FAZER LOGIN東京の殆どをシマとする極道組織、桔梗組の若頭皐月慎吾の妻である私は何者かに誘拐された。 薄暗く汚れた部屋。手足を縛られ身動きの取れない私の目の前には一人の女と男。手にはチャカが握られている。 始めは敵対組織である南雲組関係の者かと思っていたが、犯人は皐月慎吾とその愛人だった。 私の死を南雲組の仕業に仕立て上げ、大義名分として南雲組に攻め込むつもりなのだ。 私の最期は愛していた元夫の手により向えた。 だが一度意識が無くなった私は再び意識を取り戻す。 意識を取り戻し最初に見た光景は知らない病院の天井と隣で私の手を握る南雲組若頭、成瀬雅だった。 成瀬雅の嫁に転生した私は自分を裏切り殺した皐月慎吾と愛人に復讐する。
Ver maisソファーに座りながらスマホに表示された現在時刻を何度も何度も確認している。 二人の話し合いの約束時間は残り二分。 耳につけられたイヤフォンからはまだ何も聞こえない。会場についてから連絡をくれるみたい。 「姐さん、コーヒーでも飲んで少し気を落ち着かせてください。頭なら大丈夫ですから。それに今回は話し合いですから」 そう言って組員の一人が私の前にコーヒーカップを置いてくれた。「ありがとう」 確かに少し落ち着かないといけないわね。 でもそう思っても落ち着かない。 だって躊躇いなく私の事を撃ち殺した相手と一緒になるんだから。そんな人が何をするかなんて想像できない。「ッ⁉」 コーヒーを一口飲むと同時に耳音で雑音が聞こえた。『姐さん、聞こえますか。まだ車内なので声を出していただいて大丈夫です』「ええ、聞こえます」『よかった。これから車を降りるので姐さん側はミュート状態にしてください』「分かったわ、今からミュートにする」 ミュートボタンを押すと『では頭、行きましょう』という声が聞こえた。 それから二人は一言も会話をせずに歩く音だけが聞こえてくる。 そして――。「時間ぴったりだ。久しぶりだな雅」 心臓を貫くような感覚に襲われる低い声。 間違いなく慎吾の声だ。「世間話をするつもりはないだろ? 早速本題に入ろう。今回の件に関しては我々も心を痛めている。本職の人間以外を狙うのは完全なる仁義外れの行動だ。そしてこれだけは言える。今回の件に南雲組は一切関与していないと」「じゃあ証拠はあるのか? 今現在犯
静まり返ったリビングに、テーブルの上へ置かれた雅さんのスマートフォンの着信音が鳴り響いた。 突然の音に舞桜が少しだけ身じろぎをしたため、私は慌ててベビーベッドを優しく揺らした。「よしよし……大丈夫だよ」 舞桜は再び静かな寝息を立て始める。 その一方で、スマホを手に取った雅さんの表情は一瞬で引き締まっていた。 画面に表示された名前を見た瞬間、私は嫌な予感がした。「……親父だ」 雅さんは私に一言だけ告げると、そのまま電話へ出た。「俺です」 電話口から聞こえてくる声は私には聞こえない。 それでも雅さんの表情だけで、良い話ではないことは十分伝わってきた。「……そうですか」 数秒の沈黙。「分かりました」 雅さんは短く返事をすると電話を切り、スマホをゆっくりと机へ置いた。 そのまま数秒間、雅さんは何も言わない。「……雅さん?」 恐る恐る声を掛けると、雅さんは私を見つめながら口を開いた。「桔梗組から連絡が来たらしい」 胸が大きく跳ねた。「俺宛てにな」 やっぱり……慎吾が動いた。「内容は?」「話し合いだ」 雅さんはソファへ腰を下ろした。「皐月七瀬の件について、若頭同士で直接話がしたいそうだ」 私は思わず息を呑む。 慎吾が自分から話し合いを持ち掛けるなんて。 けれど、よく考えてみたら当然かもしれない。 自分が犯人だからこそ相手の反応を直接確かめたい。 