Todos los capítulos de 婚約者は私にプロポーズをしたその口で、初恋の幼馴染に愛してると宣う: Capítulo 1 - Capítulo 10

18 Capítulos

1話

「心、君の気持ちは十分伝わったよ。俺たち付き合おう」 目の前の端正な男が、困ったように眉を下げて苦笑しつつそう告げる。 その言葉を聞いた瞬間、私の目にはぶわっと涙が溢れ、視界が歪んだ。 「こ、心!?どうしたんだ、泣かないでくれ」 「だって、嬉しくって…瞬、本当に私と付き合ってくれるの?嘘じゃないの?」 「嘘なんか言うもんか。俺も、心が好きだよ」 ああ、嘘みたいだ。 今までどれだけの間、瞬を追いかけ、告白してきただろう。 いつも瞬からは告白を断られてきた。 それなのに、今は私を優しく抱きしめ、好きだと口にしてくれる。 瞬の瞳には、私が確かに映っている。 瞬の瞳には、確かに私を愛おしく思う感情が見て取れた。 「嘘みたいだわ…、本当に嘘みたい…やっと私、瞬の彼女になれたの?」 「そうだ。心は俺の大切な彼女だよ」 その日、私…加納心(かのう こころ)と、清水瞬(しみず しゅん)はしっかりと抱きしめ合い、お付き合いを始めた。付き合い始めて2年。その2年間はとても順調だった。瞬はいつも私を気にかけ、優しくしてくれて2人の間には笑顔が絶えなかった。順調に付き合いを続け、ある日のデートで素敵なレストランで食事を楽しんでいた時。瞬はいつもと違い、どこか緊張した面持ちをしていた。調子でも悪いのだろうか、と心配したのも束の間。なんと瞬は私へのプロポーズを用意してくれていたのだ。「心。俺は君とこれからもずっと一緒にいたい。結婚しよう」「瞬…!もちろんよ、よろしくお願いします!」レストランでのプロポーズ。私たちの周りには、沢山のお客さんが集まり、拍手で祝福してくれた。感動して泣き出す私を瞬が優しく抱きしめ、そっと唇にキスを落としてくれた。それなのに。「すまない、心。麗奈が呼んでるから行くよ」「…分かった」「…何だその顔は?嫌そうな顔をするな。麗奈は今、帰国したばかりで大変なんだ」「何も言ってないわ…行ってらっしゃい」瞬はふん、と鼻を鳴らして私をひと睨みした後、冷たく背を向けて部屋を出て行ってしまう。苛立ち混じりに力任せに閉められた扉の音が大きく響き、私は一人、広い部屋にぽつりと残された。今日は付き合って5年の、記念日だった。テーブルの上には瞬の好物が沢山用意され、所狭しと並べられていた。瞬はそれを一口も食べる事はせず、
last updateÚltima actualización : 2025-09-20
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2話

スマホから軽快な音がなる。 通知音に気づき、私はその内容を確認した。 SNSに、一通のDMが届いたようで開封する。 その文章を見た瞬間、私はぐっと眉を寄せた。 「麗奈…。どうして、いまさら…」 差出人は、麗奈。柳麗奈(やなぎ れな)だ。 瞬の幼馴染で、初恋の人。 瞬は麗奈の事がずっと好きだったのだ。 けれど、麗奈はとある事情で海外に渡り、今まで国に帰国した事はなかった。 麗奈が海外に渡ったのは、今から7年前。 瞬も、私もまだ学生の時だ。 その頃の瞬は見ていられないくらい落ち込み、痛々しかった。 だから私は落ち込む瞬を励まし、元気になってくれるように毎日外に連れ出して楽しい事を沢山一緒に経験した。 瞬は、大企業の御曹司だ。 通う学校も、財閥の子供が通う学校で、一般的な遊びや楽しみを知らなかった。 だから私は毎日瞬の学校に迎えに行き、沢山の遊びを一緒に経験した。 日に日に笑顔を取り戻してくれる瞬に、私は瞬の笑顔を見るだけで嬉しくなって、それだけで幸せだった。 それなのに。 「プロポーズ、嬉しかったのにな」 私はそっと自分の左手薬指に収まる婚約指輪を撫でる。 緊張した面持ちで、結婚を申し込んでくれたあの日の瞬の顔は、今でもはっきりと思い出せる。 真剣で、真っ直ぐな瞳。 その瞳には嘘なんて一切なかった。 「ご飯、処分しなくちゃ」 麗奈からは、明日になったら返す。と送られてきている。 という事は、今日はもう瞬はこの家に帰って来ないだろう。 きっと今頃は麗奈に会いに行く車の中。 もしくは、もう会っているのか分からない。 そして、きっとそのまま麗奈とホテルに泊まるつもりだろう。 私はテーブルの上に用意していた豪華な沢山の料理を、次々とディスポーザーに捨てていく。 瞬の事を考え、作った料理をゴミとして処分する。 私の胸に、ひやりとした冷たい何かが込み上げた。 「長旅で疲れただろう、麗奈?早く部屋で休もう」 「ありがとう、瞬。突然連絡しちゃったのに、こんなに良くしてくれてありがとう」 部屋の扉を開け、麗奈を先
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3話

