LOGIN親が経営する会社の最重要取引先である遠藤製薬の息子の陸に気に入られ結婚をせがまれた美月。一回は断るも、五年交際していた彼から突然の別れ、そして取引停止など陸は圧力をかけてくる。倒産危機を回避するため陸との結婚を決意する美月だが、陸は美月を『モノ』としか見ていなかった。「俺が求めているのは若くて綺麗な女だけ。妊娠して太ったら醜いし、賞味期限切れに用はない。」美月は耐えられなくなり夜の街へ繰り出し、偶然、世羅に出会い一夜を共にする。世羅の優しさは、元の生活に戻り、陸との生活に耐えるためには邪魔をする。この恋は夜明けと共に忘れなくてはならない――― そう思った美月は、世羅に何も言わずに部屋を後にした
View More窓の外はもうすぐ夜明けを迎えようとしている。光が差せば、この夢は終わるだろう。
きっとこの夜は、彼との出逢いは、これから先に胸のときめきなど二度と感じることのない人生を送る私への最後のプレゼント――そう、思った。
「お前は、いつまで経っても役立たずだな。こんなことも出来ないのか。所詮、顔だけだな」
陸は、周りの社員に聞こえるよう、わざと大きな声で私を罵倒した。
今、私が代理で作成しているのは、陸が午後の役員会議で使う資料だ。本来なら彼自身の役目だが、陸は一切やろうとしない。
彼にとって私は『自分の見栄を満たすただの所有物』で、それ以上の意味を持たない。そして、その『所有物』の唯一の価値は、「顔」だけだと何度も思い知らせようとする。
(お父さんの会社と従業員を守るためにも耐えるしかない……)
遠藤製薬――地方の中堅製薬会社で、東海エリアでは知名度九割越えの有名企業だ。その社長の三男である陸と、私は間もなく結婚する予定になっている。世間からは「玉の輿」と言われるが、私はこの結婚を望んでいなかった。それでも結婚を決めたのは、陸からの強く執拗な圧力があったからだ。
遠藤製薬の下請企業として長年、信頼関係を築いてきた我が社だが、状況が変わったのは、半年前、陸が査察で会社に訪れたときのことだった。
「失礼いたします。お茶をどうぞ――」
私が応接室でお茶を出すと、陸はじっと私を上から下まで視線を動かし凝視していた。その様子に気づいた父が慌てて立ち上がり、私を紹介した。
「遠藤取締役、娘の美月です」
「美月……綺麗な名前だ」
その時は何事もなく終わったが、後日、陸から電話がかかってきた際、社長である父が突然、大きな声を上げた。
「娘の美月を取締役の結婚相手にですか?」
思いもせぬ結婚話に困惑したが、私は当時交際していた人との結婚も控えていたため、父に断りの電話を入れてもらった。
しかし、遠藤 陸という男は、それで諦めるような人間ではなかった。
「え……別れるってなんで、突然どうしたの?」
その二週間後、大学時代から五年付き合っていた彼から突然電話がかかってきて、理由も告げずに振られてしまった。家に行っても居留守をつかわれ、連絡先もブロックされている。友人に頼んで連絡をしたり理由を聞いてもらっても、何も分からないままだった。
呆然として別れの現実を受け入れられなかったが、その一か月後、影響は仕事にも出始める。
「社長!大変です。遠藤製薬からの受注額が三分の一に減額されています!」
営業部の部長が、顔を真っ青にしながら受注票をもって社長室に訪れた。この会社は遠藤製薬からの受注が八割を占めている。いきなり減額されたら事業が回らない。
「何だって?遠藤製薬とはもう四十年以上安定的な取引をしているんだぞ?それが何故だ!」
慌てて父や副社長、専務も同行し遠藤製薬に出向くと、応接室に陸があらわれた。
「あの……今月、急に受注額が減ったのはどのような理由でしょうか。何か当社に不備がございましたでしょうか」
父が低姿勢で尋ねると、陸は嘲笑うかのように小さく鼻で笑い、組んだ足をソファに深く投げ出してこう告げたそうだ。
「あれは忠告です。こちらがおたくのお嬢さんを嫁に貰ってやってもいいと言ったのに、断ってくるなんて。断る権利などないことが分かっていなかったようなのでね」
「それは取引とは別問題では……」
専務が反論すると、陸は鋭い瞳で威嚇するように睨みつける。
「こちらは受注する側だ。他の会社を選ぶ権利もある。もっと受注額を減らすことも、なんなら他社にすべて切り替えることも出来るんですよ」
実際に三分の一まで減らしてきた陸なら、本当に取引停止にしたり、切り替えたりすることもしかねない――父を含む経営陣はそう判断し、黙って陸の要望を歯を食いしばりながら受け入れた。
