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第394話

Auteur: 三佐咲美
この家にいると、息が詰まりそうになる。

私は外に出て、久しぶりに両親の墓参りに向かった。ゆっくりと語りかけるのも、どれだけぶりだろうか。

墓地の空は厚い雲に覆われていて、まるで春が近づいているなんて信じられないような、重く沈んだ気配だった。

分厚いコートを着てきたのに、冷たい地面に膝をつくと、体の芯まで凍えるようだった。

「慎一の父親が亡くなって、彼もまた、行き場のない子になった。本来なら夫婦って、こういう時こそ寄り添うものなのに……ましてや、私と慎一は同じ運命にあるはずなのに……

でも、私の後ろには、もう誰一人頼れる人はいない。慎一のことももう信じられない。彼は、私が人生を預けられる男じゃなかった……

父さん、母さん、二人の間で、一番大きな嘘ってなんだった?」

心に溜まった悔しさや悲しみがあふれて、涙が頬をつたう。冷たい風がその涙をさらに痛く感じさせる。

墓地の管理人さんが私を見つけて、「ご愁傷様です」と声をかけてくれた。

数日前、慎一は、丸一日書斎にこもった末に、誰もが驚く決断を下した。

彼は、霍田当主と実の母親を一緒の墓に入れなかった。それどころか、私を伴って自ら霍田当主を、私の両親の隣に埋葬したのだ。

慎一がなぜそんな選択をしたのか、正直、彼が一体誰を恨んでいるのか分からなくなった。

理由を問うと、彼は何の感情もない顔でこう言った。「誰も、俺に家族というものを与えてくれなかった」

彼の母は病で亡くなったはずだ、と言いかけて……けれど、私は何も言わなかった。全ては彼の執念なのだと分かっていたから。

「あなた、まさか将来、霍田夫人をここに葬るつもりじゃないでしょうね?」

慎一は私を抱きしめ、疲れたように私の匂いを深く吸い込んだ。「絶対に、そんなことはしない」

彼の柔らかなまつ毛が私の頬に触れた瞬間だけ、私はほんの少しだけ彼を信じてみようと思った。

墓地の管理人さんは、私が誰を弔いに来たのかよく分かっていなかったようで、「霍田当主は本当に幸せですね、こんな孝行な嫁さんがいて」と褒めてくれた。

私は涙を拭き、微笑み返し、その言葉を無駄にしないよう、霍田当主の墓前に立ち写真を見つめた。

写真の彼は、穏やかな笑みを浮かべ、どこか厳しくも優しい目をしている。

こんな顔を見て、四年間「お義父さん」と呼び続けたのだ。

だけど、結局、誰
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