3話瞬と麗奈がホテルで夜を過ごしている頃。私は片付けた料理の皿を洗っていた。皿にこびり付いた料理のゴミや、匂い。それが鼻に届いた瞬間。「──うっ!」私は込み上げる吐き気に、咄嗟に自分の口元を手で覆った。急いでトイレに駆け込む。「うぅ…っ、う…」けほけほ、と何度も咳き込んだあと、トイレを流す。「どうして…?風邪もひいてないのに…」私は昔から風邪などひかず、健康だった。それなのに、突然吐き気が襲ってくるなんて。「…ストレスや、疲れなのかな」この2年。瞬がプロポーズしてくれた日から、徐々に瞬は冷たくなっていった。最初の1年はまだ付き合った頃のように優しく、瞬は私を愛してくれていた。けれど、時折寂しい横顔を見せたり、苦痛に耐えるような顔でスマホをじっと見つめる事が増えていた。そして、次第に瞬の仕事が忙しくなり、家に帰る事が少なくなり、忙しさに比例して出張も増えた。長期間出張に出たあとはきまって瞬の機嫌は悪くなり、この頃からは些細な事で喧嘩も増えた。けれど、瞬は元々とても優しい性格だ。瞬と喧嘩をし、私が寝室のベッドで泣いていると瞬も言いすぎた、と反省してくれるのだろう。いつも「ごめん」と謝り、私を優しく抱きしめてくれた。だが、ここ1年はどうだろう。瞬の口調がきつくなり、冷たい視線を向けられる事が増え、酷い態度を取られる事も増えた。そして、愛し合う行為も減り、時折接待でお酒に酔った瞬が乱暴に私を抱く事が増えた。「あ、…待って」その事を考えていた私の頭に、ふとある考えが浮かんだ。そして私はドキドキと速まる鼓動をそのままに、自分のお腹にそっと手を当てた。「そう言えば、ここ最近は…」生理がきたのはいったいどれくらい前だろう。ストレスで遅れてしまっているとばかり考え、次第に生理の事すら忘れてしまっていた。私はスマホを開き、スケジュールを確認する。「…!もう、2ヶ月もきてないわ…!」嬉しくて、弾んだ声を上げてしまう。もしかしたら、今私のお腹には瞬と私の子供が宿っているのかもしれない。「早速明日、薬局に行って、病院に行かなくちゃ!」もし、本当に瞬と私の子供が宿っていれば。瞬も、冷たい態度はなくなり、麗奈の事は忘れ、私を見てくれるようになるかもしれない。それに──。「お父
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4話

