LOGIN妹に婚約者を奪われた。 家族のために働き続け、妹の学費も生活費も負担してきたのに。 それでも、妹を責めることができなかった。 交際記念日の夜、白石澪はホテルの前で信じられない光景を目にする。 婚約者とキスをしていたのは、最愛の妹だった。 すべてを失った雨の夜。 絶望の中で出会ったのは、華道界の若き天才家元・神宮寺綾人。 冷徹で他人に興味がないと噂される彼は、澪を見るなりこう告げた。 「やっと見つけた」 「君は俺の花だ」 どうして私なの? なぜそんな目で見つめるの? 愛されたことのない花屋の女性と、孤高の天才華道家。 これは、誰にも選ばれなかったはずの女性が、世界でただひとりの人に溺愛される物語。
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「ごめんね、お姉ちゃん。私、ほんとダメでぇ……」
ソファに座った妹の
ふわふわに巻いたグレージュの髪。淡いピンクのネイル。思わず守ってあげたくなるような可愛らしい顔。
「バイト先でも失敗ばっかりで……」
「ううん。気にしないで。それよりも、美羽は早く休んで? 体に障るわ」
澪は笑った。美羽の代わりにノートパソコンの前に座って、大学の課題のレポートに向き合う。
澪が働く花屋は、比較的穏やかな客が多い、しかし今日は珍しくクレーム対応をして、頭も心も疲れ切っていた。
それでも、疲れたなんて言えない。美羽は昔から身体が弱かったから。
「ありがとう、お姉ちゃん。おやすみなさい」
「おやすみ、美羽」
澪の部屋を出ていく美羽の背中を見送って、ドアが閉まったのを確認してから小さく息を吐き出す。澪ひとりきりになった静かな部屋に、静かにキーボードを叩く音と、参考資料をめくる紙が擦れる音だけが響いた。
父が亡くなってから、白石家はずっと苦しかった。だから澪は、高校を卒業してすぐ働いた。
(そういえば、明日、家賃払っておいてってお母さんに言われていたんだった……忘れないようにしないと)
大学に進学した妹の美羽の学費も、家賃も、生活費も。全部澪が払ってきた。
――お姉ちゃんだから。
その役割と言葉だけで。
翌朝、寝不足の目を瞬かせながら朝食を作っていると、母から声をかけられ澪は、いつも通り笑顔を作って顔を上げた。
「澪、
母の声に、澪は小さく頷く。
「うん。夕飯、一緒に食べるって」
「あらぁ、よかったじゃない」
そう言いながらも、母が嬉しそうに見ているのは澪ではなく美羽だった。澪の婚約者である
妹だから。
家族だから。そう思っていた。
――今日までは。
◇
『ごめん、澪。仕事長引いて、今日は無理かも』
仕事終わり。スマートフォンに届いていたメッセージに、澪は小さく息を吐いた。
今日は交際記念日だった。
小さなケーキも買った。拓真の好きな煮込みハンバーグも作った。デパートで少し奮発して買ったワインも、職場で先輩に作ってもらったちょっと豪華なブーケも、今日は用なしになってしまった。
でも、仕事なら仕方がない。また別の日に埋め合わせをすればいいだけのことだと、自分に言い聞かせながら
『わかった。お仕事お疲れさま』
と、送信した直後だった。
「え……?」
駅前のホテルの前を、澪が通りかかったときだ。
そのエントランスから出てきた横顔は、拓真だった。
そして。
「……み、わ?」
拓真の腕に、妹が抱きついていた。
そして、次の瞬間。
拓真が、美羽の唇をなぞるように触れて、そっと唇を重ねた。
優しく。
愛おしそうに。
まるで、何度も繰り返してきたみたいに。
澪の頭は真っ白になった。
「え、やだ……っ、お姉ちゃん……?」
