夜明けと共に忘れるはずの恋だった

夜明けと共に忘れるはずの恋だった

last updateLast Updated : 2025-10-09
By:  中道 舞夜Updated just now
Language: Japanese
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親が経営する会社の最重要取引先である遠藤製薬の息子の陸に気に入られ結婚をせがまれた美月。一回は断るも、五年交際していた彼から突然の別れ、そして取引停止など陸は圧力をかけてくる。倒産危機を回避するため陸との結婚を決意する美月だが、陸は美月を『モノ』としか見ていなかった。「俺が求めているのは若くて綺麗な女だけ。妊娠して太ったら醜いし、賞味期限切れに用はない。」美月は耐えられなくなり夜の街へ繰り出し、偶然、世羅に出会い一夜を共にする。世羅の優しさは、元の生活に戻り、陸との生活に耐えるためには邪魔をする。この恋は夜明けと共に忘れなくてはならない――― そう思った美月は、世羅に何も言わずに部屋を後にした

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Chapter 1

1.甘い思い出と無機質な結婚

窓の外はもうすぐ夜明けを迎えようとしている。光が差せば、この夢は終わるだろう。

きっとこの夜は、彼との出逢いは、これから先に胸のときめきなど二度と感じることのない人生を送る私への最後のプレゼント――そう、思った。

「お前は、いつまで経っても役立たずだな。こんなことも出来ないのか。所詮、顔だけだな」

陸は、周りの社員に聞こえるよう、わざと大きな声で私を罵倒した。

今、私が代理で作成しているのは、陸が午後の役員会議で使う資料だ。本来なら彼自身の役目だが、陸は一切やろうとしない。

彼にとって私は『自分の見栄を満たすただの所有物』で、それ以上の意味を持たない。そして、その『所有物』の唯一の価値は、「顔」だけだと何度も思い知らせようとする。

(お父さんの会社と従業員を守るためにも耐えるしかない……)

遠藤製薬――地方の中堅製薬会社で、東海エリアでは知名度九割越えの有名企業だ。その社長の三男である陸と、私は間もなく結婚する予定になっている。世間からは「玉の輿」と言われるが、私はこの結婚を望んでいなかった。それでも結婚を決めたのは、陸からの強く執拗な圧力があったからだ。

遠藤製薬の下請企業として長年、信頼関係を築いてきた我が社だが、状況が変わったのは、半年前、陸が査察で会社に訪れたときのことだった。

「失礼いたします。お茶をどうぞ――」

私が応接室でお茶を出すと、陸はじっと私を上から下まで視線を動かし凝視していた。その様子に気づいた父が慌てて立ち上がり、私を紹介した。

「遠藤取締役、娘の美月です」

「美月……綺麗な名前だ」

その時は何事もなく終わったが、後日、陸から電話がかかってきた際、社長である父が突然、大きな声を上げた。

「娘の美月を取締役の結婚相手にですか?」

思いもせぬ結婚話に困惑したが、私は当時交際していた人との結婚も控えていたため、父に断りの電話を入れてもらった。

しかし、遠藤 陸という男は、それで諦めるような人間ではなかった。

「え……別れるってなんで、突然どうしたの?」

その二週間後、大学時代から五年付き合っていた彼から突然電話がかかってきて、理由も告げずに振られてしまった。家に行っても居留守をつかわれ、連絡先もブロックされている。友人に頼んで連絡をしたり理由を聞いてもらっても、何も分からないままだった。

