Short
家を出た全国トップ、逆転人生の幕開け

家を出た全国トップ、逆転人生の幕開け

作家:  まねき猫ちゃん完了
言語: Japanese
goodnovel4goodnovel
10チャプター
51ビュー
読む
本棚に追加

共有:  

報告
あらすじ
カタログ
コードをスキャンしてアプリで読む

概要

逆転

ドロドロ展開

ひいき/自己中

妻を取り戻す修羅場

不倫

大学入試の結果が出た日、私・一ノ瀬寧々(いちのせ ねね)はいつもの癖でリビングに向かって叫んだ。 「お父さん、お母さん!苦手だった教科の自己採点が満点だったよ! これで東都の大学に行って、お兄ちゃんと冬馬に会いに行けるね!」 返ってきたのは、相変わらずの静寂だけだった。 ソファには、4つの小さな人形が座っていた。 父と母、兄・一ノ瀬駿(いちのせ しゅん)、そして幼馴染の藤代冬馬(ふじしろ とうま)。 彼らは丸い目で私を見つめ、いつもの夜と同じように、黙ったまま寄り添ってくれていた。 そこで、ふと思い出す。 1年前に、妹の一ノ瀬結衣(いちのせ ゆい)が倒れていたことを。 家族はこう言った。姉である私の成績が良すぎて、結衣は学業のストレスが原因で自殺未遂までしたのだと。 そうして私は家族の「恥」となり、このアパートに追いやられた。 引っ越した最初の夜、隣の部屋の酔っ払いが部屋を間違えて私のドアを叩いた。 私は布団の中で縮こまり、声を殺して泣くしかなかった。 何度、家族や冬馬に電話をかけても、受話器からは、ただ冷たい呼出音だけが流れていた。