美羽の声が澪の意識を引き戻した。驚いたように見開かれた可愛らしい目が、澪のことを見ていた。
今更、早く隠れなければ、なんて思考が追いついてきて、澪は思わず一歩足を後ろに引いた。
「ち、違うの、お姉ちゃん……!」
美羽が涙声を出しながら、一歩、澪へと足を踏み出す。
けれど……その口元は笑っていた。
言葉と声と表情があまりにチグハグで、ぐちゃぐちゃだった澪の心はさらに困惑の渦に飲み込まれていく。
「違うんだ、澪!」
拓真が何か言っている。
「なにが、違うの?」
そう震えた声で返すだけで精一杯だった。
あんなキス、私にはしてくれたことがあっただろうか。
あんなにも、優しくて、愛おしそうなキス。
――もう、なにも聞こえなかった。
澪は逃げるように走り出した。
水滴が、頬にぽつりと当たった。
いつの間にか、空は真っ黒で、雨が降りだしていた。
そういえば、夕方から雨予報だったかしら、とどこかで冷静ぶっている自分が考えている。
雨に濡れることも構わず、走り続ける。
息が苦しい。
胸が痛い。
それなのに。
――どうして。
最初に浮かんだのが怒りじゃなくて、
『私が悪かったのかな』
だった。
「……っ」
視界が滲む。
そのときだった。
強い風に煽られて、ブーケの入った花屋の紙袋が手から滑り落ちる。
「あ……!」
咄嗟に追いかけた澪は、そのまま車道へ飛び出した。
鋭いブレーキ音。
高級車が、目の前で止まる。
心臓が止まるかと思った。
「申し訳ありません。お怪我は……っ」
運転席から降りてきた男が、そこで言葉を止めた。
黒い手袋。
あっという間に雨で濡れていく黒髪。
息を呑むほど整った顔。
男は地面に散らばった花を見つめ、それからゆっくり澪を見た。
氷みたいに冷たい目だった。
しかし、その瞳が、次の瞬間激しく揺れる。
「……どうして」
低い声が震えている。
澪は困惑したまま立ち尽くし、その男を見つめることしかできなかった。まるで、視線を縫い付けられたかのように。
男は雨の中、ゆっくり澪へ近づく。
そして、震える指先で澪の胸元に手を伸ばした。
首からさげた小さな白い花のお守りが、そっと持ち上げられる。
幼い頃から澪がずっと持っているものだ。どこで買ったものなのかもすっかり忘れてしまったけれど、澪はずっとこのお守りを大切にしてきた。
「やっと見つけた」
男が、掠れた声で紡ぐ。
「俺の花」
柔らかくゆるむ口元を見た。その瞬間。雨で濡れ冷えた体に温もりが宿る。
男に腕を引かれ、抱き締められていると気付いたのは、数秒遅れてのことだった。
このときの澪はまだ、この出会いが澪の世界を少しずつ変えていくことを知りもしなかった。
神宮寺流大展当日の朝。 まだ陽が昇りきらない時間にもかかわらず、神宮寺家の屋敷は静かな活気に包まれていた。 玄関先では相良が車の準備を整え、使用人たちも慌ただしく、それでいて乱れのない動きで最後の確認を進めている。 澪は深く息を吸い込み、自分の作品を見つめた。 何度も手直しを重ねた花カゴ。 ようやく、「これが私の花だ」と胸を張って言える作品になった。「緊張しているか」 隣に立つ綾人が静かに尋ねる。 澪は苦笑しながら頷いた。「はい。すごく。今までで一番緊張しているかも」 正直に答えると、綾人はふっと微笑む。「それでいい」 そう言って、澪の頭へ軽く手を置いた。「お前らしい花を見せればいい」 柔らかくかけられた綾人の言葉に、澪は胸元のお守りにそっと手を伸ばし、そして小さく頷いた。 私らしい花。 綾人の言葉を頭の中で繰り返す。澪は宝物を抱き寄せるように、そっと花カゴに優しく手を伸ばした。 ◇ 会場に到着すると、大きな展示会場が目の前に広がっていた。 高い天井。白を基調とした広々とした空間。 すでに多くの門下生たちが準備を始めている。 澪はその光景を見つめながら、小さく息を呑んだ。 今までは雑誌やテレビでこの光景を見るだけだった。 まさか自分がここに作品を展示するようになるなんて夢にも思っていなかった。「白石さん」 受付の門下生が笑顔で頭を下げる。「こちらが白石さんのスペースになります」 出展者として、自分の名前が書かれた札を受け取る。 その小さな札を見つめながら、澪は口元を緩め、頷いた。 指定された展示スペースに着くと、澪はそっと花カゴを置いた。 丁寧に位置を整え、花の向きを直す。 完成した作品を見つめ、静かに息を吐いた。 春らしい花々が、明るくカゴの中で咲き誇っている。「……花カゴですか?」 澪の近くで準備をしていた門下生が、小さく呟いたのが聞こえて、澪は振り向いた。「珍しいな。神宮寺流では見たことがないかもしれない」 他の門下生たちの視線も次々と集まってくる。 上品な花器ではなく、素朴な花カゴ。 豪華さを競う作品ではなく、暮らしへと寄り添う優しさが滲んでいる。 分かっていたことだけれど、場違いだっただろうかと、澪は少しだけ緊張しながら自分の作品へと視線を落とした。すると隣へ綾人が立
綾人の両親が帰国してから数日が経った。離れの華道室には、色とりどりの花が並べられていて、澪はその前で顎に手をやり考え込んでいた。 神宮寺流大展まで、あと二ヶ月半ほどある。 その頃には季節も春らしくなっているだろう。ならば今はベースの花材だけ選ぶべきだろうか。 そうすると、花器の雰囲気もそれに合わせたものが良さそうだ。大小さまざまなものが床へ整然と並べられているけれど、まだしっくりくるものはない。「難しい……」 ぽつりと本音が漏れる。 いつも悩むテーマは、今回すぐに決めることができた。 『自分らしい花』を生けること"。 けれど、その『自分らしさ』を表現する花材や花器に悩む。 目についた花器へ数本花を挿してみる。 何だか誰かの真似をしているようで、自分らしくないような気がした。 隣にいた綾人は何も口を挟まず、何度もやり直す澪の様子を静かに見守っていた。 澪は何度目かのため息をつく。 新しい、自分だけの花を生けたい。 そう思うほど、答えは見えなくなっていった。 ◇ 翌日。澪はアンジェリケに出勤していた。「いらっしゃいませ」 いつものように花の水を替え、お客様を迎える。 市場から届いた花の下処理をして、花筒へと入れ、店頭へと並べていると、「これ、ラッピングお願いできますか?」 と、小さな女の子を連れた女性が声を掛ける。 手には一輪のチューリップ。「はい、もちろんです」 澪は笑顔で花を包み始めた。「今日はプレゼントなんです」 女性がそう教えてくれると、女の子も嬉しそうに口を開いた。「おばあちゃんのお誕生日!」「まあ、そうなんですね」 澪も自然と笑顔になる。女の子に選んでもらった赤いリボンをきゅっと結んだそのとき。「あ! ママ、あのカゴかわいい!」 女の子が、店先にある、小さな花カゴを指差した。澪も顔を上げて、女の子の視線を追う。 そのまま飾れるよう、小さな季節の花をまとめたアレンジメント。 女の子は、早足で花カゴに近付くと、嬉しそうに両手で抱き上げた。「これなら、おばあちゃん、すぐ飾れるよ」「本当ね。これなら、花瓶もいらないし、そのまま飾れるものね」 母親も感心したようにうなずき、笑む。そして女の子が持っている花カゴを指差した。「こちらもいただけるかしら」「はい、かしこまりました」 澪が
