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家族を奪った復讐鬼。一緒に地獄へ堕ちましょう

家族を奪った復讐鬼。一緒に地獄へ堕ちましょう

Par:  ミチルComplété
Langue: Japanese
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木村紗奈(きむら さな)は、山本翔太(やまもと しょうた)を8年間も愛していた。 両親の反対を押し切り、彼を木村グループに入社させたほどだ。 しかし翔太が、木村家を深く恨む仇の息子だったとは紗奈は知らなかった。彼女に近づいたのも、すべては復讐のためだったのだ。 父親は死に、兄は植物状態に。紗奈は一晩ですべてを失った。 絶望の果てに、彼女が自分の「初めて」をオークションにかけると、翔太は血走った目で怒鳴った。「紗奈、お前、本気か!」

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Chapitre 1

第1話

澄波ヶ丘にある木村家の邸宅。豪華で上品だったリビングはひどく荒らされ、がらんとした部屋に木村彩花(きむら あやか)の甲高い泣き叫ぶ声が響き渡っていた。

「紗奈、この疫病神!恩知らずが!

あの時、翔太と付き合うのなんてやめろって言ったのに。あなたがどうしても彼がいいって聞かなかったから、こんなことになったのよ!お父さんの亡骸を見てみなさい!病院で寝てる蓮のことを考えて!全部あなたのせいよ!

なんであなたが死ななかったのよ!

あなたなんか、産まなきゃよかった!」

彩花は髪を振り乱し、服も汚れたままだった。彼女は怒りにまかせて、娘の木村紗奈(きむら さな)に殴りかかった。

紗奈は呆然と床にひざまずいていた。父の木村隆(きむら たかし)の血まみれの亡骸が、冷たい床の上に横たわっている。四肢は不自然に折れ曲がり、優しかった面影はない。どす黒い血の跡が、目に焼き付いて離れなかった。

彼女は顔面蒼白で、頬は涙で濡れていた。絶望に打ちひしがれて声を殺して泣きながら、彩花に殴られるがままになっていた。

母の言う通りだ。自分は疫病神なんだ。

山本翔太(やまもと しょうた)を愛したばかりに、会社へ招き入れ、重役に抜擢してしまった。彼に数年かけて会社を乗っ取られ、父を借金取りに殴り殺させ、兄の蓮も事故に遭わせたのだから。

幸せだった自分の家族は、めちゃくちゃになった。

「翔太、よくも、よくも8年間も私を騙してくれたわね!」

彩花は力を使い果たし、崩れ落ちる。紗奈は深い絶望と怒りを胸に、背を丸めたままだった。

……

彼女は、翔太と初めて出会った日のことを思い出した。日差しの心地よい夏の日、桜の木の下に立つ彼。そのカッコよく、どこか近寄りがたい姿に、紗奈は一目で恋に落ちたのだ。

翔太が経済学部の学生だと知ると、紗奈は猛アタックをしかけた。そして2年後、彼はやっと紗奈の彼氏になってくれた。

翔太の家があまり裕福でないと知っていたから、付き合っている間、紗奈は彼のプライドを傷つけないよう、いつも気を配っていた。見下しているなんて、絶対に思われたくなかったから。

彼女はかつて、翔太こそが自分の生涯を伴にする「運命の人」だと信じ込んでいたのだ。

だが、愛した男の正体が冷酷な悪魔だったとは思いもしなかった。

こんなに大きな「サプライズ」を用意してくれるなんて。

家族の命を奪い、すべてを破滅させるという絶望の「サプライズ」だったのだ。

指が白くなるほどカーペットを掴みしめ、紗奈は悔しさと憎しみに顔を歪めた。彼女はふらつきながら立ち上がると、外へ向かった。

翔太に直接問いたださなければ。木村家が一体何をしたっていうの?どうして、あんな酷いことができるの?

紗奈は木村グループのビルに着くと、社長室に駆け込んだ。

「翔太!教えてちょうだい、どうして恩を仇で返すようなことをしたの!