もっと見る

最新チャプター

続きを読む
コメントはありません
10 チャプター
第1話
大学入試の結果が出た日、私・一ノ瀬寧々(いちのせ ねね)はいつもの癖でリビングに向かって叫んだ。「お父さん、お母さん!苦手だった教科の自己採点が満点だったよ!これで東都の大学に行って、お兄ちゃんと冬馬に会いに行けるね!」返ってきたのは、相変わらずの静寂だけだった。ソファには、4つの小さな人形が座っていた。父と母、兄・一ノ瀬駿(いちのせ しゅん)、そして幼馴染の藤代冬馬(ふじしろ とうま)。彼らは丸い目で私を見つめ、いつもの夜と同じように、黙ったまま寄り添ってくれていた。そこで、ふと思い出す。1年前に、妹の一ノ瀬結衣(いちのせ ゆい)が倒れていたことを。家族はこう言った。姉である私の成績が良すぎて、結衣は学業のストレスが原因で自殺未遂までしたのだと。そうして私は家族の「恥」となり、このアパートに追いやられた。引っ越した最初の夜、隣の部屋の酔っ払いが部屋を間違えて私のドアを叩いた。私は布団の中で縮こまり、声を殺して泣くしかなかった。何度家族と冬馬に電話をかけても、受話器からは、ただ冷たい呼出音だけが流れていた。夜が明ける頃、ようやく母から一通のメッセージが届いた。【もう電話してこないで。あなたが連絡してくると結衣が苦しむから】その日から、私は彼らを模した4つの人形を作った。食事の時も、眠る時も、彼らと一緒だった。成績が上がったことや、誰にも言えない悩みを聞いてもらった。けれど今、頬を涙が伝ったが、もう彼らに慰めを求めることはなかった。暗闇を一人で歩き続けた今、私にはついに、振り返らない勇気が宿ったのだ。私はその場に立ち、1年間暮らしたこの部屋を改めて見回した。壁紙は剥がれ落ち、そこからコンクリートが覗いていた。カーテンは古びていて、カビの斑点ができていた。天井のエアコンは鈍い音を立てるばかりで、夏になっても生ぬるい風しか送ってこなかった。受験生の夏、私は毎日デスクに向かって入試対策問題を解き続けた。問題用紙をめくるたび、全身が汗でびっしょりになっていった。しかし、一ノ瀬家は別にお金に困っているわけではないのだ。父と母、駿と結衣は、街の中心部にあるタワーマンションに住んでいる。結衣には自分の書斎も音楽室もある。ぬいぐるみや洋服を置くための専用の部屋さえあ
続きを読む
第2話
頭がいい。子どもの頃から、ずっと言われてきた言葉だ。結衣は私より顔がかわいくて、愛嬌もあった。私が唯一自慢できるのは、頭の良さだけ。教科書を読めばすぐに公式を覚え、問題を見ればすぐ解ける。でも、親たちはちっとも私を可愛がってくれなかった。私と同じように頭のいい駿は、両親の誇りだった。なのに私に対して、母はいつも困ったようにため息をついた。「女の子なのに、そんなに賢くてどうするの?結衣みたいに少し抜けているくらいが、可愛くていいのに」いつしかこの言葉が、みんなが結衣をひいきする言い訳になっていた。寧々は頭がいいから、一人でも大丈夫、だとか。だから新しい文房具は、まず結衣へ。新しい服も、まず結衣へ。両親の愛情まで、先に結衣に向かうのだ。駿なら褒められるはずの賢さが、私にとっては愛されない原因となった。そんなある日、私は一つ上の先輩、冬馬と出会った。その時の彼はまだ、結衣に会ったことがなかった。私の話を聞いて、彼は眉をひそめて言った。「頭が悪い方が可愛がられるなんて、変な理屈だろ?寧々、賢いことは悪いことじゃない」そしてそのあと、彼は結衣と知り合った。それから、彼は何度も私の前で笑顔で言った。「お前の妹は、なんだかドジで可愛いね」それでも私は、冬馬が好きだった。彼は唯一、賢いことは悪いことじゃないと教えてくれた人だったから。なのに今は、彼までもがそんなふうに言うなんて。リビングが静まり返った。駿が真っ先に沈黙を破り、いらだたしげにテーブルを叩いた。「寧々、なんか言えよ。お父さんとお母さんは家族のためを思って言ってるんだ。お前を困らせようなんて思ってない」私は目を伏せ、喉の奥が詰まった。しばらくして、小さく「うん」とだけ言った。みんなは安堵して、それぞれ背後に隠していたプレゼントの袋を出した。「よし、もうそんな顔をするな。ほら、卒業祝いだ。結衣にもお前にも準備したんだ。これで、もうひいきだなんて言うなよ」目の前の4つのプレゼントを見て、目頭が熱くなった。何なの、これ。一度ひどいことを言って、あとからプレゼントで喜ばせるの?しかも、私は一目で分かってしまった。結衣の目の前には最新のスマホ、ノートPC、限定品のバッグ