父親は湯呑みを静かに置いた。「そういえば、綾人。年度末の神宮寺流大展だが——」 その一言で、客間の空気が少しだけ引き締まる。 澪は思わず父親の顔を見つめた。「今年は少し趣向を変えようと思っている」 父親は穏やかな口調のまま続ける。「海外で神宮寺流を紹介する中で改めて感じた。華道はもっと多くの人へ届けられるものだ、と」 綾人が静かに頷く。「一般公開の日程を増やすのか」「ああ。その予定で進めている」 神宮寺流大展。 年に一度開催される、神宮寺流最大の展覧会。 門下生たちが一年の成果を披露する場であり、華道界でも大きな注目を集める催しだ。 澪も何度か新聞や雑誌で見たことがある。 まさか、その話をこんな近くで聞く日が来るなんて思ってもいなかった。 父親はゆっくりと澪へ視線を向ける。「澪さん」「は、はい」「この大展に興味はあるかね」「え……?」 澪は目を瞬かせた。 その意味を理解するまで、ほんの数秒かかった。「わ、私が……ですか?」 思わず自分を指差す。 父親は静かに頷いた。「もちろん、無理にとは言わない」 穏やかな声で続ける。「まだ神宮寺流へ入って日も浅いことも承知している。だが、一度、澪さんの花を見てみたいと思っている」 その言葉に、澪は息を呑んだ。「綾人が、ここまで一人の人間を認め、熱心になっている姿を私は初めて見た」 客間が静かになる。 綾人は何も言わない。 ただ静かに父親の話を聞いていた。「だから私は興味がある」 父親は柔らかく微笑んだ。「綾人と私の父が信じた、君の花を」 ――自分が生ける花を見たい。 そう言ってくれることに、澪の胸は途端に熱くなった。「あなた」 母親がくすくすと笑う。「そんな言い方じゃ、澪ちゃんが余計に緊張しちゃうでしょう?」 父親は少しだけ眉を上げる。「そうか?」「そうよ」 母親は澪へ優しく微笑んだ。「難しく考えなくていいの。私たちはね、ただ澪ちゃんが生けたお花を見たいだけなの。お花や人に寄り添えるあなたの作品は、きっと素敵なのでしょうね」 そう、どこか夢でも見ているかのような雰囲気で綾人の母は続ける。「だから、一緒に参加してみませんか?」 その柔らかな言葉に、澪の肩から少しだけ力が抜ける。 それでも、不安は残っていた。「でも……ご迷惑にならな
神宮寺家の客間には、午後の柔らかな陽射しが差し込んでいた。 磨き上げられた床には庭の木々の影が揺れ、湯気の立つ煎茶の香りが部屋いっぱいに広がっている。 澪は少しだけ背筋を伸ばしながら、綾人の隣へ静かに腰を下ろした。 向かいには綾人の父と母。 そして少し離れた場所には、佐伯たち使用人が控えている。「改めて……長旅、お疲れさまでした」 澪が頭を下げると、母親は嬉しそうに微笑んだ。「ありがとう。こうして帰って来られる場所があるっていいものね」 その言葉に、佐伯たちもどこか嬉しそうに表情を和らげる。「海外はいかがでしたか?」 澪が尋ねると、母親は楽しそうに目を細めた。「今回はフランスとイタリアを中心に回っていたのよ」「向こうでも展示会を?」「ああ」 父親が静かに頷き返す。「神宮寺流を紹介する催しだ。思っていた以上に反応は良かった」「海外でも華道って人気なんですね」「花は国が違っても、心を動かすものだからな」 澪は小さく頷いた。その考え方が、どこか綾人によく似ている。「あ、そうだ。綾人から聞いたわ」 母親が思い出したように両手を叩いて、澪を見る。「『花日和』という活動をしているのでしょう?」「は、はい。キアーロという会社にお誘いいただいて、花をもっと身近に感じてもらえたらと思って……」 澪は少し照れながら答える。「記事も読ませてもらったのよ」「えっ?」