เข้าสู่ระบบ「こんな事でしか自分の幸せを確認できないあなたの事を考えると辛いし、……人のプライベートを他人にペラペラ話すあなたが気持ち悪──」 私が麗奈に向かってそう話している時、微かにガチャリと玄関のドアが開く音がした。 つかの間、左頬に走る衝撃。 次いで、燃えるように痛みを持つ頬。 「あんた…っ、あんた何様なのよ…!!」 麗奈が羞恥や、怒りで顔を真っ赤にしながら、再び私の頬を叩こうと腕を振り上げたのが視界に入り、私は襲い来る衝撃に備え、咄嗟に目をつぶった。 「──っ、……?」 けど、いつまで経っても頬を打たれる気配がなくて、私はそろそろと目を開けた。 そうしたら。 「滝川さん!?」 麗奈の腕を背後から掴み、止めていたのは間違いなく滝川さんだった。 まさか、こんなに早く来てくれるなんて。 もしかしたら、忙しくてメールを見ていないかも、とすら思ったのに。 「加納さん、こちらへ。頬を冷やしましょう」 「持田さん」 持田さんが私の腕をそっと取り、キッチンに誘導してくれる。 背後からは、恐ろしく低く、怒気が籠った滝川さんの声が聞こえた。 「君は、加納さんに何をしている?彼女を拉致してこんな場所に連れてきて…あまつさえ暴力を振るうなんて信じられないな」 「拉致!?ち、違うわ!私がそんな事する訳ないじゃないですか!そ、それに暴力って!ただ頬を叩いただけです!暴力なんかじゃないわ!」 滝川さんは、麗奈の言葉に呆れたように溜息をつくと、間宮さんに視線を向ける。 間宮さんはこくりと頷き、持っていたタブレットを麗奈に見せた。 「我が社の地下駐車場の防犯カメラ映像です。こちらに映っているのは、柳麗奈さんあなたですね。それと、車椅子に乗っているのが加納さん。…無理やり車椅子を押してあなたが加納さんを車まで移動させ、骨折している加納さんを車に押し込んだ所がしっかり映っています」 「──あ、」 「それに、柳麗奈。君が加納さんを叩いた瞬間を俺や秘書達は目撃しているし、自分でも頬を叩いたと認めたな?拉致に、暴行。警察に通報したら間違いなく君は実刑を受けるぞ」 「そっ、そんなわけ──」 「それに、君は加納さんに対して尋常ではない数のDMをSNSを通じて送っていた。動機は怨恨によるものだと警察もすぐに判断する
◇ ズキズキ、ズキズキと骨折している箇所が痛い。 ここ最近は無理なく動いていたので、激しい痛みが出る事は殆どなかった。 けど、今日。 車椅子から無理やり立たされ、麗奈に車に押し込まれた。 その時に骨折している足を車のドアの縁にぶつけてしまったのだろう。 ギプスをしていたので、直撃は免れてはいるがそれでも痛みがある。 私は先程から麗奈が喋っている内容など殆ど耳に届かず、じりじり、ズキズキと痛みを増して行く患部に、嫌な汗をかいた。 せっかく、良くなってきていたのに。 もし今回の件で万が一悪化してしまっていたら──。 「ちょっと、ちゃんと聞いているの!?」 「──っ」 どん、と肩を強く押され、私は座っていた椅子の背もたれに強く背中を打ち付けた。 「ちゃんと自分の目で見なさい!自分が住んでいた場所が、瞬との家が私の居場所になっているって!」 そう。 麗奈が連れて来た場所は、以前私が瞬と同棲していたマンションの一室だ。 麗奈が運転する車から見える景色に、嫌な予感がしたけれど予感は当たり、以前私が住んでいた場所に連れてこられてしまった。 何が楽しくて、瞬と麗奈が2人で住んでいるこの家にやって来なければならないのだろうか。 私が住んでいた時の面影なんて今は殆どない。 内装は麗奈好みに変えられていて、寝室なんて見れたものじゃなかった。 麗奈は、この部屋に私を連れてくるなり玄関から瞬とどんな風に過ごし、どんな風に愛し合い、どんな生活をしているのかを、私に事細かに語って説明した。 「ねえ。瞬と心って最後にシたのっていつだったの?瞬ってかなり性欲が強い人でしょ?一晩に何度も何度も求められて