翌朝。目が覚め、ふと隣を確認する。ベッドの隣は空っぽで、昨夜、瞬が帰ってきていない事を知り、私は無意識の内に自分のお腹に手を添えた。「…大丈夫、大丈夫よ。瞬だってきっと、子供ができたと知れば喜んでくれる」きゅ、と唇を噛み締めた後、私は薬局に行くために準備をする。薬局で検査薬を買い、家に帰ってから検査薬を使用した。検査薬にはしっかりと「妊娠している」結果が出た。「…!本当に、私と瞬の赤ちゃんが…!」嬉しさで視界が滲む。私は急いでスマホで瞬の番号を呼び出し、早速彼に電話をかけた。きっと、今頃は会社にいるだろう。昨夜は戻って来なかったけれど、恐らく麗奈の所から直接会社に向かっているはず。何コール目かのあと、ようやく電話が繋がり、ほっとした私が瞬の名前を呼ぼうと口を開いたところで、スマホから良く知った声が聞こえた。「やだ、心?何の用?瞬は今シャワー中よ」「……ぇ」信じられない事に、電話に出たのは瞬ではない甲高い女性の声。それも、良く知った声。私は唖然としながらその女性の名前を口にした。「麗奈…?どうして…、これは瞬の…」「確かに瞬のスマホだけど、瞬からシャワーに行く前に頼まれたの。もし電話がかかってきたら、代わりに出といて欲しいって。仕事で大事な連絡があったら大変でしょう?」「瞬が、あなたに電話に出るようにって頼んだの…?」「そうよ。何かおかしい?」麗奈から語られる言葉に、頭の中が真っ白になってしまう。私は、瞬のスマホを託された事などない。仕事関係者から連絡が来た時に代わりに出といて、なんて頼まれた事だってない。それほど、瞬は麗奈を信用しているの?私にはスマホなんて触らせてくれないのに。「用がないなら切るわよ」私が呆然としている間に、麗奈が素っ気なくそう言う。スマホの向こうから、瞬の低い声が聞こえてきて、麗奈と何か喋っているような声が聞こえてきた。もしかしたら瞬が電話がきていた事に気づいて、代わってくれるのでは、と思った。けど、呆気なく電話はぶつり、と切れてしまい、それから暫く待っても瞬から折り返しの電話が来ることはなかった。
last updateÚltima actualización : 2025-09-25
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5話

夕方。病院から帰ってくると、玄関に瞬の靴がある事に気づき、私は急いでリビングに向かった。バッグの中には、母子手帳とエコー写真が入っている。大事なそれらが入ったバッグを胸に抱え、リビングの扉を開けたところで、中にいた瞬が肩越しに振り返った。「…帰ってきたのか。どこに行っていた」「瞬、おかえりなさい」あのね、と言葉を続けようとした所で、瞬が酷く冷たい目をしている事に気づき、私は思わず言葉を飲み込んだ。「麗奈が長旅で疲れ、体調を崩しているって言うのに、お前は呑気に遊びに行っていたのか。いいご身分だな」まるで吐き捨てるように、瞬の口元は歪んでいる。遊びに出かけていたと思われていたなんて。病院に行っていたんだ、と。瞬との間に子供ができたのだ、と。その事を説明しようと、私は母子手帳とエコー写真を取り出そうとバッグを開けて、中からその2つを取り出した。「瞬、違うの。遊びに出かけていたんじゃなくて、病院に行っていたの」「──病院?」「ええ、そうよ」病院の単語に、瞬の目元が幾分か和らぐ。瞬の瞳に、一瞬だけ私の事を心配するような感情が浮かんだが、それもすぐに消え去ってしまい、ここ最近で見慣れた冷徹な色が浮かぶ。「これを見て、瞬」瞬の冷たい態度にも、もう慣れた。今までは冷たい態度や視線に傷付いたけれど、今ではもう慣れてしまい、過去のように傷付く毎日を送ってはいない。私は冷たい視線を向け続ける瞬に、バッグから取り出した母子手帳と、エコー写真を目の前に差し出した。背の高い瞬に、まるで掲げるようにして差し出した。それを見た瞬は、目を見開いて驚いた表情を浮かべる。「これは…」「瞬、私のお腹に赤ちゃんがいるの。私たちの子供よ」嬉しくて、お腹に手を当てたまま笑顔で瞬を見上げる。瞬は子供が好きだ。まだ、私たちの仲が良かった頃。出かけ先で家族連れや、小さな子供を見た瞬は眩しそうに目を細め、優しげな表情を浮かべていた。そして、私に顔を向けると、いつか自分たちにも天使のように可愛らしい子供ができるだろう、と言っていた。結婚する前に授かってしまったのは少し意外だったが、いずれは瞬との間に子供を設ける予定だったのだ。多少順番が前後してしまっただけで、きっと瞬も喜んでくれるはず。私が見つめる先で、食い入るように
last updateÚltima actualización : 2025-09-25
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6話