私の両親は、あなたのことを実の息子みたいに可愛がっていたのに!これがその恩返し?」

駆け込んできた紗奈は、社長椅子に座る翔太を見ると、充血した目で彼を睨みつけ、力いっぱい平手打ちをしようとした。

しかし、その手は翔太に掴まれてしまった。

翔太は冷たい顔で、掴んだ紗奈の腕を強く振り払った。紗奈は数歩よろめき、床に強く体を打ち付けた。

床に倒れた紗奈を見て、翔太は思わず眉をひそめ、鼻で笑った。「恩を仇で返す、だと?

十数年前、お前たち木村家は俺の両親を死に追いやった。これはその報いだ!」

亡くなった両親の話をする時、翔太の目には憎しみが宿っていた。

紗奈はさらに顔を青ざめさせ、大声で叫んだ。「そんなの嘘よ!父は誰にでも親切な人だったわ。そんなことするはずがない!」

「お前の母親はまだ生きてるだろ。帰ってよく聞いてみれば分かるさ!ここも今は木村グループのものじゃない、出て行け!」

翔太は紗奈を見下ろし、あざけるように言った。「今の自分の姿を見てみろ。狂った女にしか見えないぞ」

翔太の冷たい視線に、紗奈の心臓は針で刺されたように痛んだ。彼女は震える声で尋ねた。「じゃあ、最初から、あなたは目的があって私に近づいたの?私のことなんて……一度も好きになったことはなかったの?」