呆然として別れの現実を受け入れられなかったが、その一か月後、影響は仕事にも出始める。

「社長!大変です。遠藤製薬からの受注額が三分の一に減額されています!」

営業部の部長が、顔を真っ青にしながら受注票をもって社長室に訪れた。この会社は遠藤製薬からの受注が八割を占めている。いきなり減額されたら事業が回らない。

「何だって?遠藤製薬とはもう四十年以上安定的な取引をしているんだぞ?それが何故だ!」

慌てて父や副社長、専務も同行し遠藤製薬に出向くと、応接室に陸があらわれた。

「あの……今月、急に受注額が減ったのはどのような理由でしょうか。何か当社に不備がございましたでしょうか」

父が低姿勢で尋ねると、陸は嘲笑うかのように小さく鼻で笑い、組んだ足をソファに深く投げ出してこう告げたそうだ。

「あれは忠告です。こちらがおたくのお嬢さんを嫁に貰ってやってもいいと言ったのに、断ってくるなんて。断る権利などないことが分かっていなかったようなのでね」

「それは取引とは別問題では……」

専務が反論すると、陸は鋭い瞳で威嚇するように睨みつける。

「こちらは受注する側だ。他の会社を選ぶ権利もある。もっと受注額を減らすことも、なんなら他社にすべて切り替えることも出来るんですよ」

実際に三分の一まで減らしてきた陸なら、本当に取引停止にしたり、切り替えたりすることもしかねない――父を含む経営陣はそう判断し、黙って陸の要望を歯を食いしばりながら受け入れた。