私が声も出せずにいると、そのまま無理やり押し込まれ、ドアを閉められてしまう。 「ちょっ、麗奈──!」 私は慌ててドアを開けて出ようとしたけど、私が乗った側のドアはロックがかかっているようで、中からは鍵が開けられなかった。 そうこうしている間に、麗奈が運転席の方に回り込み、車に乗車する。 「麗奈!」 「ああ、もううるさい。少し黙っててよ」 麗奈はぴしゃりと言い放つと、そのままエンジンをかけて車を出してしまう。 私は慌てて背後を振り返る。 私が乗っていた車椅子は、この車が停まっていた場所に放置されている。 そして、持田さんの車は──。 そこで、持田さんの車が先程まで私がいた場所に止まり、慌てた持田さんが運転席から降りてくるのが見えた。 けど、見えたのはそこまでで、麗奈が運転するこの車は、方向転換をして出入口に向かってしまった──。 ◇ 持田の顔は、さあっと真っ青になった。 その場で周辺を確認し、離れた所にぽつんと車椅子だけが残されているのを見て、持田すぐにポケットからスマホを取り出した。 目的の人物──滝川の名前を表示し、すぐにかける。 すると、数コールも呼び出さない内にコール音が止み、電話が繋がった。 「滝川社長、大変申し訳ございません!!」 電話が繋がるなり、持田の焦った声が滝川の耳に届き、滝川は「どうした?」と聞く言葉を止めてすぐに言葉を返した。 「駐車場、です!地下駐車場です!」 言葉少なに電話が切れ、持田はだらりと腕を下ろした。 「加納さん…私の不注意だ…油断した…。清水瞬が社長に会いに来た、と報告を受けていたのに…っ」 持田は自分の顔を両手で覆う。 心が使っていた車椅子を回収し、大人しく地下駐車場の入口で待っていると、駆ける足音が聞こえてきて、持田はぱっと顔を上げた。 通路を走ってきている滝川の姿が見え、その大分後ろに遅れて間宮が着いて来ている。 滝川は持田の姿を見るなり、口を開く。 「持田さん!清水瞬はまだ会社にいる!加納さんを連れ去ったのは恐らく柳麗奈だ!」 「…!ならば、加納さんの住んでいたマンションでしょうか!?」 「恐らく。柳麗奈は滞在していたホテルをチェッ
「しまった。また話し込んで時間を失念していた…。申し訳ない、加納さん。先に家に帰っていてくれ」 はっとした滝川さんが、申し訳なさそうに私に声をかける。 滝川さんの言葉に私も窓の外を見て、こんなに時間が過ぎていた事に驚いた。 「本当ですね、もうこんな暗く…。滝川さんはまだお仕事を?」 「ああ。まだ社に残ってやる事がある。帰りは持田さんの運転で先に帰っていてくれ」 「加納さん、私たちは一足先に帰宅いたしましょう」 「そうですね。お手数おかけしますが、よろしくお願いします持田さん」 私と持田さんはここで滝川さんと別れ、一足先に滝川さんのマンションに戻る事にした。 滝川さんに挨拶をして、社長室を出る。 エレベーターでエントランスに降り、地下の駐車場に出た。 「車を回してきますね。少しだけお待ちください」 「分かりました、よろしくお願いします」 持田さんが車を取りに行く間、私は邪魔にならない場所で待機していた。 すると、誰かが歩いてくる足音が聞こえる。 こんな時間に、会社に戻って来る人もいるんだ。 遅くまでお仕事をしていたんだ、と私が思っていると、その足音は私の目の前で止まった。 「──え」 「やだ、信じられない。瞬に聞いた通りだわ」 まさか、ここで聞く事になるとは思わなかった。 私は信じられない思いで、顔を上げて声をかけてきた人物を見る。 そこには、私が想像していた通りの人物──柳麗奈が、どこか不機嫌そうに腕を組み、立っていた。 「なん、で…麗奈がここに…」 「まったく…私のDMを全部無視するなんてね。…ああ、もしかしてショックで返信できなかったのかしら?それだったら分かる
