  それに―― それに……あんなことがあったのに、気まずくないの? 「うっわー、あからさまに無視するとか感じ悪ぅーい」  なのに、いっかな懲りた風のないその男は、わざわざ早足で私に追いつくと――というか私を追い越すと、行く手を阻むみたいに前に立ち塞がるの。  人が三人並んだらいっぱいいっぱいの狭い路地。  彼に手を広げられて通せんぼをされたらお手上げ。  はぁっと大きな溜め息をついて長身な彼を見上げたら、ニヤリとされた。  身長一五七センチの私から見ると、一八〇あるらしい彼は本当に大きくて。  間近に立たれると仰ぎ見るように見上げなくてはいけない。  それがまた見下されてるみたいで腹立たしいの。 「邪魔なんですけど」  彼の明るく染められた少し長めの髪の毛が、太陽の光を受けてキラリと輝いた。  北欧の人でもあるまいに、ともすると金髪にも見えそうなその髪を見て、年甲斐もなく馬鹿なんじゃないの?とか思ってしまう。  私より一回り以上も年上なくせに、全く地に足のついていないようなこの外観。  今は付けていないけれど、ピアスの穴だって開いてるの、知ってるよ?  遊び人然とした彼の雰囲気が、私は本当に大嫌い。  もちろん、中身も見た目を裏切らず軽薄で本当イヤ。  大事な人がいるくせに、こんな風にあちこち女の子に声をかけるところも。  さほど仲もよくないの
last updateLast Updated : 2025-08-01
Read more
1.大嫌いな常連客②
 それでも我慢できなくて、はぁーーーっ!とひとつ盛大な吐息を落とすと、「離してください、お願いします。鳥飼《とりかい》……奏芽《かなめ》さん」  先ほどよりもさらに棒読み。まるでお経みたいに言ってやったの。 「んー。どうしようかなぁ。今日こそは俺、キミの下の名前教えてもらいたいんだけど? そうしたらすぐにでも離してあげようじゃないか」  って約束が違いますよね!? 「おじさん、約束が違います、おボケになられたんですか?」  腹立たしくてわざとそう言ったら「わー、向井《向かい》ちゃん、今日もとっても辛辣っ♥ お兄さん痺れちゃーう♥」ってクネクネされた。  気持ち悪いのでやめてもらっていいですか?  私がそういう風にされるのが嫌いだと知っていて、わざとやっているのが分かるのがまた腹立たしい。 「ね? 名前」  再度催促されるように言われて、私は今度こそあからさまに盛大な溜め息をついてやった。 「あなたに教える名前なんて持ち合わせておりません。どうかお引き取りを」  言ったついでにギュッと力を入れて手を引いてみたけれどやっぱり腕、振り解けなかった。 「いい加減痛いんですけど」  それに時間もないっ。  握られた手に、もう一方の手を添えて引き剥がそうと頑張りながら睨みつけたら、「ちょっとそれゾクゾクするんだけど」って本当この人、馬鹿なの? 「おっと」  私の反応なんてお構いなしにそう言った彼に、不意に手をグイッと引っ張られて腰を抱かれる形になった私は、驚いて思いっきり彼の胸元を叩いた。  抱き寄せられた拍子に、ビクッとなって肩に掛けていたショルダーバッグを落としてしまった。  と、その荷物のすぐ横を自転車が通過していって、ドキッとしてしまう。  もしかして彼、それから守ってくれた? 「もう少し食べた方がいいね、〝凜子《りんこ》ちゃん〟」  少しはいいところもあるのかも?と見直しそうになった途端、それを払拭するように腰から
last updateLast Updated : 2025-08-02
Read more
1.大嫌いな常連客③
それに……そもそもそういうのって、そんな軽く、今からご飯どう?みたいなノリで言っていいものなの!? もっとこう、照れたりはにかんだりしながら恐る恐る相手におうかがいを立てるものなんじゃ……ないの? 少なくとも私は……それがいい。 そんな風に大事に大事に言葉をつむいでくれる人が……いい。 あと、私だけを見てくれる人じゃないと嫌! ので、あれは知らない。 聞かなかったことにするっ! *** それにしても……よ。 馬鹿みたいにいらない時間を食ってしまった。 バスが来る時刻まで、あと一分ないじゃないっ。 乗り遅れたらどうしてくれるの!? 思いながら息を切らせて走って……走りながらあの人だって、朝の診察時間に間に合わなかったら困るんじゃないの?ってふと考えてから、今日は木曜日で休診日だったんだ、って思い至った。 どこまでもマイペースで自分勝手な男! 自分が休みなのをいいことに、朝っぱらから私のこと、からかいに来たんだ。 そう思ったら、背後に置いてきたかなり年上のバカ小児科医のことが、たまらなく憎らしく思えた。 