蒼白で弱々しい紗奈の姿に、翔太は一瞬、唇を引き結んだ。だが、すぐに残酷な言葉を口にした。「ああ、そうだ。お前のことなんか一度も愛したことはない。

お前と一緒にいた時間は、吐き気がするほど不愉快だったよ」

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commentairesPlus

ちゃん
ちゃん
お母様の言う通りだったのね〜。 愛憎劇…周囲を巻き込んで最後は大火事だぁ。。
2026-05-26 20:16:06
1
0
あーきよいち
あーきよいち
愛憎ってこういうことなんだなって感じさせられました。 最期まで愛を貫いた、とも言える。
2026-05-16 16:54:30
6
0
ノンスケ
ノンスケ
タイトルからしてもラストはわかってたけど、あまりにあっけない最後だった。翔太が騙されてたとは言え、やったことがひどすぎた。岡本家も。ラストはああするしかなかったんだろうな。
2026-05-17 05:01:44
2
0
プレリードック
プレリードック
悲しい…結末だったけど、仕方ないね。
2026-05-17 01:11:23
3
0
友里
友里
ゲス女2人が酷すぎて...翔太も騙されてたとはいえ苛烈過ぎたゆえに何も残らない結末っていうのが... 秘書さんが真っ直ぐないい人すぎたから会社が続けられなくても幸せに生きて欲しい 親友で上司なのにアレだけしっかり諌められたのはこの人だけだったな
2026-07-13 17:31:33
0
0
23
第1話
澄波ヶ丘にある木村家の邸宅。豪華で上品だったリビングはひどく荒らされ、がらんとした部屋に木村彩花(きむら あやか)の甲高い泣き叫ぶ声が響き渡っていた。「紗奈、この疫病神!恩知らずが!あの時、翔太と付き合うのなんてやめろって言ったのに。あなたがどうしても彼がいいって聞かなかったから、こんなことになったのよ!お父さんの亡骸を見てみなさい!病院で寝てる蓮のことを考えて!全部あなたのせいよ!なんであなたが死ななかったのよ!あなたなんか、産まなきゃよかった!」彩花は髪を振り乱し、服も汚れたままだった。彼女は怒りにまかせて、娘の木村紗奈(きむら さな)に殴りかかった。紗奈は呆然と床にひざまずいていた。父の木村隆(きむら たかし)の血まみれの亡骸が、冷たい床の上に横たわっている。四肢は不自然に折れ曲がり、優しかった面影はない。どす黒い血の跡が、目に焼き付いて離れなかった。彼女は顔面蒼白で、頬は涙で濡れていた。絶望に打ちひしがれて声を殺して泣きながら、彩花に殴られるがままになっていた。母の言う通りだ。自分は疫病神なんだ。山本翔太(やまもと しょうた)を愛したばかりに、会社へ招き入れ、重役に抜擢してしまった。彼に数年かけて会社を乗っ取られ、父を借金取りに殴り殺させ、兄の蓮も事故に遭わせたのだから。幸せだった自分の家族は、めちゃくちゃになった。「翔太、よくも、よくも8年間も私を騙してくれたわね!」彩花は力を使い果たし、崩れ落ちる。紗奈は深い絶望と怒りを胸に、背を丸めたままだった。……彼女は、翔太と初めて出会った日のことを思い出した。日差しの心地よい夏の日、桜の木の下に立つ彼。そのカッコよく、どこか近寄りがたい姿に、紗奈は一目で恋に落ちたのだ。翔太が経済学部の学生だと知ると、紗奈は猛アタックをしかけた。そして2年後、彼はやっと紗奈の彼氏になってくれた。翔太の家があまり裕福でないと知っていたから、付き合っている間、紗奈は彼のプライドを傷つけないよう、いつも気を配っていた。見下しているなんて、絶対に思われたくなかったから。彼女はかつて、翔太こそが自分の生涯を伴にする「運命の人」だと信じ込んでいたのだ。だが、愛した男の正体が冷酷な悪魔だったとは思いもしなかった。こんなに大きな「サプライズ」を用意してくれるなんて。家
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第2話
