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第191話

Author: 三佐咲美
突然のキスは、まるで嵐のように私を襲った。

慎一の舌先は信じられないほど巧みで強引に、私の口の中を隅々まで探ってくる。頭が真っ白になり、抵抗する暇もなく、全身の感覚が一気に溶けていく。ただ、鼻先をかすめる淡いタバコの香りだけが、私の脳を痺れさせる。

彼は言葉もなく、ただキスだけで欲望をぶつけてくる。その熱に、私の血は頭に昇り、体中の神経が焼き尽くされそうになった。痛いくらいに、苦しくなるほどに。

我に返った私は、手を伸ばして彼の胸を押し返そうとしたけれど、それすら彼に指ごと握られて、逃げ道を塞がれる。

次の瞬間、手の甲が車窓に押し付けられ、熱い跡が残った。

慎一は、まるで理性を失ってしまったみたいだった。

私の体は、寸分の隙もなく彼に閉じ込められる。逃げ場なんて与えてくれない。冷たかったはずの唇と舌も、激しい絡みに熱を帯びていく。言葉を発しようとした瞬間、彼はさらに深く舌を差し込んできて、私の抵抗も嗚咽も、すべて飲み込まれていった……

どれくらい経っただろう。やっと一瞬、息をつける隙間ができた。その瞬間、私は彼の舌先に思いきり噛みついた。血の味が口の中に広がる。彼は痛みに顔を歪めて離れた。

慎一が、血の滲んだ舌先で唇を舐めながら、真っ赤な目で私を見つめる。その目には責めるような色が浮かんでいた。「まだ、俺のことが迷惑だって思ってるのか?」

嗜虐的なその姿に、私は言葉が出なかった。唇が震える。

私は高く腕を振り上げて、彼の図々しい顔を思い切り打った。

パァン!

大きな音が車内に響き、彼の顔が横を向く。

彼は避けようともせず、私の一撃をまともに受け止め、頬には赤い跡が浮かんできた。

「私たち、離婚するのよ!」私は震える声で叫んだ。

「知ってるさ」彼は顔を戻し、親指で頬をさすりながら、冷笑を浮かべる。「だったら、徹底的に迷惑してくれよ。離婚してからも俺に絡まれるとか、マジで勘弁だし」

「これは、もう犯罪よ!」

「ふん、お前、俺に何ができるっていうんだ?」

そう言うなり、私に思考の隙間すら与えず、片手でうなじを掴み、また私を引き寄せてきた……

私は、彼の言葉に手足を縛られたみたいに、どうしようもなかった。沈むような苦しさが胸を締めつける。

彼は、雲香と同じことを言ったのだ。

きっと、慎一が彼女を保釈した時も、あの誇り高い態度で、この
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Comments (1)
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シマエナガlove
兄妹で抱き合うとか 気持ち悪 最初から結婚するなよ 犠牲者増やすな 裁判で暴露して 社会的に抹消されて 加奈には再婚して 可愛い赤ちゃん産んで クソ家族見返してやれ
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