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第29話

Auteur: 墨香
世界がようやく静寂を取り戻した。

明乃は椅子の背もたれに身を預け、こめかみを指で揉みほぐした。

気持ちを落ち着かせ、再び仕事に集中しようとしたその時、オフィスの外から徹の大げさな声が聞こえてきた――

「ボス!ボス!誰が来たか見に来てほしいっす!!」

明乃はイライラしながら顔をしかめた。またどこかから予想外の大物クライアントでも連れてきたのかと思った。彼女は気力を振り絞って立ち上がり、ドアを開けた。

ドアの向こうでは――

徹が興奮した様子で身を引いて、その後ろにいた男が、唐突に彼女の視界に飛び込んできた。

……岳だ。

彼は以前より痩せており、顎のラインがより鋭くなっていた。スーツの襟元は少し開き、中のシャツは上質だが襟元が少し乱れている。

明乃の表情が一瞬で凍りついた。ドアノブを握る指に力が入り、血液が一気に全身に駆け巡り、ありえないほどのめまいに襲われる。

世界がこの瞬間に静止したかのようだった。

周囲の音が消え、暴走する心臓の音だけが響く。

ドクン。

ドクン。

鼓膜を内側から叩くような激しい音。

徹がまだ興奮して言葉もろくに話せない様子で叫んでいる。「ボ
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