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第2話

Author: カモノハシ
誰も、私の感情の変化には気づかなかった。赤くなった目元を気にかける人もいなかった。

妹にあんなことを言われたあと、みんなは当然のように、この話はもう終わったものだと思っていた。

私も空気を読んで、もう何も言うべきではないのだと思っていた。

そして、それぞれ何事もなかったかのように食事を続けた。

妹の茶碗には、おかずが山のように盛られていた。

両親は、妹のことになると、いつだってどちらが上か競い合う。

「有希ちゃん、お母さんが焼いたお肉を食べて。お父さんが焼いたのは焼きすぎよ」

「有希ちゃん、お母さんの言うことなんか聞くな。あんな半生の肉を食ったら腹を壊すぞ」

有希ちゃん。

有希ちゃん……

何度も、何度も。

2人が口いっぱいに料理を頬張ったまま話しているときなんて、私はふと聞き間違えてしまうこともあった。

「真季ちゃん」と呼ばれたのかと思って、顔を上げる。

けれど、そこには私に向けられた視線なんて、一つもなかった。

妹はもともと凛香(りんか)といい、生まれたときに父がつけた名前だった。

両親が離婚した年、母は身ひとつで出ていくことを選んでも、妹の名前を自分がつけた名前に変えさせた。

母は父と役所の前で大喧嘩をした。

幼かった私は、必死に2人の間に入った。

「お母さん……私の名前を変えていいよ。もう喧嘩しないで」

母は苛立たしげに私を引き離した。

「あんたに変わる必要なんてない」

私は呆然と彼女に振り払われ、地面にぺたりと座り込んだ。

結局、妹が怖くて泣き出してしまったことで、2人はようやく一歩ずつ譲り合った。

妹は姓を変えず、名だけ母が変えた――野上有希を名乗ることになった。

両親の愛情が詰まった名前だった。

食事を終えると、母は妹の腕を取りながら私に言った。

「有希ちゃんは寮を移ることになったの。お父さんじゃ荷物の整理も雑でしょうから、私が手伝いに行くわ。あなたは明日、1人でバスに乗って新学期の手続きに行きなさい」

私は母を呼び止めた。「お母さん、今年の学費、まだもらってないんだけど」

母は振り返りもせずに答えた。「有希ちゃんの学費はもう払ったわ。あなたの分はお父さんに払ってもらいなさい」

父は母の背中を睨みつけながら、憤慨したように言った。「学費まで俺と張り合うのかよ!本来なら俺が有希ちゃんの学費を払うはずだったのに」

ぶつぶつ文句を言いながら私に学費を振り込むと、父は疑うような目で私を見た。

「お前みたいにぼんやりしてて、融通の利かない性格じゃ、成績だって大したことないんだろ?

大学に受かるのか?俺と母親が苦労して稼いだ金を無駄にするなよ」

私は無表情のまま、頷いた。

学年トップ3に入る私の目を見張るような成績を、クラスメートの親の中で知らなかったのは、彼と母だけだった。

今まで関心を持たなかったのなら、これからも関心を持つ必要なんてない。

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