続きを読む
第3話
翌日、私はいつものようにアルバイト先のカフェへ向かった。いつもの仕事は、着ぐるみを着て店の前でチラシを配ることだ。真冬だというのに、着ぐるみの中は蒸し暑く、私はだんだん息苦しくなった。もう限界だった。私は頭の部分を外し、隅のほうへ移動して水を飲んだ。「お姉さん?」すると聞き慣れた声が後ろから聞こえた。私は体をこわばらせ、ゆっくりと振り返った。両親と駿、それに冬馬と結衣が近くに立っていた。冬馬の両親までいたのだ。駿と冬馬の手には、買い物袋がいっぱいぶら下がっていた。結衣のために買ったものだと、聞かなくてもわかる。汗だくの私を見ても、母の目には少しの気遣いもなかった。そこにあったのは、冷ややかな怒りだけだ。「寧々、お小遣いはあげているでしょ?そんな姿でチラシ配りをして、一ノ瀬家があなたを粗末に扱っていると思われたいの?」私は持っていたペットボトルを強く握りしめた。「月5万円のお小遣いで、家賃と水道光熱費で全部なくなるのよ。バイトをしなきゃ、生きていけないでしょ?」駿は眉をひそめ、私を乱暴に突き飛ばした。「ふざけるな!親に対してその口のきき方は何だ!」冬馬は結衣の隣で、困ったような表情を浮かべた。やがて、彼は非難するように口を開いた。「寧々、お前は少し敏感すぎるんだ。結衣だってお小遣いは月5万円だ。足りなければ家族に頼めばいいだろ。お前の母親はいつもちゃんと出してくれているだろう?お前が言わないから、足りていると思われているだけじゃないか。今日のことはお前が悪い。ちゃんと謝らないと」言葉が喉につかえて、何も言えなかった。結衣のお小遣いは、母が毎月決まった日に、なんなら前倒しで彼女にあげていた。でも私のお小遣いは、何度も催促してもなかなかもらえない月がほとんどだった。月末ギリギリになって、ようやく施しのように渡されるだけだ。本当に頼めば、お金を出してくれるの?このようなことは何を言っても無駄だとは、わかっている。返ってくるのは「欲張りだ」「わがままだ」という責める言葉だけだから。私は冷たい表情で、再び着ぐるみの頭を被り直した。「みんな帰って。仕事の邪魔よ」重たい頭部をすっぽりとかぶると、視界は一気に暗くなった。その瞬間、背中に強い衝撃を
続きを読む
第4話
私は驚き、何を言われているのか理解できなかった。すると、店主は受け取った札束を机に叩きつけ、周囲に人が集まってきた。皆が呆れたように札を見て、首を横に振った。「なんだ、おもちゃの札束じゃないか」その夜、私はおもちゃの札束を抱えたまま、店の入り口に一晩中座り込んだ。翌朝、カフェが開くのと同時に中へ駆け込み、カウンターに札を叩きつけた。「どうして騙したんですか?これ詐欺ですよ。給料の10万円を返してください。じゃないと、警察を呼びますから!」でも、店長はまったく動じなかった。「私のせいじゃない。昨日、あなたのお母さんが給料を全部預かっていって、代わりにこれを置いていったんだ。『娘に世の中の厳しさを教えるための教育です』って言っていたよ」頭の中が、真っ白になった。震える足でバスに乗り、帰宅するなり目を赤くして尋ねた。「私の給料を勝手に取ったの?」母は後ろめたいどころか、むしろ得意げだった。「これでお金を稼ぐことの大変さがわかったでしょ?結局、親が一番支えになるのよ。困った時は家族に頼りなさい。それにいざという時は、冬馬さんに頼んでもいいんだから」怒りで全身が震え、涙があふれて止まらなかった。私が今まで、何度家族に頼ろうとした?不審者に後をつけられた時、震えながら電話したでしょ。なのに父はこう言っただけ。「お前が後をつけられるような真似をしたからだろ」賃貸アパートのエアコンは熱風しか出なくて、夏の夜に一晩中眠れなかった時に頼んだことだってある。母はこう言った。「何よ、そんなことで連絡しないでちょうだい?苦労を知らなきゃ、人は成長しないでしょ?」大学受験の直前、39度の熱で意識が朦朧として駿に電話した。彼は一言こう返した。「結衣が今不機嫌なんだ。ただの風邪だろ、一人で何とかしろ」他にも、夜中にアパートが停電した時、私は怖くて、冬馬に何十件もメッセージを送った。返事が来たのはずっと後だった。【戸締まりしておけばいいだろ。今日は結衣の勉強を見てるんだから、邪魔するな】私が困っている時、誰一人助けてくれなかった。私はつい叫んでしまった。「返してよ!私の大事な給料なの。必死に稼いだお金なんだから!」父の表情が一瞬で険しくなった。大股で
