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28話

Author: 籘裏美馬
last update Huling Na-update: 2025-10-15 18:05:29
全部、捨てていく。

私のその言葉を聞いた滝川さんは、驚いたように目を見開いた。けど、何かを言う事なく「そうか」とだけ言葉を返してくれた。

滝川さんは迷うように虚空を見上げたあと、そっと私の頭に自分の手を伸ばした。

「その…加納さんは、凄く悩んで苦しい思いをして、この決断に至ったんだろうと思う。俺は、君のこの決断を素直に凄いと思う」

「滝川さん」

ぎこちなく、どこか不器用ささえ感じるような滝川さんの手のひら。

大きな滝川さんの手のひらが、ゆっくり私の頭を撫でるように動いている。

「これから先、加納さんはもしかしたら苦労したり、大変な日々を送るかもしれない。けど、俺で良ければ、いくらでも助ける。だから、遠慮なく俺に連絡して」

「で、でも…今でさえ滝川さんにはたくさん助けていただいているのに、これ以上は……」

実際、滝川さんには事故にあった直後からとても助けてもらっている。

滝川さんが事故を起こした訳じゃないのに、病院の手続きから始まり、今日なんてこうして引っ越し業者まで手配してくれて。

これ以上、滝川さんに甘える訳にはいかない。

私がそう考え、滝川さんの言葉にやんわりと断りをいれようとした時。

まるでそれを見計らったかのように、滝川さんが先回りして話す。

「ほら。俺たちは、一応昔から面識があるだろう?…そうだな、もし加納さんが俺の提案を断ったら、君の両親に口が滑ってしまうかもしれないよ?」

「──えぇ?でも、ふふっ、私の両親はもう、私の事はいないものと思っていますよ?」

「そんな訳あるか。君はご両親の大事な娘だよ、それはいつまで経っても変わらない。きっと、君が事故に遭ったと知れば、すぐに飛んで来ると思う」

「──そう、だったら嬉しいですね……」

元気付けるような滝川さんの優しい言葉に、私は笑みを浮かべて返す。

上手く笑えているのか、分からない。

いえ。

滝川さんが、悲しい顔をしているから、もしかしたら私は上手く笑えていないのかも。

「──あの、梱包が全て終わりました。どちらに、運びますか?」

私たちの後ろから、おずおずと気まずそうにしつつ引っ越し業者の人が声をかけてくれる。

業者の人に話しかけられ、私と滝川さんははっとすると、慌
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