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第3話

Auteur: 匿名
この時、不意にインターホンが鳴り響いた。

母がドアを開けると、そこに立っていたのは僕の担任、高橋鈴香(たかはし すずか)先生だ。

「高橋先生?何のご用ですか?」

「実はですね、今日健人くんが学校に来ていないんです。連絡もなかったので、何かあったのかと思いまして」

それを聞くと、母は条件反射のように罵声を上げた。

「あのクズめ!弟に怪我を負わせた挙句、今度は学校までサボるようになったとはね!」

その言葉に、高橋先生は困惑した表情を浮かべた。

「黒木さん、それは違います。健人くんは家に帰っていないのですか?昨晩はどこで過ごしたんです?」

言われて、母は何か思い当たったようにスマホを取り出し、僕に電話をかけた。

「おかけになった電話は、電源が入っていないか……」

「チッ、あのクズ、電源切ってやがる。どこほっつき歩いてんだ!」

その態度を見て、高橋先生の表情が険しくなった。両親が僕をどう扱っているか、先生は知っているからだ。学校で一番僕を気にかけてくれ、落ち込んでいる時はよく相談に乗ってくれた先生にとって、母のこの態度は許しがたいものだったに違いない。

「黒木さん!今一番大事なのは子供を探すことでしょう。それなのに、心配するどころか罵倒するなんてどういうことですか!普段からあなた方が愛情を注がないから、健人くんは学校でもずっと塞ぎ込んでいるんですよ。もっと彼を大切にしてください!いい加減になさい!」

言い捨てると、高橋先生は怒りを露わにして立ち去ってしまった。

その時、ずっと黙っていた翔太が口を開いた。

「母さん。そういえば兄さん、この前『海を見に行きたい』とか言ってたよ。あの時母さんに怒られたのが気に入らなくて、拗ねて一人で行っちゃったんじゃないかな」

母はそれを聞いて激昂した。

「はあ!?あのクズ、ちょっと叱ったくらいでそんな当てつけを!私が前世で何の罪を犯したっていうんだい!あんなクズを産んで損したよ、全く!」

僕は深い溜息をついた。母さん、まだ翔太の出まかせを信じてるのかよ。あいつの本性に、どうして気づかないんだ。

すると、父が割って入って母を慰めた。

「麗奈、落ち着け。あのクズのためにイライラするだけ損だ。健人のことは帰ってきてからでいい。

それより祝勝会の準備だ。俺はレストランの個室を予約するから、お前は親戚たちに連絡を頼む」

母はハッとして額を叩いた。

「そうだったわね。健人のせいで台無しになるところだった。そうよ、盛大に翔太のお祝いをしなきゃ」

二人は顔を見合わせ、翔太を愛おしそうに見つめた。

その会話を聞いて、僕は怒りを通り越して笑ってしまった。

父さん、母さん。僕はもう丸一日帰ってないし、学校も行ってない。今どこで何しているかもわからない状態だぞ。

それなのに、翔太の祝い?

死ぬ前は、いつかあなたたちの愛が得られると信じていた。心の底では僕を愛してくれていると信じて、何でも必死に頑張ってきた。

でも、今やっと目が覚めたよ。

全部、僕の独りよがりだったんだな。

祝勝会の会場では、親戚たちが口々に翔太を褒めそやしていた。

「いやあ、翔太くんはすごいねえ!余裕しゃくしゃくで二位を取っちゃうんだから!」

「本当だよ。翔太くんが努力すれば、将来は国を背負う選手になるかもしれんぞ!」

「翔太くんは小さい頃から見込みがあると思ってたのよ!」

……

宴もたけなわという頃、母が高らかにグラスを掲げた。

「さあ皆さん、自慢の息子、翔太のために、乾杯しま……」

言いかけたその時。

バンッ!と個室のドアが乱暴に開け放たれた。

立っていたのは、僕の担任の高橋先生だ。

先生は部屋の中を見渡すと、真っ直ぐに母の元へと歩み寄り――

バチンッ!!

強烈な平手打ちを、母の頬に見舞った。

「お祝い?自慢の息子翔太くんのお祝いですって?」

先生は鬼気迫る表情で叫んだ。

「あなたが祝杯を挙げているその時に、もう一人の息子の健人くんが死んだことを、知っているんですか!!」

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