続きを読む
第5話
一方この頃、一ノ瀬家のリビングはとても賑やかだった。テーブルの真ん中には、結衣の大学合格通知書が置かれている。母は何度もそれを眺めては、笑みをこぼしていた。「結衣、本当によく頑張ったわね。この1年の努力が報われたわ」父も珍しく顔をほころばせ、手元のスマホで合格祝いのために会場を探していた。「せっかく二人とも合格したんだ。合格祝いは盛大にやろう。親戚や友人も呼んで、みんなでお祝いしないとな」駿は隣に座り、友人にメッセージを送っていた。「聞いてみたんだけど、ルミエールホテルの会場は悪くないね。ただ、日程が少し厳しいかな」そこには冬馬の姿もあった。彼はスマホを手に持ち、寧々とのトーク画面をじっと見つめている。最後のやり取りは、彼が送ったメッセージだった。【俺が迎えに行く】返信はない。彼は眉をひそめ、もう一度メッセージを送ろうとしたその時、ライングループにこのようなことが表示された。【寧々が退出しました】リビングが、一瞬静まり返った。母の笑顔が、みるみるうちに強張っていく。「寧々が、グループを抜けたの?」駿も驚いて動きを止め、眉間に皺を寄せた。「寧々は一体、何をやっているんだ?」会場を調べていた父の表情も、一気に険しくなった。「合格祝いの席の前にグループを抜けるなんて、どういうつもりだ?」怒りが収まらない母は、すぐに寧々に電話をかけた。しかし、何度かけても繋がらなかった。母の表情が、冷え切っていった。「全くなんなのよ、あの子は。一緒に祝ってあげるつもりだったのに。随分と偉そうな対応ね」ソファの端で膝を抱えていた結衣が、小さくつぶやいた。「お姉さん、まだ私に怒ってるのかな?合格祝い、私は行かなくてもいいよ」その声に、家族全員の視線が集まる。母はスマホを放り出し、すぐさま結衣の隣へ寄り添った。「何言ってるの?結衣の合格祝いよ。結衣がいなくてどうするの」駿も不満げに頷いた。「寧々のわがままに付き合うな。自分のせいじゃないんだから、気にするなよ」冬馬は唇を結んだ。寧々はただ、少し機嫌が悪いだけかもしれないと伝えたかった。しかし、潤んだ瞳でこちらを見る結衣の前で、言葉が喉の奥で詰まった。彼は低い声で言った。「寧々はやりすぎだ」
続きを読む
第6話
ドアの外には、知らない人たちが立っていた。先頭の女性はマイクを持ち、後ろにはカメラを担いだスタッフがいた。母は一瞬、呆気にとられた。「どなたでしょうか?」女性は微笑んで口を開いた。「こんにちは。地元テレビ局の者ですが、寧々さんにインタビューをお願いしたくて。今、お宅にいらっしゃいますか?」母の顔がこわばった。リビングにいた面々も、思わずそちらを向いた。父が眉をひそめて言った。「インタビューですか?寧々になんの用ですか?」女性の記者もきょとんとした。家族の反応が意外だったのだ。「ご存じないのですか?寧々さんは、前回の全国模試でトップだったんですよ。ご本人に大学入試本番の感想を伺いたいと思い、学校へ問い合わせたところ、すでに卒業されたと伺いました。そのため、ご自宅までお邪魔いたしました」記者が答えると、リビングに静寂が広がった。結衣が手で弄っていた髪飾りが、カタンと床に落ちた。母は口を開けたまま、何も言い返せなかった。全国模試トップ。その言葉に、全員が凍りついた。彼らは寧々が頭の良い子だと知っていた。だが、これほどとは思いもしなかった。かつて駿が東都中央大学に合格した時も、今の結衣のように、ギリギリの成績で入学できた程度だった。それなのに、寧々はどうだ?校内どころか、全国でもトップなのだ!駿の顔色が一番ひどかった。寧々が自分より優秀なことを、認めたくなかったからだ。自分が長い時間を使って悩む問題が、寧々は一目見るだけで解けてしまう。自分が徹夜で勉強して取った点数が、寧々はいとも簡単そうに取れた。両親が彼を褒める時、彼は一ノ瀬家の誇りだった。だが寧々が側にいると、その褒め言葉さえ色あせて聞こえてしまうのだ。だから彼は、少しずつ結衣を庇うようになった。結衣は、不器用でか弱い妹だ。結衣はいつも自分を頼り、必要としてくれていた。結衣の前でだけ、彼は優秀な兄でいられた。冬馬も黙り込み、無意識にスマホを強く握りしめた。彼は誰よりも知っていた。寧々がどれほど賢く、どれほど素晴らしい生徒なのかを。知っているからこそ、寧々を直視するのが怖かった。少年の淡い恋心には、言葉にできないコンプレックスが混ざっていたのだ。寧々があまりにも眩しか
続きを読む
第7話