「ははっ、吐き気がするほど不愉快?」翔太のあまりに冷酷な言葉を聞いて、紗奈の目は鋭く変わった。地面から勢いよく這い上がり、デスクの上のペーパーナイフを掴んで彼に襲いかかった。「死ね!」父の敵を討たねばならない。彼を招き入れたのは自分なのだから、自分でこの間違いを終わらせる。狂乱する紗奈を見て、翔太は冷たい視線を向けて、素早く一歩下がった。彼は紗奈の腕を掴むと、力任せにひねり上げた。彼女が持っていたナイフは床に落ちた。翔太の目に一瞬、複雑な感情がよぎった。しかし彼はすぐに冷酷な表情に戻り、片手で紗奈の首を締めあげてデスクに押さえつけた。息ができず赤くなっていく紗奈の顔を、翔太は冷ややかに見下ろしていた。紗奈は両手で彼の手首を掴み、必死にもがいた。「ゲホッ、ゲホッ……」紗奈の抵抗がだんだん弱まっていく。そして息が絶える寸前で、翔太はようやく手を離した。紗奈は力なく床に崩れ落ち、激しく咳き込んだ。「これ以上、俺を試すような真似はするな、紗奈。残された家族に手を出さないのが、俺からの最後の情けだ。二度と俺の前に現れるな。さもないと、お前たちを生き地獄に突き落としてやる!」顔を涙で濡らしている紗奈のスマホが、不意に鳴った。電話に出ると、向こうから冷たい事務的な声が耳に届いた。「木村さん、お兄さんの特別室の費用と、保険適用外の先進医療費が未納のままです。至急お支払いいただけない場合、一般病棟へ移っていただきます。そうなれば、現在の高度な延命治療は打ち切らざるを得ません」「お願いします、兄を助けてください。今すぐ払います!」紗奈は震える声でそう言うと、社長室を飛び出した。「あら、木村家のお嬢様じゃない?まあ、なんてみじめな姿なの!あ、ごめん。もうすぐこの東都から木村家は消えるんだったわ。お嬢様からどん底まで転落した気分はどう?」その聞き慣れた声に、紗奈がうつろに顔を上げると、親友であるはずの宮本陽菜(みやもと ひな)が立っていた。陽菜は得意げにこちらを見ていた。この瞬間、紗奈は彼女も自分を裏切ったのだと悟った。めまいがして、胸が苦しくなる。やり場のない怒りが体中を駆け巡った。どうして、たった一晩で何もかも変わってしまったの?陽菜の目の奥には、暗い嫉妬の炎が宿っていた。紗奈と出会った
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第3話
紗奈は雨に打たれながら家に走り着いた。ずぶ濡れで、ひどいありさまだった。リビングに入った途端、彩花が焦りきった顔で駆け寄ってきた。たった2日間で、彼女の黒かった髪は白髪交じりになり、手入れの行き届いた顔は10歳も老け込んで見えた。彩花は紗奈の腕を掴んで激しく揺さぶり、狂ったように叫んだ。「病院が、蓮の延命治療を打ち切るって……そんなこと、絶対にさせないわ!紗奈!どんな手を使ってでもいいから、蓮を助けるのよ!」紗奈は彩花の痩せた体を抱きしめ、その場に崩れるように膝をついた。白髪の増えた彼女の髪を見ていると、涙が思わずこぼれ落ちた。木村家の資産はすべて差し押さえられ、動かせるのは家にあったわずかな現金だけだった。「お兄ちゃんは死なないわ。お母さん、私を信じて。絶対に死なせたりしないから!私にはまだ、ブランドのバッグやアクセサリーがあるわ!今すぐこれを売って、病院への当面の支払いにあてるから!この家を売れば、何億円かにはなるはず。そうすれば、保険適用外のあの延命治療費だって……」彩花はうつろな目で、か細い声で呟いた。「お金があればいいのよね。お金さえあれば……」紗奈は彩花の背中をゆっくりとさすり、少し落ち着いたのを見計らって、平静を装って切り出した。「お母さん、翔太は最初から復讐するつもりで近づいてきたのよ。お父さんが彼の両親を死に追いやったって言ってたけど、本当にそんなことがあったの?」「そんなのデタラメよ!」呆然としていた彩花は、怒りを込めて叫んだ。「お父さんは、誰よりもまっすぐな人だったわ。ライバルでさえ彼に一目置いて、立派な人だと褒めていたくらいよ。そんな人が、誰かを死に追いやるなんてことするわけないじゃない。翔太は、恩を仇で返す腹黒い男なのよ……」彩花は怒りの言葉を吐き続けた。紗奈はそっと目を閉じた。脳裏に浮かぶのは、冷たいようで、どこか優しさを秘めた翔太の瞳。彼と愛し合った数年間の記憶が、走馬灯のように駆け巡る。違う。二人の間にそんな殺したいほどの恨みがあるなんて信じない。絶対に、何か裏があるはず。でも……紗奈は目を開け、めちゃくちゃにされた家を見渡して力なく笑った。家は壊れ、家族も失った。誤解だったとしても、もう元には戻れない。彼女は苦痛に顔を歪め、きつく眉をひそめた。翔太、なん