ぐわんぐわん、と頭が揺れる。どうして?何で瞬はこんなに冷たい人になってしまったのだろうか。私は力の入らない足を必死に動かして、ソファに腰を下ろす。体中がずっしりと鉛のように重く、手足の指先がすうっと冷たくなっていく。何も考えられなくて、考えたくなくて、私は暫くの間ずっとソファでぼうっとしていた。[車内]瞬は、ハンドルを掴んだ手に額を乗せ俯いていた。動揺が広がり、ハンドルを握る手に力が入る。「あんなこと、言うつもりは無かった…」言い訳をするように呟く。「だが、麗奈が…麗奈は…確かに俺に…」ぶつぶつ、と瞬は言葉を呟き続ける。瞬の頭の中には、麗奈から言われた言葉がぐるぐると巡っていた。言われた時、最初は信じられなかった。けれど、麗奈が嘘を言うとは思えない。今まで麗奈は瞬に嘘をついた事など、一度も無い。それに、そんな嘘を麗奈が言っても何の得にもならないはずだ。「…麗奈が言ってた事は、本当だったのか…?いや、だが心の表情は…」本当に嬉しそうだった。自分たちの子供だ、と言っていた。「麗奈、麗奈…」頭の中がこんがらがり、瞬は無意識に麗奈の名前を呟く。まるで現実から逃げるような瞬の呟きが、相手に届いたかのように、瞬の胸ポケットに入っていたスマホから着信を知らせる音が鳴った。「──…」瞬はスマホの画面を見て、そして表示された名前を見て表情を緩めると、そのままスマホを耳に当てた。「もしもし、麗奈か…?ああ、今から会社に戻るよ。仕事が終わったらそっちに行くから、少しだけ待っていてくれ」優しく、愛おしげに細められた瞬の目。心の事など、瞬の頭の中にはもう一欠片も残っていなかった。[リビング]暫くリビングでぼうっとしていた私は、周囲を見回した後、のそのそと立ち上がる。「お買い物、行かなくちゃ…」夕食の準備をしなくちゃいけない。瞬は、夕食の事は特に何も言っていなかった。きっと夕食は家で摂るはず。私はいつものように財布と家の鍵をバッグにしまう。先程、瞬から突き返されてしまった母子手帳とエコー写真は、リビングのテーブルに残したままにしようかと思ったが、それも2つ一緒にバッグに入れる。車のキーを手に取ろうと考えた所で、私はキーに伸ばしていた手を止めた。「…何かあったら嫌だから、近所だし歩いて行こ
last updateÚltima actualización : 2025-09-28
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7話

「今にも雨が降りそうね」外に出ると、どんよりと空は曇っていて昼過ぎだというのに薄暗い。午前中は晴れていたのに、となんだか悲しくなってきてしまう。「なんだか、今の私の気持ちみたい」そんな事を呟いて、馬鹿馬鹿しくなってしまう。どんよりと重い空。それが今の自分の気持ちを更に暗くしていく。とぼとぼと歩き、デパートの地下にある食品売り場を目指す。デパート前の交差点で赤信号に捕まってしまい、足を止めてそこで青信号に変わるのを待っていると、遠くから誰かの怒声が聞こえてきた。「危ない!!」「──ぇ」無意識のうちに俯いていた私は、誰かのその言葉にふいに顔を上げた。すると、信号無視をした車が直進していた車と接触し、接触された車が交差点の信号待ちをしていた歩行者の方に突っ込んでくるのが見える。そう、今まさに私が立っているこの場所に──。「……っ」瞬。胸中で瞬の名前を叫ぶ。まるでスローモーションのように、車が目前にまで迫ってくるのが見えた。周囲の人々は慌ててその場から逃げ出す者や、転んでしまう人、勇敢にも私を助けようと駆け寄ろうとする人、腕を伸ばしてくれる人が視界に映る。けれど、それも間に合う事なく、私は自分の体に訪れた物凄い衝撃に、そこでプツリと意識を失った。ざわざわ、と人だかりが出来ている一角と、歩行者信号のポールに激突して止まっている車を、車内から見ていた男は後部座席から運転席に向かって声をかけた。「交通事故か」低く、落ち着いた声音。どこか艶やかな重低音に、運転手はハンドルを握ったまま答えた。「そのようです。どうやら、信号無視をした車が走っていた車に衝突して、衝突された車が歩行者達に突っ込んでしまったようですね」「それは…はた迷惑な話だな」「ええ。信号無視など…それで歩行者まで巻き込むのは流石に最低ですね」「──ああ、あの人だかりは歩行者が巻き込まれたのか」運転手の言葉に、男はなんの気なしに人だかりの方へ顔を向ける。誰か、女性が倒れているのが人々の隙間から見える。(可哀想に。巻き込まれたか…)どれくらいのスピードを出していたのかは分からないが、歩行者に車が衝突したのだ。相当な怪我をしているだろう事が分かる。白くしなやかな細い指先がちらりと見えた。人だかりの隙間から、
last updateÚltima actualización : 2025-09-29
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8話