やっぱりアイツ、大嫌いっ! *** 走って走ってようやくバス停が見えてきたところで――。 バスが! 乗らないといけなかったバスが! 角を曲がって走り去っていく様が目に入った。 もぉー、もぉー、もぉー! 本ッ当最悪っ! あの男の通せんぼさえなければ余裕で間に合っていたはずなのに。 一限目はどうしても落としたくない講義だ。どうしよう……。 バスは上りも下りも一時間に一本か、多い時間帯でも2本。 次の便を待っていたのでは、完全に遅刻。 (タクシーで……) ふとそう思ったけれど、片親世帯の貧乏学生の私にはハードルが高すぎる。 そんな無駄遣いをしたら、必死で働いて私を大学まで行かせてくれている母に申し訳が立たない。 誰かお友達と乗り合いで、とかならまだしも、一人で乗るのとか……絶対に無理。 うー。 バス停まであと数メートルという地点に茫然と立ち尽くして泣きそうになっていたら、諸悪の根源がのんびりと追いついてきた。 「なぁ、なぁ。――ハウスって……俺、犬じゃねぇんだけど」 言われて、「犬の方がマシ!」と睨みつけたら「わー、凜子ちゃん、ご機嫌斜めぇ〜。絶対
last updateLast Updated : 2025-08-02
Read more
1.大嫌いな常連客④
 私をぐちゃぐちゃにかき乱すそういう言動の数々、大っ嫌い。  私は基本的に異性に対する耐性が、ものすごく低いの。  なのにこの人の過剰なまでの距離感のなさは、私には毒にしか思えない。  小さい頃からずっと地味子できたから、異性と話したことなんて数えるぐらいしかないの。  だからお願い、そっとしておいて?  私が気負わずにおしゃべりできる男の子はたった一人だけなんだから。  そこでふと、今は何だか少し気まずい雰囲気になってしまっている幼なじみのお兄さんの顔が思い浮かんで、私は思わずうつむいた。  私より六つ上の彼は、今や立派な社会人。  公立の小学校で先生をやっている彼――本間《ほんま》信昭《のぶあき》――に憧れて、私は大学で学校の先生を目指して日夜勉学に励んでいると言っても過言ではない。  生活費の足しにしたくてアパート近くのコンビニでバイトはしているけれど、それ以外はちゃんと真面目に勉強しているの。  それもこれも、憧れの人の背中に少しでも近づきたかったから。 (のぶちゃん、あれから会えてないけど元気かな……)  とか考えていたら、眼前の最低男が、頬に触れていた手を髪に移動させてグイッとおさげを引っ張り上げてきた。 「痛いっ!」  未だ触れたままだった彼の手にギュッと力を込めて抗議の声を発したら、「凜子、今、別の男のこと考えてただろ?」って睨まれる。  私の何をそんなに気に入ってくれたのか分からないけれど、ひとつだけ言えることがある――。 「そんなのあなたには関係ないっ」  そもそも名前を呼び捨てにされる覚えなんてない。 「なぁ、今、凜子の前にいるのは誰だ?」  私の抗議なんて聞く耳を持たないみたいに、自分の言いたいことをガンガン押し付けてくる彼がすごく苦手。  嫌で嫌でたまらないのに、私は何故か気がつくといつも彼のペースに巻き込まれてしまっている。 「あなただけど……」 「名前」
last updateLast Updated : 2025-08-03
Read more
1.大嫌いな常連客⑤
「で、さっきの続き。誰のこと考えてた? もしかして……前に俺の目の前で電話した相手?」  わー、まだそれ言うんだ。結構しつこーい。しかもあんな電話のこと覚えてるとか……少しびっくりです!  私は彼の目をまっすぐ見返すと 「奏芽《かなめ》さんには関係ありませんけど――」  キッパリそう言って、フイッと背中を向けてやったの。  そんなことよりも、今の私にはどうやって大学へ行くか?の方が重要なの!  あなたにはお休みでも、学生の私にとっては普通の日なんだと、いい加減気付いてもらえませんか? 「何だよそれ……」  なのに。背後からの不満たらたらな声に、言わないといつまでもしつこそうだなって思い直した私は、振り返らないままに「そう、前話した電話の人! 私の初恋の人です。奏芽さんも会ったことあるでしょ!?」って答えた。  ゴム返すとか何とか言って私とのぶちゃんの間に割り込んできたじゃない。  結局色々あってゴムは返してもらってないけど……。  でもそのせいで私、色々悩んだのよ?  これで満足ですか?  ちゃんと答えたんだからもういい加減解放してください。  そう続けようとしたら、後ろから包み込むようにギュッと抱きしめられて、思わず言葉に詰まった。  えっ。  ちょっ、な、なにっ。  奏芽さんの長めの髪が頬をかすめた途端、ふわりと彼が使っているらしいシャンプーの香りが鼻先をくすぐって、それが妙に心をざわつかせた。  てっきり如何にも香水ですっていうマリン系の香りとかそういうのがこの人には似合うと勝手に思っていたのに、まさかの柑橘系の香り。そのギャップにもドキッとさせられてしまう。 「あ、あのっ、お願いなのでっ、そういうのは私以外の人にっ!」  何だかにわかに恥ずかしくなって、一生懸命奏芽さんの腕を振り解こうとしたら「あれからあいつに会ったのか?」って耳元でささやかれる。 「かっ、奏芽さんには……関係ありませんっ」  あの夜以来、のぶちゃんとも奏芽さん同様気
