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第4話

Auteur: ミチル
紗奈はふらりと身体を揺らし、大きく目を見開いた。彼女の視線は、医師の肩越しにベッドの上の蓮へと向けられる。

自分の兄はまだ危篤状態だ。最悪の場合、ずっと意識が戻らない植物状態になるかもしれないという。

度重なるショックで、紗奈の心はとうとう折れてしまった。目の前が真っ暗になり、彼女はその場に倒れ込んだ。

1時間後、意識を取り戻した紗奈はふらつく身体を引きずり、蓮の主治医のもとへ向かった。相手は重い口を開いた。「木村さん、事故の影響で、お兄さんの脳に深刻な出血が見られます。全力を尽くしましたが、あとは運に任せるしかありません。

現在は特別集中治療室で、保険適用外の特殊な生命維持装置に頼っている状態です。ですが、いつまで持ちこたえられるかは我々にも予測がつきません。

この高度な延命治療と特別室の費用は、全額自己負担となるため非常に高額になります。木村さん、早急に資金の工面をお願いします」

医者は気の毒そうに紗奈を見た。木村家が破産したことは東都中で噂になっており、医者も事情を知っていた。

特別集中治療室の利用代は1日につき約20万円近くかかる。今の紗奈に払えるのか、医師には皆目見当もつかなかった。

病院の廊下で、紗奈はスマホの画面を見つめた。電子マネーの残高は、たったの数百円。それが今の、彼女の全財産だった。

彼女は唇を噛みしめ、連絡先を開いて電話をかけ始めた。

何度もかけても繋がらない。ようやく繋がっても、金を貸してほしいと言った途端に友人たちは冷たく電話を切り、あるいは言い訳をして断った。

「紗奈、ごめんね。無理だよ」

「紗奈、私は海外に行くから……」

「紗奈、最近父に小遣いを削られてて、あんまり手元にないんだ」

親友の加藤達也(かとう たつや)に言い逃れられ、紗奈はついに堪え切れず、怒りに声を震わせた。「達也、もう20年の付き合いじゃない?

兄は以前、あなたを助けたこともあるでしょ。あなたが月のお小遣いを少し出すだけで兄の命は救えるのよ。それでも見殺しにするの?」

電話の向こうの沈黙が長く続き、ようやく達也の声が聞こえた。「紗奈、山本社長が口を出したんだ。君を助ける者は敵だと。

紗奈、うちの会社だって山本社長の標的にされたくないんだよ」

プー、プー。達也は電話を切った。

紗奈は力なく、冷たい廊下の床に座り込んだ。

翔太、自分の大切な人を次々と追い込んでいくなんて、あまりに残酷すぎる。

彼女は苦痛に顔を歪め、身を小さくして震えた。誰もいない廊下で、声にならない慟哭が漏れた。

どれくらいの時間が過ぎたか、電話が鳴った。噂の御曹司、岩崎圭佑(いわさき けいすけ)だ。繋がるなり、軽薄な声が耳元に届いた。

「木村、金に困ってるんだって?」

紗奈はスマホを強く握りしめ、精一杯平静を装った。「ええ。貸していただけますか?借用書を書きますので、必ず返しますから」

「ハハハ、返す?」

圭佑の下品な声が聞こえた。「木村家が倒産して、どうやって返すつもりだ?

俺の愛人にならないか?それならお前の兄の延命治療費なんて安いもんだろ!」

「そんなの嫌ですよ!そこまで落ちぶれてはいません!

だいたい、自分の身の程をわきまえたらどうですか!」

怒りと屈辱で顔を真っ赤にし、紗奈は一言一言、吐き捨てるように言い放った。

「調子に乗るなよ!破産したくせに、いつまでお高くとまってるつもりだ!

今に俺の足元に這いつくばって、泣きついてくるようにしてやるからな……」

紗奈は迷わず電話を切った。しかし、怒鳴り声が頭から離れない。彼女は顔を上げ、涙を必死にこらえた。

……

東都一番のクラブ「エリュシオン」で、紗奈は青い清掃服に身を包み、掃除用カートを押して掃除をしていた。

マスクをして、その容姿は完璧に隠されている。

かつて誰もが羨んだ木村家の令嬢だとは、誰も思わないだろう。

「山本社長はすごいね、たった半年で東都の頂点だよ。一体1日でどれだけ稼いでいるんだろう!」

「近々婚約するんだってさ。相手も大層なお家柄らしい……」

床を拭きながら小耳にはさんだ仕事仲間たちの噂話に、紗奈の手が止まった。表情がふと遠くを見つめるように固まる。

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