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第234話

Author: 魚住 澄音
蓮士は半信半疑で送られてきたファイルを開くと、まさか本物だった……自分の記憶が正しければ、寧々は精神疾患を患っていた。精神疾患は遺伝する可能性があるんじゃなかったっけ?

どうやら涼介も寧々もどちらも精神に異常があるらしいな。

「わかった、待ってろ」

-

ことはは自分に、これは夜食だと言い聞かせて食べていたが、もうこれ以上は食べきれなかった。

「神谷社長、芹沢社長、お二人ともゆっくり召し上がってください。私はちょっとお手洗いに行ってきます」

個室を出たことはは、お腹がはちきれそうだったので、壁に手をつきながら歩かなければならなかった。芹沢社長は誇張していなかった。この中華料理店はどの料理も本当に美味しかった。今度はゆきと一緒に来よっと。

ことはがお手洗いに入るやいなや、後からきた涼介にばっちり見られてしまった。

涼介は店員の案内を断り、大股でお手洗いに向かった。涼介はお手洗いの外に立ち、ことはが出てくるのを待っていた。

用を済ましたことはが手を洗っていると、隼人から電話がかかってきた。

ことはは戸惑っていた。そんな電話して催促されるほど長時間席を離れていないけどなあ?

「もしもし、神谷社長?どうかいたしました?」ことはは内心でツッコミながら、お手洗いを出ながら電話に出た。

「お手洗いの中にいろ。涼介が三階に上がってきた。今から俺そっちに向かうから」隼人は低い声で言った。

しかしその時、ことははすでにお手洗いの入口に立っており、目の前には表情の読めない涼介がいた。

ことはは一瞬言葉を失った。

「篠原さん?」隼人がことはに呼びかけた。

「お手洗いから出てきてしまいました」

「涼介を見たか?」

「……はい」

「怖がるな。俺が行くから」

電話を切ると、ことはは平静を装った。涼介がことはに近づいてきて言った。「神谷社長がこんなに君をがっちり監視してるのって、まるで君のことを金ピカのカゴの中のカナリアみたいに飼ってるつもりなのか?」

ことはは嫌悪感を込めて眉をひそめた。「涼介、あなたは最近ますます本性を隠さなくなってきたわね」

涼介はため息をつき、困ったような表情で言った。「ことは、これは全部君に追い詰められた結果だ」

「私に追い詰められた?」ことはは呆れるように笑った。「責任転嫁はあなたたち篠原家が代々受け継いできた家芸なの?」

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