巫女は恋をしてはいけないー三姉妹の巫女の禁断の恋ー

巫女は恋をしてはいけないー三姉妹の巫女の禁断の恋ー

last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-29
โดย:  天咲琴乃อัปเดตเมื่อครู่นี้
ภาษา: Japanese
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東北の山深くにある篝火村。 三田村家に生まれたイズミ、ことねぇ、ことのの三姉妹は、代々村に仕える巫女として育てられてきた。 彼女たちには、たったひとつ絶対に破ってはならない掟がある。 ――巫女は、人間の男性に恋をしてはいけない。 ある祭りの夜、ことねぇが一人の男に「大嫌い」と思った直後、山に謎の篝火が灯り、その男が不可解な死を遂げる。 恋、嫉妬、怒り、悲しみ。 三姉妹の感情に呼応するように起こり始める怪異。 なぜ巫女は恋を禁じられたのか。 三田村家に隠された古い契約とは――。 三姉妹の恋が、村に眠る禁忌を目覚めさせる。 和風伝奇×恋愛×ミステリーホラー。

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第一話 大嫌い
「……大嫌い」その言葉を口にした瞬間だった。山の中腹で、炎が灯った。ぽつり。夜の闇に、赤い光がひとつ。ことねぇは石段の途中で足を止めた。「え?」振り返る。篝火村の夜は暗い。山に囲まれた小さな村には、街灯も多くない。まして、あの場所に火を灯す者などいないはずだった。「誰かいるのかな」けれど今は、それどころではない。「ことねぇ!」石段の下から声が飛んできた。白い巫女装束に緋袴。長い黒髪をひとつに結んだ女性が、こちらを見上げている。姉のイズミだった。「もう始まるわよ。早くいらっしゃい」「あ、はーい!」ことねぇは返事をして、慌てて石段を駆け下りた。途中でもう一度、山を見る。炎は消えていた。見間違いだったのかもしれない。今夜は篝火祭。年に一度、村で最も賑わう夜だった。神社へ続く参道には提灯が並び、屋台から甘い匂いが漂っている。子どもたちが走り回り、大人たちは酒を酌み交わす。普段は静かな篝火村が、この日だけは別の場所のようになる。「ことねぇ、遅い」本殿の前で待っていた末妹のことのが言った。艶のある黒髪が肩を覆っている。「ごめん、ごめん」「また何か食べてた?」「食べてないよ!」「口にあんこついてる」「…………」ことねぇは慌てて口元を拭った。イズミが小さく笑う。「お祭りが終わったら、三人で食べましょう」「さすがお姉ちゃん!」「甘やかさないで」ことのは呆れたようにため息をついた。いつも通りの三姉妹だった。少なくとも、このときまでは。三人が本殿へ向かおうとした、そのとき。「おい」後ろから男の声がした。ことねぇの肩が僅かに強張る。振り返ると、一人の青年が立っていた。さっき、ことねぇと言い争った男だった。村の青年会に所属する男で、祭りの準備を手伝っている。「さっきは悪かったって」「……別に」「そんな怒んなよ。冗談じゃん」ことねぇは答えなかった。冗談。男はそう言った。けれど、ことねぇには笑えなかった。巫女なんだから男なんて必要ない。どうせ五十になったらいなくなる女だろ。そんな言葉を笑いながら投げられて、どうして一緒に笑えるというのだろう。「ことねぇ」イズミが心配そうに妹を見る。「大丈夫」ことねぇは笑った。「もう気にしてないから」男も安心したらしい。「だろ?