ふ、と意識が浮上する。目の前には真っ白な壁のようなものが広がっていて、そこでようやく私は自分が横たわっている事、視界の白い壁は白い天井なのだ、と気づいた。「…?」どこなのだろう。ここは一体、どこなのだろうか。体中が酷く痛みを覚えていて、身動ぎ一つできない。それでも何とか体を動かそうとしたところで、ふと自分の腕に何か管のようなものが繋がっているのに気づいた。点滴を受けているらしく、私はそこでようやくここが病院なのだ、と分かった。それと同時に、意識を失う直前の事も思い出し、思わず声を漏らす。「目が覚めたか!?」「──っ!?」自分一人だけだと思っていた場所に響く、男の人の声。聞き慣れない低い声に、瞬時に「瞬ではない」と分かり、私は急いで声が聞こえた方へ顔を向けた。「え…っ、なんで、ここに…」私は見覚えのある男の顔に、呆然としながら呟く。「たまたま、事故現場の近くにいたんだ。…体は大丈夫か?」「え、ええ…。大丈夫です、その…あなたが私をここに運んでくれたんですか?」「いや…他の人が救急車を呼んでくれて…。俺は君を知っていたから…あとは、すまない。周囲の人に勘違いされた」「え…?」すまない、と言いながら彼は気まずそうに胸ポケットから小さな手帳を取り出した。そして、それを私に差し出す。「──!ぁ、あ…」それを見た瞬間、私は思わず自分の腹部に視線を向けた。体中が未だ、ズキズキしていてとても痛く、起き上がれそうにはない。それでも痛む腕を必死に伸ばし、彼が差し出した「母子手帳」に触れようとした。だが、触れる寸前、体に鋭い痛みが走り私は顔を顰めた。「すまない!大丈夫か!無理はしないでくれ」「すみません…、滝川さん、大丈夫です」滝川──滝川 涼真(たきがわ りょうま)。彼は、元華族で大企業の御曹司だ。年は私より2つ年上の、26歳。複数の会社の役員と、CEOを務めていて忙しいはずの人なのに、こんなことに巻き込んでしまった。それがとても申し訳なくて。「お忙しいところ、すみません…。私はもう大丈夫ですので、お仕事に戻ってください…」「そうはいかないだろ…。君の婚約者に連絡しないと…。その…腹の子のことも、話した方がいい…」暗く、重い声で嫌でも悟ってしまう。そして、それは私自身が不
last updateÚltima actualización : 2025-10-01
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9話