そして南雲組へ揺さぶりを掛けたいのだろう。「場所は?」「港区にある料亭『紫苑亭』どこの組にも属していない中立の場所だ」 なるほど。 互いの組事務所では警戒される。 だからこそ第三者が管理する場所を指定したのね。「日時は?」「明日の午後二時」 思ったよりもずっと早い。「断ることはできないの?」 私が尋ねると、雅さんは静かに首を横へ振った。「できない」「どうして?」「これは正式な申し入れだからだ」 雅さんは真剣な表情で説明を続ける。「極道には暗黙の了解がある。正式な話し合いの場を設けると言われた以上、正当な理由なく断れば『南雲組は後ろめたいことがある』と他の組から見られる。」「……」「そうなれば桔梗組は俺達南雲組がやったに間違いないと思うだろう」 つまり断ること自体が相手の思う壺。「逆に向こうも話し合いの場では手を出せない。」「どうして?」
私が話しだそうとすると「長くなりそうか?」と聞かれ無言で頷くと「まずは料理を食べてからにしよう」と言われ、雅さんに作ってもらった料理を平らげた後二人でソファに腰を掛けた。「それで? 話ってなんだ?」 優しい声色で聞かれ、私は少し間を開けて口を開いた。「私舞桜を産むときに意識を失ったでしょ? その時に変な夢? のようなものを見たの」 私の言葉に雅は表情を変えず「どんな夢なんだ?」と返した。「場所は分からない。薄暗くて気味の悪い場所に私……いえ、知らない女の人が手足を縛られながら血を流していたの」「知らない女……」「その女の人の前に一人の女と男が立ってて、手にはナイフと銃を持ってたの。それが凄く不気味で、今まで誰にも話せなかったんだけど私の記憶喪失とかに関係あるのかなってちょっと思っちゃって」 それっぽい事を話しながら雅さんになんとか話を続ける。「その女性とか男性に見覚えはないのか? 特徴とか、もしかしたら美桜の知っている人かもしれない」「男の人は身長が高くてフードを被っていたから顔はあまり覚えていないの。もう一人の女の人は首元に黒子があった気がする……」「……首元に黒子のある女性……分からないな」 雅さんはしばらく考えてくれたけれど私の周りに一人も首元に黒子のある女性は居ないみたい。 つまりあの女は南雲組とは深く関係のない。桔梗組に居た時もあの女は一目も見たことがない。 けれどあの女、人の死に慣れている……いや、裏社会に慣れている感じがする。 普通チャカやドスを握ると少しは躊躇いが生まれるけれど、あの女は躊躇なく私にドスを当て、銃の引き金に指をかけていた。 どう考えても堅気の人じゃない。 そうなると別の組に関係する女……。「それで、縛られていた女性に関しては特徴はないのか?」「えーっと……」 どうしよう。素直に皐月七瀬と言われていたと言うべきなのかな。 でもここで遠回しに特徴だけを言っても中々前に進まないと思う。 それに何よりも長引かせてしまったら雅さんの身に危険が起きるかもしれない。それだけは絶対に避けたい。舞桜の為にも……。「確か……七瀬って、皐月七瀬って呼ばれていたはず……」「ッ⁉ 今何て言った⁉」 私がそう言うと雅さんは初めて表情を変えて私の肩を掴み慌てて聞き返してきた。「女の人が縛られている女の人にナイフ