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-30
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第二話 巫女だって恋くらいしたい
「あなたたち三人は、恋をしてはいけません」朝っぱらから、とんでもないことを言われた。ことねぇは祖母の顔をじっと見つめた。「……はい?」聞き間違いかと思った。隣ではイズミが静かに正座している。そのさらに隣では、ことのが眠そうな顔で座っていた。三姉妹が呼び出されたのは、篝火神社の本殿だった。昨夜、村の青年が死んだ。遺体の周囲だけが、不自然なほど黒く焼け焦げていたという。そして祖母は、ことねぇに尋ねた。――誰かを、憎みませんでしたか?確かに腹は立った。大嫌いだとも思った。だからといって。「私がムカついたから人が死んだってこと?」「まだ、そうとは言っていません」「じゃあ何で恋愛禁止になるの?」祖母は答えなかった。「話飛びすぎじゃない?」「ことねぇ」イズミがたしなめる。「おばあさまのお話を最後まで聞きましょう」「だってお姉ちゃん。恋愛だよ?」「ええ」「一生だよ?」「……ええ」「嫌じゃないの?」イズミは少し考えた。「仕方のないことなら」「受け入れるの早っ!」ことねぇは思わず叫んだ。イズミは昔からこうだった。穏やか。冷静。聞き分けがいい。家事も得意。村の年寄りからの評判もいい。三姉妹の中で、もっとも巫女らしい巫女。「ことのは?」突然振られて、ことのが顔を上げた。「私?」「恋愛禁止だって」「別に」「えええ!?」「今、好きな人いないし」「そういう問題?!」「じゃあ、どういう問題?」「いつか超絶タイプのイケメンが現れたらどうするの!」ことのは少し考えた。「遠くから見る」「野鳥観察じゃないんだから!」イズミが口元を押さえた。笑っている。「お姉ちゃんまで!」「ごめんなさい。つい」祖母が小さく咳払いをした。三人が黙る。「……話を続けてもよろしいですか?」「はい」イズミだけが即答した。「ごめんなさい」ことのも頭を下げる。ことねぇも渋々座り直した。祖母は三人を見渡した。「三田村家の巫女には、代々守られてきた掟があります」その声から、先ほどまでの柔らかさが消えた。「人を憎んではならない」一つ。「神前で偽りを口にしてはならない」二つ。そして。「人間の男性に、恋をしてはならない」三つ。本殿が静まり返った。外では風が吹いている。木々の葉が擦れる音だけが
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-30
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第三話 長女の秘密
「お姉ちゃん、白状しなさい!」篝火神社の境内に、ことねぇの声が響いた。イズミは困ったように微笑んだ。「何を?」「好きな人!」「いません」「じゃあ、なんで顔が赤いの!」「暑いからよ」「今日、涼しいけど?」「……少し歩いたから」「お姉ちゃん、嘘が下手すぎる!」ことのが隣で頷いた。「同感」「ことのまで……」イズミは小さくため息をついた。三姉妹の長女として、妹たちの面倒を見るのは慣れている。けれど、自分のことを聞かれるのは苦手だった。まして、恋愛の話など。「ほら、お姉ちゃん!」ことねぇが顔を近づける。「年上? 年下? 同い年?」「だから、いないわ」「眼鏡?」「どうして眼鏡なの?」「知的で優しい男性って、いいじゃん!」「それは、あなたの好みでしょう?」「まあね!」ことのがぼそりと言った。「自白した」「違う! 今はお姉ちゃんの話!」イズミは二人を見て、思わず笑ってしまった。こんなふうに笑える朝が、ずっと続けばいい。そう思った。昨夜、村の青年が亡くなった。あのとき、山に灯った炎。ことねぇが口にした「大嫌い」という言葉。そして今朝、祖母が告げた掟。人間の男性に、恋をしてはならない。その意味を、イズミは考えないようにしていた。「……私、掃除の続きをしてくるわね」「あっ、逃げた!」「逃げてないわ」「絶対逃げた!」ことねぇの声を背中に受けながら、イズミは社務所へ向かった。角を曲がり、妹たちの姿が見えなくなる。ようやく息を吐いた。胸元に手を当てる。そこには、小さな守り袋があった。薄い青色の布。銀色の糸で、水の流れに似た模様が刺繍されている。イズミはそっと袋を握った。「……どうして、今さら」誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。そのとき。「三田村さん」背後から声がした。イズミは振り返った。参道の向こうに、一人の青年が立っていた。村の診療所に勤める医師、瀬川遥人。篝火村へ来て、まだ半年ほどになる。穏やかな目元に、落ち着いた声。昨日の祭りでも、体調を崩した村人の手当てをしていた。「瀬川先生」「よかった。まだ神社にいたんですね」遥人は小さな紙袋を差し出した。「昨日、妹さんが落としていました」中に入っていたのは、黄色い髪飾りだった。ことねぇのものだ。「あら
