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第1426話

作者: 山本 星河
会議室の空気が突然ピンと張りつめ、まるで空気の流れまで止まったかのようだった。取締役たちはひそひそと囁き合い、晴人に向ける視線は疑念と失望に満ちていた。

ウィルソンはためらいの表情を浮かべ、取締役たちの意見をじっと考えているようだった。

晴人は立ち上がり言った。「私が花の国に行った件については、後ほどちゃんと説明するので、皆さんどうか落ち着いてください。今思い出したが、機密書類は俺の金庫や事務所のパソコンだけでなく、ノートパソコンにも一部保管してある。そして最近は忙しく、夜はノートパソコンを持ち帰って残業していた」

「つまり、家にいる誰かが情報を漏らしたと?」取締役の一人が嘲るように笑った。

「会長のところの機密書類のほうが多いはずだ。もし家族の誰かが漏らしたなら、会長の資料だって全部漏れてしまうじゃないか?」別の取締役が疑問を投げかけた。

「もう早く警察に任せたほうがいい。時間の無駄だ」

「......」

ウィルソンは重い手を無垢の木製会議テーブルに叩きつけ、鈍い音が響いた。

会議室のざわめきは一瞬静まった。

「晴人、お前は怪しいと思う人はいるか?」と彼は尋ねた。

「書斎に入れる使用人は皆怪しい。書斎に監視カメラを設置しているので、映像を調べればすぐに分かる」

「使用人がパソコンに触れたとしても、どうしてお前のパスワードを知っているんだ?」と嘲笑が漏れた。

「そんなの不思議なことか?もし晴人の言う通りなら、ブルース、お前は使用人が何の理由もなく機密書類を盗もうとすると思うのか?」ジョージが横目でにらみつけた。

あの使用人の背後には必ず指示した者がいるはずだ。指示者は彼にパスワードを教えたに違いない。

彼が元からスパイであれ、買収されていようと、その指示者が誰なのか、どうやってパスワードを知ったのかは別の問題だ。

ジョージは自分の推測に間違いはないと確信した。

この事件の背後に潜む人は誰なのか。

ブルースは黙り込んだ。

アルバートの目に焦りが走り、机に手をついて言った。「俺の知る限り、お前も兄さんの書斎も護衛が付いていて、使用人が勝手に出入りできる場所ではない。そんな言い訳は信じられない、晴人、もう時間を無駄にするな」

晴人は落ち着いた口調で答えた。「調査で結果が出なければ、俺はすぐに全ての職務を辞任し、警察の捜査に全面的に協力
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