海鳴市に着いた日、空からは小雨が降っていた。駅は大勢の人であふれていた。スーツケースのタイヤが水たまりをかすめ、小さな水しぶきが跳ねた。迎えに来てくれる人はいない。人混みの中で私の名前を呼ぶ声も聞こえない。しかし不思議なことに、少しも悲しくはないんだ。長い間、私はずっとみんなに振り向いてほしかった。両親に認められたかった。駿に褒めてもらいたかった。冬馬に待っていると言った約束を、思い出してほしかった。けれど最後に、ようやく気づいたんだ。期待するのをやめると、ずっと心が軽くなることに。スマホの電源を入れると、すぐに何件もの不在着信が表示された。母からも、父からも、駿からも、おそらく冬馬からも。少し眺めてから、画面に指を置いた。昔の私なら、すぐにかけ直していたはずだ。電話の向こうで叱られることが分かっていても。しかし今回はすべての通知を消すと、再びスマホの電源を切った。出口では大学の先輩が、【新入生受付】と書かれたボードを持って立っていた。私を見つけると、彼女は笑顔で迎えてくれた。「寧々さんですね?先生から、『一人で来てるから気にかけてあげて』と言われていますよ」私は思わず立ち止まった。気にかけてもらえることなど、ずっとなかったからだ。私はスーツケースを見つめながら、小さく言った。「ありがとうございます」入学手続きの際、受付の担当教師は私の名前を見ると目を輝かせた。「君が一ノ瀬寧々さんですか?素晴らしい成績でしたよ。大学側も奨学金の対象に選んでいますよ。もし生活面で困ったことがあれば、学生向けのアルバイトを紹介しますね」私は思わずペンを持つ手を止めた。「奨学金……ですか?」教師は笑顔で頷いた。「そうです。学費の心配はいりません。安心して勉強に専念してください」「安心して勉強に」その言葉を耳にしたとき、なんだか胸が一杯になった。古いアパートにいた頃は、毎日お金のことばかり考えていた。家賃、食費、交通費。エアコンが壊れても修理できない。具合が悪くても病院へは行けない。美味しいものを食べるのさえ、勇気が必要だった。それなのに今は、勉強のことだけを考えていいなんて。私はうつむいたまま、手続きを終えた。寮に
続きを読む
第8話
記者が帰ったあと、一ノ瀬家のリビングは静まり返った。テーブルの上には、結衣の合格通知書が開かれたままになっていた。さっきまで、みんなでそれを囲んで笑い合っていたのに。今はもう、誰もその話をしなくなった。父が真っ先に、車の鍵をつかんで外へ出ようとした。「学校へ行くぞ。寧々がどこの大学に行ったのか、問い詰めてやる」母がふらふらとした足取りで後を追った。駿と冬馬もついて行った。一人、ソファーに残された結衣の顔は、少しずつ青ざめていった。みんなを呼び止めようとしたけれど、口を開いただけで、結局何も言えなかった。学校はまだ春休みの途中で、職員室には何人かの教師しかいなかった。ぞろぞろと入ってきた一同を見て、寧々の担任は驚く様子もなく、すべて予想通りといった顔をした。母が駆け寄って尋ねた。「先生、寧々はいったいどこの大学へ行ったんですか?わざと私たちに教えていないんじゃ……」担任はじっと黙ってから、静かに口を開いた。「寧々さんはもう成人した大人です。本人が言いたくないと言っていることを、私が代わりに教えるわけにはいきません」父の表情が険しくなった。「俺たちは彼女の親だ!大学の出願なんて大事なことを、家族に黙ってやるなんてありえないぞ」担任は手元の資料を置いて、冷たい声で言った。「願書を出す時、ご家族と相談しなくていいのか聞きました。そうしたら、『必要ありません。家族とは一度話し合いましたから』と……」その言葉に、全員が言葉を失った。母が青ざめた。あの日、リビングの隅のソファーに座っていた寧々を思い出す。あの子は拳を固く握り締め、目を真っ赤にしていたっけ。なのに自分は、自分の意見を押し付けるばかりで、あの子の入試がどうだったかさえ聞いていなかった。担任はさらに続けた。「寧々さんはこの1年、本当によく頑張っていました。3年生になってからは、机に突っ伏して問題集と向き合っていて、いつも顔色がわるかったです。生活費が足りなくてアルバイトも掛け持ちしていましたし、無理をして倒れたことも、おでこに傷を作ってきたこともありました。なぜご家族に言わないのかと尋ねたこともあります。彼女は『言っても無駄ですから』と言いました」母が何か言おうと唇を震わせた。しか
続きを読む
第9話