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-23
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第四話 晴れた日の雨
「お姉ちゃん、びしょ濡れじゃん!」社務所に戻ってきたイズミを見て、ことねぇは目を丸くした。イズミの黒髪は濡れ、白い巫女装束の肩には水が染み込んでいる。「雨に降られてしまって」「雨?」ことねぇは窓の外を見た。青空だった。雲ひとつない。「……どこの雨?」「境内で」「境内のどこ?」「参道の辺りよ」「私、ずっと外にいたけど?」イズミは黙った。ことのが畳に置いていた本を閉じる。「お姉ちゃん」「なあに?」「何か隠してる?」「……いいえ」「じゃあ、そのお守りは?」イズミの指が止まった。胸元には、薄青色の守り袋。銀色の糸で水の模様が刺繍されている。さっきまで濡れていたはずなのに、今は乾いていた。「これ?」「光ってた」「え?」「さっき、廊下を歩いてきたとき」ことのはイズミの胸元を指さした。「青く光ってたよ」ことねぇが身を乗り出す。「えっ、何それ! お姉ちゃん、変身するの?!」「しません」「水属性の巫女とか?」「ゲームじゃないのよ」「じゃあ、必殺技は?」「ありません」「ウォータースプラッシュ!」「ことねぇ」「はい」イズミに名前を呼ばれ、ことねぇは正座した。ことのが小さく笑う。けれど、イズミは笑わなかった。「……声が聞こえたの」二人の表情が変わった。「声?」ことのが尋ねる。イズミは頷いた。「男の人の声。私の名前を呼んでいたわ」ことねぇは一瞬、目を輝かせた。「えっ、イケボ?!」「ことねぇ」「ごめん。真面目に聞く」イズミは胸元のお守りを握った。「その人は、瀬川先生から離れろって……」「瀬川先生?」ことねぇの声が裏返った。「ちょっと待って。診療所の瀬川先生?!」「ええ」「えええええ!」ことねぇは勢いよく立ち上がった。「お姉ちゃんの好きな人、瀬川先生なの?!」「違います!」「今、名前出した!」「偶然よ!」「偶然で男の声が嫉妬する?!」「嫉妬とは言っていないでしょう!」ことのが静かに手を挙げた。「二人とも」「なに?」「おばあちゃん、呼んだほうがいいと思う」三人が黙った。確かに。笑って済ませていい話ではなかった。昨夜、ことねぇが「大嫌い」と思った男が死んだ。今朝、祖母は三姉妹に恋愛を禁じた。そして今、イズミの周囲だけに雨が降った。ことのは窓の外を
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-24
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第五話 水底の約束
「……生きてる?」ことねぇは川岸にしゃがみ込み、恐る恐る男の顔を覗き込んだ。瀬川遥人。村の診療所に勤める医師で、つい先ほどまでイズミと話していた人物だった。その遥人が、今は全身ずぶ濡れで横たわっている。「先生?」イズミが呼びかけた。返事はない。ことのが膝をつく。「息は?」「待って。確認するわ」イズミは遥人の呼吸を確かめた。胸が、かすかに上下している。「……ある」「よかった!」ことねぇが胸を撫で下ろした。けれど、イズミの表情は晴れなかった。遥人の唇は青白い。呼吸も浅い。「救急車、呼ぶね」ことのが携帯電話を取り出す。イズミは頷き、遥人の体を横向きにした。「先生、聞こえますか?」そのとき。「……う」遥人の眉が動いた。「先生!」イズミが身を乗り出す。遥人はゆっくり目を開けた。「……三田村、さん?」「はい。私です」「よかった……」彼は弱々しく笑った。「あなたが……無事で」イズミは言葉を失った。なぜ、彼が自分の心配をするのだろう。川に落ちたのは遥人なのに。「先生、今は喋らないでください」「……はい」遥人は目を閉じた。ことねぇは二人を交互に見た。「…………」ことのが小声で尋ねる。