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第4話
紗奈はふらりと身体を揺らし、大きく目を見開いた。彼女の視線は、医師の肩越しにベッドの上の蓮へと向けられる。自分の兄はまだ危篤状態だ。最悪の場合、ずっと意識が戻らない植物状態になるかもしれないという。度重なるショックで、紗奈の心はとうとう折れてしまった。目の前が真っ暗になり、彼女はその場に倒れ込んだ。1時間後、意識を取り戻した紗奈はふらつく身体を引きずり、蓮の主治医のもとへ向かった。相手は重い口を開いた。「木村さん、事故の影響で、お兄さんの脳に深刻な出血が見られます。全力を尽くしましたが、あとは運に任せるしかありません。現在は特別集中治療室で、保険適用外の特殊な生命維持装置に頼っている状態です。ですが、いつまで持ちこたえられるかは我々にも予測がつきません。この高度な延命治療と特別室の費用は、全額自己負担となるため非常に高額になります。木村さん、早急に資金の工面をお願いします」医者は気の毒そうに紗奈を見た。木村家が破産したことは東都中で噂になっており、医者も事情を知っていた。特別集中治療室の利用代は1日につき約20万円近くかかる。今の紗奈に払えるのか、医師には皆目見当もつかなかった。病院の廊下で、紗奈はスマホの画面を見つめた。電子マネーの残高は、たったの数百円。それが今の、彼女の全財産だった。彼女は唇を噛みしめ、連絡先を開いて電話をかけ始めた。何度もかけても繋がらない。ようやく繋がっても、金を貸してほしいと言った途端に友人たちは冷たく電話を切り、あるいは言い訳をして断った。「紗奈、ごめんね。無理だよ」「紗奈、私は海外に行くから……」「紗奈、最近父に小遣いを削られてて、あんまり手元にないんだ」親友の加藤達也(かとう たつや)に言い逃れられ、紗奈はついに堪え切れず、怒りに声を震わせた。「達也、もう20年の付き合いじゃない?兄は以前、あなたを助けたこともあるでしょ。あなたが月のお小遣いを少し出すだけで兄の命は救えるのよ。それでも見殺しにするの?」電話の向こうの沈黙が長く続き、ようやく達也の声が聞こえた。「紗奈、山本社長が口を出したんだ。君を助ける者は敵だと。紗奈、うちの会社だって山本社長の標的にされたくないんだよ」プー、プー。達也は電話を切った。紗奈は力なく、冷たい廊下の床に座り込んだ。翔太、自分
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第5話
翔太のせいで、どの会社も紗奈を雇ってくれなかった。紗奈は屈辱をこらえ、エリュシオンで清掃の仕事を始めた。辛かったけれど、これで蓮の延命治療費はなんとかなるはずだった。もう二度と翔太と関わることはないと思っていた。でも今日、彼が婚約するという話を耳にしてしまった。「木村さん、ちょっといいかしら」ぼんやりしていると、上司の中村花凛(なかむら かりん)に呼び出された。紗奈は、手にしていた雑巾を強く握りしめた。嫌な予感が胸をよぎる。花凛は紗奈を哀れむように見つめ、ため息をついた。「荷物をまとめて。明日で辞めてもらうことになったわ。私じゃどうしようもないの。上の人が、あなたを名指しで辞めさせろって」紗奈の手から雑巾が滑り落ちた。でも、彼女の表情は驚くほど落ち着いていた。まるで、こうなることが分かっていたかのように。「フッ……」紗奈は力なく乾いた笑いを漏らした。花凛を見上げると、その瞳の奥は光を失っている。そして、どこか虚な声で言った。「中村さん、丸山さんに連絡を取っていただけますか?木村家の令嬢、木村紗奈が、エリュシオンでホステスをやるって、それと、私の初めてをオークションにかけるとも伝えてください」花凛は驚いて彼女を見つめた。「……本気なの?」紗奈がここで働き始めた初日から、ぶかぶかの清掃服でも彼女の美しさは隠せなかった。客は後を絶たず、しつこく言い寄ってくる金持ちの御曹司もいた。エリュシオンの後ろ盾が強くて、普通の従業員に手を出す客がいなかったからよかったものの、そうでなければ、紗奈はとっくにどこかへ連れ去られていただろう。