美月side翌日、未来のチアの発表会が終わり、夕暮れ時の海辺を三人で散歩していた。 オレンジ色に染まる水平線を眺めながら、世羅がふと私に問いかけた。「僕の都合で色んな所へ振り回しているけれど、美月は今、幸せ?」私は立ち止まり、吹き抜ける潮風を頬に感じながら、隣に立つ世羅を見上げた。「ええ。とても幸せよ。……初めて会った日の朝、ホテルの部屋を出る時に私は思ったの。この恋は夜明けと共に忘れようって」「この恋は今の状態の私を苦しめるものだって。だけど、あの時、未来を変えようともがきながらも動いたことで今がある。こんなに輝かしくて幸せなことはないわ」世羅は何も言わず、私の手を強く握りしめた。「僕もだよ。美月に出逢えたおかげで未来に会うことも出来た。美月が諦めないでくれてよかった」二人で視線を交わらせていると、先を歩く未来が振り返って手を振っている。「パパ、ママ! 太陽が沈んじゃうよ!」沈む夕日の中、手をつないで歩き出す三人のシルエット。 私の薬指には、あの日、世羅から贈られたダイヤモンドの指輪が海の煌めきを吸い込んでいつまでも変わらぬ光を放ち続
美月side「スイス……。今度はヨーロッパなのね」「美月にはやっと自分の居場所ができたのに、また振り回してしまうことになる。未来だって今の学校が大好きだろう。だから、迷っているんだ。実際に断ろうともした。でも、その施設でなら今の研究をさらに進化させて、もっと多くのそれこそ世界中の何百万人もの命を救える可能性があるんだ」世羅は自分の成功よりも常に「誰かのために何ができるか」を優先する人だ。そして何より家族の幸せを一番に考えてくれている。そんな世羅を見て、未来はビックリするほど力強い声で答えた。「パパ、私、大丈夫だよ」未来の声に、私と世羅は難しい決断をすぐにした娘に対して不安も混じった瞳で見つめた。「学校を離れるのは少し寂しいし、新しい場所は緊張するけれど、パパがたくさんの人を助けるお手伝いができるなら、私、応援する!スイスでもチアできるかな?」未来の言葉に世羅の瞳が潤んだ。私も世羅に向かって深く頷いた。「世羅、私たちはどこへ行っても大丈夫よ。未来も応援するというなら、私はそんな未来の想いも大切にしたいの。日本からアメリカへ来た時、私には何もなかった。でも今は違う。私にはあなたと未来がいる。家族が一緒ならそこが私たちの居場所になるのよ」
美月side「私ね、将来は誰かのために働ける人になりたいの。パパが病気を治す人なら、私は人の心を元気にするような仕事をしたいな。悲しんでいる人がいたら手を差し伸べて笑顔にしたいの」未来はキラキラとした瞳でまだ見ぬ遠い将来を描いている。その真っ直ぐな視線は、かつて日本で絶望の淵にいた私に、勇気を与えてくれた世羅の瞳とそっくりだった。窓から差し込む午後の柔らかな光の中でおやつを頬張る娘の姿を見守る。 ふと、サイドボードに飾られた一枚の写真に目をやった。そこには、アメリカに到着したばかりの少し緊張しながらも希望に満ちた顔をした私と世羅が写っている。(あの時、勇気を出して海を渡って本当に良かった……)今、私の手の中には誰も邪魔することの出来ない確かな幸せがある。「マム、明日のチアの発表会、パパも来れるかな?」「ええ、もちろんよ。パパが早起きして一番前の席を取ると張り切っていたわ」玄関の鍵が開く音がする。「ただいま。二人とも、何を話しているんだい?」
美月side月日は流れ、未来は十歳になった――――――。世羅は相変わらず研究も行っているが、最近では経営にも本格的に携わるようになっていった。自分の研究結果を世の中に広めるまでが自分の使命だと話し、企業との製品化に向けた話にも積極的に取り組んでいる。一方で、世界各国にいる柳グループの他の研究者たちが研究だけに専念できるような環境の構築した。かつて世羅が広告塔としてスポンサー探しや講演会に追われることは、人脈こそ広がるが研究の成果には直結しない。広告や営業の専門部門を強化し、各自が自分の強みを最大限に生かせる組織へと柳グループを内側から変革させていったのだ。「ただいまー、マム!」未来が元気よく玄関を開けて学校から帰ってきた。おやつを食べて宿題を終わらせたら遊びに行きたくてウズウズしている様子がこちらにも伝わってくる。アメリカで生まれ育った未来は、日本語と英語を器用に使い分け、学校ではリーダーシップを発揮する活発で明るく真っ直ぐな少女に育った。最近はチアリーディングを習い始めて、地域のイベントでも練習の成果を披露している。「ママ! パパの論文がね、また新しい教科書に載っていたよ。写真の下に小さくパパの名前が書いてあったんだけど、先生が授業中に私のパパだって紹介したら、みんなに『未来のパパ、かっこいい!』って言われたの! すっごく嬉しかったな。パパって本当に凄い人な
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