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1.甘い思い出と無機質な結婚
窓の外はもうすぐ夜明けを迎えようとしている。光が差せば、この夢は終わるだろう。きっとこの夜は、彼との出逢いは、これから先に胸のときめきなど二度と感じることのない人生を送る私への最後のプレゼント――そう、思った。「お前は、いつまで経っても役立たずだな。こんなことも出来ないのか。所詮、顔だけだな」陸は、周りの社員に聞こえるよう、わざと大きな声で私を罵倒した。今、私が代理で作成しているのは、陸が午後の役員会議で使う資料だ。本来なら彼自身の役目だが、陸は一切やろうとしない。彼にとって私は『自分の見栄を満たすただの所有物』で、それ以上の意味を持たない。そして、その『所有物』の唯一の価値は、「顔」だけだと何度も思い知らせようとする。(お父さんの会社と従業員を守るためにも耐えるしかない……)遠藤製薬――地方の中堅製薬会社で、東海エリアでは知名度九割越えの有名企業だ。その社長の三男である陸と、私は間もなく結婚する予定になっている。世間からは「玉の輿」と言われるが、私はこの結婚を望んでいなかった。それでも結婚を決めたのは、陸からの強く執拗な圧力があったからだ。遠藤製薬の下請企業として長年、信頼関係を築いてきた我が社だが、状況が変わったのは、半年前、陸が査察で会社に訪れたときのことだった。「失礼いたします。お茶をどうぞ――」私が応接室でお茶を出すと、陸はじっと私を上から下まで視線を動かし凝視していた。その様子に気づいた父が慌てて立ち上がり、私を紹介した。「遠藤取締役、娘の美月です」「美月……綺麗な名前だ」その時は何事もなく終わったが、後日、陸から電話がかかってきた際、社長である父が突然、大きな声を上げた。「娘の美月を取締役の結婚相手にですか?」思いもせぬ結婚話に困惑したが、私は当時交際していた人との結婚も控えていたため、父に断りの電話を入れてもらった。しかし、遠藤 陸という男は、それで諦めるような人間ではなかった。「え……別れるってなんで、突然どうしたの?」その二週間後、大学時代から五年付き合っていた彼から突然電話がかかってきて、理由も告げずに振られてしまった。家に行っても居留守をつかわれ、連絡先もブロックされている。友人に頼んで連絡をしたり理由を聞いてもらっても、何も分からないままだった。呆然として別れの現実を受け入れられなかったが、その一か月
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2.陸の思惑といい買い物
翌日の朝、私は大事な話があると言われ会議室に向かった。コンコンッ―――――ドアをノックして扉を開けると、社長である父と副社長、そして専務が座っている。中に入ると同時に三人は立ち上がり、一斉に深々と頭を下げた。「美月、本当に申し訳ない―――――――」「なに、一体どうしたというの?」三人は、昨日の遠藤製薬で陸から言われた話を私に伝えた。「つまり、結婚を断った腹いせに取引額を減少し、このまま拒否を続けるなら完全に取引停止も辞さない、そう脅されたということですか?」父は顔を上げず、苦痛に歪んだ声で答えた。「……会社の都合で、美月の人生を指示するようなことはしたくなかった。だが、昨日の訪問後に収支と資金の余力を調べたんだが、遠藤製薬の受注がなければ、このままいくとあと半年でこの会社は倒産するしかなくなってしまう」「そんな……」「社員五百人以上の生活がかかっているんだ。美月には本当に申し訳ないと思っている。しかし、他に手立てがないんだ本当に申し訳ない……。」「美月さんにこんなお願いをするのはおかしいが、遠藤製薬との取引を停止されるわけにはいかないんだ。謝罪をしてもしきれない。でも、社員を守るためなんだ。」副社長、専務にも頭を下げられ、私は言葉を失った。遠藤陸に興味がないどころか、苛立ちと憎しみしか持たない。しかし、あと半年でこの事態を解決する手段を私は持ち合わせていない。この話を受け入れるしかないことだけは理解し、私は深く大きくため息をついた。「分かりました。婚姻の話、受けさせていただきます」(結婚する予定だった彼には別れを告げられ、今度は会社のために知らない男に嫁ぐ……私の人生って、いったいなんだろう)そんなことを思いながら、帰り道、私は空を見上げた。季節は秋から冬に変わろうとしていて、枝に一枚の葉っぱがひらひらと揺らめいている。鮮やかだったはずのその葉は、すっかり茶色になり、ところどころ穴があいている。枯れ果ててボロボロになりながらも、それでも必死に枝にしがみついている葉は、遠藤陸の思い通りになりたくないと必死に抵抗を試みる自分自身のように見えた。冬を告げる乾いた風が頬に冷たくあたり、風当たりの強いこの状況は、孤独で逃げ場がなかった。――――「酒井美月です。この度は、婚姻のお話ありがとうございます」駅のすぐ横にあるシティホテルの最
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3.使い捨ての賞味期限、狭い世界からの飛び出し
それから、私は陸の会社で働くこととなった。彼の下で働き、雑用から書類作成、取引先の対応まで任された。しかし、表向きは全て陸がやっていることになっている。私は、いいようにこき使われる影武者だ。「今どこにいる。取引先の会長にお前を紹介する。今すぐ来い」電話がかかってきたら、すぐに言い渡された場所に来るように命令される。「遠藤取締役の婚約者ですか―――お綺麗ですね。美人な婚約者を手に入れたと噂には聞いていましたが、本当に綺麗だ。ミスコンの優勝者なんですって」「いや、それほどでも。縁があって一緒になることしました」(『婚約者を手に入れた』そう、その通りよ。)相手に悪意がないことは分かっているが、心の中で毒づいて反論する。陸は、有名私立大学のミスコンで優勝した私を、昼夜問わず呼び出しては周囲の人間へ自慢をしていた。「先日、多額の結納金を送ったからな。お前は俺に見合う妻になるため、俺の指示に従ってろ」遠藤家から一千万円の結納金をもらい、父の会社は、その資金で窮地を脱し遠藤製薬からの受注も無事に再開した。陸の態度は日を追うごとにエスカレートし、彼の秘書を通じて私への『教育』と称して過度なスケジュールが組まれるようになった。最高級のエステ、料理教室、マナー研修、そして陸の顧客との食事会。顧客の前では私に対して優しく振る舞うが、二人きりになった途端、陸の態度は豹変した。「マナーがなってないぞ。お前の父親の会社が小さな下請けだから、お前も所詮その程度の品位なんだ。恥をかかせるな」陸の罵倒を聞くたびに、心の奥底で怒りの炎が燃え上がるのを感じていた。(偉そうにするしか能がないあなたに言われたくない。いつか、この男に全てが自分の思い通りにはならないと分からせてやりたい……)しかし、そう思ったところで私の自由は利かない。私には、父の会社の五百人以上の社員の命運が掛かっているのだ。そんなある日、終業時間が終わってから陸に呼ばれて出向くと、休憩室から聞こえる雑談の中に陸の笑い声があった。「遠藤取締役の相手が美人だって社内でも有名になっていますよ」「ああ、あれな。あんなのただの使い捨てだ。顔がいいから選んだだけで、飽きたら次に行くだけだ」「そんなこと言って。奥さんが美人だと産まれてくる子も可愛いんだろうな」「何を言っているんだ。俺が求めているのは若くて綺麗な女だ
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