「私に、他に選択肢があるんでしょうか?もう、これでいいんです……」紗奈は自嘲するように口元を歪め、力なく手を振った。まだ25歳にもならないというのに、彼女からは若々しい活力が失われていた。背中は少し丸まり、まるで老人のように生気のない空気をまとっていた。花凛は、紗奈の黒髪に混じって白髪がひどく増えているのを、まざまざと目にした。彼女は何かを言いかけたが、結局ため息をつくだけだった。「わかったわ。聞いてみる」花凛が去ると、紗奈は壁にもたれかかった。その口元には自嘲的な笑みが浮かび、すべてを諦めたような表情をしていた。兄の延命治療だけは、絶対に中断させるわけにはいかない。
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第6話
1週間後。エリュシオンの外には、高級車がずらりと並んでいた。夜9時、オークションは定刻通りに始まった。広々としたホールは満席で、照明は薄暗く淫靡な雰囲気だ。ステージに立った支配人の丸山康弘(まるやま やすひろ)が小さな槌を鳴らし、へつらうような笑みで客席を見渡した。「皆様、こんばんは。今夜オークションにかけられますホステスは、皆様もご存知のことでしょう。東都一の華、木村紗奈さんです!」彼は下品な笑みを浮かべた。「エリュシオン始まって以来、最も価値のあるホステス、開始価格は2億円からとさせていただきます!」その言葉が終わるか終わらないかのうちに、客席からヤジが飛んだ。「たかが一度寝るだけで2億円だって?頭おかしいんじゃないかよ?あいつにそんな価値あるわけないだろ?」「昔はどんなにお高くとまってたか知らないが、今じゃただの売女じゃないか」「お高いのには、それ相応の理由がございますよ」康弘は意味深な笑みを浮かべた。その時、眩いスポットライトがステージの中央を照らし、ソファがゆっくりとせり上がってきた。紗奈が、そこに寝そべるように横たわっている。体にぴったりとフィットした露出の多い赤いドレスは、彼女の雪のような肌を際立たせ、完璧なボディラインをあますところなく浮かび上がらせていた。紗奈は妖艶に微笑み、媚びるような流し目で男たちを誘う。しかしその心は、ひどく冷え切っていた。商品を値踏みするような男たちの視線は、紗奈に屈辱を感じさせた。しかし、彼女は顔に不満の色を一切見せず、笑顔でいなければならなかった。紗奈がゆっくりと客席を見渡すと、薄暗い隅に座る翔太と目が合った。彼女は翔太を、まるで知らない人を見るような、何の感情も浮かべない目で見つめた。胸がずきりと痛み、慌てて視線をそらした。翔太は唇を引き結んでいた。固く握られた左の拳が、彼の心の乱れを物語っている。あんなふうに自分を安売りする紗奈の姿に、腹の底で怒りが燃え上がっていた。しかし、一体何に腹を立てているのだろう?翔太は一度目を閉じ、すべての感情を押し殺すと、再び冷たい表情に戻った。紗奈とはもう何の関係もないのだ。彼女がどうなろうと、もう知ったことではない。「私の初めての夜のオークションへ、ようこそ!私を落札してくださった方には、今夜はどんなことでも、最後ま
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第7話
康弘が価格を提示すると、会場には重苦しい沈黙が流れた。誰もが翔太の顔色をうかがっていたからだ。紗奈は翔太の元婚約者だ。彼がこの件にどう反応するか、誰にも分からなかったからだ。圭佑は翔太の返事を聞いて安心した。それもそうだ、と彼は思った。今や大富豪となった翔太にとって、木村家の支配下にあった日々は屈辱のはずだ。そんな彼が紗奈を助けるわけがない。「2億円!」圭佑は声を上げた。その一声がまるでスイッチになったかのように、あちこちで値をつける声が上がった。「3億円」「3億4千万円」「4億円」……「6億円!」圭佑が一気に2億円を上乗せすると、競っていた他の連中は黙り込んだ。ただ女遊びをするために、数億円も払うのはやりすぎだと思ったのだ。康弘は笑いが止まらなかった。これはエリュシオン始まって以来の最高額だった。「まだ値をお付けになる方はいらっしゃいませんか?かつて東都一のお嬢様を、その腕で思いのままにできるんですよ……」紗奈はソファに横になり、右手で頭を支えていた。