「何?」「いや」「何」「……これ、恋愛イベントじゃない?」「今?」「だって!」「救急車待ってるんだけど」「分かってるよ!」ことねぇは口を尖らせた。こんな状況でふざけるべきではない。それくらい分かっている。けれど、怖かった。昨夜、男が死んだ。今日は別の男が川に落ちた。しかも、どちらも自分たちと関わった直後だった。偶然だと思いたかった。そうでなければ。「……お姉ちゃん」ことねぇが小さく呼んだ。イズミは遥人のそばから離れず、顔だけを上げた。「なあに?」「さっきの手、見たよね」イズミの指が止まる。「……ええ」「川から出てきた、白い手」「見たわ」「先生を助けてくれたんだよね?」イズミは答えなかった。ことのが川を見つめる。先ほどまで荒れ狂っていた水は、今では穏やかに流れている。水面には青空が映っていた。「……人間の手じゃなかった」ことのが呟いた。「どうして分かるの?」ことねぇが尋ねる。「大きすぎたから」「…………」「それに、腕の先が見えなかった」ことねぇは
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第六話 雷鳴とレモン飴
「絶対に行っちゃ駄目だからね」ことねぇは腕を組み、妹に念を押した。「分かってる」ことのは答えた。「古い祠には近づかない。日が沈んだら外出禁止」「そうそう」「で、お姉ちゃんは?」「私は行く」「……は?」「ちょっと様子を見るだけ!」ことのは無言で姉を見つめた。「何?」「今、自分で何て言った?」「絶対に行っちゃ駄目」「その三秒後は?」「私は行く」「…………」「…………」ことのは深く息を吐いた。「おばあちゃんに言う」「待って待って待って!」ことねぇは慌てて妹の腕を掴んだ。「違うの! これには深い事情が!」「どんな?」「……好奇心?」「却下」「即答!」二人が言い争っていると、廊下の奥からイズミが現れた。「朝から何を騒いでいるの?」「お姉ちゃん!」ことねぇが駆け寄る。「ことのが冷たい!」「また?」「またって何?!」ことのはイズミを見た。「ことねぇが祠に行くって」イズミの笑顔が消えた。「……ことねぇ?」「はい」「おばあさまのお話、聞いていたわよね?」「聞いてました」「では、どうして?」ことねぇは視線を逸らした。昨夜から、気になっていた。山の中腹。篝火が灯った場所。あそこで男が死んだ。祖母は近づくなと言った。けれど、何があるのかは教えてくれない。「……私のせいかもしれないから」小さく呟くと、イズミが黙った。「昨日の人」ことねぇは俯いた。「私が大嫌いって思ったから、死んだのかなって」ことのも口を閉じた。「もし、あの祠に何かあるなら……」「ことねぇ」イズミが妹の手を取った。「一人で確かめに行く必要はないわ」「でも」「私たち、三姉妹でしょう?」イズミは優しく笑った。「何かあるなら、三人で考えましょう」ことねぇは目を瞬かせた。「……お姉ちゃん」「だから、勝手に行ってはいけません」「はい」「約束よ?」「はい!」ことのが横から言った。「返事だけはいい」「ことの!」そのとき。ゴロゴロ……。遠くで雷が鳴った。三人が窓の外を見る。空は晴れている。「……雷?」ことのが呟いた。ことねぇは肩をすくめた。「やだなあ。雷、苦手なんだよね」「さっきまで山に行こうとしてた人が?」「山と雷は別問題!」「どっちも危ないけど」「理屈で攻めないで!」イ
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-24
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第七話 雷様は口が悪い
金色の稲妻が、青空を裂いた。「ぎゃあああああ!」ことねぇは頭を抱えてしゃがみ込んだ。轟音が山を揺らす。祠の前に立つ祖母の足元へ、雷が落ちた。――そう見えた。けれど、地面は焦げていなかった。祖母も無事だった。雷が貫いたのは、祖母の背中にまとわりついていた黒い影だった。『ギィィィィッ!』耳をつんざくような声。影は苦しげに身をよじり、祠の奥へ引きずり込まれていった。扉が勢いよく閉まる。静寂。ことねぇは恐る恐る顔を上げた。「……生きてる?」「生きてるわよ」イズミが答える。「ことのは?」「生きてる」「おばあちゃんは?!」祖母はその場に膝をついていた。三人は駆け寄った。「おばあちゃん!」イズミが肩を支える。祖母は顔を上げ、孫たちを見た。「……どうして、ここへ」「おばあちゃんが心配だったから!」ことねぇが答える。