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婚約者さん、その幼なじみとどうぞお幸せに
婚約者さん、その幼なじみとどうぞお幸せに
Author: 後々

第1話

Author: 後々
結婚式を挙げる前日の夜、私の婚約者の幼なじみは傭兵をしていて、五年間連絡を断っていたのだが、任務中に負傷したうえ毒性のある媚薬まで盛られてしまった。

薬を盛られた彼女は部隊の仲間に私の婚約者の前へ連れて行かれた。彼女は全身血だらけで、まさに九死に一生といった様子だった。

一向に冷静沈着で理性をなくすことのなかった篠原迅(しのはら じん)は目を真っ赤にさせて、私の制止も振り切り幼なじみと一夜を共にした。

そして私のほうはというと、一晩部屋の外で一睡もできなかった。

……

一晩中続いていた喘ぎ声がようやく止み、迅は破れてボロボロになったバスローブを身に着けて寝室から出てきた。

彼のその足取りはおぼつかなかったが、かなり元気でいきいきとした様子だった。この時の彼は何かを思い返して味わうかのような瞳をしている。露わになった肌には青紫に変色してしまったキスの痕がはっきりと目立っていた。

彼は私の存在も無視して横を通り過ぎていき、テーブルの横に立ち水をコップ一杯ついで、鬱陶しそうな口調でこう言った。

「一華、お前な、騒ぐにも限度ってもんがあるぞ。俺は今気分が悪いんだ。お前の顔色をいちいち伺っている暇などない。

ただのセックスだろう。茉莉花すら何も気にしていないというのに、お前は古臭い考え方に囚われやがって!」

「古臭い考え方ですって?」

私はあまりの怒りに逆におかしくなってきてしまった。

「大人しく男に抱かれる女のほうが、そりゃあよっぽど開放的な考え方を持っているでしょうね!」

そう言うと迅は勢いよく持っていたコップを床に叩きつけた。

「黙れ!

茉莉花は今状態が悪いんだ、彼女の前でそんなデタラメを言うんじゃないぞ。そんなことしてみろ、この結婚は破棄させてもらう!」

そう言い終わると、すでに待機していた医者たちが寝室に入って救命措置を開始した。

迅は急いで同じく中へ入って行き、一目も私に向けることなどなかった。

宇野茉莉花(うの まりか)が私が寝る予定だった新婚用のベッドの上に横たわっていて、迅の手を握り力なく話し始めた。

「迅、私のせいね。だけど、死ぬ前にただあなたに一目でもいいから会いたくて……」

その部屋には濃厚なエロスが漂っている。ゴミ箱の中からは明らかに昨晩何戦もヤッたというその戦績が溢れ出してきていた。

「死ぬ前にあなたと一つになれたこと、私、とっても嬉しいの……結婚式の日には私の席も用意してくれる?」

「そんなバカなこと言うな!」

迅はしっかりと茉莉花の手を握りしめて、瞳から大粒の涙を流し医者に向かって怒鳴りつけた。

「さっさと助けろ!

茉莉花、君は絶対に大丈夫だ。将来君のウェディングドレス姿を見るのを楽しみにしているのに!」

二人は周りにはお構いなしにキスをし、まるでこの世が終わりを告げる前のその僅かな時間を愉しんでいるかのようだった。

私は人気俳優同士の恋愛ドラマのようなシーンが目の前で繰り広げられるのを見ながら、吐き気をもよおした。

迅という男は誰もが触れてはいけない私の逆鱗だと、誰もが知っている。

彼のために、お嬢様育ちで何もできなかった私は拙いながらも懸命に料理を学んで、彼には無償で尽くしてきたのだ。

しかも、家の前で三日三晩膝をついて許しを求め、祖父から足を叩き折られたとしても絶対に彼と結婚するといって聞かなかった。

私は迅のために心から尽くしてきたというのに、その結果がまさかこのようになってしまうとは。

「林原一華(はやしばら いちか)、お前はめくらか?そこにアホみたいに突っ立って何やってんだ」

我に返った時、迅が鬱陶しそうに私に向かって命令口調で言った。

「さっさと林原家に仕える医者も呼んで来い。人の命がかかってるってのに、お前それでも人間か?」

私が黙ったままでいるのを見て、迅の表情は暗くなった。これは私が誰かの目の前で初めて彼を無視した瞬間だった。

「明日は結婚式だぞ。それなのにそんな意地を張っている場合か!」

「あんた、明日自分が結婚するんだって分かってたんだ?」

私は彼の首筋にくっきりと残るあの赤い痕を睨みつけて嘲笑った。

「あんたがそこにいる女とベッドでいちゃついてる時に、どうして結婚式のことを思い出さなかったわけ?」

「俺はただ彼女を救うためだったんだ!」

私はそれを聞いて冷たく笑って言った。

「そうね、人助けだったのよね!

解毒剤があるってのに、それを使わず自らの体で治してあげたんだもの。あんたって本当に立派だわ!」

彼は顔色を怒りで赤くさせたり、青ざめさせたりして、口を開こうとした時、結婚式の準備に当たっている人たちがガヤガヤと部屋に入ってきた。

まず先頭で入ってきたのは、迅の友人たちだった。彼らは新婚用の部屋がこのような状況になっているのを目の当たりにし、次々と眉間にしわを寄せた。
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