半月が経ち、冬馬はついに私の居場所を探し当て、海鳴市までやって来た。あの日、図書館から出ると、階段の下に彼が立っていた。少し痩せて、目の下にはひどいクマができていた。私と目が合った瞬間、彼はようやく肩の力を抜いたようだった。「寧々」彼が早足で近づいてきて、かすれた声で言った。「ずっと探してたんだ」私は立ち止まった。昔のように彼の元へ駆け寄ることはしなかった。ただ、静かに彼を見つめるだけだ。「何か用?」冬馬ははっとした。私がこんな態度を取るなんて、思ってもいなかったのだろう。だって以前の私は、どんなに怒っていてもすぐに彼に優しく接してしまうような人だったから。彼は何かを握りしめたまま、小声で言った。「寧々、俺が悪かった。お前は本当は東都文華大学に行けたはずだろ」そう言って、テープでつなぎ合わせた古いハガキを差し出した。記憶の中にあるハガキよりも、折れ目がたくさんついていた。セロハンテープの跡が図書館の写真を横切り、二度と消えない傷跡のようになっていた。「寧々、あの時はあんなこと言うつもりじゃなかったんだ。結衣は体が弱いだろ。ただ、また何かあったらって心配で……お前は賢いから、どこに行っても上手くやっていけると思ったんだ。ごめん。先に俺が、俺たちが交わした約束を忘れてしまったのだ」私はハガキを見て、ふっと小さく笑った。またその言い訳か。私が賢いから、気にかけなくてもいい。放っておかれてもいい。結衣が少し体が弱くて不器用だから、私より愛されて当然だというのか?私はそのハガキを手に取らなかった。「冬馬。私があの賃貸のアパートに引っ越した最初の夜のこと、覚えてる?」彼の顔が青ざめる。私は淡々と続けた。「酔っ払いがドアを叩くから、怖くて布団の中で17回も電話したのに、あなたは一度も出なかった。停電して怖くなったからメッセージを送った時も。あなたが送った返事は『結衣の勉強を見てるんだから、邪魔するな』だったね。結衣に突き飛ばされて怪我をした時も、あなたはすぐ側に立っていた。しかしあなたは結衣をなだめて、『大丈夫だよ。誰も結衣を責めないから』って言ったんだ」私が言葉を発するたびに、彼の顔色はどんどん悪くなっていった。彼は何か言い返そうと口を
続きを読む
第10話
冬馬が海鳴市を離れて三日目、一ノ瀬家のことがニュースになった。最初は、地元テレビ局のインタビューが放送中止になっただけだった。皆、変だと思ったのだ。全国模試トップの頭脳を持つ長女のことは、家族の誰もその居場所を知らなかったからだ。やがて、あの古いアパートの隣人がインタビューに応じた。あの子は一人で1年も暮らしていたことと、エアコンが壊れても修理を呼べず、廊下で泣いた時もあったと語られた。さらに、通っていたカフェの店長の話はこうだった。全国模試トップの娘の母親が娘の1か月分の給料を巻き上げ、代わりにおもちゃの札束を渡したという話だ。ニュースの見出しは辛辣な内容だった。#県内トップが家族から家を追い出され、一人暮らしの末に連絡を断つ。#妹の進学を家族が祝う陰で、全国模試トップの姉は一人で去るしかなかった。私がそれらのニュースを見たのは、食堂でご飯を食べていた時だった。同じ専攻の友達が、そっとこちらを窺ってきた。「寧々、これって……あなたのことなの?」私は俯いてスマホの画面を見た。写真には、あの古いアパートが写っていた。剥がれかけた壁紙に、カビの生えたカーテン。そして、壁に向かされていた4つの人形まで。私はしばらく黙ってから、小さく頷いた。「そうよ」友達はそれ以上問い詰めることなく、自分の皿の唐揚げを私の皿に乗せてくれた。「だったら、これからおいしいものいっぱい食べなよ」私は少し驚いて、笑ってお礼を言った。ニュースは、思ったよりもずっと速く広まった。父の会社の人が、このニュースに書かれた「家族」は彼のことだと突き止めたのだ。以前は同僚から「一ノ瀬部長」と尊敬されていたのに、今では誰もが彼を避けるようになった。会議の席でも、こんな軽口を叩かれるほどだ。「部長は自分の娘を追い出すような人ですよ。そんな人に仕事を任せて大丈夫ですか?」会社内で彼の噂話が絶えなかった。次女を溺愛して、実の娘を家から追い出しただの……噂はどんどん酷くなり、すぐに彼の大切な契約も打ち切られた。母も、他の奥様の集まりに行けなくなった。以前は駿や結衣のことを好きなだけ自慢できたのに、今は他の誰かが笑ってこう聞いてくるからだ。「一ノ瀬家には、全国模試トップの娘さんがいるんでしょ
続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status