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第3話

Author: 後々
数年の短期間で篠原家は林原家の全ての力に頼り、数人で開始した小さな会社が、やがて国際的にも有名な大企業ブランドへと成長したのだ。

私は彼に出来る限りのことをやり、尽くしてきた。時には彼に不満を言われることもあった。

それが茉莉花のたった一度の登場で私は完膚なきまでに叩きのめされる結果になるのだ。

「結婚を取り消しにするってんなら、好きにすればいい!ちょうど茉莉花が戻ってきたんだし、俺は自分の幸せを追及させてもらう!

一華、これは全てお前が招いた事態だからな!

私は迅が私を脅す様子を見ていて、ただただおかしくてたまらなかった。

彼はまさかここまでの状況になったというのに、私がまだ彼に従順に何でも言うことを聞くとでも思っているのだろうか?

彼が背を向けて去ろうとした時、電話の呼び出し音が突然鳴り響いた。

「ええ、私が宇野茉莉花の恋人です。今の状態は?」

電話の向こうは何を話しているのか知らないが、迅の顔色が瞬時に青くなり、後ろに数歩よろけてしまった。

「助けて、絶対に彼女を助けてください。この世で一番良い薬を使ってください!俺が責任を取りますから!」

その電話を切った後、彼は私を見ると目に一瞬でうしろめたさが浮かんだ。

「茉莉花の状態が悪化したらしい。細胞免疫促成剤が必要だ。お前が購入したあの薬剤がちょうど届くだろう。茉莉花にそれを譲るんだ!」

それを聞いた私は嘲笑し、はっきりと彼に聞こえるようにこう言った。

「私がそこまでしてやる価値のある女なわけ?」

その薬は特殊な薬剤であり、その価格は二千万もするうえに、払えるお金があったとしても必ず手に入れられるものではない。私は五年も前に祖父のために予約購入していて、しかもそれは人脈をかなり行使してようやく手に入れられたものだった。

そして今彼はそれを簡単に他人に譲れと言うのだから、どれだけ厚かましいことか!

迅はその言葉を聞いた後、驚いた様子で顔色を青くさせ、その後何かを思いついたのか冷たく笑って言った。

「一華、お前そんなに俺に歯向かってくるのは、俺と早く結婚したいと迫っているからなんだろう?

わかった、お前の言う通りにしよう。茉莉花が良くなったらすぐにお前と結婚式を挙げてやるからそれで満足だろう?だから今すぐあの薬を茉莉花に譲れ!」

彼はもうこれ以上は耐えられないといった様子だった。まるで私に人生においての大がかりな事でも約束してやったといわんばかりだ。

私が黙ったままなのを見て、迅は恨みがましく付け加えた。

「じゃなきゃ、明日の結婚式はお前一人で執り行うんだな!新郎は現れないぞ。林原家は完全にお笑い種になるな!」

私は彼のあの狂ったような瞳を見つめ、また笑えてきた。

林原家が笑い種になるだって?

こんな男のためにか!

私がこの場を去ろうと思った瞬間、秘書が突然LINEを送ってきた。

迅は私名義で宇野茉莉花にあの薬を使わせようとしている。今その薬剤は配送中で、私のサインが必要である。

この時、迅が急いで私の傍に駆けつけ、私の腕をぎゅっと掴んだ。

「さっさとサインしろ。茉莉花はこれ以上もたない!俺がこれだけ頼んでも駄目だって言うのか?

どうせあの薬はもうすぐ届くんだろう。茉莉花はお前に救ってくれたことを感謝するに決まってる。お前んとこのあの死にきれない老いぼれなんか、薬を使っても使わなくても同じ……」

パンッ!

彼の話が終わるまえに、私は彼に平手打ちをお見舞いしてやった。そして彼は信じられないといった様子で私を見つめた。

「お前、この俺を殴ったな!

林原一華!」

私は彼が私を罵る言葉を無視し、車を運転して病院に急いだ。

しつこく鳴りやまない電話を電源ごと切ってしまおうと思った時、新しい電話の表示を見て私は驚いた。

それを見た瞬間私はできるだけ自分を落ち着かせた。

電話に出た後、橘悠哉(たちばな ゆうや)のからかうような声が伝わってきた。

「林原さん、明日は結婚式ですよね。本当にちゃんと考えたんですか?」

私はため息をついて、どうしようもないという調子でこう言った。

「結婚という人生の一大イベントを簡単に取り消すような必要はないでしょう」

「そうでしょうか?」

彼は軽く笑った。

「あなたは男のために、言葉と行動が伴わないことが少なくなかったのでは?」

私は信号を待つ間眉間を押さえながら、辛抱強く言った。

「大切な事に関してはそのようなことは絶対にありません。それに、私は橘家の医療技術が必要で、橘家は市場開拓をしたいと思っている。両家の婚姻は最も理にかなった相応しい結婚だと思いますけど」

暫く黙ってから、悠哉は真面目な声で話し始めた。

「俺は結婚した後、あの男が少し涙を見せただけで、あなたがすぐにへこへことまた彼の方にすり寄っていくのを見たくないんですよ。その時、二つの会社をまた分けるのはなかなか難しいですから」
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