last updateLast Updated : 2025-08-03
Read more
1.大嫌いな常連客⑥
「ところで凜子。バス、間に合わなかったんじゃね?」  って、如何にももののついでみたいに言ってきて……その瞬間、私が困ってるの、やっぱり知ってたんじゃないって思って、すごく腹が立ったの。  っていうか……だったら今の私がこんなことをしている場合じゃないっていうのも、分かるよね? 「そうよ! だから……離してっ! 私、急いで大学に行かないといけないのっ!」  再度 奏芽《かなめ》さんの腕からすり抜けようともがき始めた私に、奏芽さんが「どうやって?」って静かに問いかけてきて、私はグッと言葉に詰まる。 「まさか走って行こうってわけじゃねぇだろ?」  畳み掛けるように言われたセリフに、ますます言葉を失って黙り込んだ。 「なぁ、俺が車で連れてってやろうか?」  奏芽さんがまるで満を持したみたいにそう言って私の耳元でクスッと笑った時、絶対確信犯だって思ったの。  だから――。  本当は喉から手が出そうなくらい願ってもない申し出だったけれど、フルフルと首を横に振って彼を拒絶した。 「かっ、奏芽さんの車に乗ったら……真っ直ぐ大学にたどり着ける気がしないので……っ!」  言って、素早くしゃがみ込んで彼の腕をまんまとすり抜けると、私は再度捕まったりしないで済むように、くるりと向きを変えて彼を視界に収めた。  一歩、二歩と後退りながら彼から距離を取りつつ、奏芽さんの出方を窺う。  奏芽さんは心底楽しそうにニヤリと笑うと、私が下がった分以上の距離を詰めてきて。 「さすが俺が見込んだ女だな、凜子! そういうお堅いところ、正直たまんねぇわ。……けど、まぁそうだなぁ。だったら――」  そこでスマホを取り出すと、何やら操作をしてから、「タクシー呼んでやったから」って私に画面を見せてくる。  何?と不審に思ったのも束の間。  私はすぐに驚きの声を上げてしまった。 「うそっ。最近って、アプリでタクシー呼べちゃうのっ!?」  タクシーといえば道路を流しているの
last updateLast Updated : 2025-08-04
Read more
2.第一印象は最悪で①
 大学生活が始まって程なくして、私は近所のコンビニ――セレストア――で、平日の十八時から二一時の時間帯を中心に、シフトを組んでもらえるようにお願いしてバイトを始めた。  現在時刻は19時半。  夕方と夜の橋渡しのような微妙な時間帯だけれど、夕飯やお酒やおつまみなんかを求めて来るお客さんで、結構店内は賑わっている。  にもかかわらず、お店って不思議と一気にレジへ人が押しかけるタイミングと、あれ?ってぐらい人が引ける瞬間があって……今は後者に当たっていた。  店内に散らばって買い物中のお客さんたちから見えないように一度背後を振り返ってうつむくと、ふぁ、と小さくあくびを噛み殺す。  昨夜も夜遅くまで勉強をし過ぎてしまった。 「眠い?」  一緒にシフトに入っている谷本くんに小声で聞かれて、私は慌てて背筋を伸ばした。 「ご、ごめん、なさっ」  3人体制の勤務で、1人が自分より少し年配の男性店長、もう一人が同年代の男の子は結構ハードルが高くてキツイなって思ってしまう。  女の子でも馴染むまで時間かかってしまう私だけれど、異性に感じるほどの気まずさは感じないのに。  谷本くんは他所の大学の学生さんで、私より一つ上。  学部が違うから学んでいる内容は違うと思うし、あまり大学の話――というより私生活については私、語らないようにして過ごしている。  そんなの私なんかに話されても困るだろうし、とか思って勝手に線引きしているだけなんだけど、谷本くんの方はそうでもないのかな?  割と気楽に話しかけて来るから、結構ドキッとしてしまう。 「あ、ごめん。責めてないよ? ただ、今日は目元がいつもに増して潤んでるから、あくび、ずっと我慢してるのかな?って思ってた」  クスクス笑われて、私は慌てて指先で目尻をこすった。 「そんなひどくしたら赤くなるよ?」  心配そうに言われたところで、谷本くん側のレジにお客さんが並ぶ。 「いらっしゃいませ」  谷