整った顔を小首をかしげるように傾け、誘うような目で会場の男たちをなめ回すように見渡した。そして、甘くまとわりつくような声で言った。「ねえ、もっと出してくださる素敵な方はいませんか?私はなんでもできますよ。白石さん、私と素敵な夜を過ごしたくないのですか?小野さん、もう少し頑張ってくれたら、今夜、私はあなたのもの、あなたの好きなようにしていいですよ」紗奈は、感情を殺してそんな卑しい言葉を並べた。自分が汚らわしい存在に思えて仕方がなかった。「本当に何でもするのか?じゃあ口でしてくれるのか?」小野真司(おの しんじ)は下卑た笑みを浮かべ、むき出しになった紗奈の肌をいやらしい目つきでなめ回すように見つめた。「もちろん……いいですよ」真司のねっとりとした視線に吐き気を催しながらも、紗奈は視線の端で翔太を捉えた。彼は氷のように冷たい表情で、そこに座ったまま微動だにしなかった。紗奈は一瞬だけ目を閉じ、再び開いた。その顔には、さらに甘く妖艶な笑みが浮かんでいた。彼女は真司をじっと見つめると、潤んだ唇をわずかに開き、その舌先で人差し指をそっと舐めた。それはまるで、男を情欲の渦に引きずり込む妖狐のようだった。ふしだらで、それでいてたまらなく
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第8話
圭佑はスイートルームのドアを慌ただしく開けると、腕の中にいる紗奈を見て、下品に唇を舐めた。「やっとお前を手に入れられるんだな」彼は焦ったように紗奈をベッドに投げ捨てると、そのまま覆いかぶさろうとした。紗奈は、圭佑の体から漂うタバコと酒の臭いに眉をひそめた。いやらしい目つきにも吐き気を覚える。「待ってください」彼女は素早く身を起こした。視界の隅に入った棚の上には、見たこともない恐ろしい道具が並んでいて、思わず身がすくむ。「なんだ、今さらやめるって言うのか?」紗奈の言葉に、圭佑は顔をこわばらせ、冷たい目つきで彼女を睨みつけた。「いいえ」紗奈は手のひらに汗が滲むのを感じながらも、顔には愛想笑いを浮かべた。「気分を盛り上げるためにお酒でも飲みませんか?その方が、きっともっと楽しめますよ」そう言って、彼女はバーカウンターへ向かい、お酒を選び始めた。圭佑の表情が和らぎ、にやにやと笑った。「いいな。まずはその酒で『回し飲み』でもして」彼は紗奈の隣に並び、一緒にお酒を選んだ。紗奈は時間を稼ぐために、わざとゆっくりとした仕草を続けた。その瞳の奥には、焦りの色が浮かんでいる。今回のオークションは、わざと康弘に情報を大っぴらにさせた。翔太をここに来させるためだ。彼のそばに行くことさえできれば、きっとあの時の真相を突き止められる、そう信じていたのに。しかし、現実は残酷だった。翔太は、自分が男たちの欲望のままにオークションにかけられるのを、ただ黙って見ていたのだ。これまでの数年間の二人の絆は、まるで紙切れみたいに脆かった。紗奈は絶望的な気持ちになった。本当に、この男と関係を持たなければならないの?その頃、別のスイートルームでは、翔太が一人で酒を呷っていた。次々とグラスを空け、カウンターのそばには何本ものボトルが転がっている。広い部屋に一人きり、その背中はひどく寂しそうだった。そこへ、薄手のネグリジェをまとった陽菜が近づき、彼の背中からそっと抱きついた。柔らかい体が、厚い背中にぴたりと寄り添う。「翔太さん……」陽菜は甘い声で翔太の名前を呼び、右手でいやらしく彼の体を撫でる。翔太は一瞬意識が朦朧としたが、すぐに我に返った。そして冷たい顔で陽菜を引き剥がし、グラスに残った酒を飲み干すと、低く言い放った。「いい加減に
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第9話