「一輪だけ飾るところから始める花との暮らし、とても素敵ね」 澪は驚いて目を丸くした。「海外へいても、綾人が色々送ってくるものだから、すっかり澪ちゃんの活動に詳しくなっちゃって」「母さん」 綾人が静かに止める。しかし母親は楽しそうに続けた。「新聞の記事に、雑誌に、テレビ……。今、こんな活動を頑張っているんだって、色々とね」 指を折りながら話す母親に、綾人は唇を閉じる。 その様子がおかしくて、澪は思わず吹き出してしまった。「そんなに報告していたんですか?」「ああ」 父親もその口元に小さな笑みを浮かべながら頷く。「一日に三回送られてきたこともある」「親父」 客間に小さな笑い声が広がる。綾人は静かにため息をついた。「二人とも話しすぎだ」「でも、事実でしょう?」 母親は悪びれずに笑い、少しだけ綾人のほうに身を乗り出した。「澪ちゃんの話をするあなた、本
初対面の人の……しかも、男性の家に泊まるなんて……。と、澪は使用人たちが布団を整えてくれる様子を部屋の隅で眺めながら考えていた。 けれど、自宅に帰れば美羽と顔を合わせなければいけなくなる。 美羽のことは今でも大切に思っている。だからこそ、自分の婚約者である拓真と唇を重ねていたあの光景に、澪の心はぐしゃぐしゃにかき乱されていた。(家には帰りにくいと思っていたから……ありがたいかも) いつもの自分であれば絶対にしない選択だ。結婚を約束した恋人だっている身。 けれど、今夜だけは――。 そう、澪は少し目を伏せて、小さく溜息を吐いた。 布団の中に入っても、澪はしばらく眠れなかった。
「こちらへどうぞ」 年配の女性に案内されながら、澪は何度も周囲を見回していた。 広い。とにかく広い。これを『普通の家』を称した綾人のことを思い出して、澪は苦笑いを浮かべるしかなかった。一体どんな風に生きていたら、これが『普通』という認識になるのだろうか。 磨き上げられた廊下はまるで旅館のようだ。屋敷のあちこちに飾られている生け花はどれも芸術作品のように美しかった。「すごい……」 居間として使われている部屋だろうか。その前を通りかかったとき、一際上品で、一際色鮮やかな花で彩られた生け花に、思わず声が漏れる。「ありがとうございます」 女性は嬉しそうに微笑んだ。「お花はどれも、綾人
車のドアが静かに閉まる。外の雨音が遠くなった。 澪は膝の上で手を握る。 隣には、先程出会ったばかりの男性が、窓際に頬杖をついて流れる景色を見ている。 車内は驚くほど静かだった。 隣に座っているだけなのに緊張する。 けれど……なぜだろう。不思議と怖くはない。 むしろ……どこか居心地の良ささえ感じてしまっているような――。「……寒くないか」 不意に掛けられた言葉に、澪の肩がびくりと跳ねた。「は、はいっ」 思わず声が裏返る。「全然、寒くないです」「それならいい」 「じ……神宮寺さんは、」 寒くないですか、と言いかけた言葉は、「綾人」 と短い声に遮られた。「え?」
「……澪?」 聞き慣れた声だった。 その瞬間、澪の体は強張る。 振り返った先には、息を切らせた拓真が立っていた。 雨に濡れた髪。 乱れた呼吸。 まるで必死に追いかけてきたみたいだった。「澪……!」 澪の姿を見て、安堵したように表情を緩めた拓真が、一歩近づいてくる。 けれど澪は思わず一歩足を後ろに引いた。 その仕草に、拓真の顔が傷付いたように歪む。「待ってくれ。話を聞いてほしい」「……」「誤解なんだ」 その言葉に、澪は思わず顔を上げた。 誤解。 その言葉が胸に刺さる。 だって澪は見たのだ。確実に。この目で。 ホテルの前で。 拓真が美羽に口づける姿を。「誤