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第351話

Author: 三佐咲美
慎一が着ていたのは、薄手のシルクのルームウェアだった。

「康平」に一番衝撃的な場面を見せるために、彼はドアを開ける前、唯一留めていたボタンまでわざわざ外していた。

そんな色気たっぷりな格好の彼を見て、雲香は距離を取るどころか、まっすぐ彼の胸に飛び込んだ!

慎一も彼女をすぐには突き放さなかった。

数日ぶりの再会、二人の瞳に映るのは、お互いだけ。

私の声が聞こえた瞬間、慎一は雲香の頭に手を乗せて、ぐいっと押しやった。「少し痩せたな。でも、勢いはすごいぞ」

彼女にぶつかられて、危うくバランスを崩しそうになる。

それでも手を離さず、雲香を自分の前から脇へと移動させて、「挨拶しろ」と言う。

雲香は私の目の中に燃えるような怒りを見て、「挨拶?誰に?」と戸惑う。

慎一の意図が読めないらしい。

心底うんざりした。

つまらない。

私は彼の袖を掴んで、ぐいっと引っ張る。

慎一は何をするのか分からないまま、素直に従う。

私は彼の上着をそのまま引き剥がした。

服を一つに丸め、雲香の顔に投げつける。

「ほら、よく見なさい。自分のお兄ちゃんだよ」

雲香は赤い唇を噛みしめ、湿った瞳を赤く滲ませて、まるで悲しげで、それでいてどこか誘惑的。慎一がどう思っているのかは分からない。

彼は眉をひそめて私に言う。「佳奈、何してるんだ?」

私は彼の肩を押し、もう片方の手で雲香の腕を掴み、二人を玄関の外に押し出し、バタンとドアを閉めた!

あの高橋すら入れない場所が、雲香だと特別扱いになる。

なら、二人で一緒に外に出てもらおう!

扉の外からは泣き声が聞こえてくる。

「服、返してくれ」と慎一は言うけど、もうどうでもいい。

私は部屋に戻り、霍田当主に電話をかけた。彼はすぐに出てくれた。

「佳奈、どうしたんだい?珍しいな、電話してくれて」

彼の声は記憶の中と変わらず優しい。でも、何もなかったことにはできない。過去には戻れない出来事もある。

「さっき、雲香が慎一に会いに来て、私たちも今度お会いしたいって言ってた。でも、実は……慎一にもう三日間も家から出してもらえなくて、誤解されるのも嫌なので、先にご連絡をと思って」

「ほぉ?あのバカ息子が、そんなことするなんてなぁ」霍田当主は愉快そうに笑う。「まあ、雲香のことは気にしなくていい。お義父さんがちゃんと話つけるから」

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Comments (2)
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美智代
頑張って読んできたけど、ずっとぐだぐだで心が折れそう。 全然進展しない。 この話は、いったいどこに向かっているのかしら…
goodnovel comment avatar
シマエナガlove
義妹が抱きつく 慎一抵抗しない それだけでもキショい 国外に追放すらしない 約束も守らない 佳奈は愛情ない 復縁迫るより 義妹とやってけば
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