「──しまった、話しすぎた。加納さん、お腹は空いてない?もう昼過ぎてる」 ふ、と腕時計に目をやった滝川さんが、慌てたように声をかけてくれる。 滝川さんに言われて、そこでようやく私もはっとして室内の時計に目をやった。 「ほ、本当ですね」 時刻は12時半を少し過ぎたところ。 時間を確認した事で、私のお腹は空腹を訴えるように小さく音を立てた。 静かだった室内に、私のお腹の音が響き、恥ずかしさで真っ赤になってしまう。 「す、すみません…!」 「はは。俺も腹が減ったし、どこか食べに行こうか?それとも出前か何かでも頼む?」 「えっと…良ければ、食べに行きたいです」 「分かった。そうしようか」 「すみません、滝川さんもお忙しいのに」 「大丈夫、気にしないでくれ。間宮、車を回しておいてくれ」 滝川さんの言葉に、間宮さんが「かしこまりました」と頭を下げ、社長室を出ていく。 滝川さんは立ち上がると、慣れたように私を抱き上げてくれて、車椅子に座らせてくれた。 そして、そのまま滝川さん自ら押してくれる。 「そうだな…この辺りだと、和食、中華、イタリアンがあるが、加納さんは何が食べたい?」 「そうですね…和食、ですかね。滝川さんは?」 「奇遇だね。俺も和食が良いと思ってた」 私たちは他愛ない話をしながらエレベーターに乗り込み、会社のエントランスに出る。 朝よりもエントランスに人は少なかったけれど、それでも昼食の時間だからか、人はそこそこ多い。 私と滝川さん、そして少し後ろに持田さんが続いている。 私たちが姿を現すと、ざわりと空気がざわめいた気がして、私は周囲を見回そうとした。 けど、私が顔を上げたところで、持田さんが私に話しかけてきた。 「そう言えば加納さん。あれからSNSにDMは送られてきていませんか?」 「──え、あ、まだ来ていますね」 私は持田さんの質問に、カバンに入れていたスマホを確認した。 すると、画面にはSNSの通知がいくつも届いていた。 私が内容を確認すると、持田さんが「私も一緒に確認してもよろしいですか?」と顔を寄せてきた。 「ええ、もちろんです」 「ありがとうございます」 私と持田さんがスマホを覗き込んでいる間に、滝川さんが周囲に鋭い視線を向ける。
あの秘書だろうか。 瞬がそう考えつつ、顔を上げて視線を扉に向けると。 そこには、秘書ではなく滝川本人が姿を見せている。 周囲を見回し、瞬の姿を見つけると、滝川が表情1つ変えずに瞬に向かって歩いて来る。 「清水さん…約束もないまま、こうして突然お越しになられても困ります」 「滝川涼真……」 「何か用ですか?大事な客人を待たせているので、手短にして欲しいのですが」 滝川がちらりと背後の社長室に視線を向ける。 そんな様子を見た瞬は、こめかみに青筋を立てて滝川に詰め寄った。 「客人?部屋に連れ込んでいるのは、心だろう!?社長室なんかに連れ込んで何を考えている!?心は俺の──」 「元婚約者でしょう?加納さんは既にあなたとは無関係な人です。加納さんが誰と会っていようが、他人のあなたにとやかく言う筋合いはないでしょう?」 「…っ、何を偉そうに…!」 「話がないのでしたら、これで」 瞬の言葉に、滝川は一瞥を向けただけで呆れたように溜息をついたあと、あっさりと社長室に戻って行く。 瞬は、当初ここに来た理由などすっかり忘れ、怒りで頭をいっぱいにしつつ、足音荒く廊下を歩いていく。 乱暴な所作でエレベーターを呼び、エレベーターがやってくるとそのまま乗り込んで帰って行った。 滝川はやれやれ、と小さく呟きつつ社長室に戻る。 すると、滝川から渡された資料を熱心に読み込んでいたはずの心は、ペンを持ち真剣に何かを紙に書き込んでいた。 ◇ 「加納さん」 「──っ!滝川さん、す、すみません熱中してしまって…!」 すぐ側から滝川さんの声が聞こえ、私ははっとして資料から顔を上げて滝川さんを見る。