last updateLast Updated : 2025-08-04
Read more
2.第一印象は最悪で②
 ピィーという電子音がして、私は急いでお弁当を取り出すと、用意していた袋に入れた。 「おまたせしました」  ニコッと微笑んで三十代男性に手渡してから、「ありがとうございました。またお越しくださいませ」と定型句を告げて一区切り完了。  ふと見ると、くだんの男女は衛生用品のあたりにいて、女性がキャーキャー騒ぐのをたしなめるように男性がシーッと口元に手を当てた。  案外見た目に反して常識的なところもあるのかな?と思ってから、そういえばあの人たち、いくつくらいなのかしら、と思う。  私や谷本くんよりは上だろうけど……地に足のついてなさそうな感じは、私たちを上回っている気がした。  どうか谷本くんの方へ並んでくれますように。  祈るような気持ちで次のお客さんの接客開始。  二十代半ばくらいの女性が、サンドイッチとレギュラーコーヒーを注文なさって、私はカウンター上の棚に置かれたレギュラーコーヒー用のカップを取り出すと、サンドイッチを入れた袋の側に置いた。  谷本くんの方も私の方もあと1人ずつのお客さん。  レジを通す内容によって時間のかかり具合もまちまちで、私はソワソワしてしまう。  だってあの2人連れが、レジのほうに近づいてくるのが見えたから。  どうか私の方に当たりませんように!  今まで合いそうにないお客さんに対して、そんな風に願うことはなかったのに、何故か今回だけは強く強く意識してしまった。  何だかよくわからないけれど、第一印象からして最悪だったんだもの、仕方ないわ。  白衣も脱がずにコンビニに立ち寄って、人目もはばからずに女性とイチャイチャ。  本当一番《いっちばん》嫌いなタイプの男性よ。  それが、鳥飼《とりかい》奏芽《かなめ》という男に私が初めて出会ったときに感じたウソ偽らざる気持ち。  きっと、今思えば生理的に受け付けない、っていうのに近かったんじゃないかな?って思う。 ***  谷本くんのレジと私のレジ、ほぼ同時に
last updateLast Updated : 2025-08-05
Read more
2.第一印象は最悪で③
高校生の頃、背の高い男子に上から見下ろされて「下着《ブラ》見えてるよ」って下卑た笑いを浮かべられたことがある。 それもあって、あまりに長身な人は苦手。 たくさんの商品が入ったカゴを存外静かにカウンターに置いた彼に、私は内心(谷本くんの方に行けばいいのに)と思いつつ……営業用スマイルで「も、もちろんです」と答えた。 見た目、ガサツっぽく見えるのに、意外と優しくカゴを扱うんだな、と思ってしまって、危うく毒気を抜かれしまいそうになる。 けど、勘違いしないでね? 仕事だから引き受けたのよ? そんな風に斜に構える私を、いっかな気にした風もなく、「じゃあこれね」とてんこ盛りに商品が入れられたカゴを指差してから、 「ねぇ、キミ、新人さん? 今時おさげって珍しいけど……すごく似合ってると思うぜ。――あ。名前は……向井《むかい》さん?」 とか。 胸に付けた名札を見られたらしい。 見られたのは名札のはずなのに、関係ない髪形のことをさらりと付け加えられたからか、胸自体を見られてしまった錯覚がして……ソワソワしてしまう。 コンビニの制服は胸元なんて開いてないんだから大丈夫なはずなのに、さすがに自意識過剰な反応だよ。 それとも眼前の男の声が思いのほか自分好みだったから、おかしくなっちゃった? 正直な話、初対面のはずなのに臆することなくガンガン話しかけられて、私は戸惑いまくりだ。 いっそ、「もう黙ってていただけますか!?」って睨みつけることができたらどんなにか楽なのに。 「あ、は、はい」 でも、彼は一応お客さんなので、これしきのことで邪険にもできないし。 「よろしくね、〝向井ちゃん〟。俺、この近所のビルで小児科医やってる鳥飼《とりかい》奏芽《かなめ》。ここには結構頻繁に買い物に来てるから、また会えると思うよ? 覚えといて?」 なぜそこで自己紹介!? チャラ男の思考回路はやはりさっぱり分からないです。 さっき知ったばかりの私の名前を馴れ馴れしくも「向井ちゃん」とか言ってきてるのもゾワッてするほど私とは相入れない。 「……は、はい……」 なんて応じるのが――というよりかわすのが――正解なのか分からなくて、私は気のない返事を返してしまう。 カゴの中の商品をひとつずつレ
last updateLast Updated : 2025-08-05
Read more
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status