「ここが我が家だ」 雅さんと一緒に来たのは高級マンションの一室。 窓から見える夜景は絶景で見入ってしまう。隅々まで綺麗に掃除されており、整理整頓も完璧。七瀬として生きていた時もそれなりには良い所に住んでいたのだけれど、あの男とは高級住宅街にある一軒家で共に暮らしていた。 こんな景色見たことがない。「まずは部屋を案内しよう」 一室一室広い部屋を案内された後、まさかの一つ下の階の部屋にも案内された。 下の階の部屋はそこまで使う事はないとの事だけれど……。「どうだ? 気に入ってもらえたか?」「ええ、とても」 美桜さん、雅さんから凄く愛されていたんだな……。 ごめんなさい、美桜さん。貴方の身体を受け取ってしまって。 美桜さんは雅さんともっと一緒に暮らして幸せになりたかったと思う。それに辛い妊娠期間も舞桜に会いたいって気持ちで乗り越えてきたはずなのに舞桜には会えなかった。 そんな美桜さんから受け継いだ命。必ず雅さんと舞桜を幸せにしてあげないと。 それが私が美桜さんにできる唯一の事だから。「しばらくは美桜の仕事は俺と舎弟の若集でするから美桜はゆっくり休んでくれ」「私は何の仕事をしていたの?」 私は桔梗組では組の事務作業を手伝ったり料理を振舞っていたけれど南雲組での仕事はなんなのかしら。 同じ事だと新しく何も覚えなくて良いから楽なのだけれど……。「仕事って言っても殆ど無いんだけどな。忙しい時期の事務作業を少し手伝ってもらったりしていたんだ。それと夜まで組事務所で事務作業をしている組員の夕飯を作ってもらっていたんだ」「それくらいなら私にでもできそうね」「その事は今は考えなくても良い。美桜は自分と舞桜の事だけを考えてくれれば良い」 そう言うと雅さんはキッチンに立ち「何が食べたい? なんでも言ってくれ」と私に聞いて来た。 雅さん、料理できるんだ。「なら雅さんの得意料理が食べたいな」 舞桜をベビーベッドに寝かせながら答えると雅さんは慣れた手つきで料理を始めた。 雅さんが料理をしてくれている間、私はひたすら考えた。 どうやってあの二人に復讐をしようかと。 考えて考えて考えた。でもどれも最善策とは思えない。 もし何の考えも無しにあの二人を殺したら間違いなく全面戦争になる。 桔梗組と南雲組が全面戦争なんてしたら幾つの命が消えるか分か
「…………んっ」 あれ、私……うっ、身体中が痛い……。 そうだ、私慎吾に銃で撃たれて…………。 「あ、美桜さん目覚ましました」 「良かった……よく頑張ったな美桜」 ッ⁉ 違う! 私さっき子供を! 目を覚まし横を振り返ると私を見つめる男が居た。 「な、成瀬雅……よね?」 「そうだ! お前の夫の成瀬雅だ。大丈夫か美桜」 「なんで……私死んだはずじゃ……」 一体どういうことなの。どう見ても私の身体じゃない。爪もこんなに長くないしそもそも私は妊娠なんてしていない。 何より私の名前は美桜じゃないし成瀬雅の妻でもない。 生まれ変わり……まさか、そんな馬鹿な事があるの
「んっ……」 眩しい光が瞼を刺した。 耳元では慌ただしい声が飛び交っている。 「意識戻りました!」 「美桜さん! しっかりしてください!」 美桜……? 誰のこと? 重たい瞼を開けると、白い天井が視界いっぱいに広がった。 病院……? 鼻をくすぐる消毒液の匂い。 周囲にはナース服を着た女性達。 状況が理解できない。 その瞬間だった。 「いっ……たぁぁぁぁぁ!!」 お腹の底から突き上げるような激痛が全身を貫いた。 思わず悲鳴が漏れる。 「痛い!! な、何これ!?」 お腹が張り裂けそう。 腰は砕けそうなほど痛い。頭痛も激しい。 下半
汚れた部屋。手足を縛られ身動きの取れない私の目の前には一人の女と男が立っている。男は深くフードを被っており顔は確認できないが手には真っ黒なチャカが握られている。 私の服は自身の血で汚れ、頭から流れる血で視界はどんどん悪くなる。 冷え切った身体と鼻孔を刺激する血の匂いが死へのカウントダウンが刻一刻と迫っているのを実感させる。 「はぁ、はぁ……貴方達私が誰か分かっているの!?」 散々殴られ、蹴られた私は残り少ない体力を使い二人に吠えた。 私の問いに二人は不敵に笑った。 「痛ッ!?」 「貴方が誰かって? 桔梗組若頭、皐月慎吾の妻……皐月|七