私の言葉に、滝川さんがひゅっと息を呑むのが分かった。気まずそうな、何とも言えない顔で見つめられる。私は苦笑いを浮かべながら、痛みに耐えつつ滝川さんの手から母子手帳を受け取った。「加納さ──」「失礼します」滝川さんが何か言おうとして、話し始めたところで、個室の扉を開けて白衣を着たお医者さんが入室してきた。私の意識が戻った事に気づいたお医者さんがほっとしたように頬を緩め、口を開く。「ああ、加納さん。目が覚めたんですね、良かったです」「先生…」「あ…」お医者さんが、私の手にある母子手帳を見て悲しそうに眉を下げた。「その…、加納さん。残念ですが、お子様は…」ちらり、と滝川さんに視線を向けつつ、気まずそうにお医者さんがそう口にする。私は滝川さんの前で話しても大丈夫だ、と言う事を示すために「構いません」と返答した。するとお医者さんは一度頷いてから、私に向かって歩いてきた。ベッド脇にお医者さんが立ち、私に向かって説明を始めた。「…事故で血を流したのが影響したのでしょう…。加納さんはまだ妊娠初期でしたので、お子さんは残念ながら、流産してしまいました。怪我の具合も酷く、左足首の骨折と頚椎の捻挫も確認しています」「──そう、ですか」「生身で車にぶつかられたのです。残念ではありますが、あなたの命が無事だった事が奇跡です」だから、落ち込みすぎないで。お医者さんはそう言いたいのだろう。私は笑みを作り、お医者さんに「ありがとうございます」と答える。それ以外に、何を言えばいいのか分からなくって。私がそう言ったあと、滝川さんがお医者さんに話しかけた。「先生。加納さんはどれくらい入院が必要ですか?」「…そうですね、骨折をしていますので2週間ほどは入院して経過観察をしましょう」──2週間。それだけの間、入院することになったら家の事がなにもできなくなってしまう。私がしゅん、と落ち込んでいると滝川さんとお医者さんの間で話が進んでいく。「分かりました。それでは、俺は入院手続きをします」「そうですね、入院手続きは一階の──……」どうやら滝川さんが手続きを代わりにやってくれるようだ。私はお医者さんと滝川さんの話が終わり、お医者さんが部屋を出て行ったのを確認して滝川さんに話しかけた。「滝川さん、何から何まで…
last updateÚltima actualización : 2025-10-02
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10話

「──は?」真っ暗で、冷えきった室内。瞬は、自宅に帰ってくるなり不愉快そうに眉を顰め、低い声を漏らした。「不貞腐れているのか?おい、心…!心!」ネクタイを乱雑に外し、スーツを脱ぎ捨てるとリビングのソファに放り投げる。足音荒くリビングを過ぎ、寝室へ向かった。ノックもせず、そのまま勢い良く扉を開けた瞬の視界に入ったのは、真っ暗なままの寝室だ。「…いない?」ならば、私室か。そう考えた瞬は苛立ちを表すように足音を立てて心の私室に向かう。「心!いつまで拗ねてるんだ、確かに言い方は悪かったが、鑑定は必要で──」喋りながら扉を開けた瞬の言葉が途中で止まる。拗ねて泣いてでもいるのだろう、と思っていた。なのに、心の部屋の中は真っ暗だ。瞬は慌てて扉近くのスイッチを押し、電気をつける。パッと明るくなった室内。ベッドに目をやるが、人の膨らみはない。室内を隅々まで確認し、瞬はクローゼットの中まで確認したがそこにも心の姿はない。「…どこに、行った…?」どくどく、と心臓の鼓動が速まる。今まで、こんな事は一度もなかった。心がこんな時間まで、夜まで家に帰らない事は一度もなかったのだ。そこで思い出したかのように、瞬は自分のプライベート用のスマホを取り出した。パッとスマホが明るくなった瞬間、通知がきているのが見えた。恐らく、心からの連絡だろう。瞬は何故か逸る気持ちのまま、心からの連絡を開こうとしたところで──。麗奈からの着信をスマホが表示し、瞬はすぐさま麗奈からの連絡をとった。「──麗奈?どうしたんだ、こんな時間に」「はは、さっきまでずっと一緒にいたじゃないか。寂しくなってしまったなんて…可愛い事を言うなよ。俺もまた会いたくなる」麗奈の言葉に、瞬は頬を緩めたまま即座に返事をしようとして、そこで自分が今心の部屋にいる事を思い出した。室内はしんと静まり、どこか冷たく物悲しい。瞬は僅かに躊躇ったが、すぐに心の部屋から出る。歩きながら、先程ソファに投げ捨てていたスーツを拾い、スマホを首と頬で支えながら会話を続ける。「ああ、構わないよ。今から戻る。寝ないで待っててくれよ?」本当?嬉しいわ、瞬。待っ
last updateÚltima actualización : 2025-10-03
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