「手紙を見たんです」イズミも言った。祖母は目を閉じた。「来てはいけないと、書いたでしょう」「でも!」ことねぇは言い返しかけた。そのとき。『だから言っただろ!』頭の中に、男の声が響いた。「うわっ!」ことねぇは飛び上がった。「また出た!」ことのが振り向く。「何が?」「知らない男!」『まだ知らない男扱いかよ!』「だって知らないし!」『俺はお前を――』声が途切れた。ことねぇは眉を寄せる。「……何?」返事はない。「おーい?」『……何でもねえ』「言いかけたじゃん!」『気にすんな!』「気になるわ!」イズミがことねぇの肩に手を置いた。「ことねぇ。誰と話しているの?」「さっきの声! 雷の男!」祖母の表情が変わった。「……雷?」ことねぇは頷いた。「口が悪いの!」『おい!』「あと、うるさい!」『お前にだけは言われたくねえ!』「何よ!」ことのがぽつりと言った。「……似た者同士?」「どこが?!」ことねぇと男の声が、同時に叫んだ。ことねぇは固まった。「…………」『…………』ことのは首を傾げた。「今、誰かと声が重なった?」「……気のせい!」『気のせいだ!』「だから真似しないで!」『してねえよ!』イズミは困ったように微笑んだ。「……とにかく、ここを離れましょう」祖母も頷いた。「ええ。日が暮れる前に」ことのが祠を見上げた。「中にいたの、
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-24
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第八話 蔵の奥の花嫁衣装
「……眠い」翌朝。ことねぇは朝食の席で、盛大なあくびをした。「昨日、何時に寝たの?」イズミが尋ねる。「分かんない」「また夜更かし?」「ちょっとお喋りしてた」ことのが箸を止めた。「誰と?」「雷様」「…………」「…………」ことのは味噌汁を一口飲んだ。「友達できてよかったね」「その言い方やめて!」イズミは困ったように笑った。「昨日の声の人?」「そう! 名前は教えてくれないんだけどね」「何を話したの?」「えーっと……」ことねぇは少し考えた。昨夜のことを思い出す。怖かった気持ち。雷様の言葉。それから、何度も名前を呼んで遊んだこと。「……内緒!」ことのが顔を上げた。「何で?」「何でも!」「怪しい」「怪しくない!」イズミが微笑んだ。「仲良くなれたのね」「まあね!」ことねぇは得意げに胸を張った。その瞬間。パチッ。箸の先から、小さな火花が散った。「いたっ!」ことねぇが手を引っ込める。ことのは冷静に言った。「静電気の友達もできたね」「いらない!」イズミが笑いを堪えていると、廊下から祖母の声がした。「三人とも、食べ終わったら蔵へ来なさい」三姉妹は顔を見合わせた。昨日の約束だ。古い祠。川から現れた白い手。そして、雷の声。祖母は、何かを知っている。ことねぇは残りのご飯をかき込んだ。「よーし! 宝探し!」「古文書を調べるのよ」イズミが訂正する。「分かってるって!」ことのが立ち上がった。「お姉ちゃん、口にご飯ついてる」「えっ、どこ?!」「反対」「こっち?!」「反対」「もう取って!」ことのはため息をつきながら、姉の頬についた米粒を取った。神社の蔵は、本殿の裏手にあった。重い木の扉。錆びた金具。祖母が鍵を差し込むと、乾いた音が響いた。ぎい、と扉が開く。中には古い箪笥や木箱が並んでいた。埃っぽい匂い。高い窓から、細い朝日が差し込んでいる。「うわあ……」ことねぇは目を輝かせた。「本当にお宝ありそう!」「触る前に聞きなさいね」イズミが言う。「はーい!」ことのが棚を指さした。「……あれ、何?」奥の棚に、三つの桐箱が並んでいた。それぞれの蓋には、異なる模様が彫られている。水。雷。炎。祖母はその前で足を止めた。「……まだ、残っていたのです
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-24
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第九話 炎のひとは、やさしい