翔太は狂ったように、圭佑に殴りかかった。圭佑の悲鳴が部屋に響きわたる。「俺が誰だか分かってんのか!このクソ野郎、よくもやったな!」圭佑は頭を抱え、床にうずくまって喚き散らした。しかし、顔を上げて相手が翔太だと分かった途端、圭佑は恐怖で顔面蒼白になり、土下座して必死に謝り始めた。「山本社長、申し訳ありません!どうかお許しください!彼女が山本社長の女だとは知らず……まだ何もしていません!どうかご勘弁を!」ベッドの上で体を丸めていた紗奈は、翔太が圭佑を血まみれになるまで殴るのを見ていた。圭佑の命乞いの声がだんだん小さくなる。紗奈の体は小さく震え、心にほんの少しだけ希望が灯った。翔太はもしかして、少しは自分のことを心配してくれてるの?圭佑が気を失うと、翔太はゆっくり体を起こした。ぐったりした圭佑を最後にひと蹴りすると、暗い顔で紗奈の方へ歩み寄った。紗奈は彼を見た。きっちりと服を着ている翔太に対して、自分はほとんど裸同然だ。しかもついさっきまで、別の男の下にいたのだ。何とも言えない羞恥心がこみ上げてきて、彼女はさらに体を固く縮こませた。翔太を見て、何かを言おうと口を開いたが……声にならない息が漏れただけだった。その瞬間、翔太に顎を強く掴まれた。顎が外れてしまいそうなほどの痛みに、紗奈の目に涙がみるみる溜まっていく。無理やり顔を上げさせられると、そこには氷のような冷酷な目をした翔太がいた。彼女はその目に、深い軽蔑の色を見る。「紗奈、お前はそんなに安っぽい女だったのか?そんなに男と寝るのが待ちきれなかったのか?」冷たく無慈悲な言葉が、紗奈の心を突き刺した。全身から血の気が引き、唇がひとりでに震える。涙が堰を切ったように次々とこぼれ落ちた。自分が、安っぽい?男と寝たい?誰のせいで、自分がこんな目に遭ってると思ってるの?翔太がいなければ、木村家の令嬢である自分が、こんな風に自分を安売りするはずがないじゃない。誰にそう言われても仕方ないかもしれない。でも、翔太にだけは言われる資格はない。「ええ、そうよ。私は安っぽい女。でもね、誰にこの体をあげても、あなたにだけは絶対に渡さない!翔太、あんたなんて最低よ!」紗奈は、翔太の体を力いっぱい蹴りつけた。彼を冷たく見つめる。心に残っていたわずかな情も、これで完全に消え
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第10話
紗奈がゆっくりと目を覚ましたのは、午後もだいぶ過ぎたころだった。丸一日何も口にしておらず、体中の痛みのせいで、すっかりやつれて見えた。その瞳からは、いつもの輝きがすっかり消えていた。ぼんやりと、虚ろな目で天井を見つめているだけだった。「目が覚めたか?」冷たく聞き覚えのある声に、紗奈ははっと我に返った。ゆっくりと顔を向けると、そこにはソファに腰掛ける翔太がいた。黒いスーツに身を包んだ彼は、凍てつくようなオーラを放っていた。「さっさと出ていってよ。まだ何か用?」紗奈は翔太を憎しみを込めて睨みつけ、かすれた声で言った。「昨日の夜だけで、もう終わりだとでも思ったか?」翔太はふん、と鼻で笑った。そして立ち上がると、ゆっくりと紗奈の前に歩み寄り、書類を彼女の顔に投げつけた。有無を言わさぬ強い口調で命じる。「サインしろ」紗奈はなんとか体を起こし、書類に目を落とした。「愛人契約書」という言葉が、目に飛び込んできた。唇をきつく噛みしめると、屈辱感で胸がいっぱいになった。愛人?翔太は自分のことを、一体なんだと思ってるの?「出ていって!翔太、あなたって本当に最低よ!」紗奈は契約書を翔太の顔に叩きつけた。「昨日の夜、さんざん抱いてやっただろ。お前も気持ちよさそうだったくせに、今さら清純ぶるのもいい加減にしろ。それともなんだ?まだ岩崎とかいうクズ男のことが忘れられないのか?」紗奈の拒絶と嫌悪に満ちた表情を見て、カッとなった翔太は、思わず辛辣な言葉をぶつけていた。「ええ、そうよ!たとえあの男の愛人になったとしても、あなたなんかのものにはならないわ!」紗奈は、決然とした表情で、一語一句区切るように言った。「それはお前が決めることじゃない」翔太の表情が、氷のように冷たくなった。彼は冷ややかに言い放つ。「お前の兄が入院してる病院が、山本グループの傘下だということは……」「翔太!あなたって本当に人でなしね!お兄ちゃんはあなたのこと、本当の弟みたいに思ってたのに!」翔太が言い終わる前に、紗奈が激した声で割り込んだ。彼女の罵声を聞いても、翔太の表情は少しも変わらない。それどころか、ふっと鼻で笑った。「あれはただの演技さ。勝手に兄貴気取りしたあいつが悪い」翔太は紗奈を見下ろし、悪意に満ちた声で告げる。「この契約を
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