第1418話

ボブ教授はすぐに気づいた。由佳が尋ねているのは、自分がなぜ記憶を失ったのか、そして誰がそれを引き起こしたのか——その真相を探ろうとしているのだと。

その背後にはきっと、何か事情がある。因縁、確執、あるいは恨みのようなものが。

ボブ教授はその問題に深入りしたくなかったので、こう言った。「後で君にひとつサイトのリンクを送るよ。心理学の第一人者たちが発表した論文が集められているから、よく読んでみると、きっと理解の助けになると思う」

「ありがとう、ボブ教授」由佳は察してうなずいた。「じゃ、これ以上邪魔するのは申し訳ないし、私はこれで。週末また伺うね」

「うん、週末にまた会おう」

治療室を出た由佳は、スマートフォンを取り出し、太一からのメッセージに気づいた。

彼の車は建物の下の道端に停まっていた。

階段を降りて車に乗り込むと、由佳はドアを閉めながら言った。「行こう」

太一はエンジンをかけて、にこやかに聞いた。「治療どうだった？ 催眠ってどんな感じ？」

「まだ催眠はしてないよ。今日はリラックスと状態の確認だけ」

「ふーん」太一は興味津々で続けた。「もし催眠されたらさ、自由に操れるってこと？これをやれって言ったら、従うしかなくなるとか？」

「私の知っている限りでは」

「うん？」太一はちらりと彼女を見て続きを待った。

「ファンタジー映画の見すぎ」

「……」

「傀儡人形じゃないんだから」由佳は思わず笑って言った。

太一は気まずそうに頭をかいた。「だって、催眠治療ってやったことないし、よく知らないからさ」

彼はハンドルを切って角を曲がった。「でも映画だと、催眠術師が指をパチンって鳴らすと人が眠るじゃん」

「そんなことないよ。ボブ教授ですら、そんなことできない」由佳は言った。「でもこの前、心理学関係の記事を読んでたら、催眠と夢遊病に関する論文を見かけた気がする」

「夢遊病？」太一は目を輝かせた。「小説みたいに、催眠で人を夢遊状態にして、悪いことさせるってやつ？」

「さあ、そこまではわからないけど」

太一はハンドルを切り、車はそのままケイラー病院の駐車場へと入っていった。

車窓から見える風景は、どこか懐かしくもあり、同時に見知らぬようでもある。その瞬間、由佳の脳裏には、5年前にここで入院していた時の記憶がよみがえってきた。

シートベルトを外し、