「……寒くないよ」ことのがそう答えると、桐箱の中の銀糸が淡く光った。『……よかった』今度は間違いない。男の声だった。低く、穏やかで。焚き火のそばにいるような、不思議な温かさを持った声。ことのは桜色の花嫁衣装を見つめた。「……誰?」『…………』「聞こえてる?」『聞こえている』「じゃあ、誰?」『……今は、言えない』ことのは眉を寄せた。「また?」『また?』「イズミお姉ちゃんの人も、ことねぇの雷様も、名前を教えてくれない」少しの沈黙。それから男は、わずかに笑った。『そうか。あいつも黙っているのか』ことのの目が細くなる。「知り合い?」『……しまった』「知り合いなんだ」『忘れてくれ』「無理」『そうだろうな』妙に素直だった。ことのは少しだけ笑った。その様子を、離れたところからことねぇがじっと見ていた。「…………」イズミが気づく。「どうしたの?」「ことのが一人で喋ってる」「声が聞こえているのでしょう?」「うん」「なら、邪魔をしてはいけないわ」「でも気になる!」ことねぇはじりじり近づいた。「どんな人? イケボ? 年上っぽい? 優しい? 俺様?」「うるさい」「ことの冷たい!」ことのは姉を無視して、桜色の衣へ視線を戻した。「あなた、火の神様?」『……なぜそう思う?』「この服、炎の模様だから」『なるほど』「あと、触ると温かい」『熱くはないか?』「うん」『ならいい』また、それだ。寒くないか。熱くないか。この人は、ずっと自分の心配をしている。「……変な人」『そうか?』「自分のことは何も言わないのに、私のことばっかり気にしてる」声が止まった。「どうして?」返事はない。ことのは待った。急かさず、ただ待った。やがて男は静かに言った。『……大切だからだ』ことのの頬が、ほんの少し赤くなった。「…………」『ことの?』「何でもない」『具合が悪いのか?』「悪くない」『暑い?』「暑くない」『なら――』「心配しすぎ」『……すまない』謝るんだ。ことのはますます困った。もっと怖いものだと思っていた。神様というものは、人間を見下ろして、命令して、怒れば祟るものだと。けれど。この声は、あまりにも優しい。「……じゃあ」ことのは小さく尋ねた。「あなたのこと
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-26
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第十一話 私たちは、帰るらしい
『三十年の修練を終えし時、花嫁は再び神域へ帰る』イズミは、もう一度その一文を読んだ。蔵の中が静まり返る。ことねぇが古文書を覗き込んだ。「……つまり?」誰も答えない。「二十歳から五十歳までが三十年でしょ?」「そうね」イズミが頷く。「私たちが巫女として務める期間と一致するわ」ことのが続ける。「五十歳になったら神域へ行くんじゃなくて……帰る?」「そう書いてあるわね」「…………」ことねぇは腕を組んだ。そして。「意味が分からん!」「私も」ことのが即答した。「だよね?!」祖母は古文書を見つめたまま動かなかった。「おばあちゃん?」ことねぇが呼ぶ。祖母はゆっくり顔を上げた。「私も……この記述を見るのは初めてです」「え?」「三田村家では代々、五十歳になった巫女は神域へ召されると伝えられてきました」イズミが尋ねる。「おばあさまも、そう教わったのですか?」「ええ」「では、帰るという意味は……」「分かりません」祖母は首を横に振った。ことねぇは天井を見上げた。「雷様ー」『なんだ』返事が早い。ことねぇは目を細める。「聞いてた?」『……まあ』「説明して」『無理』「なんで?!」『まだ話せねえ』「またそれ!」ことねぇは頬を膨らませた。「妻だの結婚式だの言うだけ言って、肝心なところ全部秘密じゃん!」『それは……』「私たち既婚者なんでしょ?」『…………』「そこもまだ黙る?!」ことのが横から言った。「昨日、結婚式したって自白してた」「そうだった!」『自白って言うな!』ことねぇは腰に手を当てた。「じゃあ質問!」『嫌な予感しかしねえ』「私たち、いつ結婚したの?」『…………』「何歳?」『…………』「どこで?」『…………』「新婚旅行は?」『知らねえよ!』「そこだけ答えた!」イズミが笑いを堪えている。ことのは真顔だった。「次、私」『お前もか?!』ことのは桜色の桐箱を見る。「火の人」『……ああ』「私たち、夫婦なの?」『…………』「はいか、いいえ」逃げ道を塞いだ。しばらくして。『……はい』ことのが固まった。ことねぇが叫ぶ。「認めたー!」「うるさい」「ことの人妻じゃん!」「お姉ちゃんもでしょ」「あっ」『今さらかよ』雷様の呆れ声が聞こえた。イズミ
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-29
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